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逆噴射小説大賞2023:一次&二次選考突破作品

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小説の冒頭800文字で競う逆噴射小説大賞2023! その二次選考の突破作品集です。■応募要項 https://diehardtales.com/n/n23ff04fae3b4 ■…
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#逆噴射小説大賞

🌵逆噴射小説大賞2023:一次&二次選考コメンタリー(逆噴射聡一郎)

よくきたな。おれは逆噴射聡一郎だ。おれは毎日すごい量のテキストを書いているが、誰にも読ませるつもりはない。逆噴射小説大賞2023の二次選考を終えたおれは・・・すがすがしい朝焼けのSALOONでテキーラを飲みながらこれを書いている。来週には最終選考も終わり、大賞作品を発表できるだろう。 今年はニューカマーがかなり多く・・・・応募点数も50近く増え、おれは新鮮で無法なパルプをたくさん読むことができて嬉しかった。いっぽうで、例年に比べて二次選考のラインは少し厳しくなっている。

ペンローズの迷宮

 マインドセット。1K8畳の部屋。奥にベッド、手前にTV。足元で子犬が吠え……違う、犬が居たのはアレより昔。実家に居た時。 「イメージ、イメージを固めろ……」  銃撃戦の音が響く。緊迫した中で私は、正確に主観時間軸から10年前の自分の部屋を見つけなければならない。 「焦点を合わす……」  抱いた赤ん坊が泣き喚く。20年前への輸送は熟練の『運び手』の私にとっても離れ業だが、状況は集中を許してくれない。母親業は大変だと聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった。 「掴

「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」

 身の丈七尺の大柄。左肩の上には塵避けの外套を纏った少女。入唐後の二年半で良嗣が集めた衆目は数知れず、今も四人の男の視線を浴びている。  左肩でオトが呟いた。 「別に辞めなくたって」  二人は商隊と共に砂漠を征き、西域を目指していた。昨晩オトの寝具を捲った商人に、良嗣が鉄拳を振るうまでは。 「奴らは信用できん」 「割符はどうすんの」  陽関の関所を通る術が無ければ、敦煌からの──否、海をも越えた旅路が水泡に帰す。状況は深刻だった。  口論が白熱する最中、遂に視線の主達は姿

小説冒頭『それでも僕は離脱する』

  『100%保証 あなたの未来に永遠のパートナーを 永恋Eren』  仕事も軌道に乗ってきたし友達の式にも呼ばれたし、真面目に結婚でも考えようかと思っていた矢先。スクロールさせた指の先。  笑えるくらい嘘くさい婚活アプリ。  それでもふと、試してみたくなった。  魚心に水心、ほんの出来心。  僕は飲み屋で生と唐揚げを流し込みながら永恋をDLした。 「特技、幽体離脱っと」  こんなふざけた事を書く奴いるか?  でも、これこそ本音。  信じてくれるコが本当にいるのなら

怪奇・雲中艦現る

 一隻の貨物船が、シイワ諸島を航行している。  上下左右に散らばる無数の小島の合間をおっかなびっくり進むさまは、群れからはぐれた老齢のクモヰアシゲクジラのようだった。  事実、その船、エスペランザ号は老いていた。船体には錆が浮き、四基の浮遊機関のうち二基は故障している。  老骨に鞭打つように、甲板にはコンテナが満載されている。眼下の雲海に落ちた影は、奇妙にねじくれた魔の城のようだった。  ――急げ、急げ!  船長を焦らしめるのは、予定より伸びない船足ばかりではない。  空賊で

星を射つ確率 

 深夜2時の天文台にフミとミサ。フミは猟銃を持ち、ミサの手には一眼レフカメラ、望遠鏡まであと数メートル。終わりが近い。  始まりはそう、西暦2038年カメラからビームが出るようになった。突然に。  決定的だったのは2年前にサッカー世界大会で決勝ゴールを決めた時だった。無数のカメラがその選手に向けられた瞬間、彼にビームが突き刺さって斃れる様を全世界が目撃した。スマホもビデオカメラも全てが武器になった。なんでも記録に残せる時代は終わったのだった。   西暦2040年長野県山