シェア
目の前に映るのは、琥珀色の鱗に覆われた下半身の私。 壁の向こうには、妹の早紀がにこにこしながら、ミルクを美味しそうに頬張っている。本来なら、私も早紀の隣で一緒に過ごしていたのかもしれないのに。私が口に出来るのは、泥のような色をした丸い餌のみ。 姉妹でこうも違うなんて、神様は不平等だ。この家の中で、私はできそこないの娘。どうやら私は、ママに一度も抱きしめてもらうこともないまま、生涯を終えることになりそう。 ※ 長年不妊に苦しんでいた、私のママ。体外受精を何度か失
漆黒の雷雲は去り、瑠璃色に澄んだ空が広がる。 乾季のカトマンズを突如襲った局地的な落雷は、僅か十分間で千発を超えた。煉瓦造りの家々は崩れ、焦げた衣服を纏う人々が路上に伏す。千切れた電線の束から噴出した火花が、泥水に溺れ弾ける。 肌はおろか瞳さえ灼かれることなく、異邦人たちは平然と焦土を歩んでいた。 「良い撮れ高だ」 惨状を嬉々として写し続けるチャドの姿に、ギルは息を飲んだ。 「お前はどうだった?」 無邪気な声に促されるまま、ギルは撮り溜めた雷を見返した。寺院への直撃
山杉翠がたくさんの自分に気づいたのは、Vtuber【ベーン=ビー】の雑談配信を見ている最中だった。初めての高額スパチャを投入した時、画面に黄金の筋が走り、複数の投げ銭が行われた。最高金額だった。 「ベンちゃんありがと!」「いつもいつもいつもお世話になってるよ!」「前から疑問だったけどビーってなに?」「現出しました」「幹の人見てる?」 スパチャが流れる。最高金額を叩き続ける寄付の数は百に昇る。 「あ……みんな、ありがとね……」としかビーはいえなくなったが、スパチャは続
そり立つ壁に挑む48番の義足が爆散した。ジェット噴射の使用は定石だが、出力制御を失敗しては無意味だ。 義体の破損は即失格となる。コースの床が抜け、48番は1stステージ37人目の犠牲者となった。 控室のモニターを前に、選手たちは猛々しい歓声を上げた。最先端の全身義体さえ買える大金を得るのは、完走者唯一人。サドンデスの脅威は少ないに限るが、結局JIRAIYAは己と戦う競技だろう。彼らは理解しているのか? 「本家で見た顔だな」 喧騒から離れ屈伸していると、53番の伸縮
ずっと釣りが好きだった。餌、船、バス釣り。いまは南極で魚を探す。 氷が貫通した。下にいる黄金色の魚を回収するためだが、サイドテールの少女が邪魔をする。 「ほーらかわいいでしょ。見てください」と、金七一二トワレが金色の髪を水に落とす。人間がやったら凍傷だがこいつはロボットだ。 「どいてくんない?」 「マスターのためならなんでもしますよん、むん!」 答えになっていない。 トワレはノースリーブで下半身も扇情的だ。視線が合うとニヤニヤしてくるが、俺は釣りにしか関心が