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逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

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小説の冒頭800文字でCORONAを勝ち取れ。ダイハードテイルズが主催するパルプ小説の祭典、「逆噴射小説大賞2019」のエントリー作品収集マガジンです。だいたい1日1回のペースで…
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#パルプ小説

月の光が人を焼く

月の光が人を焼く

 私を縛る縄が痛いけど、舌の感覚もなくなったから言えなかった。
 殴られすぎて頭がパンパンに膨れてぼーっとしてきた時、事務所のドアが開いた。
「待たせたな」
 とても背の高いムキムキな黒人が入ってきた。私の首なんか簡単にもぎ取れると思う。
「おっ、ゴリラケーキ。よく来たな」
 チビハゲが血だらけの革手袋を床に放って言った。
 黒人は私に近づいた。顔をじっと見てから、私の涙を拭った。殺しに慣れた人の

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現実、虚構、セルバンテス、そして騎士

「で、マンブリーノの兜ってのは床屋の持ってたタライだったわけですよ」
「へえ、面白い」
「ほんとに面白いって思ってます?」
「うん、面白い、痛い、つつくな」

 ーー2350年、環境汚染は深刻化し、もはや生物は地表に住うことを許されなくなった地球。人類は肉体の充実を諦め、カプセルにその身体を横たえ、仮想空間に精神を据える。この仮想空間に名前は無い。この空間こそが世界だ。

「一つ聞きたいん

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「魑魅魍魎」が読めないヨーカイ

「魑魅魍魎」が読めないヨーカイ

爽やかな朝。私は学校の門をくぐる。
いつもの友達が挨拶してくる。白い肌、黒い肌様々な見た目だ。我が学園もグローバル化の波を受けているのか?そうではない。
次に来たのは真っ赤な肌のリンだった。背は180センチ、角も二本生えている。
「おっはー!ユリエ」
「おはよう!…どう、そろそろ馴染んできた?」
「うん、もう大変だった!急に身長でっかくなっちゃって服全部買い換えないといけないし。そもそもこいつのせ

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10セントの命を追って

10セントの命を追って

或る夜。月は寄せては返す波めいて、不穏な光を放っていた。
それは自然の警告にも思えたが、罰当たりな彼らは黒澤明由来の農村の真ん中に73式中型トラックを停めた。
メガネの男が呟く。
「前は蛮人、次にUMAと来た。死人は増えるばかりです。穏便に済みますか?」
人類学者、河添教授は頷いた。
「赤井君、解決方法は一つじゃないだろ」
赤井は頭を掻いた。
「その為の我々ですけども」
教授は黙って外に出た。

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金剛石《ダイアモンド》の弾丸籠めて

金剛石《ダイアモンド》の弾丸籠めて

「いいか? 撃てる弾は五発だけだ」

 彼の声は、脳に直接響いてきた。
 軽薄な、いつでも笑いの混じった高い声。
 悪魔、と名乗られた時、だから私は驚きはしなかった。

「五発分は契約しちまったからな。アンタにも撃たせてやる」
「でも貴方、リボルバーなのでしょう? 六発目が撃てる筈じゃない」
「ギャハッ! 確かに、確かになァ! アンタ頭良いぜェ!」
「……馬鹿にしている、のかしら」

 溜め息が出

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ロボティクス・センス

ロボティクス・センス

 肉体の枷から解き放たれたと思えば、待っていたのは機械の制約と無感覚の世界だった。冷え冷えとしたサーバールームで後頭部に取り付けられたプラグからケーブルを伸ばし、I-10型二足歩行ドロイド「コウキシン」はそう考えた。ケーブルはサーバーへと接続され、コウキシンの頭脳がデータの吸い上げを開始する。コンピューターの画面がダイアログに表示されるようなわかりやすさは「それ」にはない。ただ感覚的に、あらゆる情

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安楽椅子のレジスタンス

「お願いします、どうか主人の死の真相を…」
目の前の婦人はさめざめと涙を流す。
「…婦人、お分かりでしょうが」
俺は棚の上に置かれた国家元首様の像にちらりと目をやる。
「『真相』なんて言葉は…その、よくない」
「あら…!ごめんなさい」
婦人は途端に青ざめた。慣れてない客はだいたいやってしまう。こういうときのフォローもプロの仕事だ。
「珈琲でも飲みますか?」
俺は国家支給品陳列棚へ向かうと、
「おっ

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P.S.エイミー

P.S.エイミー

―――意識潜航深度888メートル。

敵性霊を検知。漆黒の深海を見透すと、蠢く触手が見えてきた。

ZZZZMMMM……! 岩礁の間を迫りくるのは、山のように巨大なタコだ。ぐにゃぐにゃと触手を伸ばし、墨を吐き散らして周囲を塗り替えている。

「ワオ……デビル・フィッシュね。まさに穢れた悪霊だわ」

甲冑じみた潜水服を纏った少女は、目の前の光景を解析しつつ、周囲に自我固定呪符を散布していく。取り込ま

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メカニカル・ピルグリム

メカニカル・ピルグリム

「おい、そちらに何かあったか」
「いやダメだな…もうガラクタしか」
薄暗い部屋で、二人の泥棒が仕事をしていた。
泥棒。そう泥棒だ。だがそれを咎めるものはいない。とうの昔に滅んでいたからだ。
「こちらもダメだ…このバッテリーはもう切れてるし、この記憶媒体は旧式すぎる」
「おっ!こりゃまだ動きそうだぜ」
一人の男が映像端末を見つけて電源を入れる。
『ロボットの生み出す新しい社会。低燃費で人間に代わる新

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囮の子ども(たち)

 いる。あれはすでにここに、俺の砦に這入っている。
 私立儀典寺小学校校長、真備は自らに言い聞かせながら窓の外を眺める。鰯雲広がる空の下、校庭では三百人の児童が休むことなく昼休みを駆け抜けている。彼ら彼女らが校長室に手を振れば、真備も笑顔で手を振り返した。その心に嘘はない。齢五十にして校長を務める真備は児童たちを愛し、職務に誇りを持っている。
 だからこそ今日、真備の笑顔は児童が戸惑うほど引き攣っ

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ワニガメを撃て

ワニガメを撃て

「シモヘイヘは老衰で死んだ」と三度唱えろ。俺の中に根差した経験がそう囁く。狙撃手が直接命を狙われることは少ない。同時に、狙撃手にはマインドリセットと安寧が必要であり、額を濡らす汗はどうもその集中を阻害するからだ。

 六月の東京には珍しく、屋上は乾いた風が吹いていた。俺はスコープを覗き、階下の様子を伺う。目標はマンションの陰に隠れ、茂みに身を潜めている。
 誰かの犠牲を出さず、早々に処理すべき問題

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エスカレーターGERO

エスカレーターGERO

★吐しゃ物の表現がありますので、ご注意ください。また、お仕事がつらい方は、ご遠慮ください。

(ここから本文)

私が通勤に使う地下鉄の駅には、地上に向かう長いエスカレーターがある。今日も、地下鉄を降りると、いつものように、このエスカレーターに乗った。乗客はみな左側の手すりを持ちながら、お行儀よく並んでいる。前を見ると、先頭に学生がいて、じっとして歩こうとしない。右側を追い抜いていくものもあるが、

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根源のヴィリャヴァーン

根源のヴィリャヴァーン

 わたしたちは誰もがヴィリャヴァーンの輝きから生じ、その根源の炎を胸に抱きながらこのエ・ルランの地へと落ちてきた。

 だから、誰もが落ちてきた苦しみに囚われ続け、輝ける炎を胸に抱いていることすらも忘れて、その生命を終えていくのは悲しいことである。

「なればこそ。人の身のままヴィリャヴァーンに到ろうなどと望むことは、人としての分際を超えた行いでありましょう」

「それは許されざる行い。エ・ルラン

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届かぬ星は目の前に!

『西暦1996年。世界人口は三分の一を失い、人類の繁栄は……』
「ああ、どうもイイ感じの書き出しが決まらない……」
 マンションの一室。PCを前にして、無精髭の男がちゃぶ台に突っ伏した。PCの画面には文章。タイトルは『融合性大災厄から15年の節目(仮)』とある。男は部屋のキッチンの側に首を傾け、叫んだ。
「コーヒー!」
 0.5秒後には彼のもとに液体入りマグカップ。彼はそれを一息に飲み干し……「ゲ

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