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逆噴射小説大賞2024まとめ

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逆噴射小説大賞2024の全応募作品をまとめていくマガジンです。収録漏れらしきものを発見した場合は教えてください。
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#短編小説

2024年10月に「逆噴射小説大賞2024」を開催します

文字数制限は800文字以内! 今回の本文文字制限も、800文字以内です。しかしこれは「800文字以内で物語を完結すること」という意味ではなく「小説の冒頭部800文字で応募する」という意味です。つまり「この続きを読みたいと思わせる、最もエキサイティングなパルプ小説の冒頭800文字」を表現した作品が大賞を受賞し、その応募者は大賞の栄誉とともに黄金のコロナビールを獲得できます。 ◆逆噴射小説大賞とは◆この大賞イベントを主催する ダイハードテイルズ/Diehard Tales は

Good-bye,my candy.

マルチーズを連れた女は、概してろくでもない。 なんだってそんなことを言っているのかって? 今の俺を見てくれたらわかる。マルチーズ連れの女に殺されたからさ。胸を一突きにされてな。 心臓が止まっているようだ。その割に頭は澄み切っていて、死とはこういうものかって、なぜだか納得したよ。 女はさも退屈そうに俺を眺めている。マルチーズは俺の右手をぺろぺろと舐めて、わんと鳴いた。 「ねえ、聞こえてるんでしょ?」 いつの間にか咥えていた煙草に火をつけて、女は言った。ショートパンツから伸

短編 | 愛なんて...[逆噴射小説大賞2024応募]

「ご主人様はお元気ですか?」  近所の若奥様に何気なしに聞いてみた。今まで、ご主人様とはゴミ捨て場でちょくちょく出会っていたが、ここ1ヶ月の間、お見かけしなかったからだ。 「はい、元気ですよ。長期の出張に行っておりまして。しばらく帰ってこないのです」 「左様ですか。最近お見かけしていないと」  お寂しいでしょう、と尋ねようとしたが、差し出がましいと思われて言葉を呑んだ。  そのままお互いに会釈して別れたが、ふと、奇妙な違和感をもった。  確か、若奥様のご主人様は、こ

環八通りの死神

死神がクレジットカードの審査に落ちた。 それを告げる圧着ハガキには『うんどう会のおもいで』なんてテーマで絵が描ける位の、清々しい余白がある。 ざまぁみろ、と私は肩を揺らし、キッズスペースで呆然としている死神に 「これ使っていいよぉ」 と胸元の三色ボールペンを投げて寄越した。 死神がこのガソリンスタンドにやって来たのは、三ヶ月前の事だった。 年会費無料・ガソリンず〜っと2%引き! なハピネスカードの勧誘のため、私はペラペラのリクルートスーツを着て、環八沿いの埃臭い風に吹かれ

FORECASTERの俺は、HEROをサポートして魔王を倒す未来を予知する

「この上級ダンジョンは私たちが攻略するから、坊やはママの元にお帰り」  クスクス笑う乙女たちは最強ギルド『バルキリー』所属の精鋭戦士たちだ。  彼女たちを前に冷汗をかいている俺の能力は『FORECASTER』——未来を予知する力だが、見えるのはわずか5秒先まで。他に使える魔法は『そよ風』のみ。お察しの通り激弱転生者だ。 (絶体絶命な状況だな……)  だが、俺の隣にはチート能力『HERO』を持つシンがいる。俺は余裕を装った。 「俺たちがHERO&FORECASTERだ

幻覚死

友人と買ったメロンソーダを自宅で飲んでいた。それはとても甘く、鮮やかな緑色で炭酸も他の物よりも断然と刺激が強かった。突然ふらっと目眩がし、目をゆっくりと閉じた。瞼裏に優しい笑みを浮かべる妖精がウジ虫みたく蠢いていた。 「おい、妖精がいるぞ!目を瞑ってみろ!お前にもきっと見えるから」 「えっ、俺にも見えたんだけどーマジウケる」 摩訶不思議な出来事にテンション上がった俺はふと思い出した少し高いチョコを取りに行った。それは銀色の包みに入ったチョコだった。 「お前、チョコ好きだろ?食

戦場を着た男

 倉庫を整理していると、隅に耐火布の被さった小山があるのに気づいた。  近くで札束を数えているボスに訊いてみると「軍の放出品、年代モノ」というので、布をはぐると、巨人が喰うような鉄色のピーナッツが二本足で立っていた。  6発の銃弾。  戦闘服の装甲は滑るように受け流した。  真っすぐ伸ばした左腕の先、砲口が赤い火柱を噴いて、弾を撃ち尽くしたボスの腰から上を、後ろの壁まで丸く抉るように溶かした。  メカオタクを拉致したまぬけ。  自分の顔がニヤけているのに気づく。嫌な感じがし

【超短編】 聴く人

「死ぬほど怖かった。ううん。もしかしたら私は死ぬんじゃないかと思った。脚はフラフラだったし、途中で腰が抜けて道路で動けなくなったし、血が…血が凄かった。お腹を押さえたけれど溢れてきた。熱くてヌルヌルしてて…こんなに出たらヤバいと思った。助けてって叫んだ。でも誰も来なかった。裏通りだし、声は掠れてたし、それに多分…怖くて…ちゃんと助けてって言えてなかったと思う。それにしても油断してた。アイツはマンションの前で待ち伏せしてた。そしていきなり刺してきた。何度も何度も。だから必死にな