マガジンのカバー画像

逆噴射小説大賞2024:1次&2次選考結果

108
小説の冒頭800文字で競う逆噴射小説大賞2024! その二次選考の突破作品集です。 ■全作品:https://diehardtales.com/m/m1f0c0cf87fd7
運営しているクリエイター

記事一覧

🌵逆噴射小説大賞2024:1次&2次選考結果とコメンタリー

2次選考突破作品の発表お待たせいたしました! 自作小説の冒頭800文字でCORONAビールを競い合う「逆噴射小説大賞2024」の1次&2次選考結果を、ここに発表いたします。今年は全339作品のうち、108作品が一次&二次選考を突破しました。次のステップとして最終選考が行われて10本前後にまで絞られたのち、大賞受賞作が決定します! ↓突破作品はこのマガジンに収録されています↓ まずは選考を突破された皆さん、おめでとうございます。そしてイベントに参加してくれた皆さん、今年もあ

人生売買人生

 男が椅子に座っている。  その手は後ろに回って、腕の付け根と目の上に黒いテープががっちりと巻き付いている。  不自然だったのは、テープの間から流れる涙がそのまま口の側を通り過ぎていくことだった。  その口には、8mmテープが突っ込まれていて、男の身体は時折跳ねるように震えていた。 「保存とは所有することだ」  黒い女だった。  正確には、黒いスーツを着ている。黒いシャツ。黒いネクタイ。そして一部の隙もなく、その肌は闇色のテープに覆われていた。 「蓄音機の発明に

クラゲを海へ捨てに往く

 満月の夜。  俺は、足場の悪い山道を、六〇キロの袋を担いで歩いていた。事前に掘っておいた穴に到着する。穴の横に袋を降ろすと、鈍い音が響いた。  袋のファスナーを開ける。  ヘッドライトが死体を照らし出した。  若い男。  茶髪に、軽薄そうな顔つき。その右半分は、口径の大きな銃で撃たれたらしく、無くなってしまっていた。  この男が殺された理由――それは、俺の仕事には関係がない。俺はただ埋めるだけだ。  手袋をした手で、死体を担ぎ上げようとした。  その時。  男の残された

深郷歌

 白石瓜生の数年ぶりの帰郷は、水深20メートルの湖の中だった。  陽光は遠く、深く暗い湖中の中。ダイバースーツに内蔵された水中ライトが、懐かしい実家を照らした。窓が開いていたので、彼は二階から入り込んだ。かつての己の部屋であった。  散乱した室内を想像していたが、予想に反し、ほぼ記憶のままの光景がそこにあった。ベッドがあり、机があり、本棚がある。それらを目の当たりにし、白石はようやく自分が帰ってこれたのだと実感した。  大学生三年の夏であった。大地震と土砂崩れ。度重なる

【エクソシズム・チャンピオン、地獄に消ゆ】

 地獄の灼けた風の中、スカートのはためきをギギは感じる。今やこのセーラー服すら、親方との絆の拠り所だ。  身の丈3m、鶏頭の鬼が向かい来る。ギギは身を屈め、鬼の股下をすり抜けた。そして脚に組み付き、後ろへ倒れながら投げた。親方直伝、スープレックス。灰色の大地に、赤銅色の巨体が衝突した。  ギギの脳裏に親方の記憶が蘇る。強烈なラリアット。温かい握手。鬼祓いショーの日々。優しい親方は、人類と地獄が開戦した日、書置きを残して消えた。 「俺が祓ってくる」  鶏鬼が身を起こす。

熱病の王国

「私を抱かないの?」  風俗店の一室で、死んだ妻と同じ顔の女が、僕に聞いた。  顔だけではない。ネオンが映える白い肌。亜麻色の髪、丸い乳房。全てが妻と同じだった。声が震える。 「目的は取材だし、僕は不能でね」  嘘だ。僕の使命は、『サキュバス』の王の発見と暗殺。妻を原因不明の事故で亡くして以来、性的不能なのが抜擢の理由だった。不能でなければ、『サキュバス』とまともに話すことはできない。  なのに、妻と同じ姿のこの女を見て、急に機能が戻ってしまったのだ。脳から勃起のスイッチを引

セカンド・サン・フライト

 三日前に起きた月の消失に、吸血族はむしろ困惑していた。夜の一族と呼ばれてはいるものの、視界は光源を頼っている。獲物の血が吸いにくくなり、不利益しかなかったのだ。なのに彼女は、事もなげにこう言った。 「月光って要は反射した日光でしょ? チクチクしてウザかったのよね。だから食べてやったの」  一族が処分を決めかねてる間に、彼女、ルナギアは忽然と姿を消した。果たしてどんな手段で宙を渡ったか、いかなる手段で月を消したのか。それらが不明なまま、今度は太陽が小さくなり始めた。星見の

父買う夜市

我が家は母ひとり子ひとりだから、ずっと父親が欲しかった。 運動会や授業参観、叱られた友人の愚痴すら羨ましかった。 だから、九つのとき、初めて行った夜市で沢山の父が売られているのを見たときは本当に嬉しかった。 脳が痺れる甘い煙と香具師のがなり声が漂う蝦蟇通りの夜市で、母に手を引かれながら露店を見て回った。父屋の前を過るとき、母は手の力を強め、足を速めた。 でも、檻の中のひとりと目が合ったとき、必ず自分の父にすると心に決めた。 それからは新聞配達から赤子の世話までして金を稼

カタリ語れば騙るとも

 狭い独房で口をぱくぱくと動かす山ン本の姿は滑稽だが、傍らで首を掻きむしっている看守数名の死体があるなら話は別だ。心停止、自傷、出血多量。どれもが顔を青褪めさせ、年甲斐もなく失禁していた。  仲間にハンドサインを送る。銃は最終手段だ。今回はスカウト目的で、殺しじゃない。タブレット上の指示を改めて反芻し、ヤツの正面に立つ。  削ぎ落とした耳が疼いた。“暗殺怪談師”との交渉なら、俺たちが適任だ。壇ノ浦組が本家の赦しを得るには、このシノギを成功させるしかない。 『山ン本五郎か?

101回目のゾンビパニック!

 激しく鳴り響いた音とともに目覚めると、死んだ女が俺の部屋で呻き声をあげていた。  ……あぁやっぱり今回も駄目だったか。机の上に置いてあったスマホを手に取ろうとすると、女が飛び掛かってきた。噛みつかれる前に、制圧する。何度も繰り返しているので、慣れたものだ。  女の身動きが取れないようにして、俺は電話を掛ける。 「教授、やっぱり無理でした」 『次の手を考えんといけんな。……考えがまとまらん』  何かを飲む音が聞こえる。どうせウィスキーだろう。このアル中が。怒鳴りたい気持ちを抑

緋色の白刃/スカーレット・ホワイトブレード

 通学中の電車で痴漢を目撃した。侍だった。  白髪雑じりの中年男が、若いOLの身体を無遠慮にまさぐっている。  その行為を咎める者はいない。理由は、男が腰に佩いている刀だ。平民が侍の行為に口を挟めば、無礼討ちにされても文句は言えない。女性もそれが分かっているから、助けを呼ぶ事もできないのだ。 「やめなよ、おじさん」  凛とした声が車両の中に響く。  俺の隣にいた紅緒が、いつの間にか男の後ろに立っていた。止める間もなかった。 「なんだ、お前は──」  お楽しみを邪魔され

しにがみあそび

 ええ、なんだい。殺し屋?ヤクザなんだから、そんな話いくらでもあるよ。  見たこと?見たことは…それほどないね。そりゃそうよ。おれらみたいな下っ端が殺し屋を見るときってのはね、殺されるときだけ。  だからね、おれが見たのは、一回だけだよ。  むかしウチの組がさ、ナントカスター…えーと、あ、ビューティフルスターだ。そんな名前の女子プロレス団体に目をつけたんだよ。借金だらけで、ツラがいい女がいて、熱狂的なファンがいる。じゃあウリやらせればアガリが取れるよねって。かなり圧力か

ぶん回せ!

 人間生きていれば誰しも全力で誰かにラリアットしたい時ってあるよな。間違いなく今がそうだ。  ここは廃ビルの屋上。何ならフェンスの外に立たされており、もうすぐ落下コース間違いなしだ。しかしその前に、俺の背後にいる半グレだか全グレだかを片っ端からラリアットして一足先にビル下のアスファルトに叩き込みたい。その上で俺の自由意思で自由落下し、先に落下したグレグレ達を緩衝材にして無傷生還を決めたい。決めたいのだ。  そう思ったら頭より体が動き出してしまう。俺の両手は腰の後ろでがっつり縄

あるターミナルの月に

ターミナルは大陸の中西部、南部大砂海との境界となるデカイ山脈の北西に存在する、ある地域を指す名前だ。 普段は人が住んでいるわけでもなく、時期をわきまえずに訪れてもただ広がるステップをながめるだけになるだろう。だが、毎年ある時期にだけ、大変な活況を呈することで知られている。 ターミナルはバス飼いの聖地だ。 秋の終わり、地平線を形づくる緩やかな丘陵を越え、大陸西部じゅうからバスとバス飼い達が集う。 伝統的な柄の頭巾を巻き、身の丈ほどのバス棒を持った、よく日に焼けたバス飼い達。