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逆噴射小説大賞2024まとめ

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逆噴射小説大賞2024の全応募作品をまとめていくマガジンです。収録漏れらしきものを発見した場合は教えてください。
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#パルプ小説

2024年10月に「逆噴射小説大賞2024」を開催します

文字数制限は800文字以内! 今回の本文文字制限も、800文字以内です。しかしこれは「800文字以内で物語を完結すること」という意味ではなく「小説の冒頭部800文字で応募する」という意味です。つまり「この続きを読みたいと思わせる、最もエキサイティングなパルプ小説の冒頭800文字」を表現した作品が大賞を受賞し、その応募者は大賞の栄誉とともに黄金のコロナビールを獲得できます。 ◆逆噴射小説大賞とは◆この大賞イベントを主催する ダイハードテイルズ/Diehard Tales は

ザ・ウォー・ベトウィン・タイラー・アンド・ミナトモ#2

立体電飾旗本であるタケナカの使命は、とにかく合戦が落着するまで死なずに旗を掲げ続けることだ。 しかしこれだけのことが何よりも難しい。まず立体電飾旗印がひたすらに目立つ。そして阿呆ほどに重い。立体電飾を設計した宗家のお抱え技師は鈍器としての性能をも兼ね備えていると主張していた。内蔵の発電機を軽量化するには更に倍の予算がかかるが、旗印として用いられる都合上、容易に遁走できてしまう軽さではむしろ具合が悪いとも宣っていた。その技師はこの合戦場にはもちろん来てすらいない。ふざけた話だ

第六切断面

 おぉ、オォォ……。それは悲しく、寂しく。歌うような断末魔だった。燃え上がる髑髏兵の叫びを見つめながら、男は顔を歪ませていた。また一人、失ってしまった――。髑髏を焦がす炎は盤面を照らしだし、闇に包まれた空間をいっとき橙色に染めあげてゆく。  そこは暗い空間だった。男の前には巨大な卓があり、卓上にはゲーム盤が置かれている。盤は将棋に似た升目で区切られていて、山があり、川があり、都市があり……つまりそこには世界があった。  盤上で燃える髑髏が、卓の向こうで笑う影を揺らしている

靴泥棒

 今でも思います。  あの時振り返らなければ、僕は靴を奪われることはなかったのではないか。つまり今でも明るい我が家で妻と犬の温もりを感じることができていたのではないかと。  けれども僕はあの哀れを誘う呼びかけに振り向いてしまったのです。  それが致命的な転落への入り口になるなんて欠片も思わず。  振り返る不安定な体を誰かが突き飛ばしました。  僕は簡単に尻もちをついてしまいました。  顔を上げ、そして戦慄しました。  そこにいたのは襲撃者の二人組でした。二人とも仮面を被って

クラゲを海へ捨てに往く

 満月の夜。  俺は、足場の悪い山道を、六〇キロの袋を担いで歩いていた。事前に掘っておいた穴に到着する。穴の横に袋を降ろすと、鈍い音が響いた。  袋のファスナーを開ける。  ヘッドライトが死体を照らし出した。  若い男。  茶髪に、軽薄そうな顔つき。その右半分は、口径の大きな銃で撃たれたらしく、無くなってしまっていた。  この男が殺された理由――それは、俺の仕事には関係がない。俺はただ埋めるだけだ。  手袋をした手で、死体を担ぎ上げようとした。  その時。  男の残された

ブラッディ・エンジン:2.5

 ――2周目に突入。50位。  瞬間、後続車が全て爆発四散した。  爆風に煽られる車体。俺はハンドルを捌き、どうにか真っ直ぐ保つ。 『いい加減にしろよ素人!』  俺の車――狂魔が怒鳴りやがる。 「……るせェ」 『いいか。次40位に入んなきゃ――』 爆散。 「分ァッてるよ!」  アクセルを踏みつける。エンジンが唸り、体を振動させる。現在時速250km。  だがこのままでは。 爆散。 『分かってんなら』  狂魔は心を見透かした様に言う。 『早く寄越せ、お前の血』  右腕に

Smile Miles《スマイル マイルズ》

 心の糸がプチンと切れた。 「どうせ私はダメクォーターですよ!」  自分の気持ち以外、何も見えていなかった。 「リンドバーグ翼希なんて名前なのに、英語は話せないし、走っても遅いし、すぐ卑屈になってウジウジするし」 「待って、誰もそんなこと……」 「私はあんたみたいな青春気取りの陽キャ女子が大嫌いなの!」  ———はっ!  そんなこと言うつもりはなかった。  心にもない言葉だった。 「……分かった。もういい」  我に返ったとき、目の前には悲しい顔をした石水羽苗がいた

カタリ語れば騙るとも

 狭い独房で口をぱくぱくと動かす山ン本の姿は滑稽だが、傍らで首を掻きむしっている看守数名の死体があるなら話は別だ。心停止、自傷、出血多量。どれもが顔を青褪めさせ、年甲斐もなく失禁していた。  仲間にハンドサインを送る。銃は最終手段だ。今回はスカウト目的で、殺しじゃない。タブレット上の指示を改めて反芻し、ヤツの正面に立つ。  削ぎ落とした耳が疼いた。“暗殺怪談師”との交渉なら、俺たちが適任だ。壇ノ浦組が本家の赦しを得るには、このシノギを成功させるしかない。 『山ン本五郎か?

【長命夫を暗殺しよう!!】 #逆噴射小説大賞2024

   雷岬イナが最後に夫のライゴンとセックスしたのは確か、ローマ皇帝ジュリアスシーザーがブルータスに暗殺される少し前のことだ。激動の時代真っ只中だったが、夫婦関係の方は冷え込みの様相をみせていた。ような記憶がある。結構昔のことなので、細かいことは覚えていない。日本に引っ越した後、徳川家光が参勤交代制をローンチしたあたりでも気まぐれに一回やったかもしれないが、それも随分前のことなので、いまひとつ判然としない。とにかくこの2000年で1回か2回きりということだ。雷岬夫妻はかなりの

【アルティメット・クソグラフ・チャンピオンシップ】 #逆噴射小説大賞2024

 どのようなグラフを作ってこの島に送られたのですか? 「新聞に載った犯罪統計のグラフだ。少年犯罪が前年の2000倍増えたように見えるグラフを作った。実際には、0.2%しか増えていなかったがな」  0.2%を200000%に? とても大胆ですね。 「目盛りをチョイといじっただけだが、かなりの騒ぎになったよ。クソグラフが法律で禁じられてからこのかた、ここまでデカい数字のクソグラフを作ったのは俺が初だった」  新聞購読者の反応はどうでしたか? 「読者は完全に油断していた。クソグ

緋色の白刃/スカーレット・ホワイトブレード

 通学中の電車で痴漢を目撃した。侍だった。  白髪雑じりの中年男が、若いOLの身体を無遠慮にまさぐっている。  その行為を咎める者はいない。理由は、男が腰に佩いている刀だ。平民が侍の行為に口を挟めば、無礼討ちにされても文句は言えない。女性もそれが分かっているから、助けを呼ぶ事もできないのだ。 「やめなよ、おじさん」  凛とした声が車両の中に響く。  俺の隣にいた紅緒が、いつの間にか男の後ろに立っていた。止める間もなかった。 「なんだ、お前は──」  お楽しみを邪魔され

まほろばの鬼と化す

「大軍だ!軍勢が果てなく続いている!」  物見櫓の看守は慌てふためき、転げ落ちんばかりの勢いで駆け戻ってきた。  人馬の鳴動、鳥の狂鳴、獣の咆哮が地鳴りの如く押し寄せる。大地の震動は刻一刻と強さを増していた。  やがて遠く彼方の草原が夥しいまでの漆黒を成して東の地を埋め尽くす。  朝廷がこれまでに差し向けてきた軍勢は何とか撃退してきた。しかし今日の軍勢はこれまでの比ではない。  ついに来たか……。  変わりゆく大地の暗転を睨んだ。  迫り来る黒波の広がりは兵力の甚大さ

リミナルスペース・エクスペリメンツ

 辺りを見渡す。ギリシア意匠の柱に臙脂色のカーペット、絵画、薄暗い照明、眼前の暗黒、果てには輪郭すら朧気なドア。  一歩、また一歩と近づく。耳のないゴッホが見ている気がする。エルドリッチでは無いはずだ。胸を押しつぶすような不安を息と共に吐き出すと、フィルターを通したくぐもった呼気が響き渡った。  トシュ、トシュと特殊スーツ越しの足音。喉から体内へ流れ落ちる唾の嚥下音。耳から響く心音。オレンジと白の特殊素材に包まれた腕は震えて、真鍮色のドアノブをひねる。  あっけなく鍵は

デッドマンスイッチ・ラブ・シャンプー

 綿100%の下着しかつけない。俺は肌が弱いから。  そんな俺のこだわりがつまったボクサーパンツは吸水限界をむかえ、尻とパイプ椅子の座面との間は大量の汗によりビチャビチャだった。  真っ暗ながら足裏からむき出しのコンクリートを感じる。それに生乾きのまま何年もタンスにしまった服みたいなカビ臭さ。時折カサコソと背後で音がする。椅子にガムテープでぐるぐる巻きにされている俺は振り返ることもできない。  パンツ一丁で監禁され、どれだけ時間が経ったのか。  なんで、こんなことに?