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ぼくはおつかいを果たすべく夜見ヶ浜へ来た。 クラゲがわいた九月の海に、紫色の粘土を細かく砕いたような粉をまく。 粉末は荒波にさらわれることもなくその場で薄い膜を張り、ボコボコと泡立つ。 と、膜の内側から血色のよい鼻とくちびるが突き出し、目のあたりが落ちくぼんで、髪の毛が生えてきた。 すっかり人間の頭になると、ぼくの目と目が合った。 「お にい ちゃん」 その子は三年前に沖へ流された妹だった。 「おにいちゃん。おなか、すいた」 三年分伸びた髪と黒い
目の前に映るのは、琥珀色の鱗に覆われた下半身の私。 壁の向こうには、妹の早紀がにこにこしながら、ミルクを美味しそうに頬張っている。本来なら、私も早紀の隣で一緒に過ごしていたのかもしれないのに。私が口に出来るのは、泥のような色をした丸い餌のみ。 姉妹でこうも違うなんて、神様は不平等だ。この家の中で、私はできそこないの娘。どうやら私は、ママに一度も抱きしめてもらうこともないまま、生涯を終えることになりそう。 ※ 長年不妊に苦しんでいた、私のママ。体外受精を何度か失
今日は月に一度の生存証明の日。 村役場は住民たちでごった返していた。 「このゾンビ野郎!ガン飛ばしてきやがって」 向こうから怒鳴り声が聞こえてきた。 …また仁さんだ。 「どどどどうしましょう…」 バイトの志賀くんが飛んで来た。 様子を見に行くとちょうど仁さんがゾンビの田中さんに掴みかかっているところだった。 仁さんはスケルトンだ。ゾンビと相性が悪い。 俺、田辺健太郎はほとほと参っていた。誰だ簡単なお仕事だとか言ったのは。 左遷先が離島の村役
「はい、今日のご依頼はですねー、マンションの管理者さんからでして」 部屋の前の通路で動画サイトにUPする挨拶を撮る。主に喋るのは入社2年めのミネちゃんだ。 「んでー、借りてたご家族と連絡が取れなくなってー、私たちゴミ屋敷バスターズにご依頼いただいたわけですね〜」 ミネちゃんのほにゃほにゃとした喋りと笑顔。彼女はドアを開けて部屋の中へと入っていく。俺は撮影しながらそれを追う。 嗅ぎ慣れた異臭がマスク越しに鼻腔を襲う。慌てたように遠ざかっていくカサカサ音。カメラの視