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【ネオサイタマ・シティ・コップス】

◇総合目次 ◇エピソード一覧
この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードは物理書籍化されていない第3部エピソードのひとつであり、スピンオフ系エピソード集「ネオサイタマ・アウトロウズ」の1エピソードに分類されます。第2部のコミカライズが、現在チャンピオンRED誌上で行われています。



【ネオサイタマ・シティ・コップス】


 重金属酸性雨が降りしきるハイウェイ。一台のマッポビークルが威圧的なサイレンを鳴らし走る。道を譲らなかったヨタモノの車が銃撃され路肩で爆発炎上。情け容赦無し!そのビークルの車体側面は「NSPD49th」の文字が威圧的にペイントされ、乾いた犯罪者の返り血でコーティングされていた。 

 ビークル車内では、無機質な電子マイコ音声が流れ、ミッション概要を伝える。「……件名:武装アナキストによる囚人護送者攻撃。……重点エリア:デンチ・ストリート6の13。……推定マッポスコア:2400+……2450+……2500+……」 

 助手席のナカジマは一字一句を聞き漏らさぬよう電子音声に耳を澄ます。「…スガモプリズンに向かっていた囚人護送車が襲撃を受け銃撃戦ドスエ…犯人達はテンサイ級の囚人ハッカーを連れ出したものの逃走用のクルマを破壊され、近隣のオスモウハッカー・ドージョーに立て篭り親方を人質に取って…」 

 ルーキーは初日に助手席に乗る。これは49課の伝統だ。「フーッ、フーッ…」ナカジマは緊張感のあまり、ブザマな貧乏揺すりをしていた。ヨタモノの車を何のためらいも無く銃撃したのを見て、実際ショックを受けたのだ。49課の性質を解ってはいたが……果たして自分も無慈悲になれるのだろうか。 

「うるせえぞ!」ハンドルを握った女デッカーが、ナカジマの貧乏揺すりに気づき舌打ちする。直後、ギアレバーの代わりに彼の股間を力強く捻った!「ボール持ってんのか!?」「アイエエエエ!」情けない声を上げる大の男!あたかも無慈悲なるサバンナで野生の掟を叩き込まれる小動物めいてブザマ! 

「おい!初出動はどんな気分だ!」そのまま助手席を睨み、新入りにインタビューする女デッカー!その唇はトマトのように真っ赤。頭髪はオレンジがかった短い金髪。威圧的なサイバーサングラス。タフなレザージャケット。全体的な印象として、とても公僕とは思えない暴力的なオーラが滲み出ていた。

「た、大変緊張しております!しかしネオサイタマ市警の一員として恥の無いよう、ベストを尽くす所存であり、これはコトワザで言うならば……」「スッゾコラー!」「アイエエエエ!」「ここはセンタ試験会場か!?凶悪事件を解決するのは理屈でも御託でもない!暴力だ!」「アイエエエエ!痛い!」 

「随分いい点数でセンタ試験突破だってな!」「ハイ!」「ザッケンナコラー!」「アイエエエ!」「得意な武器は何だ!」「弓とライフルです!大学ではヤブサメ部とクレー射撃部に所属!インタハイにも…」「スッゾコラー!学生気分か!?お前の武器はマッポガンと!警棒だ!」「スミマセン!痛い!」

「いいな!クソ犯罪者を見たら容赦無くクソトリガを引け!潜在的なクソ犯罪者にも容赦なくクソトリガを引け!解ったか!」女デッカーは缶ビールを掴み喉を潤した。規律違反だ。「ハイ!」ナカジマは安堵の息を吐きながら返事する。彼の表情には戦士の儀式を終えたサバンナ部族民めいた鋭さがあった。

 ビークルはICを走り抜ける。「デンチ」とぞんざいに書かれたカンバン。「ただし、罪無きネオサイタマ市民は撃つな!」女デッカーが戒める。「ハイ!」「この街に生まれて一度も犯罪を犯してない奴がいると思うか!?」「いないと思います!」「その意気だ!ヤルキを見せろ!」「ハイ!」 

 ファオンファオンファオンファオン……マッポビークルのサイレンが、夜のデンチ・ストリートに鳴り響く。大通りの真ん中で、囚人護送車は逆さまに裏返り、巨大なキャンプファイアじみて燃え盛っている。すでに一度爆発を起こしたようで、怪我をしたマッポたちが担がれ退避していくところだ。 

 ストリートは野次馬で実際ごった返している。炎に群れ集う蛾か何かのように。「どきなさい!野次馬は直ちにどきなさい!」「49課だ!我々は何をするか解らないぞ!」ビークルの後部ハッチから降りたレッサーマッポたちが、透明な突撃盾で強引に前進。その後ろに女デッカーとナカジマが続く。 

「49課!」「ヤッタ!初めて見ました!」「人殺しが来た!」「珍しいですね!」「事件解決だ!」「マッポの巣に帰れ!」左右のビルから民間人の様々な声が浴びせられる。ナカジマは面食らう。「黙れ犯罪者予備軍!」BLAMN!女デッカーはサイバー拡声器で怒鳴り、上空にマグナム弾を発射! 

「い、威嚇射撃でいいんですね!?」ナカジマが短距離無線IRCで女デッカーに問う。「犯罪者予備軍のカスどもを射殺ショーで喜ばせる気はない。我々はNSPDの49課だ。ショウビジネスをやりたけりゃバッジを捨てて他をあたれ」彼女は街路にツバを吐きながらドージョーのある路地へ向かう。 

「ヤッタ!デッカーが来てくれた……よ、49課!?」裏路地の入口でカップラーメンを食っていたチーフマッポが、女デッカーを見て恐れおののく。「状況を説明しろ!」「ハイ!犯人らはこの裏路地の突き当たりにあるドージョーに立て篭りました!そこで何らかのハッキング行為に及んでいます!」 

「これだけ頭数を揃えておきながら、何故突撃しない!」女デッカーはチーフの襟首を掴み怒鳴る。左右にいた先遣レッサーマッポたちが、クローンめいて一斉に下を向き視線を逸らした。「イ…イカのせいです!見てください!」チーフは裏路地に散らばった大きなイカたちを指差す。まだ生きている! 

「スミマセン!今すぐ片付けます!」「大切な商品が!アイエエエ!」老婆と男が必死にイカを捕まえ箱に戻そうとしているが上手く行かない。「公務執行妨害か!」女デッカーは拡声器で怒鳴る!「その婆さんたちは隣の商店街に住んでんだ!自転車が運悪く転んだんだ!」後方のビルから野次馬の声! 

 何故このような事で、と不思議に思うかもしれない。マッポだけでは臨機応変な対応ができないのだ。下手に動けばストリートの怒りを買い、後日コーバンが襲撃されたりIRCで吊るし上げられるのだから。一方、老婆はイカを棒で叩きながら耳をそばだてていた!(((…デッカー…49課…!))) 

「頼みますよ!解ってくださいよ!」チーフマッポが複雑な事情を曖昧に伝えようとする。だが……BLAM!女デッカーが銃を抜き、老婆を射殺!「アバーッ!」イカを運ぶのを手伝っていた男が、突如懐から銃を抜く!「ウォーッ!」「アブナイ!」BLAM!ナカジマが射撃!「アバーッ!」即死! 

「アイエエエエ!」チーフマッポが腰を抜かし、街路にへたり込む。「殺した!殺したぞ!」「ヤッタ!」どこかのビルから声が上がり、伝言ゲームめいて伝わっていった。「安心しろ、こいつらもアナキスト一味だ」女デッカーの最新型サイバーサングラスは声紋認証とフェイススキャンを終えていた。 

「ア、アナキスト……」チーフマッポは口をぱくぱくとさせ、浜に打ち上げられたマグロめいて言う。「特にそこのババアは爆発物のスペシャリストだ。イカかサイバー自転車に爆弾が仕掛けられているだろう。処理しとけ」女デッカーは老婆の袖の下に隠された秘密の起爆スイッチを確認し、唾を吐く。 

「49課で突入する」女デッカーは銃弾を込め直してから、後続部隊を呼び寄せた。突撃盾のマッポたちが先頭になり、ドージョーへと前進してゆく。「いい判断だったな!」女デッカーはナカジマの尻を叩いた。「ハ、ハイ!」彼はまだ少し震えていた。「不如帰」のネオンが頭上でバチバチと鳴った。 

「あ、あの、先程の判断は、スキャニングを完了してからアナキスト老婆を射殺したのですか?」「……アァ?」女デッカーは気怠そうに振り返り、ナカジマの襟首を掴んだ。「ザッケンナコラー……!何調子に乗ってんだ?どっちでもいいだろ?余計な事考えてると死ぬぞ」「ハ、ハイ!スミマセン!」 

「…IP判明…犯人らはNSPD犯罪履歴ネットを攻撃中ドスエ…」女デッカーのサイバーサングラスに最新情報が届く。「とっとと行くぞ」「アイエエエ!」放り捨てられたナカジマは咳き込みながら立ち上がり、彼女に続いた。この日、ニンジャと遭遇する事になろうとは、夢にも思っていなかった。 




「気が散るから、うめくんじゃねえぞ!」「動いたら撃ち殺すからな!」囚人服姿の脱走犯らがすごんだ。薄暗いハッカー・ドージョーに、怒声とタイピング音が響き渡る。ドヒョウの上には、拘束された人質のニュービー・オスモウハッカーたちが数名、まるでツキジのマグロめいて転がされているのだ。 

「フゥーッ、フゥーッ!いいか、俺は大丈夫だ!下手に動くんじゃないぞ!もうすぐ終わって、解放されるからな!」親方であるビーチウィンドは拘束を免れ、隅にあるハッカー机に向かわされていた。机は全面がキーボード。連動モニタが8台もあり、実際強力なUNIXデッキであることを感じさせる。 

「無駄口叩くな!」ビーチウィンドの後ろに立ち頭に拳銃を突きつけているのは、エンドー・タカハシ(45歳、アナキスト、懲役135年)。ビーチウィンドの横に座り、モニタ8個を見ながら恐ろしい速さでタイピングを続けているのがエビタ・ロウカク(28歳、テンサイ級ハッカー、懲役90年)。

「フフッ、サイバーマッポめ、親方が人質だからこのIPへのウィルス攻撃を仕掛けあぐねてるぞ!」エビタは片手で正確な高速タイピングを維持しながら、左手で得意げにメガネを直す。タツジン!「感謝しろよ。俺の人脈と計画にな」エンドーがビーチウィンドの肩を叩きながら、エビタに小声で言う。 

「エンドー=サン、本当に、これっきりですよ……お願いしますよ……」ビーチウィンドはドージョー門下生に聞こえないか、何度も後ろを振り返りながら、そう懇願した。「任せろ、悪いようにはしない」とエンドーが言いかけ……「ヤッタ!」エビタがキーを叩いて叫ぶ!「懲役年数リセット成功だ!」 

「イェー!」「ワンドフォー!」「テンサイ!」ドヒョウの上にいる犯罪者らが薄汚い歓声を上げる!「自由だ!」エンドーが叫ぶ。テンサイ級ハッカーのハッキングと、マッポデータベースの杜撰な管理体制がケミストリーを起こし、この護送車に乗っていた重犯罪者全員の懲役年数がゼロになったのだ! 

 そしてこの改竄はNSPDのミッション・マトリクスにも連鎖影響を与えていた…!「ブッダ!」裏路地入口で端末を確認していたチーフマッポが、額に手をあてる!「何です!?」部下マッポが問う。「ミッションが消えた!この案件はマッポスコア0だ!」システムの抜け穴をついた狡猾な電脳攻撃だ! 

「よし、あとは銃器を捨てて脱出だ!マッポどもは混乱している!奴らが築いたハイテックの罠に嵌まりやがった!ざまあ見やがれ!」エンドーが顎髭を掻きながら高笑いをあげる。だが……「た、大変だ!」フスマを開けて駆け込んでくるアナキスト仲間!「49課が来やがった!婆さんが射殺された!」 

 一方裏路地では。後続のマッポ部隊が引き潮めいて一斉に撤退し始めた事に、ナカジマは困惑していた。「何故戻るんです!?バックアップは!?」「マッポスコアが0になったのさ」夜勤の連続で疲れ果てた別課の先輩マッポたちが言い捨てる。「こんな案件で殉職したら、手当も出ねえよ」「そんな…」 

「オイ!聞こえてるか!」裏路地の突き当たり、雑居ビル三階のドージョーから、拡声器を使ってエンドーが叫ぶ。「俺たちは懲役ゼロの善良なネオサイタマ市民だ!ミッションも消えてるはずだ!突入ヤメロ!」「黙れクズども!49課をナメるな!」女デッカーも叫ぶ!「犯罪者どもに明日は無い!」 

 BLAMBLAMBLAM!女デッカーの銃弾が三階のガラス窓に撃ち込まれる!ガシャン!ガシャン!ガシャン!「ブッダファック!ケツ・ノ・アナ!」エンドーは拡声器を放り捨て、罵声を放ちながら窓際から離れた。相手は本当に49課だ。顔を出さなくて良かった。噂が本当ならば一発射殺だ。 

「突入!」「「「ハイヨロコンデー!」」」49課が雑居ビルへの突入を開始!「徹底抗戦だ!」三階ドージョーでエンドーが叫ぶ!「エビタ=サン!マッポスコア・マトリクスへの妨害を維持しろ!銃撃戦が事件になる前にカタをつけるぞ!」「「「エイエイオー!」」」犯罪者軍団が気合いを入れる! 

「ハイヨロコンデー!」ナカジマも突入に加わり、女デッカーの後ろに続いた。ナチュラルにアドレナリンが沸き出してくる。最前列には突入盾を構えたファランクス部隊。「アイエエエ!」「アカチャン!」猥雑な雑居ビルの1階は違法オハギオイラン窟で、左右の暗い部屋から嬌声や悲鳴が聞こえた。 

 BLAMBLAMBLAMBLAM!「ひるむな!」「ハイ!」「アイエエエエ!」「アバババーッ!」階段踊り場で最初の小規模な銃撃戦。被害者ゼロで突破。ナカジマは計算した。突入した49課の人数は9名。デッカーがいるとはいえ、敵は20名以上……バックアップ無しでは本来無謀なはずだ。 

「よく聞けクズども!銃を捨てて膝を付き、両手を頭の後ろに回せ!」ファランクスを前面に押し立て、女デッカーは三階へと向かう。ナカジマは階段を上り、踊り場に転がる犯罪者らの死体を見た。恐ろしいほど正確なマグナム弾射撃が心臓と額を打ち抜いていた。間違いなく女デッカーによる射撃だ。 

 ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!威圧的な歩調で、49課の突入部隊は三階の廊下を進む。ここまで、暗がりに隠れていた敵を三人射殺したが、残りは全員ドージョー内に立て篭っている計算になる。強化フスマの前で、隊列を組み直す。「行くぞ」女デッカーが先頭に立ち、一気にフスマを開いた! 

「エッ、何故盾を…」ナカジマが言いかける。BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!ドージョー内の拳銃とショットガンが一斉に火を噴き49課を襲う!硝煙の濃霧! 

 壮絶なマズルフラッシュと煙で何も見えない!「アイエエエエエ!」ナカジマは前方の盾マッポに身を寄せ叫んだ!この銃弾の雨に曝されれば、女デッカーはネギトロになっているはず!だがマッポたちは引き下がらない!ズゴム!ズゴム!ドージョーの奥から特徴的な射出音!グレネード弾に違いない! 

 49課配属前の教習で習った通り、グレネード弾は突入盾ファランクス部隊の天敵!「ナムサン!」ナカジマは歯を食いしばった!だが…「イヤーッ!」硝煙の中でカラテシャウト!KABOOM!KABOOM!グレネードは空中爆発!「「何が起こってる!?」」ナカジマとエンドーは同時に叫ぶ! 

 次の瞬間、ドヒョウの上にいた犯罪者たちは、硝煙の中に黒い人影を見た。「イヤーッ!」それは連続バック転で高速接近してくる女デッカー!「ファック!」犯罪者達は反射的にトリガを引く!BLAMBLAMBLAMBLAM!だが当たらない!銃弾が当たらない!これではまるで……ニンジャだ! 

「イヤーッ!」回転跳躍からの空中カラテキック!「アバーッ!」犯罪者が即死!「イヤーッ!」着地から股間に裏拳!「アバーッ!」犯罪者が即死!「イヤーッ!」至近距離の銃弾をかわしてカラテフック!「アバーッ!」犯罪者が即死!「イヤーッ!」ケリ・キック!「アバーッ!」犯罪者が即死! 

 硝煙が晴れ始める!「突入!突入!」マッポ部隊が前進を開始する!「アイエエエ!降参します!」BLAMN!パニックを起こしてこちら側に向かってきた犯罪者を射殺!「正当防衛だ!」ナカジマは最後列から射撃に参加しつつ、ドージョーの奥を見た。何故女デッカーはあの銃撃を生き延びたのだ? 

 ドージョーの隅では、バッジと銃を構えた女デッカーが敵のリーダー格であるエンドー、及びエビタと向かい合っていた。「ドーモ、NSPD49課のデッカー、コードネームは……デッドエンドです。貴様らを逮捕する」「銃を捨てろ!このオスモウがどうなってもいいのか!」「アイエエエエエエ!」 

「今の脅迫で懲役が25年増えたぞ」女デッカーが威圧的に吐き捨てる。「黙れ!システム上、俺たちはまだ善良なネオサイタマ市民だ!」「アイエエエ!助けて!助けてください!死にたくない!」ビーチウィンドが膝をついてブザマに泣く。迫真の演技。頭にはエンドーの銃口が突きつけられている。 

「ハイ、ハイハイ……分かってますよ」女デッカーは実際面倒臭そうに舌打ちした。「聞こえてんのか!銃を捨て……」エンドーが怒鳴る。次の瞬間。BLAM!女デッカーの銃が火を吹く!「アバーッ!」銃弾はスモトリの腕を貫通し、後ろのエンドーの股間も貫通!「アバーッ!」白目を剥いて即死! 

「アイエエエエエエ!アイエーエエエエエ!」腕から血を流して転がるビーチウィンド。「応急手当てしとけ」「ハイヨロコンデー!」即応するマッポ。他の犯罪者らも射殺または捕獲されている。「スミマセン、降参します」膝をついて両手を頭の後ろに回すエビタ。声は震え、ブザマに失禁している。 

「ハッキングしないと殺すって脅されたんです」「ザッケンナコラーッ!」デッドエンドが顔面に蹴りを入れる!「アバーッ!」蹴り飛ばされショットガンの横に転がるエビタ!「アイエッ!」思わず手が触れる!「抵抗姿勢だ!」デッドエンドが言うとマッポたちが即応!BLAMBLAMBLAM! 

「アババババーッ!」両手を上げスウィングしながら死ぬエビタ!非道!だがこれも49課の現場ではチャメシ・インシデントなのだ!「これは凄いぞ!」突然、廊下から三人組が駆け込んできた!バズーカ砲めいたものを構えている!「犯罪者!?」反射的にナカジマは後方を振り返り、トリガを引く! 

 BLAMN!「アバーッ!」1人即死!「待て、そいつらは……!」デッドエンドは眉根を寄せ舌打ちする。「アイエエエエエエ!」「人殺し49課!」ナムサン!それは興奮のあまり思わず闖入してしまったドクセン・プレス社の薄汚いジャーナリスト三人組!バズーカではなく大型カメラだったのだ! 

「み……民間人…?そ、そんな……何でこんな所まで」思わずマッポガンを取り落とすナカジマ。「あのマッポが撃ったのです!」「我々は降伏したはずの犯罪者が処刑される光景も撮りました!」残る二人のジャーナリストは、死体に変わった仲間、ナカジマ、スモトリなどを映しつつレポートを続行! 

 BBLAMN!銃弾がジャーナリスト2人の頭部を破壊!「「アバーッ!」」タタミに取り落とされるカメラ!デッドエンドは歩み寄り、マイクに向かって叫んだ!「こいつは大変だ!生き残っていた犯罪者が発砲したぞ!ここはまるで戦場だぜ!」そしてカメラを踏み壊す!「イヤーッ!」KBAM! 

「オイ、撤収するぞ!」「「「ハイヨロコンデー!」」」49課のマッポたちは荒み切った瞳で敬礼する。尋問のために連行されたのは、犯罪者1名、そして「何かクサい気がする」ビーチウィンド。人質スモトリたちはドヒョウに残され、唖然としていた。他の犯罪者は連行が面倒なので全て殺された。 

「行くぞルーキー」「アッハイ」デッドエンドはへたり込んでいたナカジマの尻を蹴り上げる。「ボール持ってるじゃねえか、ナイスショット倍点だ」「ハイ」彼はまだ耳がキンキンしていた。ハイスクールの時に行ったライブハウスを思い出した。緊張で凄まじい吐き気が襲ってきたが、何とか堪えた。 

「ヤメロー!ヤメロー!病院で治療させてくれ!そういう権利があるはずだ!」「黙って乗りなさい!」「我々は何をするか分からんぞ!」マッポビークルの後部乗員スペースに押し込まれるスモトリと犯罪者1人。実際、定員ギリギリなのだ。ガゴゴゴゴ……装甲車輪が唸りを上げビークルは発進した。 

 耳鳴りがし、デンチ・ストリート住民の歓声や罵声はよく聞こえない。ナカジマは助手席に。デッドエンドが隣の運転席に乗り込んだ。「ハイ、ハイハイ……あの状況じゃあ他にやりようが無かったんですよ。本当ですよ…ハイ、ハイ…」デッドエンドはサイバーサングラスでIRC通信を続けていた。 

「……ハイ、ハイ……そうですねえ……」デッドエンドはアンコガムを口の中に放り込み、不機嫌そうにくちゃくちゃと噛んでから、サイバーサングラスの電源に手を当てた。「……スミマセン、ちょっと磁気嵐が近いみたいなんですよ、ハイ、ハイ……ハイ、本当ですよ……」そして電源を切る。 

「ファック!うるせえ爺さんだよ!」デッドエンドはサイバーサングラスをダッシュボードに放り捨て、冷蔵庫からまたビールを取った。「ルーキー!昔の49課は良かったぜ。もっと伸び伸び仕事ができたんだ。オイ、元気が無えな」「……デッドエンド=サンは、何故、デッカーになったんですか?」 

「ハアッ?決まってんだろうが、犯罪者を追いつめて狩り殺すのが大好きなんだよ!オイ、今にもセプクしそうなツラしてんな!ルーキー病だ!ビールでも飲むか?特別だぞ」「いえ、今ちょっとそんな気分じゃ……あの、もう一個、質問いいですか?」「何だ」「さっきの戦い、まるで、ニンジャ……」 

「アァ?そりゃあな」ズズズズザリザリ……ビークル内のマッポ無線が突然鳴り始めた。「デッドエンド=サン、見え透いた嘘はやめろ」老人の声がノイズ混じりで届く。「ハイ、ハイ、何ですかね」「上官に対してその態度は何だ。血の海はやめろとあれほど言ったろう」「あいつらは犯罪者だぜ!?」 

「49課の置かれている立場を理解しているか? NSPD本体が暗黒マネーにより民営化の危機に曝されている今、49課こそがネオサイタマの法を守る最後の砦…」「……ハイ、ハイ、分かりましたよ、ノボセ=サン……そういう面倒なのは、苦手なんですよ…」「ハイは一回だ」「ハイ……ハイ」 

 ナカジマは驚きのあまり声も出ない。NSPDが民営化の危機?そんな話は聞いた事がない。それにこの通信相手はもしや、とうに隠居し退職したはずの伝説的デッカー、ノボセ・ゲンソンその人ではあるまいか?「わざわざ説教のために通信ですか」デッドエンドが問う。「N案件だ」ノボセが答える。 

「ファック!さっさと言ってくれよ!」デッドエンドがダッシュボードを殴る。「磁気嵐のせいだろう。では、用心のため通信を切る、急行せよ。タフガイ=サンも磁気嵐とやらでIRC遮断だ。そちらからIRCが通るなら伝えておけ」ノボセは通信を切った。「あの……N案件って」ナカジマが問う。 

「アァッ?うるせえな、ちょっと黙ってろ」デッドエンドはマッポビークルを自動操縦モードに切り替え、おもむろに上着を脱ぎ始めた!「アイエッ!?」ナムアミダブツ!果たして何を!?ハイウェイの分離帯ライトに微かに照らされたその胸は、タイトなスポーティブラに包まれ豊満であった! 

「ちょっと向こう向いてろ、すぐ終わるから」デッドエンドは頭を下げて、助手席側のダッシュボード下をまさぐり始める!ゴウランガ!「アイエエエエ!?」困惑するナカジマ!一体何を!?スモーク窓ガラスに微かに反射するデッドエンドは、ぼろぼろのジーンズすらも脱いであられもない姿に! 

 しかしこのまま見ていたら後で殴られるのでは……!ナカジマは歯を食いしばって目を閉じた。……数秒後。「何やってんだ、もういいぞ」デッドエンドが素っ気なく言う。ナカジマが恐る恐る目を開け、運転席を見ると……おお、そこには赤腕章付きのマッポニンジャ装束を纏ったデッドエンドの姿が! 

「…そんな、まさか……ニンジャ!ニンジャが実在するなんて…!」「ルーキー、一日目からN案件とはツイてるな!」彼女の目はサイバーサングラスで再び覆い隠され、トマトのように赤い口元だけが見える。「今日生き残ったら、うちでファックしていっていいぞ!」「ハイ!」「うちの犬とな!」 

 ナカジマは返事もできないほど混乱していた。N案件とは即ち……ニンジャなのでは……?その夜、彼は、恐るべき暗黒世界の真実を知ることとなる。荒み切った目のマッポたちと女デッカーを乗せて、49課のマッポビークルはしめやかに夜のネオサイタマを渡り、事件現場へと急行するのだった……! 




「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ……!」ナカジマは階段の踊り場で仰向けに横たわる。酷い火傷だ。両腕は動かない。頭上でバチバチと電子ボンボリが明滅し、錆びた排気ファンが軋んだ音を上げる。壁に埋め込まれていた水槽は銃弾で割れ、蛍光緑色のネオンキンギョたちが床で口をパクつかせていた。 

「ウオーッ、しくじったぜ、チクショウが…生きてっか、ルーキー…」少し離れた場所からうめき声。角刈りにティアドロップ型サイバーサングラス。タフガイだ。死体まみれの階段を這って降りてくる。左腕には赤い腕章。顔にはメンポ。タフガイもまたNSPD49課のニンジャだが、重傷状態にある。

「ウーッ、痛えぜ……あのニンジャ野郎、好き放題やりやがって……」タフガイは銃創を押さえ奥歯を噛む。「もう……死にます」ナカジマが弱音を吐く。「見せてみろ……。何だこりゃ、この位じゃ死なねえ……死なねえ……」タフガイは鎮痛剤入りのアンプルを取り出し、やおらナカジマに注射した。 

 瞳孔を開くナカジマ。奥ゆかしい違法薬物だ。「どうだ……効いたか…?」「遥かに……良いです」「よし……死ななかったら、凄えオイラン、紹介してやるからな……お前、ニンジャ見たろ?」「ハイ」「おエラいさんの顔も…見たろ?」「おそらく」「よし、もう少し頑張れ…ウーッ、痛えなこりゃ!」 

「デッドエンド=サンは」ナカジマが問う。「あの暴力女なら大丈夫だ。強いし……知能指数も高い。……問題はな、逮捕できるかどうかさ。あいつ、犯人を殺して迷宮入りにしちまう癖がある。それで、ついたあだ名が……デッドエンド」タフガイは大の字に転がって笑う。そして苦痛に顔をしかめた。 

「……初日から災難だったなあ!」タフガイは横に寝転がるナカジマの髪をつかむと、犬でも可愛がるかのように撫でて勇気づけた。(((どこでしくじったんだろう)))ナカジマは薄れ行く意識の中で自問した。とても危険なソーマト・リコール現象が始まり、数時間前の出来事が視界に映し出された。 

 

◆◆◆

 

 二時間前、装甲マッポビークル車内。武骨なワイパーはぬめった重金属酸性雨を無表情に左右に振り払う。運転席にはニンジャ装束のデッドエンド。助手席にはナカジマ。「おい、タフガイ=サン、そっちの調子はどうだ。また単独行動か?」デッドエンドはビールで喉の渇きを癒しながら、IRCで問う。 

「何だよ、マッポスコアで勝負か?俺に勝てるかな」上機嫌そうなタフガイの声。「ゴキブリ捕りに引っかかった害虫どもを駆除中さ。おい、お前らのチーム名、ジェット…何だっけ?違う?黙秘権?イヤーッ!イヤーッ!アァ?タマゴ団!そう、タマゴ団!最高ランクの極悪ハック&スラッシュ連中だ!」 

「N案件だ」デッドエンドが冷たい表情で返す。「N案件!」タフガイが驚く。「座標を送るぞ。飛ばせば合流できる」デッドエンドは一方的にIRC通信を切り、アクセルを踏み込んだ。マッポビークルはなおも加速する。ナカジマは隣でごくりと唾を呑んでいた。 

 高層ビルの谷間。現場の路地裏は立入禁止テープが張られ、地区のマッポ達が引き上げ始めていた。すでに他課に引き継がれた可能性が高い。ナカジマは49課チーフマッポの後ろに続いて路地裏へと進む。女デッカーはいない。彼女はビークルを降りるや否や、壁を蹴り渡ってビルの屋上へと向かった。

「ちょっと止まりなさい!我々はNSPD……よ、49課!」見張り番をしていた他課マッポが震え上がった。「その通りだ!」不吉なバッジをつけた49課チーフマッポは警棒を振り上げ相手を威嚇し、大股で現場に踏み込む。ナカジマも真似して続く。凄惨な殺人現場だ。ヤクザクラン同士の抗争か? 

 基本に忠実に指差し点検するナカジマ。ヤクザスーツを着た男の死体が4つ……全員がチャカ・ガンを持っている。それとは別に、ストライプのスーツを着た男の死体。この男は手首とジュラルミンケースを手錠で繋いでおり、ケースの中身はぶちまけられている。白い粉……違法な大トロ粉末だろうか。 

 ナカジマは死体の膝に刺さった鋼鉄物体を見逃さない。(((まさか……スリケンでは!?)))スリケンとはニンジャが投げるとされる伝説の投擲武器だ。だが社会常識的にニンジャは実在しない。フィクションの産物だ。これを指摘するようなマッポは、間違いなく馬鹿にされ降格ペナルティだろう。 

「ドーモ」「ドーモ」チーフマッポ同士が慇懃無礼にアイサツし名刺交換している。「いくら49課でも今回は手出し無用!我々の領分です!」相手は麻薬取締の18課。マッポスコア総合成績も優秀で、それに裏付けられた強気の態度だ!「上司と直接話をさせてください」「できません」押し問答! 

 キキーッ!突然猛スピードで突っ走ってきたオープンカーが路地裏の前で急ブレーキ。タイヤ痕が燃え、後輪が高く上がる。「49課だ!」ドアも開けずにタフに飛び降りてきたのは、これまた公僕とは思えぬ強面の風体に49課デッカーバッジの男!通称タフガイだ!とてもデッカーとは思えない! 

 タフガイも現場に踏み込む。「ドーモ、シツレイしますよ。アアーッ、こいつは間違いねえな、俺たちの領分だぜ!」彼は死体に刺さっているスリケンを見逃さない。「ご覧の通り、薄汚いヤクの運び人とヤクザの殺し合いだ!もう報告してマッポミッションも登録したんですよ!」18課が突っぱねる。 

「じゃあこの件のスコアはくれてやるから、俺たちに捜査させろ。俺たちゃスコアなんてどうでもいいんだ」「ダメです!風紀が乱れます!マッポマニュアルの808ページ第七項参照!」「うるせえ!」タフガイは18課マッポを殴りつける!彼は理屈屋を見ると殴らずにはいられない!「グワーッ!」 

「ハイハイ、ハイ……解りましたよ。仕方ねえでしょ、揉み消されちまうかもしれねえんですよ…。大丈夫ですよ、ちゃんと手加減してますよ」タフガイは密かにIRCで上司に釈明してから、18課のマッポたちを威嚇する。「……オイ、いいか18課、次また49課を侮辱したらただじゃ済まねえぞ」 

「ウウーッ……」転倒した18課チーフマッポは、頬をさすり起き上がる。それを尻目に、独自に捜査を開始したタフガイは、ストライプ死体の前に座り込んだ。「オイ、待てよ、こいつ……どこかで見た覚えがあるぜ……」タフガイは驚いた顔を作り、死体の顔にかけられたサイバーサングラスを外す。 

「こいつは……潜入捜査官のクロタ=サンじゃねえか……!ウオオオーッ!課は違うが、こいつとはマッポスクールで同期だったんだ!ムカつく野郎だったけどよ、死ぬにゃあ惜しい男だぜ!ウオオオーッ!」タフガイは旧友との思いがけぬ再会に驚愕し、荒々しく吠えながら、拳で地面を殴りつけた。

「その通り。だがデータベースによると、彼は3ヶ月前に退職している」大通りから18課デッカーが到着し、自信満々で言う。「おかしい!じゃあ何で薬物を!」ナカジマが思わず指摘する。「犯罪組織で働いたほうが儲かるに違いないと思ったんだろ!この事件は18課が捜査する!スコアも貰う!」 

「……そうかよ、わかったぜ」タフガイは静かに立ち上がり、サイバートレンチコートを羽織った18課デッカーの前に立つ。相手はコートの袖口から最新型の戦闘用サイバネ義手をのぞかせ、無表情な両目のサイバネアイを帽子の下で輝かせる。一触即発のアトモスフィア。 

 いかな49課の暴力デッカーとはいえ、超えてはならぬ一線は存在する。無論タフガイもそれを弁えている。しかし49課のメンツも保たねばならぬ。それゆえの威嚇行為。「俺はチート野郎が嫌いでな。鼻が利くんだ」「何が言いたい?」「好きにやらせてもらう。その権利がある」「とっとと失せろ」 

 タフガイは仕草で撤退を命じ、大通りへと向かって不機嫌そうに歩いた。49課マッポたちがそれに続く。タフガイは眉根に皺を寄せて秘密IRCを行う「爺さん、なんで18課が割り込んでくるんだ?色々おかしいだろ……データベース痕跡、当たってくれよ。数時間前にもハッキングされてたろ……」 

 そこへデッドエンドからのIRCが割り込む。「あのバカ……オイ、急ぐぞ!」タフガイは立入禁止ポールを蹴り飛ばして、颯爽とオープンカーに飛び乗った。ナカジマたちも大慌てでマッポビークルに乗り込む。ピボッ。運転手不在のまま自動操縦モードが起動し、遠隔指定された座標へと走り出した。

「目的地はカスミガセキ、ニギミ・ストリート、アラクサ第七ビルだ」ノイズ混じりに電子再現されたデッドエンドの声がIRC経由で車内に届けられると、ナカジマは少し勇気づけられた。「オイ、俺は誰を殴ればいいんだ?経緯を説明しろよ」タフガイからのIRC通信が混じる。 

「現場付近でクソニンジャを発見したので、追いつめて殺した。恐らく、あの潜入捜査官を暗殺した奴だ」「ブッダミット!また殺したのかよ!」タフガイが叱責する。「黙れタフガイ=サン。何も問題ない。奴はマキモノを隠し持っていた。そこに記されていた座標情報が、アラクサ第七ビル最上階だ」 

「ワオ!上出来じゃねえか、デッドエンド=サン。そこに黒幕がいるって寸法だな!よし!」「待て、今から直ちには強引すぎる……この一件、タフガイ=サンの言う通り裏で18課が絡んでいる可能性もある」深い知性と洞察力を備えた威厳ある老人の声が割り込む。デッドエンドが小さく舌打ちする。 

「もう殺しちまったモノは戻らない。こういうのはスピードが命なんだ。敵はまだ辛うじて、このサンシタが死んだ事を知らない。そうだろ?だから、今すぐゴキブリどもを一網打尽にすべきだ」デッドエンドが言った。口汚い言い方だが、極めて合理的な判断でもある。ナカジマが寒気を覚えるほどに。 

 しばしの沈黙。「……官庁系のビルや邸宅が多いニギミ・ストリートには、官僚のプライバシー保護のため、無線ジャミング用の電波コケシ塔が立っておる。通信は有線以外期待できん」老人は続ける。「……18課の件、何があってもおかしくない。NSPDは腐り切っておる。だが血の海にはするな」 

「イェー!なら、急行しろって事だな!」タフガイが卑劣武器ナックルダスターを両手に嵌める。「左様。わしはお前達に賭けざるを得ん。わしの社会的地位だけではない、49課とNSPDの運命も、全てな。この馬鹿者どもが」あからさまな溜め息を残し、ノボセ老からのIRC通信は途切れた。 

「30分以内に交戦準備!派手にやるぞ」デッドエンドの声が届き、ナカジマは背筋を伸ばす。「ハイ!」「ハイ!」「ハイヨロコンデー!」乗員輸送席のマッポたちも威勢良く返事した。有能だが、他課でケジメものの失態をしたか、あるいは素行に問題があり、49課へ流された愚連隊めいた連中だ。 

 これから何が起こるのか。おそらくは、先程の銃撃戦よりも酷い修羅場が待っているのだろう。だがナカジマは恐怖を感じなかった。高揚感に呑まれ、アドレナリンが爆ぜ、心臓の奥で炎が燃え上がるのを感じた。 

 

◆◆◆

 

 突入15分前。アラクサ第七ビル最上階。高級オーガニック中華飯店スコシ・シャンハイは貸切状態だった。店内の壁や床にはネオン・キンギョの水槽が埋め込まれ、浮わついた蛍光軌道を描く。パーティション屏風に書かれた「辛さ」「本格的な」「福」などのチャイニーズショドーが高級感を高める。 

 大広間。回転式の中華テーブルには、ロブスター、ダック、豚の頭など、最高級のコース料理が並ぶ。着席しているのは官僚風の男三人、クローンヤクザ五人、そしてニンジャ装束を着た男一人……明らかにニンジャだ!彼が弄ぶ鉄扇には、アマクダリ・セクトの不気味な紋章が透かし彫りになっている。 

「実に美味いダックですな」いくらかの沈黙の後に、ニンジャはそう言った。彼が口を開いただけで、室内のアトモスフィアが変わった。上等なスーツを着た高官らがじわりと脂汗を滲ませる。「随分と緊張している御様子」ニンジャは極めて強くフルーティーなショコー・カクテルを一口で呑み干した。 

「無理もない。貴方はこれまで我々の期待に完全に応え続けてきた」彼の一挙手一投足には、静かで凶悪なカラテがみなぎる。タツジンでなくともそれを感じ取れる。高官たちの顔色はすぐれない。クローンヤクザだけが無表情のまま、黙々とフライドライスを食する。その光景はいかにも異様であった。 

「暗殺者のデリバリーは問題ない。だが計画的に運用して頂きたいものだ」ニンジャは黒い鉄扇を動かす手を止め、丸い中華テーブルを回転させた。「あの英雄気取りの麻薬Gメンのせいで、危うく違法薬物メン・タイの流通ルートを危険にさらすところだった。アベノリ副課長、こういう不手際は困る」 

 アベノリ副課長と呼ばれた男は、春巻に箸を伸ばしていたが、急な回転によってアテが外れ、ダックの舌の盛り合わせに箸を突き立ててしまった。彼は重々しい咳払いとともに答える。「……あの潜入捜査官は、4課の送り込んだイヌだったのです。ご存知の通りNSPDは課ごとの連携がほぼ皆無……」 

「他課の事ゆえに予期できなかったと?」「そうです」ナムアミダブツ!これはタテワリと呼ばれる伝統的な派閥主義だ!マッポスコア制が導入された今、それは組織の硬直化とセクショナリズム暴走の元凶となっている!そしてそこに、アマクダリ・セクトの侵食を許す腐敗の温床が生まれるのだ! 

 ニンジャは鉄扇を開く。「しかしながら、ですぞ……フレイムタン=サン」アベノリは野心に満ちた目を輝かせ言った。「この私が18課の課長に昇進すれば、このような危機的インシデントは二度と起こりません!」「フハハハハ!食えんお人だ!」フレイムタンと呼ばれたニンジャは愉快そうに笑った。

「では……カネの話に入ろう。単純な殺しだけで良かったのかね。追加オプションも存在したが」「ここから先の尻拭いは我々が行います。幸運にもマッポデータベースに攻撃が仕掛けられ、あの麻薬Gメンの個人データは書き換えられました。サイオー・ホースです」サイオー・ホース、便利な言葉だ。 

 ここで突然、テーブル上の有線電話が鳴り、アベノリがそれを取る。「ドーモ……何だ君か。……49課?首を突っ込んできた?感づかれたやも……?くだらん。あの低能な暴力警官どもに何ができる。我々のバックにはニンジャがついているんだぞ!だが……念には念を入れる。……そうだ。いいな」 

「今の電話は?」「部下からです。他課がしゃしゃり出て来ました。対凶悪犯罪専門の49課……その実はどうしようもないクズの掃き溜めです。マッポスコア稼ぎでしょう」ナムサン!これもまたタテワリ秘密主義の一側面か!他課の高官らも、現在の49課がニンジャを擁している事実を知らぬのだ! 

 フレイムタンは壁時計を睨む。暗殺用に放っていたサンシタの帰りが遅い。もしやネオサイタマの死神に遭遇したのでは。彼は大小様々なリスクを鑑みて言った。「アベノリ=サン、今日はお開きだ」「エッ……まだコースは残っていますよ。チャイナドレス・オイランもかなり高級なのを用意したのに」 

 バラバラバラバラ……突如NSPDの黒ヘリが窓の外に接近!「随分早いな、そちらのお迎えか?」フレイムタンは怪訝な顔でネオサイタマの夜景を見る。「いえ、ヘリで来いなどという命令は……」「あ、あれは!」アベノリの側近が立ち上がり、機体側面の不吉な数字を指差した!「よ、49課!」 

 バズーカを構えヘリから身を乗り出すのは、デッドエンド!「クズども、死ね!ゴキブリ退治の時間だ!」KRICK!対戦車弾発射!KA-DOOOM!「グワーッ!」「アイエエエエエ!」「イヤーッ!」割れた窓から前方飛び込み回転で突入するデッドエンド!スコシ・シャンハイは修羅場と化す! 

「アイエエエ!」「ナンオラー!」ホール内は灰色の煙まみれ!巣で駆除剤を焚かれたコックローチめいて、犯罪者やそれに加担していた店員らが一斉に逃げ惑う!だがデッドエンドの狙いは彼らではない。前方回転終了直後……彼女は円卓を踏み台にして飛び掛かってくる敵のカラテシャウトを聴いた! 

 二者は未だ互いの姿を認識していない。「ハイヤーッ!」煙の中で炎が円弧を描いた。刀身を炎に包まれたショートカタナだ!予め敵のニンジャソウルを感じ取っていたデッドエンドは、紙一重のバック転で回避!「イヤーッ!」彼女のワンインチ距離を謎めいたカトン・ジツの炎がかすめる。ワザマエ! 

「ハイヤーッ!ハイヤーッ!」敵ニンジャは鋭く小刻みな蹴りと左手のカトンカタナ、そして右手の鉄扇で連続攻撃を繰り出す!「イヤーッ!イヤーッ!」デッドエンドは強化警棒を振るってこれに対抗するが、カンフーシューズを履いた敵の足技が手数でこれを上回る!「ハイヤーッ!」「グワーッ!」 

 彼女は体勢を崩し壁際に追いつめられる。敵のショートカタナからは既に炎が消えていたが、彼女の喉元を狙って容赦ない突きが繰り出された!「ハイヤーッ!ハイヤーッ!ハイヤーッ!」KRASH!KRASH!KRASH!デッドエンドはこれを紙一重の連続側転で回避!背後で酒瓶が次々割れる! 

「イヤーッ!」一瞬の隙をつき、デッドエンドがレッグスイープを繰り出す!芝を刈るバズソーめいた下段回し蹴りだ!「ハイヤーッ!」敵はこれを軽快なバック転で回避!ワザマエ!両者の激しいカラテに圧され、次第に煙が晴れてゆく。二人のニンジャはタタミ4枚の距離で向かい合い、睨み合った。 

「ドーモ、フレイムタンです。我らをアマクダリ・セクトと知っての狼藉か?」彼は鉄扇を鳴らし、カタナを叩いて撫でた。すると謎めいたジツが働き、刀身は再びカトンに包まれる。油断ならぬカラテだ。彼女は受けた蹴りの鋭さを反芻しながらアイサツを返した。「ドーモ、デッドエンドです。死ね」 

 アイサツ終了からわずかコンマ5秒後……両者は同時に突撃し、激しいカラテをぶつけ合った!「イヤーッ!」「ハイヤーッ!」「イヤーッ!」「ハイヤーッ!」「イヤーッ!」「ハイヤーッ!」「イヤーッ!」「ハイヤーッ!」「イヤーッ!」「ハイヤーッ!」「イヤーッ!」「ハイヤーッ!」 

 

◆◆◆

 

 アラクサ第7ビル最上階。中華飯店へ続く廊下を行進するのは、49課のマッポ小隊。先頭にはタフガイ。次に突撃盾チーム。ナカジマはその背後だ。作戦はこう……デッドエンドが黒幕どもを燻り出し、ニンジャを始末。その間に彼らが黒幕らを逮捕。ニンジャが複数いた場合はタフガイがカバーする。 

 行進しながら、ナカジマは強引な正義が為されようとしている事に、昂揚感と戸惑いを同時に覚えていた。彼は若さ故の正義感が災いし、検問シフト時にTVタレントの乗る車に対し職務質問を行った。彼は相手の尊大な態度に怒り、先輩マッポの忠告も聞かず……強引に車内を捜索。違法薬物を発見した。

 若気の至りの代償は、課内でのムラハチだった。示された選択肢は、ケジメし辞表届を出すか、あるいは49課への転属願いか。TVタレントは事務所からの抗議により無罪放免。逆にナカジマは婚約者に頬を殴られ捨てられた。…やけになった彼は後者を選び、適性試験を経て49課に迎えられたのだ。 

 KA-DOOOOM!爆発音が響き、フロアが激しく揺れる。それでナカジマの意識は高層ビル最上階の廊下に引き戻された。右手の壁に埋め込まれた水槽でも、ネオンキンギョたちが狼狽していた。「始めやがったな!イェー!」タフガイが両手のナックルダスターを叩き合わせ、火花を散らす。 

「一人も逃がすなよ!」タフガイが怒鳴る。「ハイ!」「ハイ!」「ハイヨロコンデー!」ナカジマと荒んだ目のマッポたちが閧の声を上げる!「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」直後20メートル先から恐るべきヤクザスラングが!スコシ・シャンハイから燻り出されたゴキブリどもの尖兵だ! 

 BLAMBLAMBLAMBLAM!「グワーッ!」「アババーッ!」たちまち始まる銃撃戦!まるで大西部だ!ナカジマは瞳孔を開き、歯を食いしばってトリガを引く!BLAMBLAMBLAM!防弾盾を持つマッポ軍団が有利!だがクローンヤクザは死を恐れず波状攻撃!「ザッケンナコラー!」 

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」タフガイが果敢に前進し、クローンヤクザを乱闘に持ち込んで次々殴り殺す!「グワーッ!」「アバーッ!」中華飯店の入口付近には即席バリケードが築かれ、チャイニーズオメーンで顔を隠した副課長ら三人が突撃指示を出し続けている!「もっと強いのを回せ!」 

 ガション!ガション!重々しい足取りとともに店内から姿を現したのは、旧オムラ社の逆関節ロボニンジャ、モーターヤブの後期改善型だ!「ニーハオ!」中華風ペイントが施されたその特注型はサスマタを激しくピストン運動させながら、タフガイに向かって突進!「蹴散らせ!」背信の副課長が叫ぶ! 

「イヤーッ!」「改善!」「イヤーッ!」「改善!」ニンジャと戦闘ロボが激しく殴り合う!その横を抜け、ドスダガーを構えたクローンヤクザの生き残りたちが49課に突撃!「スッゾコラー!」「ダッテメッコラー!」迎撃射撃の後、マッポ小隊は警棒やジッテを抜いて応戦!血みどろの殴り合いだ! 

「イヤーッ!イヤーッ!」ナカジマは全力で警棒を振り下ろしクローンヤクザに対抗した。敵は明らかに犯罪者なので全く良心がとがめない!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」熟練の古参ぞろいである49課マッポ小隊は、敵の攻勢第二波を弾き返そうとしていた……その時! 

 後方から物音!先のL字路を曲がって現れたのはマッポの一個小隊!「増援か!」「心強い!」クローンヤクザを囲んで警棒で叩きながら、ナカジマたちは歓声をあげる。だが、仲間の一人が異状に気付く。「あいつら……49課じゃないぞ!」「防御態勢!」誰かが咄嗟に盾を構えた。だが遅かった。 

 BLAMBLMABLMABLAM!後方から突如銃弾の嵐!「グワーッ!」「アバーッ!」ナムアミダブツ!18課マッポ小隊の先頭を走る陰気なサイバートレンチ・デッカーが、両腕を前方に突き出し論理トリガを引いたのだ!コートの袖が破れデッカーガン内蔵型の最新鋭サイバネ義手が露になる! 

「……我々が駆けつけた時には既に……49課はヤクザクランとの銃撃戦で全滅……!」「ハイ!」「ハイ!」「ハイヨロコンデー!」18課マッポもデッカーに倣い射撃!彼らはアベノリ副課長と一蓮托生であり、致命的な汚職露見を防ぐためならば仲間殺しも厭わない!何たる腐敗!タテワリの極み! 

「グワーッ!」「盾だ!盾グワーッ!」後方からの不意打ちにより、49課マッポの半分が死傷!咄嗟に反応できた残り半分の者たちも、デッカーガンの重金属弾頭弾を浴び続けて盾を破壊され死傷!ナムサン!「アイエエエエ!」ナカジマもマッポに撃たれて血を流し、ゴキブリめいて廊下でもがいた! 

 時刻はまさにウシミツ・アワー。地獄の扉が開くとされる日本で最も不吉な時間帯だ。ナカジマが見たのは、正義も法も踏みにじられた、凄惨な殺し合いの場!すぐ横を銃弾が跳ね、49課の生き残りが伏せ状態のまま必死で応戦する。怒り狂ったタフガイがロボを殴り倒し、後方の18課へと飛び掛かる。

 耳鳴りがして何も聞こえない。周囲のマッポが立ち上がろうとしているのが解る。銃弾の雨をかいくぐりながら18課にカラテを挑みかかったタフガイが、後方への逆突撃を命じたのだ。49課の生き残り達が、盾を構えて闇雲に突撃してゆく。ナカジマもそちらの方向に這い進む。ただ生き残るために。 

 廊下にはヤクザやマッポが転がり、血を流し、陸揚げされたマグロめいて横たわる。這い進むナカジマの横に、タフガイに殴り飛ばされた18課マッポの警帽つき生首が飛んできた。ナカジマはシェルショックめいて、心臓の熱が急激に冷めゆくのを感じ取った。これがNSPDの真の姿?正義はどこに? 

「改善!改善!」「アバーッ!」半壊したモーターヤブが火花を散らしながらのし歩き、ナカジマの隣にいたマッポを踏み殺してタフガイのもとへ向かう。「暴徒を許さないです」無機質電子音声とともにモーターヤブは射撃!18課も巻き込むフレンドリーファイア!「グワーッ!」「アバババーッ!」 

「一気に階段まで逃げるぞ!」中華飯店のオメーンで正体を隠したアベノリ副課長と側近が、混戦の中を走り抜けようとする。ナカジマは反射的に、その男の上等なスラックスの裾を掴む。「アイエエエ!」アベノリは死体の血で足を滑らせ転倒!オメーンが外れ、ナカジマはその素顔を見た。 

「このクズが……!」アベノリ副課長は中華風モンキー・オメーンを被り直し、ナカジマを撃ち殺すべく、取り落とした銃を拾おうとする!「アブナイ!」「急いでください!」「ブッダ!」だが側近たちに強引に促され、黒幕は舌打ちしながら再び身を屈め、乱戦の中を走り去っていった。 

 廊下ではまだ49課と18課の泥沼の殺し合いが続いている。タフガイが善戦しているが、彼もまた手負いだ。タフガイが倒れれば、18課が勝利を収め、ここにいる49課は全滅するだろう。死人に口無し。無線IRC死亡領域であるこのビルディングでは、いかなる電子情報も外部には漏れ出さない。 

 法も正義も死亡手当もどうでもよくなり、声にならぬ声でナカジマは叫んだ。……すると不意に、誰かが肩を貸して彼を抱え上げた。先輩マッポが助けてくれたのだろうか。隣を見るが、誰もいなかった。ナカジマは銃弾が飛び交う中で突っ立ち、己の両手を見た。全身に爆発寸前のカラテが漲っていた。 

「イヤーッ!」ナカジマは鋭いカラテシャウトを放つと、廊下に転がった突撃盾と血みどろの警棒を掴んだ!そして18課のマッポに殴り掛かる!「イヤーッ!」「アバーッ!」一撃で頭蓋骨破壊!何たる筋力!まるで……ニンジャだ! 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」暴走した戦闘機械めいて、ナカジマは周囲の敵を片端から何度も殴りつけて殺す!警棒を持つ腕は回転して止まらない!

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」先程まで抱いていたマッポ殺しの抵抗感は、どこかへ吹き飛んでいた。敵は敵だ。今彼が考えているのは、どう殴れば一撃で敵を殺せるかだった。彼はあれこれ考え傍観者のまま死ぬのを止めにした。生き残った者が正義なのだと悟ったからだ。

「ルーキー!やってるな!」ニンジャだけが可能な凄惨な殺し合いの中で、タフガイが不意に破顔して声をかけた。「イヤーッ!イヤーッ!」ナカジマはそれに答えるだけの余裕が無かった。代わりに倒れたモーターヤブを踏みつけ、強化警棒でめった打ちにしていた。「ピガーッ!ピガガガガーッ!」 

 彼はニンジャソウル憑依者に特有の全能感に包まれていた。だが、49課の優勢もそこまでだった。彼とタフガイの中間地点……スコシ・シャンハイ店側の強化ガラス壁が盛大に割れ砕け、デッドエンドが吹っ飛んできたのだ。KRAAAAAASH!「グワーッ!」廊下の壁に激突するデッドエンド! 

 ガラス壁に埋め込まれた水槽が割れ、水とネオンキンギョが溢れ出す!その蛍光体液はあまり人体に良くない!「ハイヤーッ!」キンギョがまだ宙を舞っているうちに、フレイムタンが割れたガラス壁の穴から飛び出し燃え盛るカタナで斬り掛かる!「イヤーッ!」間一髪横っ飛び回避するデッドエンド! 

 タフガイとナカジマが驚きと共に背後を振り返る。満身創痍のデッドエンドと敵ニンジャが見える。フレイムタンは死体まみれの廊下を見渡し、目を細めて状況判断を行った。直後「カトン・ジツ!ハイヤーッ!」電光石火の速さでフレイムタンは鉄扇を小刻みに動かし、燃え盛るカタナを激しく煽いだ! 

 するとカタナから紅蓮の炎が火炎放射器めいて吹き出し、生き残っていた49課マッポを焼却したのだ!「アバーッ!」「アバババババーッ!」アビ・インフェルノ・ジゴク!「グワーッ!」タフガイも巻き添えだ!「イヤーッ!」辛うじてこれも回避するデッドエンド! 

 回避地点を狙って、フレイムタンが容赦なく斬り掛かる!「ハイヤーッ!ハイヤーッ!ハイヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」デッドエンドも床に落ちていたジュラルミン盾と強化警棒を拾い上げて応戦するが、これはジリー・プアー(訳注:徐々に不利)。そこへナカジマが割り込んだ。 

「イヤーッ!」ナカジマは盾を構えて背後から闇雲に激突!荒削りで衝動的なカラテだ!「チィーッ!」虚をつかれ体勢を崩すフレイムタン!だがナカジマが続けて繰り出した強化警棒の一撃は、敵の巧みなノールック・バックキックに阻止された!「貴様ら、どれだけニンジャを隠し持っている……!」 

「このクソを殺すぞ!ルーキー!」デッドエンドが吐き捨てる。いまや前後から挟撃する形となった49課のニンジャ二人は、フレイムタンに警棒攻撃を行う!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「ハイヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「ハイヤーッ!」前後の敵を同時に捌くフレイムタン!スゴイ! 

 またフレイムタンは二対一カラテの中で、狡猾に周囲を観察していた。必死に転げ回って火を消し、立ち上がろうとしているタフガイの存在に気付いたのだ。(((……NSPD49課が、ニンジャを複数擁している……!)))。それに気付いたフレイムタンが次に取るべき行動は明らかだった。 

「ハイヤーッ!」彼は重い前蹴りで女ニンジャを突き放してから、弱敵と判断したナカジマと1対1の状態を作る。あとは簡単だった。「ハイヤーッ!」「グワーッ!」炎を纏ったショートカタナで、盾を持つナカジマの腕を切断してから「ハイヤーッ!」「グワーッ!」返すカタナで上半身を切り裂く! 

 妖しいカトンの炎が傷口にまとわりつき、激しく燃え上がる!何たるカラテ力量差か!ベイビー・サブミッションにも等しい!「グワーッ!」ナカジマは全能感を瞬時に打ち砕かれ、再び死亡寸前ゴキブリめいて転がった!このまま殺し切る事もできただろう。だがフレイムタンはその時間すら惜しんだ! 

「ハイヤーッ!」彼は連続バック転を決めて壁のガラス穴を抜け、ほぼ廃墟へと変わったスコシ・シャンハイへと消えてゆく!「有線電話か…!イヤーッ!」デッドエンドは敵の狙いを直感的に悟り、フレイムタンの後を追った!組織の秘密がアマクダリに露見するウカツは、何としても避けねばならぬ! 

「ハイヤーッ!」フレイムタンは連続側転を決めて円卓の上に着地し、有線電話へ手を伸ばす!「クソめ!逃がすか!」BLAMBLAM!デッドエンドの苦し紛れのマグナム銃射撃が、有線電話端末を破壊!(((成る程、よほど露見が嫌と見える)))だが彼にはまだまだ手がある!「ハイヤーッ!」 

 フレイムタンはバズーカ砲撃で空いたビル窓の大穴から飛び降り、垂直壁面を駆けた!「ハイヤーッ!」「ハァーッ!ハァーッ!」デッドエンドは歯を食いしばり追跡する。敵はこのまま無線IRC死亡領域から脱出し、ハンズフリー無線IRCで報告を行うつもりだろう。それが最も効率的な方法だ。 

 降りしきる重金属酸性雨。彼方には、巨大な大型コケシ電波塔が、デッドエンドの努力を嘲笑うかのように聳え立つ。だがこの時、フレイムタンもデッドエンドも気付くはずは無かった……その頂で一人のニンジャが腕を組み、直立不動の姿勢で立っていた事を! 

「イヤーッ!」ジゴクめいたカラテシャウトとともに、その赤黒のニンジャはコケシ電波塔の頂からイナズマのごとく飛び降りた。そして高層ビルからビルへ、カンバンからカンバンへと跳び渡り、無線IRC死亡領域から圏外へと今まさに脱出しようとしていたフレイムタンの前に着地したのだ。 

「ドーモ、フレイムタン=サン、ニンジャスレイヤーです」そのニンジャは死神めいた声で言い放った。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、フレイムタンです。何故、俺の名を……!」「オヌシらアマクダリ・アクシスには色々と聞きたい事がある。洗いざらい喋ってもらおう……その後に、殺す」

 

◆◆◆


「ハァーッ……ハァーッ……ニンジャスレイヤー……」デッドエンドは二つ隣のビル屋上でへたり込み、歯嚙みしていた。両者のカラテシャウトが遠ざかる。フレイムタンは組織との通信を優先し、必死で逃げてゆく。先程までは49課の情報を伝えるためだったが、今は、救援を呼び生存するために。 

「ハァーッ……ハァーッ……何がニンジャスレイヤーだ……クソめ……ふざけるなよ……突然出てきて……こっちの獲物だ……49課が……狩り殺す……」デッドエンドは息を整え、再び追跡を開始する。だがノイズ混じりにノボセからのIRC通信が飛び込んできた。「追うな、デッドエンド=サン」 

「ハァ?何を……?」「そのニンジャは確かにニンジャスレイヤーと名乗ったのだな?……ニンジャスレイヤーは実在する……今はそれだけでよい。追うな」「しかし」「危険すぎる。また我々が得た断片情報が全て真実ならば……そのニンジャは必ずや狩り殺される……ネオサイタマの死神にな」 

 暗い司令ルームに陣取るノボセ老は、ネオサイタマ炎上にまつわる機密ファイルを開き、ニンジャスレイヤーとナンシー・リーに関する不確かな情報を再び改めた。これで何度目か。しかし今回ほど伝説に近づいた瞬間は無かった。「デッドエンド=サン、今はもうひとつ、なすべき任務があろう……」 

 

◆◆◆

 

「ハァーッ……ハァーッ……」ナカジマは階段の踊り場で仰向けに横たわる。タフガイが注入してくれた鎮痛剤も切れてきた。頭上でバチバチと電子ボンボリが明滅し、錆びた排気ファンが軋んだ音を上げる。タフガイは白目を剥いて気絶し、隣では蛍光緑色のネオンキンギョが口を開いて死んでいた。 

 ナカジマの体は動かず、ニンジャ聴覚だけが異常に冴え渡り始めた。自分とタフガイの心音に加えて、定期的な足音がふたつ、下階から近づいてくる。時折、負傷していると思しき男の呻き声も聞こえる。誰だ、と言おうとしたが、ナカジマにはその力も残っていなかった。 

 敵が掃除に来たのならば……打つ手無し。ナカジマは覚悟を決め、下階の暗がりを見つめていた。暗闇の中にモンキー・オメーンが浮かび上がり、スーツ姿の男が階段を登ってくるのが見えた。だがその男は銃を抜こうともせず両手を後ろに回したままであった。 

「ハァーッ……ハァーッ……おい、ルーキー……こいつで合ってるな?」後ろから、面倒くさそうにマグナム銃を容疑者のこめかみに押し当てるデッドエンドの声が聞こえた。そして……BLAMN!オメーンだけが吹き飛ぶ。「アイエエエエ…」副課長は静かに失禁した。「ハイ」ナカジマは答えた。 

 デッドエンドは手錠を嵌めた黒幕を下の踊り場に死なない程度に蹴り落とすと、ふらふら階段を上り、血の海の踊り場で仰向けに倒れた。背中の下でネオンキンギョがつぶれた。「……オイ!もうすぐ救援が来るからな!帰りにケバブでも食うぞ!」「……ハイ、ヨロコンデー」隣でナカジマが答えた。


 【ネオサイタマ・シティ・コップス】終



N-FILES(設定資料、原作者コメンタリー)

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ネオサイタマ市警の特務組織である49課に配属された新人「ナカジマ」は、初日から暴力的な女デッカーとともに凶悪犯罪対応に向かう。やがてナカジマは彼女がニンジャである事を知り、49課の秘密を知るのだった! メイン著者はフィリップ・N・モーゼズ。


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