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逆噴射小説大賞2024まとめ

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逆噴射小説大賞2024の全応募作品をまとめていくマガジンです。収録漏れらしきものを発見した場合は教えてください。
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#ファンタジー

2024年10月に「逆噴射小説大賞2024」を開催します

文字数制限は800文字以内! 今回の本文文字制限も、800文字以内です。しかしこれは「800文字以内で物語を完結すること」という意味ではなく「小説の冒頭部800文字で応募する」という意味です。つまり「この続きを読みたいと思わせる、最もエキサイティングなパルプ小説の冒頭800文字」を表現した作品が大賞を受賞し、その応募者は大賞の栄誉とともに黄金のコロナビールを獲得できます。 ◆逆噴射小説大賞とは◆この大賞イベントを主催する ダイハードテイルズ/Diehard Tales は

可不可/1→0

 安楽椅子に座る私の前で、暖炉の薪が音を立てている。パチパチと音を立てながら火の粉が爆ぜ、人はこれを見て郷愁に駆られるのだろうかと益体もないことを考える。 「本日の報告:本日の素材の入荷も滞りなく終わり、他に特筆すべき事柄はなく、いたって平穏でありました。報告終わり」  手に持っていたボイスレコーダーに日記を吹き込む。職業病ではないが、これをせねばいけない身だ。例え、聞かせる相手がいないのだとしても。  ボイスレコーダーの録音停止ボタンを押し、眼を閉じる。スリープモードへ

英雄を狩るもの

 僕は、望んだものを手に入れられない生涯を送り続けました。  手に入るのはいらないモノばかり。真に望んだものは、するりとこの手から零れ落ちた。人生の轍が刻まれたのは、死骸が転がった荒野だけでした。  でも、彼女を目にした時、僕の人生は変わったのです。目標が出来たのです。だから、僕は君に会いに行こう。そのために僕は。僕に抱き着いて性欲を滾らせた男の背中に、ナイフを突き立てたのです。 ジョナサン・ディキンソン【肺】 茹だるような熱気が漂う8月の終わり。歓楽街の大通りの突き当り

金魚姫

 目の前に映るのは、琥珀色の鱗に覆われた下半身の私。  壁の向こうには、妹の早紀がにこにこしながら、ミルクを美味しそうに頬張っている。本来なら、私も早紀の隣で一緒に過ごしていたのかもしれないのに。私が口に出来るのは、泥のような色をした丸い餌のみ。  姉妹でこうも違うなんて、神様は不平等だ。この家の中で、私はできそこないの娘。どうやら私は、ママに一度も抱きしめてもらうこともないまま、生涯を終えることになりそう。 ※  長年不妊に苦しんでいた、私のママ。体外受精を何度か失

白き巨獣を解き放った冒険者達の章

 アーツィー=ツイーツィーベルの人生を語る上で、多くの者達はこう口にする。 『彼の人生は本当に不幸だった』 『彼ほど可哀想な子はいない』  だが。    本当に、彼は不幸だったのだろうか?    それを決めるのは、残念ながら貴方ではない。  何故なら。  彼の人生が本当に不幸だったか、そうでないかは。  彼自身にしか、分からないからだ。  何故、皆が彼の人生をそう語るようになったのか。  彼には、両親の記憶がない。  これまでの生活においても、所々記

露光のしもべ

地面に突き刺した三脚杖にガラス玉を載せ、手を添える。露光魔法によって風景をガラス玉に刻む。焦点や光量を自在に操り、描き変えた世界をガラス玉に刻みつける快感は何ものにも代えがたい。 今から私は、嵐を刻む。 『嵐が来る!』今朝に道すがら出会った占い婆が私の顔を見るなり叫んで一目散に逃げ出した。嵐とは何か?決まりきっている。雨風でも、魔法でも、騎馬隊でもない。たった今戦場をなぎ倒し、大地を引き裂いて降り立ったもの。 竜である。 パシッ、ガラス玉に景色が刻まれる音がした。

「マ人のコ」

 周囲への警戒感と 影への溶け込みは 元ハイシーフの名に恥じぬ 脂のはじける音と共に玉ねぎを炒め 若いデミオークのひき肉を加えると 薪の弾ける音に合わせて 甘く香ばしい香りがポワンと広がる 襲ってくれって言ってるようなもんだナ 「おい、ムコヤマ!」 「いつも通りのいい匂いだな!」 リーヴァがいるのは分かっていた 壺の中で熟成した シナモンとナツメグが混ざったような体臭 ――あの独特な香りに、ずっと遠くから気付いていた 振り返るとそこには 2メートル超の愛くるしい

ドラゴン・イン・ザ・デーモンキャッスル

君は何も持たない旅人。 幻のドラゴンが住むという魔王城に足を踏み入れた。 正面にガーゴイルの銅像が守る、血塗れのようなまだらの赤黒い扉。 その傍らに、薄い微笑みを湛えた女が立っているのが見える。 「私は魔女プレ・ゼンタ。魔王プレ・ゼントの双子の姉。旅人へ忠告をする。先へ進むつもりであれば問おう。何を求めてここへ」 天つ竜の魔女。魔女の末裔で、人々からその大きすぎる力を恐れられ、森の中で孤独に生きてきた。まだあどけなさの残る少女である。 魔女は黄金に輝くススキのような髪、

死んでま寿司! 地獄ロケランちゃん。

OL「地獄ロケラン」には悩みがあった。 好物の寿司がAI化した。 地獄ロケランは既に死んでいる。 死後も電脳世界を楽しむことができるようになったのは60年ほど前からだ。 希望すれば死後も働き、生前の生活をVRシミュレーションすることができる。 寿司が好き過ぎて死んでからも寿司を食べるため、彼女はOLとして日々働き、給与を得て、寿司を堪能していた。 そんな中、今朝突然「電脳世界の寿司を全てAI化します」とニュースがあった。 彼女は「職人SEが作る変態的なクオリティの寿司」を