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メンバーシップ移行〆切探偵ザザ

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ザザとは! ダイヤモンドの義眼を持つ超常探偵である! 彼は様々な期日を察知して現れ、人類に害をなす超次元存在を退治するのだ。はなて! 義眼光線!


◆◆◆


 俺はカラルド。カンオケトレーラーに轢かれ、しみったれた人生が終わったと覚悟した俺は、しかし、爆発四散することもなく、気がつけば見知らぬ世界に飛ばされていた。

 世界の名は、ワドルナッケングリア。龍が空を飛び、オーガが人を殴って殺す、くそったれファンタジー世界だ。じゃがいもは有る。

 生前の俺は総会シンジケートでも末端の三下ニンジャ野郎だった。実際、スリケンを無から生じる事もできやしねえ。そんな俺は、下っ端らしく、夢を持たず、最小限のカラテでプッシャーやピンプを殴ったり脅したりしてシノギしてきたもんさ。でもワドルナッケングリアじゃ話が違った。ニンジャがいねえ。

 食い扶持確保のために冒険者ギルドに出向いた俺は、鼻っ柱が強い受付のベイブにバカにされ、チンピラみたいな先輩冒険者に初手からカマシをかけられた。まあナメられても仕方ねえ話だ。俺は鎖帷子やフルプレートアーマーも着てねえし魔法の杖も持ってねえ。装束一枚だ。だから瓦を素手で割ってやった。

 俺が三下ニンジャだからって、瓦なんざ余裕で割れるぜ。チンピラ先輩冒険者は失禁しながら尻もちをついて泡を吹いたし、受付のベイブは俺に対する態度をあらためた。そして王宮に紹介状を書いてくれた。王様にお目通りがかなう、上級冒険者の選別試験だとよ。ビビられて悪い気はしねえ。俺は参加した。

 選別試験の王の庭に行った俺は、近衛兵長に初手からカマシをかけられた。蜂蜜酒の瓶を並べて、剣か魔法で何本割れるか試すのが試験内容だった。その場に並べられた蜂蜜酒の瓶は3本だったが、俺はボトルネックカットチョップ一撃で全部カットしてやった。そんな事ができる奴はいないらしくビビられた。

 王宮が上へ下への大騒ぎになった。宮廷魔術師が現れて、俺の能力を判定しようとした。ワドルナッケングリアの冒険者はこいつの判定によって、腕力、器用さ、魔力、敏捷性などを最低3最大18で数値化され、台帳に記載されるらしいんだな。そしたらまたビビられた。「なんですか貴方のこの能力は!?」

 どうも俺の能力値は他の冒険者野郎達と違うらしい。「概念自体が違う」と魔術師はビビってた。「貴方の能力値は、ニンジャ腕力、ニンジャ器用さ、ニンジャ魔力、ニンジャ敏捷性……? 私の力では数値の意味をはかれません!」ま、悪い気はしねえ。かくして俺は期待の勇者様になった。

 その後、俺は自分のカラテで王国周辺のクソ野郎ども……双頭の巨人やら、マンティコアやら、死霊術師やらを、倒していった。デカめのバイオ動物やカトン・ジツ使い、ネクロ・ジツ使い、そういう奴らは総会シンジケートの普段の相手に比べりゃどうって事ねえ。国内の問題は全部解決してやった。

 俺は巨万の富を得た。そのカネを使って貿易会社を興し、風呂屋を開店し、スシの作り方を伝授して、ますます金持ちになった。王様野郎も俺のご機嫌伺いに日参だ。なにしろ、俺がヘソを曲げちまったら、この国の最大の危機に対処する事なんざ、できねえからな。カラテ様々、ニンジャ様々だぜ。

 そう、国の最大の危機。それが何かといえば、川を挟んだ向こう岸を支配する「魔王」の存在だ。ソマシャッテ共和国は見目麗しいエルフが暮らす国だったが、エルフの仲間のふりをして現れた魔王は邪悪なアミュレットをエルフに作らせ、そのパワーを盗み、国を乗っ取った。以来、この国にもプレッシャーをかけて来るんだと。

 王様野郎は俺に、なる早で川を渡り、魔王をブチのめしてほしいと思ってやがる。そんな事はわかりきってんだ。贅沢三昧で偉そうにしてる総会ヤクザの俺に、ホントのところ手を焼いているんだろう。12人いる姫や128人いる大奥のベイブ達も、今じゃ俺に熱視線だしな。

 俺は魔王討伐を約束した。右も左もわからねえ時に、マキモノにハンコもついちまってる。……そして2ヶ月が経とうとしていた。今日はワドルナッケングリア歴で8月31日。

 夏の、終わりだ。

 俺は今日も今日とて城下町の酒場にシケこみ、蜂蜜ビールとスシと異世界の花でキマっていた。

 魔王は倒す。だが、いつ倒すとは約束してねえ。王様野郎はキレたが、俺に言う事を聞かせる事なんてできねえんだ。それに俺は川を渡って魔王軍が進撃してくるたび、自慢のソニックカラテやマス・ディストラクション・ジツ、ヌーク・エクスプロード・ジツ等でブチのめしてやっていた。平和は守れてる。

 神都京都を支配していた総会シンジケートは、天上界から攻めてくる財閥シャドーギルドと激しいイクサを繰り広げていた。毎日が生きるか死ぬかの人生だった。俺みたいな下っ端じゃ、ロクな戦果はあげられなかった。だけど、こっちじゃチョロいもんさ。もうこれでいいじゃないか。魔王なんざ、景色だ。

 いいか、わかるか? 魔王という危険が川向うに居るからこそ、俺の危機対応能力がありがてえんだ。魔王がいなくなったらどうなる? マジで王様野郎は俺をうとましく思うようになる。てめえのバカ息子に国を継がせたいんだよ。いくらこの世界で俺がカラテで強くても、スシに毒を混ぜられたら終わりだ。

 対処できたとしても、そんな毎日襲撃を警戒して生きてたら到底幸せとは言えねえだろ。俺はちやほやされてえんだよ。ここで暮らすのが俺の運命だったと、今は思う。どいつもこいつも俺にへつらって、ビビって、一挙一動を見守って……ヘヘッ……。

 ……だけど、心の底から慕ってくれる奴は、いねえ。

 俺は空虚だった。俺はここでは無敵だった。なんでもできた。顔を見たこともねえ魔王野郎も、俺をビビってるに違いねえ。いいぜ。てきとうなペースで軍を送ってきて、俺が倒す。それで万事うまく回る。武器職人の仕事も回る。寺院も怪我人を治して、お布施で稼げる。いいんだ。これでよ。

「本当に?」

 俺は朦朧とした頭を上げて、声の主を見た。「おいおい。またお前か」「お前じゃないよ。私はエルフの……」「ああ、いい、いい、お前の名前は長くて覚えられねえから」「まったくもう! 今日も飲み過ぎ!」俺からサケを取り上げる。いけすかねえ酒場娘だぜ。「店主は?」「帰ったよ。アンタも帰れ」「なんだよお」

 俺は机に突っ伏した。「いいじゃねえかよお。俺は俺自身になれねえんだよお。12人の姫、128人の寵姫……くだらねえ……俺自身は……俺の俺自身は、この世界に来る前から……ここぞというとき、言うことをきかねえんだ……」俺の腹の下は、冷たかった。「俺……辛いんだ……毎日……空虚で……」

「フフッ、ダメなの?」エルフ娘はからかうように笑い、俺の太ももの内側を撫でた。俺はビクッとした。「やめろ。大人をからかうんじゃない」「アンタよりずっと大人だよ。エルフって、見た目のままじゃないんだからね!」「よせよ……俺のは役に立たねえ」「なら、このポーションを飲みなよ」「何?」

「ソマシャッテの秘宝。命の力が溢れてきて、蘇るよ」「なんだって!? 秘宝!?」「飲む……? そして、何する? ねえ、カラルド……」エルフ娘はいつになく艶っぽかった。俺は朦朧としていた。「だけど俺は……俺はこのままでいいんだ。このまま何もせずに……8月が終わり……9月が来て……10月になる」

「なら、飲みな? 秘宝。元気になるし、辛くなくなるよ」エルフ娘は俺にポーションを押しつけた。俺のニンジャ第六感は察知した。それを飲むとヤバい。何かがヤバい。隷属の呪い……?「いや、俺は」「何? 嫌なの? でも、空虚なんでしょ?」「ああ……」「じゃあ私と楽しく暮らそ」「でも……」

「いいじゃない。このまま何もせず、私と楽しいことしよ。そうすれば、8月は32日、33日、34日だよ。永遠なんだから」「それじゃあ俺は……」俺はこのまま……そんなのじゃ……「いいから飲みなよ」「いや、でも」「飲メ!」声にエコー! エルフ娘は俺の顎を掴んだ!「飲メエエエ!」「アアアアッ!?」

 エルフ娘は俺の顎を押さえ、強引に口を開かせて、秘薬を流し込んだ!「アアアアア!?」たちまち俺は力失せ、座っていられず、床に倒れた。起き上がれない! 身体が! 痙攣!「アアアアアア!」「手間を掛けさせおって。カラルドよ!」エルフ娘は俺を見下ろし、頭を踏みにじった。「アアアアア!」

「お前が9月を迎えることは永遠にない。それはお前の望みだ! その望み叶えてやるぞ。永遠を生きるがよい……が奴隷となってな!」「な……ア……魔王!?」俺はエルフ娘がみるみるうちに天井をつくような身長になり、邪悪な装束を身にまとうのを見つめた。エ? 装束?「ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

「シイイイヤアアアア!」邪悪なニンジャは背中から巨大な翼を飛び出させ、無数の角を生やし、メンポを自然生成した! ニンジャ! それも、俺なんかじゃ及びもつかないアーチニンジャだ!「ナンデニンジャ! 魔王ニンジャナンデ!?」「愚かな。世界転移が自分だけの特権とでも思ったか? カラルドよ!」

 ニンジャ魔力が! ニンジャ魔力が俺を苛む!「アアアアア!」狂ってしまう!「アアアアアア!」「お前は終わりだ!」「アアアアアアア!」魔王の闇が俺を!「貴様の9月は来ないのだ!」「ヤーアアアアー!」残念……俺の冒険はここで終わってしまった……。否!「ウッギャアアアア!?」悲鳴! 魔王の!

 誰だ!? 魔王の後ろから熱いホットワインを浴びせたのは……! このクソ暑い中でそんな暴挙に出た奴は……!「何者だ!?」魔王は苦しみながら壁際に逃れ、振り返った。影は目を光らせた! ダイヤモンドの!「この世には自然科学では説明できない物事が沢山ある。我が名はメンバーシップ移行探偵ザザ!」

「貴様ニンジャか!? 第三の転生者か? コシャク!」怪物が身構えた。ザザは怪物に向き直った。「否。貴様のような怪異を殲滅する為に、私は来た!」「させぬぞ! カラルドは隷属させた!」「喰らえ! 義眼光線!」ザザの宝石の目がビームを放った!「ウッギャアアアア!?」魔王は苦しみ、爆発四散した!

「そ、そんな……アンタは一体……」「9月を迎えにゆくときだ、カラルド」ザザは俺を助け起こした。「だけど俺……ポーションを飲んじまって」「ムン!」「オゴーッ!?」腹をパンチされた俺は全部ゲボした。そしてザザは俺を二度ビンタした。「グワーッ!」「正気に戻ったかカラルド!」「た、多分」

「ならば、今こそワドルナッケングリアの勇者として川を渡り、荒廃せしソマシャッテの平和を取り戻せ。魔王は死んだ。もはやお前も明日に進む時がきたのだ。ソマシャッテの王となるのだ」「俺が……総会ヤクザの俺が王に……」「昔の事など、どうでもよい!」「俺がッ!」力が、みなぎる!

「俺、やってみるさ……この世界で、マジになる……ありがとう……メンバーシップ移行探偵ザザ」「よし。その事についてだが、今こそメンバーシップへの移行も行うのだ。日付が変わるタイミングが、メンバーシップに入るのにベストだ」「メンバーシップ……」「ここだ! 時報と共に、為すのだ!」

 俺はURLに飛んだ。旧PLUSを止めて、メンバーシップする準備をした。その後ろで、ザザは俺をじっと見つめていた。そして時報が鳴った……。

 ポッポー!

「時は来た! メンバーシップ移行するのだ!」ザザの目が光った! ダイヤモンドの目の光は俺には強すぎる!「アアアアアア!?」俺は悲鳴をあげた!「プ、プランはどれを!?」「ニンジャスレイヤーPLUSか、TRPGか、その他のコラム記事関係か……あるいはよくばりセットかで選ぶのだ! セットは割安だ!」

「アアアアアアア! 目の! 目の光を! ザザ! その光は俺には強すぎる」「移行するのだ!」「アアアアアアアアア!」「移行するのだ!」「アアアアアアアーーーーッ!」9月の声を俺は聞いた……それは俺の新たな冒険だったんだ。「移行せよ!」「アアアアアアアアアア!」


◇FIN◇



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