第1回逆噴射小説大賞:二次選考通過作品まとめ

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花の都とヴァン・ヴィノ

花の都とヴァン・ヴィノ

「何をしているのです」  男はそう訊いてくる。肚を括ってる、と答えたいができない――喉がロクに動かない、周りの景色や背と尻を預けた木と同じようにカラカラ。  フードを脱ぎ覗き込んでくる男の顔、その向こうで空が白み始めてる。ああ、肚というのはまだしもカッコつけた表現で、諦めをつけてたってのがより正確。俺は死ぬ。流れ流れて根無し草のまま、胃も頭も空にして、じき昼の熱気だけに満たされるこの荒野で。木が墓標代わりになるだけありがたいと思「うッ」  せっかくの墓標が離れていく――何かが

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R.E.T.R.O.=/Q

R.E.T.R.O.=/Q

《街》にダイヴするとき、決まって全身全霊を総毛立つような感覚が駆け抜ける。 自我を除く全情報が書き換えられ、私達は指定座標に出現する。 私は耐刃レザーのボディスーツ、パートナーのエドはへんな騎士鎧の姿だ。 「なあオリー、本当にこんな場所に適合者がいると思うか?」 エドの機嫌が悪い。 「さあね、おやっさんが言うのだから確かでしょうよ」 《街》。それは無限に続く巨大な一本の通廊の形をした閉鎖系世界だ。そこに共通した上下の概念はなく、本人にとっての接地面が下となる。 四つの壁

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私をぎゅっと抱きしめて

私をぎゅっと抱きしめて

 ここは人間とぬいぐるみが共に生きる街、ドリーミング・シティ。  いつもは明るいこの街も、あいにくの大雨によっていつもとは違う、暗い雰囲気が覆っていた。濃い雨でぼんやりと光る広告群が睥睨する中、黒いブルゾンを着た少女が走っていた。  腕に抱えられた白いユニコーンのぬいぐるみが、持ち主の少女を不安そうに見上げる。  その時、正面を三体の黒い熊のぬいぐるみが行く手をふさぐ。右足首には『BLACKBEAR』のタグが付けられていた。 「その『ノータグ』は違法です。すぐに明け渡してくだ

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テバスの掟

テバスの掟

十六歳になったら、キメラと一緒にこの階段を登るのよ。 あなたたちは二日間だけスヌスで過ごすことになる。スヌスは、神への祈りが足りないところでしょう?だからすぐに日照りに悩まされるのよ。 でも、あなたたちはいずれスヌスの統治も行うことになるのだから、傲慢な人々がどんな様子で暮らしているか、見ておかないといけません。自分はその人たちとちがって謙虚な人間に成長できているか、そのことも、きちんと確認しておかなくてはならないわ。 本当は必要のないことだけど、スヌスの人たちは歌った

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砂天の太陽

砂天の太陽

お前とは潜らない。俺ははっきりそう言った。 「これは天啓です」 だがシスターも譲らない。彼女は手を合わせて細い目を閉じる。 「大いなるスパニャの声が告げています。あなたは大遺跡を照らす太陽の現し身なのです」 何が太陽だと俺は毒づく。噂通り尖耳族ってのはこのご時世ヤク中か淫売しか生き残っていないらしい。こいつは間違いなく前者だ。 「砂の深海、ラムーの大遺跡に彷徨う邪な魂が、私達が放つ救済の光を……」 うんざりして窓の方に目をやると、外を黒い帽子とスーツの男が横切った。 この場末

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【石の街】攻防記

【石の街】攻防記

その日、大量の水が街を襲った。 呪術結界が施された強固な石の外壁が、轟音と共に押し寄せた水流によって破壊された。 外部からの攻撃だ。 やつら、とうとうここまで力をつけやがったか。自治会のおじさんがぼやいた。度重なる攻撃が段々と威力を増しているのは、僕も感じていた。 ひとしきり荒れ狂った濁流は、昼前には収まった。幸い死者は出なかったが、街中が水浸しになった。 誰しもが異変に気づいたのはその頃だ。水が一向に引かない。 広場で僕はとても奇妙な光景を目にした。 斜面の石段

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不死の日のエドム

不死の日のエドム

「日の神にかけて。今日は『誰も死なぬ日』でさ、ヨブの旦那」 薄汚い牧童は、そう言って男に微笑み、右手を挙げた。 「試してみる。首を出せ」 「いや。痛いは痛いんでね。罪になりやすぜ」 「構わぬ。贖い銀は先払いだ。俺の神に誓う。そこの連中、証し人となれ」 ヨブは、銀の入った革袋を呉れてやる。 牧童と証し人らは銀を確かめ、肯いて受け取る。 「じゃ、どうぞ」 剣が一閃し、牧童の首を断つ。ごろりと落ち、血は出ない。 首は顔を引き攣らせ、口をぱくぱくさせる。 「い……いてえ! 旦那

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ジプシー・ガールズ

ジプシー・ガールズ

 私はジープの広い後部座席に寝そべり車内の天井を眺めていた。 固いサスペンションから伝わる振動が心地よく、胃のあたりが浮き上がるような高揚を感じる。 「サキ、起きてる?」 運転席でハンドルを握っているのは同級生のトモコ。 運転免許は持っていない。無免許運転だ。 最もそれを取り締まる警察も、もういないけど。  2018年--異界元年。 私たちの世界は異世界と繋がり、全てが変わった。 向こうの世界から現れる西洋甲冑の軍団に現代兵器は通用せず、私達の住む街はドラゴンの火に飲ま

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マリッジブルーと沼の城

マリッジブルーと沼の城

 生暖かい吐息が顔に吹きかかり目を覚ます。まず聞こえたのは天幕が引き破れ支柱が折れる音。続いて見えたのは産毛のはえた老木のような肌だった。  沼すすりだ。  手垢が擦りこまれた猟銃を掴み、轢き潰されつつあるテントから慌てて逃げ出す。温厚な生物ではあるが人を食うことに躊躇いはない。充分に離れた後、木の根に腰を下ろしてその捕食の様子を見守る。沼ごと屍肉と魂を啜るその生態は強く忌避感を呼び起こす。頭部の噴出口から木々に吹きつけられた未消化の魂が森の緑を生前の視界に変換し、その色

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パラレル・レース・ロイヤル

パラレル・レース・ロイヤル

 メチルヒドラジンとエリクサーの配合物が点火し、噴射が始まる。レースが始まる。残りカウント五秒。本来は平行世界どもを集めてバトルロイヤルの予定だったがレースのほうが長期的な見世物になって興行収入が入ると責任者は考えた。  武装担当のサカヤマが祈る。仏教徒のこいつはインドで六年間修行した挙げ句にレーサーになった。バディを組んだ理由は賞金の寄付。  百メートル右でユニコーンが出馬を待つ。角が生えて神々しい本物の聖獣。雷とホーリーガスがかなり厄介だ。  二百メートル左には量産型魔法

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