夏休み課題〆切探偵ザザ
ザザとは! ダイヤモンドの義眼を持つ超常探偵である! 彼は様々な期日を察知して現れ、人類に害をなす超次元存在を退治するのだ。放て! 義眼光線!
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夏休み課題締め切り探偵ザザ 第14034話
俺、タカシ。根尾埼玉市に住む小学6年生。今ハマってることは、カブトムシ収集だ。太陽がのぼるより早く起きて、暗いうちから裏山に行くと、木の幹の樹液が出てるところに、いっぱいカブトムシが居る。他の虫とかもいっぱい集まっているからちょっとヒくけど、カブトムシがゲットできるなら怖くない。
毎日すごい日差しが強くて、縁側には太陽の光が差し込んで、気持ちのいい風が吹いてくる。俺はカブトムシを入れた籠を見ながら、デカいスイカを食べる。超甘い。最高の夏休み……でもその最高さに影を落とす要素が、俺の心にこびりついている。
……夏休みの宿題だ。
「はあ……つらい」
「タカシ、宿題は終わらせたの?」
ママだ。俺はムカついた。今まさにその事を真剣に悩んでいたのに! 大人って、いつもこうだ!
「今からやろうと思ったのに、やれとか言われたから、すごいやる気がなくなった!」
「困るのはアンタだよ。ママはパパと買い物行ってくるからね」
俺は無言で部屋に入ってドアを閉めた。大きい音が出なかったので、やり直して思い切り閉めた。バシン! 反抗心の表現だ。
「さあて、やる気なくなったから何しよッかな」
俺はカレンダーを見た。9月1日まで2日ある。余裕すぎる。今日はずっと遊んでいても問題ないはずだ。テツとミチが公民館に居る筈。
宿題はクソだ。特に絵日記がキツい。
絵日記は今から過去を振り返って、7月下旬から1ヶ月以上の内容を捏造して書かなければならない。考えるだけで気が重く、つらかった。
そして自由研究だ。朝顔の育ち方とかをうまく想像して本当っぽく書かないといけない。俺はどんどん反抗的な気持ちになった。朝顔だって!?
大人はしたり顔で、実はフワッとした根拠迷信をもとに、俺達に命令してくる。昔はクーラーをつけたらタルんでるから悪だったらしい。30年前は、ゲームをやると脳が溶けて殺人鬼になるとか言われてた。50年前は、ギターを弾くと犯罪者になると言われてた。
全部嘘だった。
大人は嘘を平気でつく。牛乳を噛んで飲めとか、90年代には石油が枯渇するとか、テレビでノストラダムスがどうとか、舌の位置で味の感じる場所が決まっているとか、恐竜が羽毛につつまれてるとか言っておいて結局そうじゃなかったりとか、何もかも嘘だったのに、言いっぱなしで謝りもしない。あと鎌倉幕府は1192年じゃなかった。
だから俺は夏休みの宿題をやらなくてもいいはずだ!
……俺は溜息をついた。わかってる。そんな事を主張したって誰も聞いてくれない。……辛い……。俺はハッとして首を振った。ダメだ。今日は遊ぶことに決めたんだろう!
「フフフ、面白い」
窓の方向から声がした。
「エッ!?」
「窓、開けて」
女子の声!
俺は窓を開けた。すると、窓の外にはメチャクチャHOTな女子が浮かんでいた! クラスの学級委員で誕生会にはクラス全員が集まるユミコちゃんよりHOTな女子なんてありえない筈なのに……!
「き、君はどこの転校生!? ていうか、ここ2階なんだけど」「そんな細かいこと気にしないでよ」女子は部屋に進入!
「いったい君は……」「私、アミ」
女子は顔を近づけてきた。いいにおいがした!
「タカシくん、キミと夏休みの思い出、一緒に作りに来たってゆったら、信じる?」
「それって……」
「私は不思議な少女なの。ひと夏の幻みたいに、これからキミと海を見たり、夜はお祭りで花火を見て、素敵なのよ」
「すごい」
「私、二学期からはアメリカに行かなきゃいけないんだ。だから、今しかないの。私と冒険しよ?」
アミは俺の手を握った。握った手にもう一方の手をかぶせた。
「ね」
「で、でもテツとミチが……」
「ほっといちゃおうよ。海、見せて」
「わかりました」
「それじゃ、一緒に行こう」
家の前にバスが停まった。
アミに手を引かれて、俺は階段を降り、家を出た。そしてバスに乗り込んだ。
「タカシくん、こんにちは!」「イエー!」「たのしいよ!」
車内には、HOTなバスガイドさん、HOTな教育実習の先生、HOTな友達の年の離れたお姉さん、HOTな親戚の女子高生お姉さんなどがいて、俺を歓迎してくれた! すごい!
「ほらァ、一番うしろの席だよ!」「シートベルトしてあげるね」「ダメよ! わたしがするんだから」
HOTなお姉さんたちが俺を撫でたりしてくれるが、やっぱり一番まぶしいのはアミだった。
「あ、ありがと……」
「出発、進行!」
制帽を目深にかぶった運転手が白手袋で指差し確認し、バスを発車させた。
バスはどんどん速度を上げて、山道に向かっていく。
「宿題とか、いいじゃない。もう、やめちゃお?」
アミがせつなそうに言った。
「え、でも……やらないと怒られるし取り返しがつかない」
「本当にやらなかった子がどうなるか、知らないでしょ? ……本当は、大丈夫よ」
「確かに、完全にバックレたらどうなるか知らないけど」
「そうでしょ! 大丈夫よ。大人は都合の悪いことは教えないから。大人は私たちに教育を受けさせる義務があるんだし、基本的人権とかもあるから、宿題やらなかったからって、きみは教室を追い出されたり、留置場に入れられたりしないし、罰とかも裁判所の命令がなきゃバックレていいのよ」
「本当にそうなの? すごい」
俺は舞い上がっていた。だってそうだろ? 君なら平気なのか?
すごい勢いで窓の外の景色が流れていく。輝きは夜空の星みたいだ。アミは俺の腕に腕を絡めて、耳元で囁いた。
「ねえ、打ち上げ花火はどの角度から見たい?」
「え……角度……?」
「もう、わかってるくせに」
アミは笑った。そ、そうか。どこから見……。
「この世ナラぬスペクトルの幾何学角度だヨォ!」
「スペク……アアアアアアア!?」
俺は悲鳴を上げていた。アミの顔が2つに割れて、中から名状しがたいバケモノが無数の昆虫じみた外骨格腕を伸ばして俺の顔に触れたのだ!
「アアアアアアア! アアアアアーッ!」
「抵抗するナよタカシくン! もうじゅうぶん、キミはイイ思いを、したンだヨ!」
「アアアア!」
「ビルビルーッ!」
アミだったものが叫び声をあげた。それに呼応して、車内のHOTお姉さんベイブ達が巨大なカブトムシ人間の正体を表す!
「タカシクン……カブトムシ……スキデショ」「オモイデ……イッパイツクロウネ」「オッキクソダッチャウヨ」
「アアアアアーッ!」
「タカシ。ワンピースを着た不思議少女とお前は青春した。奇跡には代償が必要だ」
怪物がビルビルと音を出した。
「お前は今から365日の夏休み日記を書き続けてもらう。我々の宇宙的エネルギーのためにな」
「い、いやだ、いやだあああ!」
「すぐに、よくなる」
「ヤーアアア! アーアアアアー!」
その時だ! バスがドリフトした!
怪物はまとめて車内を吹き飛び窓に衝突!
「ウギャーッ!?」
KRAASH! KRAASH! 窓が割れ、カブトムシ人間は外の亜空間へ呑み込まれていった!
「ウッギャアアアーッ!」
「バカな! 我が眷属達が!」
怪物が驚愕した。バスが急停止した。怪物が吹き飛び、天井に叩きつけられた。
「ギャアーッ!」
俺はシートベルトで平気! 運転手が席を立つ……!
「行き先は、地獄ですよ」
「き、貴様は」
怪物は起き上がり、身構えた。
「我々の手配した旧支配者運転手ではない!? いつ、すり替かわった!」
運転手は帽子に手をかけた。
「この世には科学では説明のつかない出来事が沢山ある」
帽子を投げ捨てると、ダイヤモンドの目を輝かせる超人が立っていた!
「夏休み課題締め切り探偵、ザザ!」
「ビルビルーッ! 我らに楯突く代償は、死だーッ!」
怪物が向かってゆく! だがザザは両手をクロスさせ……開いた!
「喰らえ! 義眼光線!」
「ウッギャアアアアアーッ!」
宝石の目が凄まじい光を照射し、怪物を一瞬にして焼滅してしまった! 目が開けられないほどの光が去ると……そこはもとの山道だった。
「夢?」
俺は呻いた。
「ホットなお姉さん……幼馴染……不思議少女……あれ? バスに乗っていたはずだけど……」
俺は瞬きした。ここはタクシーだ。
「お前は熱中症になりかかっていた。要所要所で、しっかりと適切なナトリウムと糖分の割合を保ったドリンクを飲まないと命にかかわるぞ」
「ごめんなさい」
「キミの事はこのまま家に送ってあげよう」
「ありがとう」
「だがその前にやるべき事がある」
「え?」
タクシーが停まった。
運転手が振り返り、帽子を脱ぐと、その男はダイヤモンド義眼の戦士だった。
「夏休みの課題。締切はあと2日だ」「アアアアア!?」
「わかっているのか!」「アアアアアーッ!?」
「わかっているのか!」「アアアアアアーッ!」
「わかっているのか!」「アアアアアアーッ!」
「わかっているのか!」「アアアアアアーッ!」
「わかっているのか!」「アアアアアアアアアーッ!」
俺とザザを乗せ、タクシーはどこまでも走るのだった。
FIN
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