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おまえはT-34レジェンド・オブ・ウォーで、なめくさった奴に一発食らわせる(逆噴射聡一郎)


よくきたな。おれは逆噴射聡一郎だ。おれは毎日すごい量のテキストを書いているが、だれにも読ませるつもりはない。

逆噴射聡一郎先生プロフィール:社会派コラムニスト。昔からダイハードテイルズ・マガジンに時々寄稿してくださいます。

最近は映画がたくさんやっており、しかも、どれもズシンとくる作品ばかりだ。はっきりいっておすすめを挙げていったらきりがない。パラサイトはチョー面白かったし、1917もまだ観れていないが多分面白いだろう。だが今回おれが書くのはそれらについてではなく、WORLD WOR II・・・・すなわち第二次世界大戦のソヴィエト連邦とナチスの戦車乗り同士が戦うむさくるしいロシア映画・・・・「T-34レジェンド・オブ・ウォー」だ。

この映画はロシアの戦車乗り「イヴシュキン」と、ナチスの戦車乗り「イェーガー」との、因縁の戦いを描いたものだ。つまりこの作品は戦車同士が戦う話であることが完全に保証されている。戦車と戦車が命がけで戦い、大砲が火を噴いて、鉄が爆発する。そうゆう真の男の映画だ。おれはまだこの映画が劇場で見られることを知り、この週末に観に行く作品を迷ってるやつの参考となるべく、急遽このコラムをかくことにした。


ROSIA

映画が始まると、それは極寒の大地ROSIA・・・ジープで走る勇敢なロシアじんの主人公「イヴシュキン」の行く先に、戦車が現れる。雪原迷彩で白くなった戦車の上には、ナチスのマークがでかくペイントされていて、完全にナチスだ。この時おまえは、この映画が第2時世界大戦の映画であることを知り、その威圧感にふるえあがる。

走り去り逃げるイヴシュキンのクルマに向かって、ナチス戦車は砲撃を行う。木っ端微塵にするためだ。だがイヴシュキンは偏差射撃とか角度とかを読んで運転者にアドバイスをして砲撃をなんどもかわし、逃げ去るのだ。なぜこんな高度な算数ができるのか? イヴシュキンは才能あるロシアの砲兵であり、戦場に援軍に向かうところだったのだ。ナチス戦車軍団が迫っている。ぶじに援軍として合流したイヴシュキンは、圧倒的に数で負けているソ連側の部隊を勝たせるため、罠とかをはって待ち構え、戦う・・・・! 

こうしてはじまるこの映画だが、手に汗握るこの防衛戦は、実のところ、映画のほんのさわりにすぎない。この映画は全部で3時間ぐらいあるからだ。


やってやる時がきた

数年後、いろいろあってイヴシュキンはナチスの収容所にいた。そこからがこの映画の本題だ。

捕虜となったイヴシュキンは絶望してやる気を無くし何年も腐っていたが、ひょんなことから監獄を視察に来たナチスの戦車乗り「イェーガー」は、イヴシュキンを見てびびった。こいつは、あの時戦ったロシアのやつじゃないかと気づいたのだ。イェーガーはイヴシュキンに、最近強奪したソ連の戦車T-34を与えた。そして「捕虜のなかから仲間を選び、そいつらと一緒に、この戦車に乗れ。砲弾は与えない。つまり演習のマトにしてやるから、お前はせいぜいこの戦車で演習場を走って我々の戦車と戦えという寸法だ」と命令したのだ。WHY? ・・・・とにかくナメくさっていることは確かだ。

しかも戦車の中には腐乱死体がそのまま残っており、片付けなければいけないという嫌がらせのオマケもついていた。選びだした仲間たちと共に、いやいや戦車の掃除をしていたイヴシュキンだが、中の腐乱死体の下に、しっかりつかえる砲弾が残っている事を知った時、真の男の逆襲計画を思いついた・・・・!  場所はドイツ。そこは監獄。居場所はナチスの腹の中だ。だが、ナチスの奴らはなめくさっている。従順に従うふりをして牙をとぎ、ぶっ放してやるときがきたのだ。そうゆう熱い逆転劇が、はじまる。


おまえは戦車の中で肉体労働する

この映画は戦車の中でのやりとりがR.E.A.Lに描かれる。戦車とは鋼鉄の塊であり、その中に、むさくるしい男たちが4人ぐらい固まって乗り込んでいる。戦車を走らせるやつ、弾を込めるやつ、周囲を警戒するやつ、砲撃をするやつなど、役割が分担されている。つまりこいつらは狭く苦しい中で一蓮托生、命を預け合うチームなのだ。しかもこれはDIGITAL制御ではないので、たとえば戦車の砲塔を動かして狙うときは、ハンドルをめちゃくちゃ気合を込めてキコキコ回して動かさないといけないし、曲がったりするときもレバーとかをすごい腕力で押さえつけなければならない。全て肉体だ。おまえは戦車といえばWASDキーとかP・S・コントローラーみたいな簡単操作で動かせると思っており、ばつボタンを押せば弾が発射されると思っていただろうが、それは大きな間違いだ。W.W.II時代の戦車とは、鍛え上げられた筋肉の躍動によってこそ動く、スパルタンな乗り物なのだ。

この映画ではそういった肉体労働が妥協なく、力強く描かれる。戦車が弾を撃つと、弾道をきっちり見せるために、世界は完全にスローモーションとなる。まさにBULLET TIMEだ。これは砲弾が撃たれるたびに、絶対毎回律儀にやる。ゆっくりと空を切る鋼鉄の砲弾が、戦車の装甲にぶつかり、火花をチラシ、ものすごい金切り声をあげる。戦車の装甲はもともと湾曲しており、砲弾にぶつかると、斜めに逸らすようにできている。砲弾が車体を擦って、抜けていく! そうすると戦車の中ではものすごい音と衝撃が反響し、乗ってるやつらは頭を押さえて叫ぶ! 「AAAAAAARGH!」そして当然、当たりどころが悪ければ砲弾は車体を貫通して中のやつの肉体をふっとばしたり、燃料に引火して熱いマグマのような爆炎を内側から溢れさせて全員死んだりする。まさに阿鼻叫喚の戦いだ。

だが戦車乗りはそうした恐怖に耐えながら、歯を食いしばってハンドルをキコキコ回し、戦車を前とか後ろに必死で動かして、撃ち返さねばならない。そうしなければすぐに終わりがまつ。END OF MEXICO・・・・。腰抜けは決して生き残れない戦場へと、おまえは足を踏み入れるのだ。


戦士の世界がまつ

イヴシュキンが選抜した3人の捕虜たちは、目に力があったり、トレインスポッティングのスパッドみたいな奇妙っぽいやつだったり、昔に一緒に戦ったことのあるやつなどだ。どいつもこいつも最初は「あ、はい」とか「なんかわかんねえけど、ほんとうにやれるのか?」みたいなテンションだったが、脱出計画を練り、演習場の地形を丸暗記してこっそりジオラマを作ったり準備をしていくなかで、真の男が目を覚ます。はじめは自暴自棄な気持ちだったかもしれない。だが反骨精神をふるって一歩踏み出したとき、T-34はイヴシュキンに応えたのだ。中には砲弾があったし、機械も完全に動いた。メンテナンスをしてやればエンジンを唸らせおまえに答えた。「どうだ? おれはまだ戦えるんだ。やってやろうぜ」・・・おれはT-34のそうゆう唸り声を聞いたし、イヴシュキン達も聞いた。そして魂に火をつけた。ナチスのやつらにナメられたまま、監獄で終わっていくのか? 日々のルチーンワークに埋没し、ガミガミ野郎の罵倒によってへこまされ、人間の尊厳を奪われるに任せるのか? こたえは、NOだ。演習場のど真ん中、丸腰だとばかり思っていたT-34がいきなり砲撃したとき、ナチスの連中はまじでびびった。この痛快な瞬間にこそすべてがある。これはいわば現代社会そのものだ。おまえも自分の戦車に砲弾・・・BULLET・・・を本当は隠し持っている。だがそれは長い日常のループのなかで怠け癖とかスマッホの自動変換とか気の迷いとかが積み重なり、眠ってしまった。そして自分自身でも、それを忘れてしまっていたのだ。だが、おまえの中に眠る真の男をふたたび呼び覚ます時がきた。たとえおまえ戦車の中に死体がつまっていようが、おまえがその気になりさえすれば、いつでもエンジンは息を吹き返す。隠された砲弾を装填し、ぶっ放すことができる。そして・・・・勝ったつもりでなめくさってる奴らに一発食らわせてやるのだ。


イェーガーの執念

ナチスの戦車乗りイェーガーは、悪役としてとてもキャラが立っている。顔についた稲妻状の傷痕と、痩せてハンサムな顔が存在感十分だ。イェーガーは異常なまでにイヴシュキンに執着している。こいつがそもそもイヴシュキンにT-34を与えて丸腰で演習させるというふざけた事を考えたのだ。よく考えると全部こいつのせいだ。何をやっているのだ? だがおれはこいつの振る舞いをみていてなんとなく納得はいった。イェーガーはロシアでの戦いでイヴシュキンと相打ちのような状況となり、その戦いそのものにあまり納得いっていないようだった。イェーガーがすごい戦車乗りとしての自信を強く持っていたことは間違いない。そんななかで、イェーガーは捕虜としてしょぼくれてるイヴシュキンを発見した・・・・イェーガーの胸にはサディスティックな感情が渦巻いた。かつて自分の率いた戦車をボコバコに壊して厄介な目にあわせたこいつを、砲弾なしの戦車に乗せてブザマに這い回らせ、演習のマトにしてやることで、ぞくぞくするような悦びで胸いっぱいになろうとしたのだろう。

だが蓋を開けてみれば、イヴシュキンはこのチャンスを逃さず、ナチスをまじでびびらせた。イェーガーの思惑を越えていく脱走撃が始まってしまった。この瞬間、イェーガーも腰抜けから真の男へと鍛え直されていく。想定を越える問題に自ら対処すべく戦車に乗って戦う中で、イェーガーは再び戦士として、イヴシュキンとまじに決着をつける機会を得ることになるのだ。誇りをかけた戦いに決闘者としてのぞむとき、イェーガーの胸にあったのは邪念ではなく、ある意味で、スポーツのライバルに対して抱くような、爽やかですらある感情であったのではないか。こいつもまたナチスの日々のルーチンワ0クとかスマッホの予測変換に飼い慣らされてしまってはいたが、ねっこは真の男であったのだ。


おれは興奮する

このように3時間の上映時間の間、おれはずっと手に汗握っていた。凄まじい爆音と毎回律儀にスローモーションで表現されるすごい戦い。チームが一丸となる胸の熱さ。逆転、そして脱走のカタルシス。破滅に向かって突き進む、ロードムービーのような雰囲気すらも醸し出している。そしてすべてのカタがつくラスト・・・・・・・字幕スタッフロールはキリル文字で何が書いてあるのかさっぱりわからなかったがおれは席を立たず、しばらくその達成感に浸っていた。

この映画の4REALな戦車演出は完全に成功しており、砲撃の爆音、衝突音、爆発音がド派手に轟きわたる。劇場でおまえは震えだし、冷や汗を垂らし、拳を握りしめるだろう。闇に包まれた劇場の真っ只中、それは戦車の中にひとしい。そこで真の男本来の世界を体験することで、おまえの内側に眠る真の男がめざめるだろう。おまえが渡された戦車は、使い古しの鉄のカンオケなどではない。ナチスをびびらせる砲弾を隠し持っているのだと。その時、おまえはT-34レジェンドオブウォーを映画館で観たのは正解だったとはっきりわかるはずだ。

(逆噴射聡一郎)



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