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有鶴八年閏十月中旬払暁、御城下を抱くように聳える御杉山に火が立った。火の粉は滑るようにお山を駆け下り、明け切る頃には本丸を焼いた。 「お方様、お方様」 小夜は座りもせずに奥の間の襖を開け、御側室様と姫様、若様を連れ出して、城の廊下を走りに走った。 小夜はお方様の財産だ。お輿入れの時、箪笥や打掛や絵入りの歌留多と一緒に罷り越した。その証しに、お方様の蒔絵付きの小箱の中には小夜の髪がひと房、懐紙に包んで仕舞ってある。 木と紙と綿とが燻される中、火の見櫓の半鐘が遠く