D-08【01:00:00】
不安な夢から覚めると、バンディットは奇妙な荒野の只中に自身を見出した。彼は慌てて立ち上がり、周囲を見渡した。空は晴れた夜空だった。都市のスモッグはなく、星々がきらめき、奇妙な月が浮かんでいた。
「どういう事だ。俺は確か、ネオサイタマで密書を……」
バンディットは呻いた。そう、彼はネオサイタマで密書を運んでいた筈だ。常人の三倍の脚力とステルス技能を持つ彼は、重金属酸性雨に濡れることすらなく、ネオサイタマ市街を高速移動して、トーフ工場襲撃にまつわる密書を運んでいた筈だ。それが何故今、こんな人里離れた場所に……?
「……!」
バンディットは青ざめた。記憶が決定的瞬間を呼び戻した。路地裏、赤黒のニンジャ……「忍」「殺」のメンポ……そして……。
「ニ……ニンジャスレイヤー……! 俺は……アアアアア……!」
ナムサン! 彼は殺された! ニンジャスレイヤーに殺されたのだ!(サヨナラ!)命が断たれ、内なるニンジャソウルを抑え込めずに爆発四散する肉体……ぞっとするような死に際の実感が彼の腹にずしりと響いた。彼は思わずその場に膝をつき、嘔吐した。
「バカな……俺は死んだのか……? だが、だとしたら一体……」
バンディットはもう一度空を見上げた。奇妙な月と思えたものは黄金の立方体であった。彼は本能的恐怖に駆られた。己がニンジャになった過去のあの日、確かそのときにも、同様の黄金の月が頭上に輝いていたのではなかったか……。
「俺は何故生きている。否、まさかここはサンズ・リバーの向こう岸だとでもいうのか。……う、嘘だ! 嘘……!」
彼は困惑と恐怖の感情で満たされ、頭をかかえた。その時、彼は付近の地面に転がる抜き身のカタナに気づいた。紛れもなく、彼自身の武器だ。構えたカタナを振り回す暇すらなく、彼はニンジャスレイヤーに倒されてしまったのだ。敗北感と屈辱を胸に、彼は身を屈めてカタナを掴んだ。
その動作が、彼を二度目の死の運命から救った。
「イヤーッ!」
身を屈めた彼のすぐ上、一瞬前まで頭があった場所を、死神の鎌めいたアンブッシュ・トビゲリが薙ぎ払ったのである。バンディットは咄嗟に前転し、振り返って、アンブッシュ者を見据えた。……ニンジャ。
「チイ。想定外の動きを」
アンブッシュ者はバンディットを睨み、カラテを構え直した。
「だがそれは、苦しみが余分に長引いただけだとも言える。わけもわからず首を刎ねられて死んでおれば、この俺のカラテに苦しみながら血反吐を吐いてくたばる事はなかったであろうにな……。ドーモ。○○○です」
ニンジャはアイサツした。バンディットは呻き、後ずさった。だが、アイサツされれば返さねばならぬ。古事記にも記されし厳かな掟だ。
「ドーモ。○○○=サン。バンディットです。貴様……何者だ。なにゆえ俺にアンブッシュをしかけた? この俺がソウカイ・シックスゲイツの一人と知っての狼藉か?」
バンディットの問いかけに、○○○は一瞬意外そうに目を見開いた。そしてすぐに把握し、薄ら笑いを浮かべた。
「……ククッ……そうか。貴様、まだ状況をわかっておらんようだな。これはお笑い草だ。俺にとってはキンボシ・オオキイもいいところだ……ワケもわかっておらんうちに満足にカラテする暇もなく死ねーッ! イヤーッ!」
「イヤーッ!」
バンディットは咄嗟のブリッジで○○○のトビゲリを回避した! ○○○は驚愕に目を見開き、着地した。バンディットのニューロンをニンジャアドレナリンがどよもした。カラテの感覚と、怒りの感情がみなぎった。ワケもわかっておらぬうちに死ぬだと? まっぴら御免だ!
「イヤーッ!」
バンディットはクナイ・ダートを投擲した。それも二つだ。ひとつは外れたが、もうひとつは○○○の太腿を切り裂いた。
「グワーッ!」
○○○は倒れ込んだ。バンディットは常人の三倍の脚力で一気に距離を詰め、カタナで斬り下ろした。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」
○○○は身を起こし、自身のカタナで身を守った。刃と刃がかち合い、カタナはバンディットの手を離れてクルクルと宙を舞った。バンディットは息を呑んだ。油断ならぬ敵だ。だが、この機を逃してはならない。
「イヤーッ!」「グワーッ!」
バンディットは立ち上がろうとする○○○に飛びかかり、抑え込んだ。マウント・ポジションだ! 暴れる○○○にひっくり返されぬよう、そのまま勢いに任せ、左右の拳をふるって繰り返し殴りつける!
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イ……イヤーッ!」「グワーッ! サヨナラ!」
○○○のメンポが跳ね跳び、顔面が砕けた。○○○は爆発四散した。
「……チイッ……」
バンディットは汗を拭い、立ち上がった。そして己のカタナを拾って鞘に戻すと、忌々しい思いで○○○の爆発四散痕を蹴散らした。
痛めつけ、拷問して吐かせるべきであった……この場所は何処なのか。何故バンディットを襲ってきたのかを。だが拷問を念頭に手加減していれば逆に倒されかねない相手だった。彼は周囲を見渡した。同様の敵が襲いかかってくる危険性がある。彼は身を沈め、しめやかに走り出した。
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