逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

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加速スイングバイ

惑星探査機が地球の重力を使って宇宙へと旅立っていったように、皆誰かの力を借りて頑張っているんだろうね。ハルちゃんは、誰の力を借りてスイングバイするんだい?                      ーー図書館館長 アマノーー

今日も相変わらず、私はひとりRPGを遊んでいる。物語も終盤で、ちょうど飛空挺を手に入れて、どこにだって行けるようになった所でセーブをして切り上げた。

物語の主人公たちとは

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ヘルムズ

遥々赴いたコルカタでエニ=リーが目にしたのはまたも兜と地獄だった。

対兜強襲部隊「イナバ」のクイ・スーツ部員200名の大半は、既に死体となって積み上がっている。最新型の対兜用クイ・スーツ達の背中には無数の矢。白銀だったペイントは赤褐色へ変わり、ヘルメットの『打垮_盔 脱兎』の文字は砕けた。
見上げると矢の群は未だ宙を旋回していた。

(苦しい、あまりにも苦しい!)

「莉ョオッ!」

死体達

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消えゆく世界、再生の街へ

自殺志願のこどもが笑ってる。
それでも、鼓動どくんどくん。

俺のこの気持ちは、絶望と呼べばいいのだろうか。

うっすらと月が顔を出す夕暮れ時、高校からの帰り道で俺が住むS市A区の空は無数のミサイルに埋め尽くされた。

こんな事態はやはり、空想科学(イマジナリー)が織りなす芸当なのだろうか。
想像力が物質を創造する科学技術、空想科学(イマジナリー)。世の中に公表されたのは2年も前ではなかったと思う

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プライスシティ・ウォー

「やはりヒック、殺すしかないと思うのだがウィーック」

 今期の自治会会長、全身にぶら下げた輸血パックから直接血管に酒を流し込んでいる男、泥酔酒屋のガルゴールが漏らした。

 「賛成」「そうだな」「やっちまおう」「よし、殺そう」

 全員が口々に同意し、顔のど真ん中にバカでかい口だけがある異形肉屋のハルズマンが立ち上がると、拘束されていたヴィールス・カンパニー営業の首を肉切り包丁で切り落とした。

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現実、虚構、セルバンテス、そして騎士

「で、マンブリーノの兜ってのは床屋の持ってたタライだったわけですよ」
「へえ、面白い」
「ほんとに面白いって思ってます?」
「うん、面白い、痛い、つつくな」

 ーー2350年、環境汚染は深刻化し、もはや生物は地表に住うことを許されなくなった地球。人類は肉体の充実を諦め、カプセルにその身体を横たえ、仮想空間に精神を据える。この仮想空間に名前は無い。この空間こそが世界だ。

「一つ聞きたいん

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やったぜ!
8

心臓は赤く灯る

観測史上最大と目されていた大雨が、結果的には穏やかな小雨に終わったその日の夜半、満月の夜。赤提灯が誘う扉の奥は喧噪に包まれていた。
 隣と話すのも苦労するほどなのに、むしろそれが心地良い。
 人の数だけあるタフな日々を、冷えたビールで流し込み、壁中に貼られた赤札から選んだ酒肴に箸を伸ばせば、積んだ功徳の報いとばかりに皆一様の幸福へ昇る。
「生きてて良かったああああ!」
 連れがひとくちでジョッキ半

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わーい!コーヒー豆あげちゃう!
17

プロレスを■した者たちへ

プロレスリング『獅子』社長は、先の無観客試合におけるリング禍について「全て筋書きに沿った演出」と説明。王者含む四名の死の事件性を否定した。

「良かった、演出か……」
王者・益荒男の死を聞き、泣き崩れた友人の顔は今も忘れられない。獅子プロは明後日の興行開催を確約し、友人含む数多のプロレス通を安堵させた。

あなたは忘れるはずもない。

その友人が特に推しているマスクマン、ケビイシが会見の場に現れた

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おれもすき
17

匍匐前進処刑人

俺は石段を匍匐前進しながら上り下りするのが好きだ。あのひんやりとした硬い感触が、俺の肌を伝う瞬間。ゴツゴツとした容赦ない段差の角にぶつかりながら、俺は悦に入る。

 その日も、いつものように職務質問されないよう、深夜に一人で近所の石段を匍匐前進していると、突然耳元で声がした。

 「助けてください」「ひぃッ!?」

 消え入るようだが、確かに聞こえたそれは女の声だった。俺は恐怖の叫びをあげた。深夜

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金剛石《ダイアモンド》の弾丸籠めて

「いいか? 撃てる弾は五発だけだ」

 彼の声は、脳に直接響いてきた。
 軽薄な、いつでも笑いの混じった高い声。
 悪魔、と名乗られた時、だから私は驚きはしなかった。

「五発分は契約しちまったからな。アンタにも撃たせてやる」
「でも貴方、リボルバーなのでしょう? 六発目が撃てる筈じゃない」
「ギャハッ! 確かに、確かになァ! アンタ頭良いぜェ!」
「……馬鹿にしている、のかしら」

 溜め息が出

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とてもうれしいです。
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ホームセンター戦闘員、浅間!

「うるせえ! 自分の車に積み込めってほざいたのはてめぇだろ!」

 俺が振るった金槌は、眼前のクレーマージジイが握る草刈り鎌より早く、ジジイの側頭部を打ち砕いた。ジジイは倒れ、そのまま動かなくなった。

 「しまった……」

 俺は青ざめた。今月の殺害許容数は5人まで。このジジイは6人目だ。本当に非正規は不利だ。殺していい数が正社員に比べて少なすぎる。

 「やってしまったねえ、浅間くん。超過だよ

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