逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

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Hit&Subdue 俺たちスーパー暴力マン

ーーなんで俺がこんな目に!

ビルとビルの狭間の人気のない狭い通り道で一人の男が逃げ回っていた。
迷路のように入り組んだ路地裏を、土地勘のない男はただ無闇にひたすら走っていた。
男は上裸だった。

「おい待ってくれよ!悪いようにはしないからよー!」
男を追うのは栗毛色の髪に整った顔のスカジャンを羽織った若者。
ただ彼の手には鉄パイプが握られている。

ーー止まったら殺される!
男の足がさらに速まる

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よかよかよかったい
6

DOPEMAN

トヨタのプリウスを見かけて、その中にイカした黒人のギャングスタがいるとは誰も思わないだろう。ましてや、ダッシュボードの中にクラックが詰まっているなんて。
 高級スーツを着た記者に聞かれたことがある。「何故クスリを売るんですか?」決まっているだろ。生きるためだ。
 街区の角にフードを目深に被った男が立っている。男はスマホのケースをはずしたりつけたりしている。その手元はおぼつかない。初客のようだ。
 

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一つ目巨人の眠る地で

「準備はいいか?」
「ああいいよ」

遠くから馬蹄の音が聴こえる中、
俺の問いかけにグレイの髪を風にたなびかせてエルフの女が応じた。美しい顔にはしる傷痕を笑みで歪ませながら。

俺たち二人の冒険者は荒野にいた。辺り一面、赤茶けた土に覆われた地面が延々と続く不毛の地。

そこにひとつ巨大な骨が鎮座している。かつてこの地に棲んでいた一つ目巨人のものだ。通りがかった旅人を喰らっていたこの
巨人はある英雄

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よかよかよかったい
5

おれは殺し屋じゃない

「じゃああなたは本当に殺し屋じゃないんですね」
「何度も言わせるな。俺は殺し屋じゃない」

村民の憩いの場、いきいきふれあいセンターまがつの一角で場違いな会話を交わす。
のどかな村だと思っていたのに殺しの依頼ときた。
事実、俺を殺し屋と間違えて接触してくる馬鹿は結構多い。
真臥津村で仲介役として出迎えたのがこの男。彼が口にしたのは現職の村長より、次の村長選の対立候補を暗殺して欲しいとのことだった。

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よかよかよかったい
12

金なし職なし彼女なしスーパーパワーはあり

ふわり、と重力の軛から離れた感覚がする。

俺は今から宙に浮く。別に特別なことではないし割りかし頻繁にやっていることだ。
徐々に高度を上げていくと次第に視界に映る外界の建物や人がどんどん小さくなっていく。

今、俺の体は廃ビルの屋上からすっかり離れた遥か上空にある。
この浮遊感に体を委ねる度に、俺は俺自身のどうしようもなさを忘れることができるんだ。
空から見た街の景色は美しいものなのかは乏しい俺の

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お礼のバーチャル寿司🍣🍣🍣
13

ヤクザvsアンデッドヤクザ

ヤクザになんてなるんじゃなかった。

地面に突き刺したシャベルの足掛けに体重をかけながら、俺は零細ヤクザ黒沢組に入ってから何度目かの後悔をしていた。
ここはヤクザの死体遺棄の聖地、通称ヤクザノモリ。
カタギのように真っ直ぐと伸びる木々とは対照的に空気は重たくあまり長居をしたい雰囲気じゃない。
まだ膝ほどの深さにも達していない穴から目をそらし、傍らのブルーシートを見る。
そこには事務所の金に手を出し

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お礼のバーチャル寿司🍣🍣🍣
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終末神奈川決戦

神奈川を横断する東名高速道路をおよそ2万5千を越えるバイクが埋め尽くしていた。
 法定速度100㎞を大きく越え、エンジンを唸らせながら東名高速道路を駆けていた。
 その先頭を走るは湘南最大規模を誇る暴走族『走繪屋』の頭、時塔宗次。彼の睨む先は首都東京。
 その上空には巨大飛行物体が地上に向かってサーチライトを照射していた。
 時塔にはあれが何なのかわからなかった。三日前忽然と首都上空に出現し、地上

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大麻拳

功夫とは究極に言えば精神の鍛練である。
 その拳は、その蹴りは、精神をより高みへと研ぎ澄ますための手段である。
「であるなら」
 俺は言葉をきる。
「大麻もまた広義の功夫だと言える」
「なるほどな」
 MJは頷いた。
「ラリってんのか」
 やれやれだ。こいつは何もわかっちゃいねえ。
 ここはLA南部にあるダニージム。功夫映画を見て育った黒人がこぞって押し寄せるフッドの功夫道場だ。無論、俺もその一人

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反倫理委員会

王の間じみた静けさがあった。
 深手を負ったKの前に並ぶ三つのコールドスリープ装置には旧代文字で「映画」「漫画」「小説」と刻まれていた。

 闇の中。鞭のような蹴りを鼻先1ミリの距離でかわし、拳をガスマスクに叩きこむ。
 旧代の反倫理コンテンツが埋蔵されたカタコンベでは常に可燃性ガスが蔓延している。
 そこでは感情統制支配を行っている倫理委員会直属の剪定部隊が検閲を敷いている。
 Kはふらついた剪

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