第1回逆噴射小説大賞:二次選考通過作品まとめ

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不死の日のエドム

不死の日のエドム

「日の神にかけて。今日は『誰も死なぬ日』でさ、ヨブの旦那」 薄汚い牧童は、そう言って男に微笑み、右手を挙げた。 「試してみる。首を出せ」 「いや。痛いは痛いんでね。罪になりやすぜ」 「構わぬ。贖い銀は先払いだ。俺の神に誓う。そこの連中、証し人となれ」 ヨブは、銀の入った革袋を呉れてやる。 牧童と証し人らは銀を確かめ、肯いて受け取る。 「じゃ、どうぞ」 剣が一閃し、牧童の首を断つ。ごろりと落ち、血は出ない。 首は顔を引き攣らせ、口をぱくぱくさせる。 「い……いてえ! 旦那

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大天狗国(テングリア)

大天狗国(テングリア)

チンギス・カンは天狗だった。この事実を知った時、私は目が眩み、膝が震えるのを感じた。だが、考えてみればわかる。源義経は天狗に武芸を習った。彼が大陸に渡り、チンギス・カンとなった。この有名な二つの伝説から、自ずと結論は導かれる。チンギス・カンは天狗だったのだと。 義経は天狗に成っていたのだ。星々の海から降臨した大魔王に。その超常的な力は海に嵐を起こし、アイアンゴーレムを操り、富士山を噴火させたという。彼を恐れた同族は、平家との戦争が終わるや彼を追い詰め、殺そうとした。天狗に対

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ウェルカム・ブラックゲート #1

ウェルカム・ブラックゲート #1

ダイヴ、スタート。おれの視界を覆っていた緋色の砂嵐が明け、目の前にカウンターが見える。 「ウェルカム。冒険者<エクスプローラ>。本日はどちらへ?」 「火星マスドライバー第69層。ライディングドレイクをレンタル」 「了解しました。解析対象は指定しますか?」 「MWコインのマイニングを」 「了解しました。ゲート、開きます」 虚空に石のアーチが出現し、その暗黒へ、おれは無造作に足を踏み出した。 2009年、世界各地にて深黒の不明物体(大型バスほどだ)が出現した。 測定不能の度外れ

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ワン・オブ・ザ・コープス

ワン・オブ・ザ・コープス

俺が誰かは俺が決める。他の誰にも決めさせるものか。 Budda Budda Budda! 機関銃がクローン兵たちの頭を薙ぎ払う。首なしの体が崩れ落ちる。弾切れの銃を捨て、死体の銃を一挺拾って、さらに前へ。 「最近のクローン兵は質が落ちたよなァー、ドクター。まるでゾンビだ」 『コピーすれば劣化するのさ、何事も。オリジナルには及ばない』 次のウェーブは6秒後。欠伸が出るほど遅い。俺は壁へ、天井へ、靴底をつけて駆け上る。カメラを踏み壊し、タレットガンを潰す。電子トラップを三つ

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ライディング・ホッパー

ライディング・ホッパー

「おっさきー!」 「遅え!欠伸が出るぜ!」 アカネとトウヤの声を無視し、地盤沈下で荒れ果てた道路を疾走する。二人の飛行型、多脚型に比べると二脚型はこの道で不利だ。だが、想定内。 超高層建築が見えてくる。余りに高すぎるため壁沿いを迂回するか、内部を押し進むのが定番だ。構わず直進する。大丈夫だ、きっとやれる。自分に言い聞かせる。 壁まで100メートル。ホップ。 エアロと爪先のスプリングが展開する。 70メートル。ステップ。 大腿部が180°回転し逆関節に変形する。 着地

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ヴァーチャル・ヴァルネラビリティ

ヴァーチャル・ヴァルネラビリティ

「しょうがないにゃあ……いいよ」 『N9koc0』は上目遣いで僕に囁くと、煽情的な有料コスメティック装備を脱ぎ始めた。 僕はハイエンドVRスーツがもたらす肢体の感触を想像し、息を呑む。privateエリアの片隅で二人きり。見咎める者はいない。 『N9koc0』が笑いかける。悪戯っぽく八重歯をのぞかせて……。 もう限界だ!僕は全身の装備を外して彼女の身体<アヴァター>に迫った……その時! 「痛ッ!」 突然の激痛!僕は反射的に下半身を見て、青ざめた! 「Shhhhh!」

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荒野の探偵

荒野の探偵

 その男は寂れたバーの扉を押し開けて現れた。 「水をくれないか」  男はイギリスなまりで言う。それが癇に障ったのだろう。今、イギリス人は荒くれガンマンと向かいあっている。決闘だ。  両者の間に乾いた風が吹き抜ける。バーの店主が思わず唾を飲む。そして緊張が張り詰め、張り詰め……弾けた瞬間、両者はほぼ当時に銃を抜き、銃声が三度鳴り響く。  ガンマンは目を見開き、地面に銃が二丁落ちる。 「てめえ、なんで」 「両利きかわかったって?」  イギリス人が微笑む。 「肘さ。始まりは両肘が赤

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ラスティ・ドールズ

ラスティ・ドールズ

……がりがり、ざりざり。がりがり、ざりざり。 自動人形AM-967A”クロナ”は、砂と錆だらけの関節を軋ませ、瓦礫と砂塵の原野を歩んでいた。 「もっとキリキリ歩けや、阿婆擦れめ」 衛星通信を介して野卑た音声が届く。 「ったく、俺なら半日もかかんねえ距離だぞ。直接降りられりゃあな」 なら自分でやればいいだろう。 クロナは怒りを覚えたが、それを表現する罵倒の言語アセットは持ち合わせていない。 だから、黙って歩き続けることにした。 クロナは軌道移民の”漁り屋”にサルベージされて以

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【デビルハンター】ジュディ婆さんの事件簿 #1(第1話:1/4)

【デビルハンター】ジュディ婆さんの事件簿 #1(第1話:1/4)

死人に口なし? あるよバカタレ。 -ジュディ- 「ああジュディ。深夜にすまない」 バリケードテープをくぐる老婆にゴードン特別捜査官が声をかける。 「ったく。こんな山奥の道端でババアが死ぬかい?」 不満を垂れながらジュディは咥え煙草を始末し、ざっと死体を観察した。 「手首の擦過傷と足の具合からして監禁された後に徒歩で山中を逃走… 道に飛び出し轢死。監禁場所は半径2マイル圏内か。退屈な事件」 「顔照合で身元は判明。エマ、68歳。住所はデンバーで夫と息子が1人」 「じゃ、さっ

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俺たちに死者の日は来ない!

俺たちに死者の日は来ない!

 メキシコ麻薬カルテルのボス、リンゴはいつものように裏切り者をどう始末するかの会議で残虐な殺し方を提案したあと、麻薬を売って築いた邸宅の庭で葉巻を吸っているときに強い衝撃が頭を襲い、気を失った。 「起きろ、起きろ」  リンゴは肩を揺さぶられ目を覚ますと車の中にいた。手には手錠。運転席を見ると見知らぬ白人男がいる。 「誰だ、きさま」 「わからないのか?」  男は痩せこけた頬を引きつらせた。 「お前に妻と娘を殺されたアメリカ麻薬取締局の捜査官だ」 「毎日人が死ぬ。一々覚えられな

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