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逆噴射小説大賞2023:一次&二次選考突破作品

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小説の冒頭800文字で競う逆噴射小説大賞2023! その二次選考の突破作品集です。■応募要項 https://diehardtales.com/n/n23ff04fae3b4 ■…
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#和風ファンタジー

胡蝶奉髪録・小夜女書く

 有鶴八年閏十月中旬払暁、御城下を抱くように聳える御杉山に火が立った。火の粉は滑るようにお山を駆け下り、明け切る頃には本丸を焼いた。 「お方様、お方様」  小夜は座りもせずに奥の間の襖を開け、御側室様と姫様、若様を連れ出して、城の廊下を走りに走った。  小夜はお方様の財産だ。お輿入れの時、箪笥や打掛や絵入りの歌留多と一緒に罷り越した。その証しに、お方様の蒔絵付きの小箱の中には小夜の髪がひと房、懐紙に包んで仕舞ってある。   木と紙と綿とが燻される中、火の見櫓の半鐘が遠く