逆噴射小説大賞2019:エントリー作品
転校生は巨獣と微睡む
「グッド・アフタヌーン、吾が友」
目の前にいる、見目の良い男はニヤニヤしながら大仰に両腕を広げる。
長い白髪を一つに束ね、赤いロングコートを着た姿は、漫画に出てくる登場人物めいている。
僕の夢に何度も出てきた男で、顔見知りだ。
夢の中でって注釈をつければ、だけど。
で、今は真っ昼間の午後四時で、僕は下校の真っ最中。
そして、僕は殆どの人間とおなじで、映画と違って夢と現実の見分けく
世界の歴史シリーズ:アメリカ合衆国 ─ 多民族社会の光と影 〜失われたサラダ・ボウルとしての未来〜
人種のサラダボウルというのは、かの大国アメリカを象徴する代名詞のひとつであった。
トマト、レタス、キュウリにオニオン。様々な種類の野菜が混ざりあい、それぞれの持ち味を活かしながらサラダというひとつの料理として存在するというそれは、文化的多元主義の象徴にして合衆国を表すキーワードとして知られている。
実際、人口の多数を占めるのは白人ではあったが、ネイティブ・アメリカン、黒人、ヒスパニック、アジ
Midnight Hero ─あるいはクラブで酔いつぶれた俺が異世界に召喚されて救世主になる話
〈エピローグ〉
「じゃあ、これでお別れだ」
三日三晩続いた宴は強烈な頭痛を置き土産に残して去った。二日酔いに始まったこの冒険が二日酔いで終わるのもまた道理。こちらの世界にいられるのももう僅かだ。
彼女は俺の言葉にそうね、と言って俯く。
夢から始まった夢のような日々は紛れもなくREALだったが、俺にとってのREALはここではない。帰らねばならない。そう、誰もが理解っていた。
だが辛気臭いのは性に
テルヒコの真っ赤なウソ
テルヒコはチェイサーの黒ビールを一気に飲み干した後、
人生で初めて思い切り女に殴られ吹っ飛んで血を吐いた。
「この嘘吐き」
(痛い!)とテルヒコは呟いた。
知ってのとおり、テルヒコの人権は法令実験都市_火鳴姫市には殆どなかった。市民ポイントが-2656ptだったからだ。フィクションが許されず広告も流せないこの街で、嘘吐きに人権などあるわけがない。
このホコリ臭い飲み屋の連中は一
エスカレーターGERO
★吐しゃ物の表現がありますので、ご注意ください。また、お仕事がつらい方は、ご遠慮ください。
(ここから本文)
私が通勤に使う地下鉄の駅には、地上に向かう長いエスカレーターがある。今日も、地下鉄を降りると、いつものように、このエスカレーターに乗った。乗客はみな左側の手すりを持ちながら、お行儀よく並んでいる。前を見ると、先頭に学生がいて、じっとして歩こうとしない。右側を追い抜いていくものもあるが、