《街》にダイヴするとき、決まって全身全霊を総毛立つような感覚が駆け抜ける。 自我を除く全情報が書き換えられ、私達は指定座標に出現する。 私は耐刃レザーのボディスーツ、パートナーのエドはへんな騎士鎧の姿だ。 「なあオリー、本当にこんな場所に適合者がいると思うか?」 エドの機嫌が悪い。…
あらましはこうだ。星新一が予言した穴は実在した。アリゾナ州にあるトーラス状垂直閉空間(TVC)がそうだ。そこでは空間が環を成しており、地表に忽然と空いた直径20mほどの穴の中と、近接する都市の上空とが繋がっていることがγ線を用いた実験により実証された。穴に向けて放射されたパルスが、数…
「泣きながらこの世に生受けた我々は生まれながらにして不幸である。赤子は何を恐れて泣いているのか、慈愛に満ちた母の腹の中にいてなお赤子を悩ます不安の種、それは紛れもない死の恐怖である。その種は赤子の成長とともに肥大化し、いずれ日常の全てに死は纏わり憑き、遍く人々にニヒルを想起させる…
白金に輝く長い髪をかきあげエルフの面接官は口を開いた。 「まずお名前をお願いします」 「はい、ジョージ・ウィリアムズです」 面接官はちらりとこちらの顔を確認した。俺が本当に白人かを確認しているんだ。他の人種だったらこの面接すら受けることはできなかっただろう。彼らに比較的近い外…
「無法の神々」の宇宙ビリヤードにより太陽系がブラックホールの藻屑と消えてから1億年。 人類最後の生き残りである私は、ラフラー宙域の中心に浮かぶ巨大遊興ステーション「巨神の休息場」に居た。 全人類の仇である「無法の神々」の内の1柱がここに入り浸っていると聞いたからだ。 今「怠惰…
ふと、御神体を整備してたとき、ここで俺が御神体を壊したらどうなるかな、と考えた。 そのもしもは現実にならないまま、御神体が目を開く。多層レンズの瞳を細めると、立ち上がって伸びをする。 「感謝する」 そう言うと御神体は俺を優しく抱きしめた わかっている。御神体が壊れるのは、俺だ…
「ヘルメス、聞こえるか」 「聞こえる。私はヘルメス」 「バイタル良好。お前の意識は分割されて三体のドローンに転移している。何が見える」 「空。海。ミサイル基地。人々。銃声」 「知能低下無し。さて、俺たちの任務はクソの後始末だ。特殊部隊は全滅し、四十名の人質は処刑の真っ最中。で、処刑後…
ダイヴ、スタート。おれの視界を覆っていた緋色の砂嵐が明け、目の前にカウンターが見える。 「ウェルカム。冒険者<エクスプローラ>。本日はどちらへ?」 「火星マスドライバー第69層。ライディングドレイクをレンタル」 「了解しました。解析対象は指定しますか?」 「MWコインのマイニングを」 …
痛む肺。振り返れば仮面の巨体。徴魂吏(グリムリーパー)。白鎌が身体を通り抜ける熱さと魂を剥がされる寒さ。 それがユキが最後に見て感じた物だった。 魂魄本位制度に移行してから半世紀。価値が決して摩耗しない魂の需要は上がり続けている。 市は納税義務を14歳にまで押し下げ情け容赦な…
日本政府はクソだが、大麻を合法化したことだけは立派だったと吸うたびに思う。 「そう思わないか?」 そう隣を歩く犬に話しかけると犬は、 「さあね、だが我々にとって利益があったのは認めるところだ」と気障ったらしい返事をする。 俺がラリっているのかって? 違う。彼はおしゃべりドッグだ…