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【ビースト・オブ・マッポーカリプス 前編】分割版 #2

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 マルノウチ・スゴイタカイビル頂上。

 四方に配置されたシャチホコ・ガーゴイルは超自然の深緑色に苔むし、空を塞ぐ蔦植物の天蓋は蛍光色の輝きを脈打たせていた。肘をつき、体を傾けて玉座に座っているのは、最後の狩人にして、おそらくは今のこのネオサイタマの王たる者。アヴァリスであった。

 アヴァリスの黒く長い蓬髪ほうはつは、風もないのに揺らぎ、ざわついている。その奥には山羊角らしきものが垣間見える。彼の纏う黒緑色の衣の表面は、絶えず沸騰している。沸騰の中から不気味な山羊状の生き物が生まれては、また沈む。それを繰り返している。実際に生まれ出でた山羊達は、床のあちらこちらに。

 それら山羊は震えながら起き上がり、長い髪と黒い衣をまとった、ヒトじみた姿となる。幼いもの、年経たもの、様々であるが、どれも同じ女の顔をしている。

 アヴァリスの玉座はスポットライトじみた垂直の黄金光に照らされている。それは天蓋を貫いて彼のもとに降り注ぐキンカク・テンプルの光である。

「王」「わが父よ」「偉大なるもの……」クロヤギたちは口々にアヴァリスを称える。玉座に近づき、触れようとする者もある。そうした者のことをアヴァリスは無雑作に蹴飛ばし、あるいは首根を掴んで、己の体に押し付け、再び取り込んでしまう。

 粗い網目を形成する蔦の天蓋の外には、異色の空と、緑に覆われたネオサイタマの景色が広がっている。奇妙な景観。異常な速度で時間が流れているようにも、静止しているようにも感じ取れる。空には瓦礫や人の群れが連なり、渦を巻いて浮かび、停止している。アヴァリスがその眺めに飽きる事はない。

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