逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

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ヘルムズ

遥々赴いたコルカタでエニ=リーが目にしたのはまたも兜と地獄だった。

対兜強襲部隊「イナバ」のクイ・スーツ部員200名の大半は、既に死体となって積み上がっている。最新型の対兜用クイ・スーツ達の背中には無数の矢。白銀だったペイントは赤褐色へ変わり、ヘルメットの『打垮_盔 脱兎』の文字は砕けた。
見上げると矢の群は未だ宙を旋回していた。

(苦しい、あまりにも苦しい!)

「莉ョオッ!」

死体達

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超密着!世界ランタンロイヤル

 我が魂は年一度ハロウィーンの夜に甦る その時地上で最も強大なジャック・オ・ランタンを産み出した者の願いを叶えて進ぜよう

 ジョン・バンボギンが死んだ、その暴力と異能を以って世界を牛耳る鬼子は腫瘍で呆気なく逝った。均衡は崩れ、世のアウトロー共は彼の遺言に野心を駆られるのだった。

 それから始まった世界ランタンロイヤルも今年で52回目、今回も我々取材班は独自に注目した選手達に密着取材を試みた。

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ナガヤマ・カイジュー・ディフェンス社「ジェットセイバーⅤ」墜落事件

 全長50mを超える巨大な怪獣が、住宅を、電柱を、自動車を、総てを圧し潰しながら歩みを進める。立ち向かうのは、上半身が緑、下半身が黄色に塗られた、全高10mほどの人型ロボット。サイズの差を物ともせず果敢に挑みかかるロボットだが、怪獣が吹き出す暴風に押し返され、有効な攻撃が与えられない。

 もはやあの怪獣を止めることは出来ないのか。人々がそう思った矢先、赤、青、紫で構成されたロボットが雲中から猛然

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弾除けの加護

深々と急所に刺したナイフを男から急いで引き抜く。その間にも背後で盾にしているテーブルへ銃弾が突き刺さる。
周囲を確認すると、右側から1人回り込んできていた。
そいつと俺がトリガーを引いたのはほぼ同時。『今回も』相手の銃は俺を逸れていく。そして俺の弾も『いつも通り』狙いを外れる。

男の胸を狙って撃った3発の弾は、壁に穴をあけ、テーブルのグラスを割り、そして腿を打ち抜いた。まずまずの成果だ。男は体勢

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月の光が人を焼く

 私を縛る縄が痛いけど、舌の感覚もなくなったから言えなかった。
 殴られすぎて頭がパンパンに膨れてぼーっとしてきた時、事務所のドアが開いた。
「待たせたな」
 とても背の高いムキムキな黒人が入ってきた。私の首なんか簡単にもぎ取れると思う。
「おっ、ゴリラケーキ。よく来たな」
 チビハゲが血だらけの革手袋を床に放って言った。
 黒人は私に近づいた。顔をじっと見てから、私の涙を拭った。殺しに慣れた人の

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ありがとよ
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或人形之足跡(アルヒトガタノソクセキ)

広漠とした荒野
普段ならば道を急ぐ商人が通るやもしれぬが今は誰も通りはしないだろう。
そう…荒野を埋め尽くす突き立った矢の海を歩きたがる者などそうはいない。
何があったかは分からぬ。
もしかすれば災害を招く巨獣を迎え撃つためだったのかもしれない。
だがそれらしきモノの姿もなく荒野にはただ矢のみが突き立たるのみだ。
何かの災厄を徹底的に封じるかのように隙間なく矢は荒野を埋め尽くしていた。
時が過ぎ鏃

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木霊のエルフに施す薬

暑い。坑道に足を踏み入れた途端にむっとした熱気がルメの頬にあたった。緩く下って行くにつれてそれは顎から汗を滴らせた。持参のカンテラを巡らせれば黄色く滑らかな岩肌ばかりが目に入り、輝石の欠片も見当たらない。

「この辺は全部採り尽くしちまった」

先を進む案内人が呟いた。”木霊のエルフ"らしくツルハシを背負い、終生鋏を入れることはないという翡翠にも似た髪の間から覗く背中は、松を思わせる鱗状の樹皮に覆

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祭りじゃ! 祭りじゃあ~!
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プライスシティ・ウォー

 「やはりヒック、殺すしかないと思うのだがウィーック」

 今期の自治会会長、全身にぶら下げた輸血パックから直接血管に酒を流し込んでいる男、泥酔酒屋のガルゴールが漏らした。

 「賛成」「そうだな」「やっちまおう」「よし、殺そう」

 全員が口々に同意し、顔のど真ん中にバカでかい口だけがある異形肉屋のハルズマンが立ち上がると、拘束されていたヴィールス・カンパニー営業の首を肉切り包丁で切り落とした。

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アリガトゴザイマス! 嬉しいです!
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お絵かきをやめて

 寝て起きたら、俺は子供が描いたクレヨン絵みたいな世界にいた。
 助けて欲しい!
 ここはどこ、というか何なんだこれは!?
 誰か、俺が見えるか?
 この声が聞こえたら返事をしてくれ。
 誰かいないか?これはいつ終わる?

 断じて俺はドラッグなんて手を出してないし、心の病気も患っちゃいない。
 いや、ひょっとしたら俺の精神はもう壊れてしまったのか?今は自信がない。
 とにかく視界の全てがクレヨ

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ゲート・ブレイカー 第一話「破門」

「ハチコ、戻ったぞ」

門関連犯罪対策特別捜査隊と書かれた扉を開き、小柄な女性が入ってくる。黒髪のポニーテール。勝ち気な瞳。

「ナナミ先輩、平気なんスか。さっきの現場で派手にフッ飛ばされてましたケド」

長身の男が立ち上がり、心配そうな視線と声を寄越しながらバタバタと駆け寄ってくる。不潔な訳ではないが、ボサボサとまとまりのない栗毛。眠そうに下がったタレ目。対照的な二人組である。

「アタシは軽い

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