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逆噴射小説大賞2024:1次&2次選考結果

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小説の冒頭800文字で競う逆噴射小説大賞2024! その二次選考の突破作品集です。 ■全作品:https://diehardtales.com/m/m1f0c0cf87fd7
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#逆噴射小説大賞

🌵逆噴射小説大賞2024:1次&2次選考結果とコメンタリー

2次選考突破作品の発表お待たせいたしました! 自作小説の冒頭800文字でCORONAビールを競い合う「逆噴射小説大賞2024」の1次&2次選考結果を、ここに発表いたします。今年は全339作品のうち、108作品が一次&二次選考を突破しました。次のステップとして最終選考が行われて10本前後にまで絞られたのち、大賞受賞作が決定します! ↓突破作品はこのマガジンに収録されています↓ まずは選考を突破された皆さん、おめでとうございます。そしてイベントに参加してくれた皆さん、今年もあ

巌龍島異聞

 慶長十七年四月十三日朝。長門国と豊前国の境、船島。ここに二人の兵術の達人が相対した。一方は円明流、宮本武蔵。他方は巌流、佐々木小次郎。立会人と互いの弟子たちの見守る中、両雄は一礼する。 「まことに木剣で挑まれるとは」 「木剣だからと油断めされるな」  小次郎は目を細め、刃長三尺の野太刀を大上段に構える。対する武蔵は二刀流、二尺五寸と一尺八寸の木剣を構える。空が白み、潮が流れる。両者は間合いをはかり睨み合い、微動だにせぬ。  ちゃぷん。魚が武蔵の背後の海で跳ねた。武蔵は

「インドラの僕(しもべ)」

 漆黒の雷雲は去り、瑠璃色に澄んだ空が広がる。  乾季のカトマンズを突如襲った局地的な落雷は、僅か十分間で千発を超えた。煉瓦造りの家々は崩れ、焦げた衣服を纏う人々が路上に伏す。千切れた電線の束から噴出した火花が、泥水に溺れ弾ける。  肌はおろか瞳さえ灼かれることなく、異邦人たちは平然と焦土を歩んでいた。 「良い撮れ高だ」  惨状を嬉々として写し続けるチャドの姿に、ギルは息を飲んだ。 「お前はどうだった?」  無邪気な声に促されるまま、ギルは撮り溜めた雷を見返した。寺院への直撃

露光のしもべ

地面に突き刺した三脚杖にガラス玉を載せ、手を添える。露光魔法によって風景をガラス玉に刻む。焦点や光量を自在に操り、描き変えた世界をガラス玉に刻みつける快感は何ものにも代えがたい。 今から私は、嵐を刻む。 『嵐が来る!』今朝に道すがら出会った占い婆が私の顔を見るなり叫んで一目散に逃げ出した。嵐とは何か?決まりきっている。雨風でも、魔法でも、騎馬隊でもない。たった今戦場をなぎ倒し、大地を引き裂いて降り立ったもの。 竜である。 パシッ、ガラス玉に景色が刻まれる音がした。

熊の掌

 私が白野壮太を殺したのは、彼が毛深かったからだった。彼は太鼓腹を含む全身に黒く強いぴんぴんと立った毛が生えていて、手の甲は黒黒とし、爪は肉に食い込むようだった。だから、熊の掌を蒸して毛を抜くのときっと同じ体験ができると思ったのだ。  Youtubeでジビエ好きの男が熊の掌料理を作って以来、私にとって同じことをするのは夢だった。茹で、さらに蒸した熊の掌は皮膚が柔らかくなり、あれほど強い毛が、尖った爪がほとんど苦労なく剥けてしまう。そして、いつの間にかゼラチン質の無力なふやけ

ドリーム・キャッチャー

 格付けは、済んだ。  第三世代夢鯨が魚群に食い尽くされていく。 「今……しかなイ…瞬間ヺ……」  若年層向けローン広告のフレーズを言い終えぬまま、夢鯨は消滅した。 「うーむあの第三世代を完全排除とは……」 「デカいのが取り柄ならバラバラにして砕く、簡単なアプローチですよ」 「いやぁよくやってくれた。このピラニアの発表で株価は急上昇だな」  社長が笑顔で俺の肩を抱く。アドブロックの開発ベンチャーは数多あるが、第三世代夢広告の完全排除はうちが世界初だ。 「大学仲

戦場を着た男

 倉庫を整理していると、隅に耐火布の被さった小山があるのに気づいた。  近くで札束を数えているボスに訊いてみると「軍の放出品、年代モノ」というので、布をはぐると、巨人が喰うような鉄色のピーナッツが二本足で立っていた。  6発の銃弾。  戦闘服の装甲は滑るように受け流した。  真っすぐ伸ばした左腕の先、砲口が赤い火柱を噴いて、弾を撃ち尽くしたボスの腰から上を、後ろの壁まで丸く抉るように溶かした。  メカオタクを拉致したまぬけ。  自分の顔がニヤけているのに気づく。嫌な感じがし

「JIRAIYA No.49」

 そり立つ壁に挑む48番の義足が爆散した。ジェット噴射の使用は定石だが、出力制御を失敗しては無意味だ。  義体の破損は即失格となる。コースの床が抜け、48番は1stステージ37人目の犠牲者となった。  控室のモニターを前に、選手たちは猛々しい歓声を上げた。最先端の全身義体さえ買える大金を得るのは、完走者唯一人。サドンデスの脅威は少ないに限るが、結局JIRAIYAは己と戦う競技だろう。彼らは理解しているのか? 「本家で見た顔だな」  喧騒から離れ屈伸していると、53番の伸縮

カンフー・アルマゲドン 天地崩墜

「天地崩墜! 身亡所寄!」  天が堕ち、地が裂ける! 逃げ場はどこにもありはしない!  口角泡を飛ばし、叫喚する群衆が、星官連合首長国である秦の各地を闊歩している。紅色の幟を掲げる彼らは、故事にならい、杞憂民と呼ばれている。  事の発端は数百年前、時の皇帝徽宗の寵愛する孫、阿相が星辰殿にて渾天儀を前に発したひと言である。 「この星が欲しい」  指さしたのは秦から宙空を隔て百光里先にある、天目星の衛星、外電。  これに徽宗は奮起した。してしまった。  学士らと国を挙げての大事業

死がふたりを分かつまで

 青空に白く尾を引くジェット噴射は、いつもより速度が乗っている。  全く、厄介な相棒を持ったものだ。  沙門はそれを視界に捉えつつ、国道を全開で飛ばす。 「メランダめ、どこで待ち合わせをするつもりだ?」  久しぶりに友人に会うと云っていたが、確かあの方向には巨大なジャンクヤードがあったはず……  ジェットの軌跡が地上へ向う。思考を打ち切り、慌ててハンドルを切る。背後の車のクラクション。    入口の巨大な鉄門から、大勢の従業員が慌てふためき吐き出されてくる。  車を路肩に突っ

ハッピネス・イズ・ア・ウォームガン

納屋の扉を開けた瞬間目に入ったのは、壁に飾られている火縄銃だった。 面倒なことになったなと思った。確か、偶発的に銃火器を見つけたときは警察に届け出なければならなかったはずだ。 俺は火縄銃をしばらく凝視して、金具から白色のタグがぶら下がっていることに気づいた。「東京都教育委員会届出済」法的に何らかの手続きを踏んだ上でこれはここにあるのだということだけは分かった。追加の情報が必要だ。高校生である俺の情報源は限られる。まず頼るべきは友人だった。 「よく来たな。では今日もやって行くぞ

きょうも冥界に行ってもどりて

 行った事がない場所へ赴くは冥界へ向かうと似る。知らない景色、見知らぬ建物、方角すら不明瞭。地図は当てにならない。それなのにおれの知らない生活が営まれている。概知の道に出た時の安堵感がたまらない。馴染みの店でナポリタンを食してようやく生を実感する。そしてまた、冥界へと向かう。  今日も田崎は帰れない。致命的な方向音痴なのだ。  今日の目印はカンカンに熱せられたタコ型遊具で。最高気温40度、幾度となく熱中症警戒の市内放送がこだまする。アイスでも買いに行きたいが、元の場所に戻