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黄昏と夜とを別つように、丸みを帯びた有機体が西の空へ堕ちてゆく。 対龍迎撃専用飛空挺。 その格納庫に並んだ九つのケージから〈猟犬〉と呼ばれる対龍種強化型外骨格に身を包んだ一団が宙に放たれる。 エイリアンさながらのつるりとして鏡面めいた黒い頭部、棘の生えた獰猛な四肢。そして咒詛防御仕様の刻印済甲冑が全身を覆っている。 視界は良好、ノイズも許容範囲。 僕らは速やかに〈灰の坩堝〉を降下して此度の厄災の震源地ーー虚龍の巣へと近づいていく。 僕らに名前はないが識別
題名:ケルトの魔弾 妹が殺されたのはハロウィンの夜、裸体の腹がさかれていた。額にはケルト文字で呪いときざまれている。私は成人すると警察に入隊した。 「……タイキ……セヨ……」 骨伝導イヤホンマイクは聞き取りにくい。警察用の簡易エスペラントでも、ノイズで消えそうだ。 足下に小指ほどの火蜥蜴が私の落としたタバコの火を吸っている。大きくなれば厄介だが、今は見逃す。 (ハロウィンの夜よ、魔物の力が増してるわ) 肩に小さくのっているケットシーは、まだ幼いから簡単な仕
俺はひとり浜辺を歩いていた。日は沈んだばかりで、空は橙色から藍色に変わりつつある。海岸は緩く弧を描いている。対岸には俺が住んでいた街が見える。街は輝いている。ビルの谷間にホログラムの巨人が立っている。水着姿の美女だ。手には炭酸飲料の缶がある。街からCMの声が聞こえる。途切れ途切れで、なにを言っているかはわからない。 海岸線に沿って堤防が伸びている。堤防の上には道路がある。ときどき、車が通る。ヘッドライトが俺を照らしては遠ざかっていく。海風を嗅ぐ。夏の海の臭いがする。生き物が
ダンゴムシに似た装甲車が、轟音と共に道を過ぎる。風圧にカケルはよろめいた。輸送データが大金になるにしても、あれを襲うハンター達は正気じゃない。 カケルはUSBメモリを片手に図書館へ急ぐ。すれ違うスーツの男は、頬に傷跡。学校をサボるカケルを、見咎める良識は絶滅して久しい。 寂れた図書館は利用者ゼロ。当然、パソコンスペースも無人だ。埃を被ったPCが墓石のように並ぶ。ネットは死に、代わりにダンゴムシが走る。 カケルは端末を起動。「蔵書検索」「よい子の辞典」は無視して、