逆噴射小説大賞2019:エントリー作品
現実、虚構、セルバンテス、そして騎士
「で、マンブリーノの兜ってのは床屋の持ってたタライだったわけですよ」
「へえ、面白い」
「ほんとに面白いって思ってます?」
「うん、面白い、痛い、つつくな」
ーー2350年、環境汚染は深刻化し、もはや生物は地表に住うことを許されなくなった地球。人類は肉体の充実を諦め、カプセルにその身体を横たえ、仮想空間に精神を据える。この仮想空間に名前は無い。この空間こそが世界だ。
「一つ聞きたいん
「魑魅魍魎」が読めないヨーカイ
爽やかな朝。私は学校の門をくぐる。
いつもの友達が挨拶してくる。白い肌、黒い肌様々な見た目だ。我が学園もグローバル化の波を受けているのか?そうではない。
次に来たのは真っ赤な肌のリンだった。背は180センチ、角も二本生えている。
「おっはー!ユリエ」
「おはよう!…どう、そろそろ馴染んできた?」
「うん、もう大変だった!急に身長でっかくなっちゃって服全部買い換えないといけないし。そもそもこいつのせ
10セントの命を追って
或る夜。月は寄せては返す波めいて、不穏な光を放っていた。
それは自然の警告にも思えたが、罰当たりな彼らは黒澤明由来の農村の真ん中に73式中型トラックを停めた。
メガネの男が呟く。
「前は蛮人、次にUMAと来た。死人は増えるばかりです。穏便に済みますか?」
人類学者、河添教授は頷いた。
「赤井君、解決方法は一つじゃないだろ」
赤井は頭を掻いた。
「その為の我々ですけども」
教授は黙って外に出た。
昼
金剛石《ダイアモンド》の弾丸籠めて
「いいか? 撃てる弾は五発だけだ」
彼の声は、脳に直接響いてきた。
軽薄な、いつでも笑いの混じった高い声。
悪魔、と名乗られた時、だから私は驚きはしなかった。
「五発分は契約しちまったからな。アンタにも撃たせてやる」
「でも貴方、リボルバーなのでしょう? 六発目が撃てる筈じゃない」
「ギャハッ! 確かに、確かになァ! アンタ頭良いぜェ!」
「……馬鹿にしている、のかしら」
溜め息が出
ロボティクス・センス
肉体の枷から解き放たれたと思えば、待っていたのは機械の制約と無感覚の世界だった。冷え冷えとしたサーバールームで後頭部に取り付けられたプラグからケーブルを伸ばし、I-10型二足歩行ドロイド「コウキシン」はそう考えた。ケーブルはサーバーへと接続され、コウキシンの頭脳がデータの吸い上げを開始する。コンピューターの画面がダイアログに表示されるようなわかりやすさは「それ」にはない。ただ感覚的に、あらゆる情
もっとみる安楽椅子のレジスタンス
「お願いします、どうか主人の死の真相を…」
目の前の婦人はさめざめと涙を流す。
「…婦人、お分かりでしょうが」
俺は棚の上に置かれた国家元首様の像にちらりと目をやる。
「『真相』なんて言葉は…その、よくない」
「あら…!ごめんなさい」
婦人は途端に青ざめた。慣れてない客はだいたいやってしまう。こういうときのフォローもプロの仕事だ。
「珈琲でも飲みますか?」
俺は国家支給品陳列棚へ向かうと、
「おっ
メカニカル・ピルグリム
「おい、そちらに何かあったか」
「いやダメだな…もうガラクタしか」
薄暗い部屋で、二人の泥棒が仕事をしていた。
泥棒。そう泥棒だ。だがそれを咎めるものはいない。とうの昔に滅んでいたからだ。
「こちらもダメだ…このバッテリーはもう切れてるし、この記憶媒体は旧式すぎる」
「おっ!こりゃまだ動きそうだぜ」
一人の男が映像端末を見つけて電源を入れる。
『ロボットの生み出す新しい社会。低燃費で人間に代わる新