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逆噴射小説大賞2024まとめ

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逆噴射小説大賞2024の全応募作品をまとめていくマガジンです。収録漏れらしきものを発見した場合は教えてください。
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#創作

2024年10月に「逆噴射小説大賞2024」を開催します

文字数制限は800文字以内! 今回の本文文字制限も、800文字以内です。しかしこれは「800文字以内で物語を完結すること」という意味ではなく「小説の冒頭部800文字で応募する」という意味です。つまり「この続きを読みたいと思わせる、最もエキサイティングなパルプ小説の冒頭800文字」を表現した作品が大賞を受賞し、その応募者は大賞の栄誉とともに黄金のコロナビールを獲得できます。 ◆逆噴射小説大賞とは◆この大賞イベントを主催する ダイハードテイルズ/Diehard Tales は

金魚姫

 目の前に映るのは、琥珀色の鱗に覆われた下半身の私。  壁の向こうには、妹の早紀がにこにこしながら、ミルクを美味しそうに頬張っている。本来なら、私も早紀の隣で一緒に過ごしていたのかもしれないのに。私が口に出来るのは、泥のような色をした丸い餌のみ。  姉妹でこうも違うなんて、神様は不平等だ。この家の中で、私はできそこないの娘。どうやら私は、ママに一度も抱きしめてもらうこともないまま、生涯を終えることになりそう。 ※  長年不妊に苦しんでいた、私のママ。体外受精を何度か失

「インドラの僕(しもべ)」

 漆黒の雷雲は去り、瑠璃色に澄んだ空が広がる。  乾季のカトマンズを突如襲った局地的な落雷は、僅か十分間で千発を超えた。煉瓦造りの家々は崩れ、焦げた衣服を纏う人々が路上に伏す。千切れた電線の束から噴出した火花が、泥水に溺れ弾ける。  肌はおろか瞳さえ灼かれることなく、異邦人たちは平然と焦土を歩んでいた。 「良い撮れ高だ」  惨状を嬉々として写し続けるチャドの姿に、ギルは息を飲んだ。 「お前はどうだった?」  無邪気な声に促されるまま、ギルは撮り溜めた雷を見返した。寺院への直撃

白き巨獣を解き放った冒険者達の章

 アーツィー=ツイーツィーベルの人生を語る上で、多くの者達はこう口にする。 『彼の人生は本当に不幸だった』 『彼ほど可哀想な子はいない』  だが。    本当に、彼は不幸だったのだろうか?    それを決めるのは、残念ながら貴方ではない。  何故なら。  彼の人生が本当に不幸だったか、そうでないかは。  彼自身にしか、分からないからだ。  何故、皆が彼の人生をそう語るようになったのか。  彼には、両親の記憶がない。  これまでの生活においても、所々記

木々は枝より腐敗せる

 山杉翠がたくさんの自分に気づいたのは、Vtuber【ベーン=ビー】の雑談配信を見ている最中だった。初めての高額スパチャを投入した時、画面に黄金の筋が走り、複数の投げ銭が行われた。最高金額だった。 「ベンちゃんありがと!」「いつもいつもいつもお世話になってるよ!」「前から疑問だったけどビーってなに?」「現出しました」「幹の人見てる?」  スパチャが流れる。最高金額を叩き続ける寄付の数は百に昇る。 「あ……みんな、ありがとね……」としかビーは言えなくなったが、スパチャは続

コルベザグド遺跡の謎 序章

 トーイ夫婦は、考古学者だった。  彼らはある日、途轍もない物を発掘する。  とても抱え切れない、秘密。  夫婦は親友である、生物学者のコスタ夫婦に相談する事にした。  そして4人は、この遺跡の研究を秘密裏に進めて行く事を決めた。  調査を進めて、5年。  トーイ夫婦は、10歳の息子を初めて遺跡へ連れて行った。  その時の光景、コスタ夫婦と共に守り抜いた途轍もない物。  ザナウェイ=トーイは、一生忘れないだろう。  その後、4人は姿を消した。  ザナウェイ

「JIRAIYA No.49」

 そり立つ壁に挑む48番の義足が爆散した。ジェット噴射の使用は定石だが、出力制御を失敗しては無意味だ。  義体の破損は即失格となる。コースの床が抜け、48番は1stステージ37人目の犠牲者となった。  控室のモニターを前に、選手たちは猛々しい歓声を上げた。最先端の全身義体さえ買える大金を得るのは、完走者唯一人。サドンデスの脅威は少ないに限るが、結局JIRAIYAは己と戦う競技だろう。彼らは理解しているのか? 「本家で見た顔だな」  喧騒から離れ屈伸していると、53番の伸縮

あの子を誘拐します

 あの子を、暗闇から救ったのは僕だ。救済者として賞賛されるべき存在だというのに、街の至る所には「死んだ魚の目をした僕」の顔写真が散らばっている。  写真の僕には、まるで覇気がない。その理由を、僕は知っている。小さい頃に、親から「心」を壊されてしまったからだ。  僕が小さかった頃、親からはいつも理不尽な理由で殴られ続けてきた。殴る理由なんてどうでもよくて、僕はただのサンドバックでしかなかったのかもしれない。僕は必死に祈った。けれど、神様は現れなかった。だから僕は、パパやママ

マーシャ戦記 宇宙港奇襲作戦

宇宙空母カツラギのカタパルトから次々と零式機動歩兵が発艦してゆく。 その数36機。これで第一次攻撃隊を編成し、ラージノーズグレイの宇宙艦隊が停泊する小惑星ザルニアにある宇宙港へと奇襲攻撃を仕掛ける作戦だ。 前方には同盟星ジャノス艦隊を発艦した30機の戦闘機が先導している。 攻撃隊の指揮を執る弱冠16歳のアロワロウ少尉の機動歩兵に空母カツラギから通信が入る。 「アロワ君。機体に問題ない?」 カツラギの艦長を務めるツキノミツイシ大佐だ。 「ええ宇宙仕様のバーニアのお陰で加速、旋回

ドラゴン・イン・ザ・デーモンキャッスル

君は何も持たない旅人。 幻のドラゴンが住むという魔王城に足を踏み入れた。 正面にガーゴイルの銅像が守る、血塗れのようなまだらの赤黒い扉。 その傍らに、薄い微笑みを湛えた女が立っているのが見える。 「私は魔女プレ・ゼンタ。魔王プレ・ゼントの双子の姉。旅人へ忠告をする。先へ進むつもりであれば問おう。何を求めてここへ」 天つ竜の魔女。魔女の末裔で、人々からその大きすぎる力を恐れられ、森の中で孤独に生きてきた。まだあどけなさの残る少女である。 魔女は黄金に輝くススキのような髪、

釣果の光はただ下に

 ずっと釣りが好きだった。餌、船、バス釣り。いまは南極で魚を探す。  氷が貫通した。下にいる黄金色の魚を回収するためだが、サイドテールの少女が邪魔をする。 「ほーらかわいいでしょ。見てください」と、金七一二トワレが金色の髪を水に落とす。人間がやったら凍傷だがこいつはロボットだ。 「どいてくんない?」 「マスターのためならなんでもしますよん、むん!」  答えになっていない。  トワレはノースリーブで下半身も扇情的だ。視線が合うとニヤニヤしてくるが、俺は釣りにしか関心が

ダブル・クリスティーヌ

「シャンデリアが落ちるぞ!」  いやいや、そんなわけとも思ったが、本当だった。次の瞬間、精緻なガラスの塊が死ぬ、やたら華やいだ音が、大劇場内に響き渡った。  オペラ座かよ、と心の中で突っ込みながら、舞台監督である佐藤は、「劇場で走るな」という忠告も忘れ、ステージに走る。本日はよりによって新作の初日だ。  カンパニーは未曾有の危機にさらされた。ステージに出た佐藤が見たのは、顔を血まみれにしている主演女優、田中だった。シャンデリアの直撃は免れたものの、顔を掠めて、ガラスが刺さ

アカイ戦記 潜水艦防衛作戦

「後方に未確認艦の接近を確認……敵巡洋艦の接近を確認。本艦は現在機関部の故障のため潜航出来ません。修理完了まで敵部隊をお願いします」 洋上に浮かぶ巨大潜水艦の甲板が開くと一機の人型決戦兵器、機動歩兵が射出された。 真紅の機動歩兵のコックピットで不敵な笑みを浮かべ、戦闘モードを起動させるのは金髪碧眼のアカイシューマン。 2247年国家が消滅し巨大企業が領土を持ち互いに争う戦国時代。 各企業は傭兵を雇い、領土資源技術を求めて紛争を繰り広げていた。 アカイは元軍人で傭兵として各企

檸檬のレ。#逆噴射小説大賞2024

 カジモトは焦りが強い時と居たたまれない時決まって心臓のあたりからそのストレスの度合いに応じて檸檬の香りを放つ。  二度目は、メキシコのユカタン半島にあるセノーテという泉を訪れていた時だった。太陽の光がまっすぐ差し込んでいた。青白い光の帯が貫いている。毎年5月と7月の2日間太陽が天頂を通過するらしくその時には泉の中に垂直に光が届くのだ。  その時、急に胸のあたりがこくんと鳴った。鳴った後気づくとメキシコの病院のベッドだった。  医者は言った。 「ボリス・ヴィアンみたいな。ミス