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第1回逆噴射小説大賞:二次選考通過作品まとめ

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第1回逆噴射小説大賞 ( https://diehardtales.com/n/nfce422e0faef )の二次選考通過作品をまとめたマガジンです。応募総数は約1900作品で… もっと読む
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2018年10月の記事一覧

アリシア・スノウが死ぬまでの48時間

「やっとわかった。わたしがあんたにできる、たったひとつの一撃。喰らいな、クソ野郎、そしてさよなら」 そしてアリシア・スノウは、自分のこめかみに向けて引き金を引いた。 48時間前。 アリシア・スノウはいつものように、アリシア・プライベート・セキュリティ(APS)事務所兼自宅の安ソファで目覚めた。いつものように荒れ果てた部屋、いつものように酷い二日酔い、いつものように最悪の目覚め。何かが違う。 彼女の日常はシンプルだ。APSの評判を聞きつけて街中から訪れた女の依頼を聞き、依頼

街角フロートマーダー

『さて、そんなこんなでもうお別れのお時間がやってきました』 ナイフは殺風景な部屋の中に入り込む街灯で幽かに輝き、蛍の如く尾を引きホルダーへ収まる。逆側に拳銃。傍目にはだらしなくレシートで肥えた財布を仕舞っているようにも見えるが、実態は無造作な二種類の死。 『秋も深まってこの時間から外が真っ暗。運転中の方もそうじゃない人も気を付けて』 ケーブルから抜いたスマホをスワイプし、標的を確認。ある区画で貧困層へ薬を捌く"西"から流れてきた小悪党。 『そんじゃ!今日もお相手はDJ

大剣豪大西部

(前回までのあらすじ:SMD(大量破壊刀器)の行方を追い、手がかりとなる『カタナ』を探すジュウゴとルーは得られた情報に従い荒野の中の小さな町を目指す。しかしその町は帯剣武装盗賊に狙われつつあった!)  ジュウゴの手の中で撃鉄が響き、弾丸が悪漢の脳天に風穴を空ければ、 「ぐぶぅ」  と間の抜けた呻きとともに男は剣を取り落とし荒野に倒れた。  それはルーがダガーナイフで別の悪漢の喉笛を一突きにして殺したのとほぼ同時。こちらの相手は呻き声すらなく絶命した。 「何人殺しました?

【冒頭】モンピートン、彼のための宇宙

   まだ何もなかったが、閉じた水門のきわには意味深げに上流から流れ込んできた廃材が溜まっていた。鋼鉄加工廃棄物とプラスチックごみ、期限が切れた工業用の人工シナプスが少し。不法投棄の廃油が大量。爆弾低気圧が投げ捨てた雷が数億ボルト。まだ何もなかった。  集中豪雨の後、油膜の浮いた溜め池で羽化した、もろっとしたトンボが一匹、帯電した産業廃棄物の上にとまった瞬間、溶けて染み込んで消えた。瞬間、彼は堆積物の中に現れたのだ。  錆と油でできた腕を伸ばし、ゆっくりと頭を起こすと、認識の

リエントリーのための金

西部開拓時代、アメリカ。ゴールドラッシュに湧くカリフォルニアでジェイコブ・デイビスは重いダック生地と鉄製のリベットで、バッファローが引っ張っても破れないパンツを縫いあげた。オーバーオールと呼ばれたこのパンツは後にジーンズと名前を改め全世界に広まっていく。ジェイコブは怠け者の夢想家で、発明と特許と投資で食っていこうとロシアからアメリカに渡ったが、納期を一秒でも遅れると銃を突きつけられるカリフォルニアではどれも上手くいかなかった。食うに困ったジェイコブは母から教わったミシンで仕立

二十一より先の数

 四人のばちあたりはいっせいに息を飲んだ。  なぜって、一九〇七年十月、フォート・サムナー墓地のまうえに輝く月に照らされて、いましがた、かれらがあばいた棺のなかは、からっぽだったから。 「おったまげたぜ……」  棺を見下ろす、赤ひげ男のはげたひたいに、汗が冷たくひかるのが見える。 「まちがいってことは、ねえのかよ」 「まちがえるはずがあるかい」  軍服姿の男は、しめったかび臭いにおいの立ちのぼる棺から顔をそむけ、そばの暮石をあごで示す。 「こんなに削れてるんだ、見

遺物~虎の毛皮、鮫の牙、父の足跡~

 ドアノブに力を込めると、扉は容易く開いた。扉の向こうはアパートの他の部屋と同じ六畳一間で、椅子のほかには何もない。椅子には男が腰掛け、足を投げ出して背もたれに体重を預けていた。おそらく死んでいる。胸に生まれつき頭が入るほどの大穴が開いているという、特殊な人間でもない限り。  俺の隣で、息をのむ音がした。隣室が臭うと訴えて俺の袖をつかみ、ここまで引っ張ってきた管理人気取りの婆だ。婆は扉から溢れる臭いをたっぷりと吸い込んだためか短くうめくと、口を押えて廊下を転がるように駆けてい

デス・オブ・オブライエン

「その血のために誰も涙を流さない悪人の魂」  闇夜の柳の木の下で、悪魔は言った。 「再び君が娘と会うには、そんな魂が必要だ」  悪魔は、最初に会ったときは黒犬、その次は黒髪の女、そして今は痩せた男の姿でオブライエンの前にいる。 「本当にその...魂、があれば、ソフィアは蘇るんだな?」  オブライエンは悪魔の目をじっと見た。姿は違えど、その燃えるような赤い瞳は常に同じだ。 「君が己の手で殺した魂。それも一人や二人じゃ足りない」  悪魔は手を差し出した。骨めいて白く

花の都とヴァン・ヴィノ

「何をしているのです」  男はそう訊いてくる。肚を括ってる、と答えたいができない――喉がロクに動かない、周りの景色や背と尻を預けた木と同じようにカラカラ。  フードを脱ぎ覗き込んでくる男の顔、その向こうで空が白み始めてる。ああ、肚というのはまだしもカッコつけた表現で、諦めをつけてたってのがより正確。俺は死ぬ。流れ流れて根無し草のまま、胃も頭も空にして、じき昼の熱気だけに満たされるこの荒野で。木が墓標代わりになるだけありがたいと思「うッ」  せっかくの墓標が離れていく――何かが

爆弾魔女の取扱方(失敗例)

 酒場に入った。   客の一人が、俺を見て派手にビールを吹き出した。  その音をきっかけに、何人もの客がこちらを見る。  目を丸くする者、苦笑する者、顔を顰める者、口笛を吹く者。  反応は様々だが、どいつもこいつも俺の下腹部を見つめている。  こんなものは地球上に35億本はあるのに何を珍しそうにしているやら。  カウンターの前に立つと、バーテンダーは何度か口をパクパクさせた後、言った。 「アンタ、どうして全裸なんだ」  そこは『いらっしゃいませ』だろうに。 「どうしてって、じ

R.E.T.R.O.=/Q

《街》にダイヴするとき、決まって全身全霊を総毛立つような感覚が駆け抜ける。 自我を除く全情報が書き換えられ、私達は指定座標に出現する。 私は耐刃レザーのボディスーツ、パートナーのエドはへんな騎士鎧の姿だ。 「なあオリー、本当にこんな場所に適合者がいると思うか?」 エドの機嫌が悪い。 「さあね、おやっさんが言うのだから確かでしょうよ」 《街》。それは無限に続く巨大な一本の通廊の形をした閉鎖系世界だ。そこに共通した上下の概念はなく、本人にとっての接地面が下となる。 四つの壁

あるのは名誉だけ

「よぉおっさん、やるじゃないか」  ベンチ中の私にギャップを被った若者が話しかけてきた。ラグビーやれそうな体格、顔もハンサム。きっとモテてるだろうなと思いながら私はシャフトを置き、起き上がった。 「なんでしょう?」「あれはアンタが?」  若者は壁を顎で指した。私の写真が飾ってある。ジム内大会優勝の名誉の証だ。 「ええ、そうです」 「でも正直キツイだろ?関節が軋んで、筋肉痛が何日続くよな?これ以上老骨を無理させんなよ、代わりに俺がここのNO.1になってやるよ」 「は

ニーナ・ザ・ミストガン #1

陽で背中が灼ける感覚と共に、ニーナの意識が戻ってくる。ザラつく砂を口から吐き出し、ふらつきながら立ち上がると、ボケた視界がようやく定まった。 見回し、荒野――。 ――わたしのホルト! 誰もいない――。 ――見開かれた完璧な造形の瞳。 殴られた頭が痛む――。 ――連れ去られ遠ざかる姿と暗転する視界。 混濁する意識をよそに、彼女は左眼をウインク! すぐさま拡張視界〈オーグ〉が起動して、各種情報を視界に描き出す。日付時刻と彼女の身体状況。そして、範囲外へ追いやられ、相対マップの

灰色の百合

 腐った豚肉の臭いの立ち籠めた地下の酒場の片隅で、チンピラは震えていた。その有様たるや、上海された船員よりややましというところ、つまりは人屑であった。  男は野鶏らしき女に、時々安酒を流し込みながらぶつぶつと呟いている。  「……そうだよ、オレは兄貴達――ああ、魂安らかに――とあの貨物を襲いに行ったんだ。外灘の倉庫にあのボケナスの品が運び込まれるって聞いて、手槍片手に夜上海歌いながら駆け付けた」 「それで?」  「護衛はあっという間に片付いた。オレは『灰百合』と書かれ