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逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

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小説の冒頭800文字でCORONAを勝ち取れ。ダイハードテイルズが主催するパルプ小説の祭典、「逆噴射小説大賞2019」のエントリー作品収集マガジンです。だいたい1日1回のペースで…
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#短編小説

転校生は巨獣と微睡む

転校生は巨獣と微睡む

「グッド・アフタヌーン、吾が友」

 目の前にいる、見目の良い男はニヤニヤしながら大仰に両腕を広げる。
 長い白髪を一つに束ね、赤いロングコートを着た姿は、漫画に出てくる登場人物めいている。

 僕の夢に何度も出てきた男で、顔見知りだ。
 夢の中でって注釈をつければ、だけど。
 で、今は真っ昼間の午後四時で、僕は下校の真っ最中。

 そして、僕は殆どの人間とおなじで、映画と違って夢と現実の見分けく

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エスカレーターGERO

エスカレーターGERO

★吐しゃ物の表現がありますので、ご注意ください。また、お仕事がつらい方は、ご遠慮ください。

(ここから本文)

私が通勤に使う地下鉄の駅には、地上に向かう長いエスカレーターがある。今日も、地下鉄を降りると、いつものように、このエスカレーターに乗った。乗客はみな左側の手すりを持ちながら、お行儀よく並んでいる。前を見ると、先頭に学生がいて、じっとして歩こうとしない。右側を追い抜いていくものもあるが、

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ひとみ崩壊

ひとみ崩壊

私は、ひとみの瞳が好きだ。
ひとみは、とても澄んだ瞳をしている。
ひとみは、キスをするとき、目を開く。幸せを瞳に焼き付けるためだ。
ひとみは、悲しいとき、目をつむる。悲しみを胸の奥にしまいこむためだ。

ひとみの瞳には、欠けがある。右目の少し上の方、黒い瞳の中に1mmにも満たない小さな白い長方形の欠けがある。
ひとみは、私の目を見て話し、私も、ひとみの目を見て話す。ひとみと話していると、どうしても

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『牧竜』

『牧竜』

 湾曲した杖を突きつけ羊たちの鼻先から進行方向へ差し向ける。先頭のリーダーを誘導すれば羊たちは驚くほどの一体感で曲がりくねる山道を下っていく。ラマの背に揺られながら牧場へ帰りつくと祖父が山鹿のシチューを用意して待ち構えていた。硬いパンと山鹿のシチューはあまり好きではなかったが遠い日の思い出が香辛料となり祖父が骨までしゃぶりながらワインを愉しむ姿を思い出すと笑みがこぼれてしまう。

 羊や妖精と戯れ

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運命のゲーム

運命のゲーム

結婚してもう10年が過ぎた。

10年も経てばどこも同じようなものだと思うけど、私と夫の間には恋のような感情はなくなり会話も必要最低限しかしなくなっている。ただ親として子供を囲むだけの共同生活に、不満はないけど刺激もない。

私はそんな日常が退屈で、ある日、文章を書き始めた。文章を投稿するサイト「note」に、日記のような短い文章を投稿し始めたのだ。

それから4ヶ月、その間にいろいろな人の文章を

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迷い猫

ミケがいない。
近所を探し回ったけど見つからない。電柱に張り紙したけど出てこない。
家出かな、死んじゃったのかな。
動物救急病院に電話した。「うちには来てません。」
保健所に電話した。「そんな猫は保護してません。」
市役所の道路課に電話した。「猫の死骸は回収してません。」
下水処理場に電話した。「処理場には流入してません。」

途方にくれた。
遠い遠い親戚のおじさんに電話した。

すると、電力会社

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初もみじ

初もみじ

与作は、きみどり色のまんじゅうを眺めていた。
与作の左には赤子を抱いた妻が、右には爺がまんじゅうを眺めている。
「何かが足らぬ。」
与作は、そうつぶやくと目を閉じた。

与作の前には山があり、その頂にはもみじの木がある。与作は、腰に竹筒を付けて、正面から山に登っていった。竹筒には筆が二本と赤と黒の墨壺を忍ばせている。与作が駆けると、筆が触れ、カタ、カタと音を立てた。

女がいた。女には、赤子がいて

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死神の作るメシがうまい

死神の作るメシがうまい

「”切り裂き魔”ではないな」

 ホワイトボード一面に貼り付けられた資料を眺めていた長ヶ部警部の重々しい一言は、静かであったが人が寿司詰めになった室内に響き渡った。
 今の今まで凶器の違いや、犯行時刻の関連性を議論し合っていた部下達は互いに視線を交わし合った。

 長ヶ部警部だけが、”切り裂き魔”と唯一相対し、凶刃に晒されて、なお生き残り、復職を果たした人間に他ならない。

 殺し屋専門の殺し屋、

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人生の悪役

人生の悪役

 幸八は3歳の娘を殺してしまった。例の怒りの発作が起きたのだ。
 昼飯時のフードコートで、ハンバーガー越しに顔面をガラスコップに叩きつけたのち、破片で喉を抉ってやった。
 我に返ったときはもう遅い。
「ち、違うんだ。娘の自殺を止めようとしたんだよ、本当だ。なっ」
 弁明の後、幸八はぐったりした娘を放り捨ててその場から逃げ出した。

 信号を無視してクルマをぶっ飛ばし、新築の一軒家に幸八は帰宅した。

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カイジュウ・ガール

カイジュウ・ガール

 私はランウェイを歩くモデルのごとき優雅さで、リノリウムの床を歩いていた。しかしこの頭痛が、波のように押しては引いていく痛みが、口元に歪んだ笑みを浮かばせる。

 もちろん本物のモデルなど知らないし、興味もない。だが今は、そういう気分だったのだ。

 身に着けた簡易服は血に汚れ、髪から垂れる赤い水滴が歩いた道に点々と印をつける。

 長い通路の先に銃を構えた男たちが集結し、一斉に銃口をこちらに向け

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『有権者八百万九十九の独裁』

『有権者八百万九十九の独裁』

《ツクモ、起きなさい。賛成六億票の過半数で結審しました。あなたは可及的速やかに起床する必要があります》

「いっけねー!遅刻遅刻!」

 激しいキックに叩き起こされた長身の少年が鳩サブレを頭からかじりながら長い坂を駆け下りていく。

「ぐわわっ!!」

 点滅し始めた横断歩道に差し掛かった直後に急停止!眼前を猛スピードのトラックが駆け抜けていった。

《ツクモ、信号停止違反及び危険性走行物の接近に

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寄生生物Xの優雅なる侵略

寄生生物Xの優雅なる侵略

 俺には一つ誰にも言えない秘密がある。「お帰り、真司君。仕事はどうだったかな?」それは、喋るネズミと一緒に生活している事だ。こいつは随分と愉快な奴なんだが、今日の声色からは何か緊迫した響きを感じる。

 「いや、今日もまた怒られちゃってさ…部長のやつも少しの事で起こるようになってきちゃって…大変だよ。」「ふーむ…やはりかい。」ネズミは言葉を続ける。「遂に奴らが侵略を始めたのかもしれない…」この胡乱

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フラグ管理事務所

フラグ管理事務所!

ここは何らかのフラグが発生した際に運命を決定する業務に従事する天使達が働く場所である!今日も彼等の仕事場を覗いてみよう!

「あっ、あの兵隊戦場で子供が産まれる話しているな。一週間後に敵方の襲撃があるからそこで戦死させとくか……」「あの勇者負けたけど水におちたな。ここで死ぬ予定だったが急遽変更だ。」「怪獣が巨大化したぞ。敗北する運命に決定だ」

そう、君達がよく知る『死亡フラ

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ハイ ・ ライト

1.独白
「はい、全てお話します。お話しますとも。
その前に煙草を吸ってもいいでしょうか。ありがとうございます。いえ、まだほんの1,2年です。
さて、どこから話しましょう。そうですね、彼女と出会ったのは2年程むかしのことでした。ええ、おっしゃる通り彼女の影響です。珍しくもないでしょう?
私は彼女を愛していましたし、彼女も私を愛してくれていました。それだけが私たちにとって信じられるもので、それだけが

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