逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

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T.Q.B.ファイターズ!

白く光る飛行機雲が、少年の視界を横切った。
 それを眼下に眺めながら、少年は操縦桿に少し力を込めた。少しだけ下を向いたコックピットが、向かい風に揺れた。シャツに包まれた、少年の乳首にひんやりした感覚が走る。少し顔を赤らめつつ、少年は操縦桿を左に傾ける、まるで最初からそこに上昇気流が吹いていることをわかっていたように、彼の乗る戦闘機はふわりと浮かんだ。

 男性の乳首が、単なる痕跡器官ではないことが

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消えゆく世界、再生の街へ

自殺志願のこどもが笑ってる。
それでも、鼓動どくんどくん。

俺のこの気持ちは、絶望と呼べばいいのだろうか。

うっすらと月が顔を出す夕暮れ時、高校からの帰り道で俺が住むS市A区の空は無数のミサイルに埋め尽くされた。

こんな事態はやはり、空想科学(イマジナリー)が織りなす芸当なのだろうか。
想像力が物質を創造する科学技術、空想科学(イマジナリー)。世の中に公表されたのは2年も前ではなかったと思う

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冷凍庫の冷や飯食い

世界中で起きた『大変異』が第何次かの世界大戦と一緒に文明まで終わらせたのが約半世紀前。人類は文明の残り香で何とか生き延びている。

 北海道。ここは年間平均気温-57℃。動物はミュータントへと変貌した試され過ぎる大地。
 ここで俺は文明遺物回収業者を営んでいる。
 前時代の工場跡地等に潜る危険な商売だ。
 主に扱うのは冷凍食品。食物が全部人工食品になったいま金持ち老人達に大人気。

 ◇◆◇

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感謝の印に奴隷の心臓を祭壇に捧げよう
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シェイム・アフター

軍規違反個体の記録を再生。三倍速。一時停止。該当箇所に到達。再度再生。

 足元に出来た泥濘みの原材料は有機生命体の残骸だ。つまり、彼等で言うところの「人間の腑」。頭上を砲弾に巻き上げられた土と共に砕け散った人間が飛んでいった。現在この状況を認識し思考する当方、戦術二足自律型機械兵(個体識別番号「甲寅ー廿号」)は視線を地面から移さなくてもそれを知覚できた。甲寅ー廿号は長い塹壕の途中で膝を抱えて座り

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スクラップラー・ジョオ

──このマシンを造ったヤツは、イカレている。

棺桶のごときコックピットのなかで、俺は反射的に操縦桿を操作する。マシンの両腕が、胴体のコックピットと頭部センサーを守る。

防御態勢をとる鋼の前腕ごしに、サブマシンガンのマズルフラッシュが迸る。同時に、着弾の衝撃が操縦席を揺さぶる。

機関銃が吐き出す弾丸を、両腕の装甲が弾く。弾く弾く。弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾く。

敵機はフルオート

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アルフォンス・ミュシャ:死季

これがミュシャか――暗殺者はそう思った。ひび割れたような肌の深い皺に、柳の枝を思わせる長い髭。藤椅子に浅く腰掛け、現世を忘れたかのごとく微睡んでいた。初代ボヘミア皇帝にして最強の魔術師、アルフォンス・ミュシャは当年とって79歳になる。

 燭台が照らす暗い広間の隅で、殺し屋は肩透かしを食ったような気分で短刀を手に取った。そしてその瞬間、自分が死地の只中にあることを知った。

「解れよ」呆けたように

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気になるあいつは宇宙人

月影織姫はいわゆる学園のアイドルなどと呼ばれる女子生徒だ。流れるように綺麗な黒髪にモデル顔負けの顔、学年トップクラスの成績という才色兼備の優等生。それでいて才能をひけらかすことはなく誰に対しても優しい性格の良さ。人気にならない要素が見当たらない。

彼女に告白しものの見事に玉砕した男子は数知れず。全員が丁重にお断りされたという。

かく言う俺、大空朝陽も彼女に興味がないといえば嘘になる。月影織

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ゴールデンスベアー

敵機体をパワーに任せて抑え込み下敷きにする。馬鹿が!重量級のベアー型が軽量級のガゼル型で振り解けるものか。
 コックピットを狙ってクローを振り下ろす。数度の打撃で完全にひしゃげた。
 18m級の格闘戦は俺の十八番だ。

 敵機全撃破を確認して機体から降りる、外はひどい有様だ。
 歩兵共は既に全員、近接用バルカンでミンチに変えた。
 「こいつら何者だ?」
 IFF(敵味方識別装置)を切った最新機体

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徳が高い!
19

世界の歴史シリーズ:アメリカ合衆国 ─ 多民族社会の光と影 〜失われたサラダ・ボウルとしての未来〜

人種のサラダボウルというのは、かの大国アメリカを象徴する代名詞のひとつであった。
 トマト、レタス、キュウリにオニオン。様々な種類の野菜が混ざりあい、それぞれの持ち味を活かしながらサラダというひとつの料理として存在するというそれは、文化的多元主義の象徴にして合衆国を表すキーワードとして知られている。
 実際、人口の多数を占めるのは白人ではあったが、ネイティブ・アメリカン、黒人、ヒスパニック、アジア

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冬優子を救ってくれ
10

メカニカル・ピルグリム

「おい、そちらに何かあったか」
「いやダメだな…もうガラクタしか」
薄暗い部屋で、二人の泥棒が仕事をしていた。
泥棒。そう泥棒だ。だがそれを咎めるものはいない。とうの昔に滅んでいたからだ。
「こちらもダメだ…このバッテリーはもう切れてるし、この記憶媒体は旧式すぎる」
「おっ!こりゃまだ動きそうだぜ」
一人の男が映像端末を見つけて電源を入れる。
『ロボットの生み出す新しい社会。低燃費で人間に代わる新

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