マガジンのカバー画像

逆噴射小説大賞2024まとめ

340
逆噴射小説大賞2024の全応募作品をまとめていくマガジンです。収録漏れらしきものを発見した場合は教えてください。
運営しているクリエイター

#小説

2024年10月に「逆噴射小説大賞2024」を開催します

文字数制限は800文字以内! 今回の本文文字制限も、800文字以内です。しかしこれは「800文字以内で物語を完結すること」という意味ではなく「小説の冒頭部800文字で応募する」という意味です。つまり「この続きを読みたいと思わせる、最もエキサイティングなパルプ小説の冒頭800文字」を表現した作品が大賞を受賞し、その応募者は大賞の栄誉とともに黄金のコロナビールを獲得できます。 ◆逆噴射小説大賞とは◆この大賞イベントを主催する ダイハードテイルズ/Diehard Tales は

ザ・ウォー・ベトウィン・タイラー・アンド・ミナトモ#2

立体電飾旗本であるタケナカの使命は、とにかく合戦が落着するまで死なずに旗を掲げ続けることだ。 しかしこれだけのことが何よりも難しい。まず立体電飾旗印がひたすらに目立つ。そして阿呆ほどに重い。立体電飾を設計した宗家のお抱え技師は鈍器としての性能をも兼ね備えていると主張していた。内蔵の発電機を軽量化するには更に倍の予算がかかるが、旗印として用いられる都合上、容易に遁走できてしまう軽さではむしろ具合が悪いとも宣っていた。その技師はこの合戦場にはもちろん来てすらいない。ふざけた話だ

クラヴマンの祈り

 父祖から受け継ぐトウキビ畑こそが、ボギー・クラヴマンの総てだった。  夜明け前、妻の遺影の前で両指を組み、愛と祈りの言葉を捧げる。トウキビの粉を溶いた湯を啜ると、鍬、鋤、あるいはトウキビの種を携え畑に向かう。鍬と鋤にて赤土の塊を砕き、一粒一粒に慈しみを籠めて小指半の深さで種を植える。  クラヴマン家のトウキビ畑は、一族の歴史の当体である。飢餓に苛まれるラスバの集落を救わんとの一心から、クラヴマンの始祖は知識も道具も持たぬ身で痩せ枯れた土地を拓き、血みどろに成り果てながらコヨ

ノーブックス、ノーライフ

「吾輩は猫である、は当店では取り扱っておりません」  まただ。もう五回目となる回答を背に、綴文緒は夕空の下で書店を出た。 電子残高は、既に文庫本の値段よりも交通費が上回っている。その事実に、文緒はため息をついた。  もう行ける範囲の書店は回ってしまった。とぼとぼと家路に着く少女の影を夕日が長く伸ばす。車のライト、街灯、スマホの明かりが街の暗がりを装飾していく。それらは、発電所が回したタービンで支えられている、らしい。文緒のスマホも例外ではない。 「図書館ならあるのかな…

第六切断面

 おぉ、オォォ……。それは悲しく、寂しく。歌うような断末魔だった。燃え上がる髑髏兵の叫びを見つめながら、男は顔を歪ませていた。また一人、失ってしまった――。髑髏を焦がす炎は盤面を照らしだし、闇に包まれた空間をいっとき橙色に染めあげてゆく。  そこは暗い空間だった。男の前には巨大な卓があり、卓上にはゲーム盤が置かれている。盤は将棋に似た升目で区切られていて、山があり、川があり、都市があり……つまりそこには世界があった。  盤上で燃える髑髏が、卓の向こうで笑う影を揺らしている

毒液の前兆 -portent of venom -

 随分長く殺しを専門にやってきたが、その日は唐突に訪れた。  大口のクライアントとして長年付き合いのあった男が何者かに薬殺されたのだ。  請負人の誰もが自分に足がつくことを恐れた。  それだけ多くの殺し屋を雇い、大勢を殺させてきた男だった。  現場は混沌としていたが、誰かがもたらした情報に不可解なモノが混じっていた。    〈男の死体の傍には無垢な卵が一つ添えられていた〉  § 「高度に進化した寄生者は寄主を殺さない」 「どうした。こんなときに家庭の悩みか。喩えと

可不可/1→0

 安楽椅子に座る私の前で、暖炉の薪が音を立てている。パチパチと音を立てながら火の粉が爆ぜ、人はこれを見て郷愁に駆られるのだろうかと益体もないことを考える。 「本日の報告:本日の素材の入荷も滞りなく終わり、他に特筆すべき事柄はなく、いたって平穏でありました。報告終わり」  手に持っていたボイスレコーダーに日記を吹き込む。職業病ではないが、これをせねばいけない身だ。例え、聞かせる相手がいないのだとしても。  ボイスレコーダーの録音停止ボタンを押し、眼を閉じる。スリープモードへ

クラゲを海へ捨てに往く

 満月の夜。  俺は、足場の悪い山道を、六〇キロの袋を担いで歩いていた。事前に掘っておいた穴に到着する。穴の横に袋を降ろすと、鈍い音が響いた。  袋のファスナーを開ける。  ヘッドライトが死体を照らし出した。  若い男。  茶髪に、軽薄そうな顔つき。その右半分は、口径の大きな銃で撃たれたらしく、無くなってしまっていた。  この男が殺された理由――それは、俺の仕事には関係がない。俺はただ埋めるだけだ。  手袋をした手で、死体を担ぎ上げようとした。  その時。  男の残された

深郷歌

 白石瓜生の数年ぶりの帰郷は、水深20メートルの湖の中だった。  陽光は遠く、深く暗い湖中の中。ダイバースーツに内蔵された水中ライトが、懐かしい実家を照らした。窓が開いていたので、彼は二階から入り込んだ。かつての己の部屋であった。  散乱した室内を想像していたが、予想に反し、ほぼ記憶のままの光景がそこにあった。ベッドがあり、机があり、本棚がある。それらを目の当たりにし、白石はようやく自分が帰ってこれたのだと実感した。  大学生三年の夏であった。大地震と土砂崩れ。度重なる

【エクソシズム・チャンピオン、地獄に消ゆ】

 地獄の灼けた風の中、スカートのはためきをギギは感じる。今やこのセーラー服すら、親方との絆の拠り所だ。  身の丈3m、鶏頭の鬼が向かい来る。ギギは身を屈め、鬼の股下をすり抜けた。そして脚に組み付き、後ろへ倒れながら投げた。親方直伝、スープレックス。灰色の大地に、赤銅色の巨体が衝突した。  ギギの脳裏に親方の記憶が蘇る。強烈なラリアット。温かい握手。鬼祓いショーの日々。優しい親方は、人類と地獄が開戦した日、書置きを残して消えた。 「俺が祓ってくる」  鶏鬼が身を起こす。

英雄を狩るもの

 僕は、望んだものを手に入れられない生涯を送り続けました。  手に入るのはいらないモノばかり。真に望んだものは、するりとこの手から零れ落ちた。人生の轍が刻まれたのは、死骸が転がった荒野だけでした。  でも、彼女を目にした時、僕の人生は変わったのです。目標が出来たのです。だから、僕は君に会いに行こう。そのために僕は。僕に抱き着いて性欲を滾らせた男の背中に、ナイフを突き立てたのです。 ジョナサン・ディキンソン【肺】 茹だるような熱気が漂う8月の終わり。歓楽街の大通りの突き当り

anniversary.

 記念日の昼はカフェアルマトイに行こう、ずっと前からそう決めていた。  妻はこの店のレアチーズケーキを寵愛している。証拠がこの無我夢中とでもいうべき食らいっぷり、フォークで削り取った小さな片を口に運んで運んで、ムチャ、ムチョ、と大げさに咀嚼している。僕の方には目もくれない。 「自治会のさァ」  僕は妻に語りかけてエスプレッソを啜る、反応なし。妻のフォークに溶けた口紅がべとりと付着しているさまが見えた。 「自治会のさァ!小此木さんと最近仲良いみたいだけど、何かあったの?

ブラッディ・エンジン:2.5

 ――2周目に突入。50位。  瞬間、後続車が全て爆発四散した。  爆風に煽られる車体。俺はハンドルを捌き、どうにか真っ直ぐ保つ。 『いい加減にしろよ素人!』  俺の車――狂魔が怒鳴りやがる。 「……るせェ」 『いいか。次40位に入んなきゃ――』 爆散。 「分ァッてるよ!」  アクセルを踏みつける。エンジンが唸り、体を振動させる。現在時速250km。  だがこのままでは。 爆散。 『分かってんなら』  狂魔は心を見透かした様に言う。 『早く寄越せ、お前の血』  右腕に

ドレスメイカ

「そんな噂、馬鹿げていませんか。デバイスが人間に成りすます、なんて」 「確かに見たことも聞いたこともないが、どうだろうね」  我ながら暢気な話だったと、茉莉は思う。脈絡のない話をし始めたからか、それはどうにも態とらしく、小首を傾げた。 「前にそんな話をした覚えはあったが、与太話とばかり。なるほど姿形は似ていなくもない、しかし君は詩織じゃないな」 「いいえ、私は詩織です。それ以外の何に見えるというんです」 「分かるさ。ドレス自体は隅まで良く出来ている、しかし動かしてみれば人間