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摩撫甲介
2021年10月31日 23:52
横薙ぎに椅子を男のこめかみに叩きつける。 吹っ飛んだそいつに椅子を投げつけ、腹の包丁を掴む。滑る。奥歯が割れそうになる。抜ける。 思わずたたらを踏む。 ゆっくり跳ね返ってくるそいつ。壁に押し付け、倒れ込みながら、うなじに包丁を押し込む。硬いものを断ち切る感触があった。 救急テープでスーツの穴を塞ぐ。アドレナリンとエンドルフィン剤の追加ボタンを押す。ヘルメットの血を拭い、浮いている斧を掴む
2021年10月31日 12:37
犬の群れが追う。 ドアを叩きつけ、もつれる手で鍵を刺す。 ロックが掛かり、吠え声と衝撃がドアを貫いてくる。 瑠璃子はバッグに手を差し込みながら、息を吸い、視線を走らせ、足を運ぶ。 バスルーム、キッチン、リビング…… 音。 クローゼット。 背後。「危なかったな」 振り向きざまにバッグを投げる。 受け止めた男の鉄仮面に照準が重なる。 銃火。金属音。 伸びる腕。 銃弾が潰
ドント
2021年10月11日 22:12
「すいません、あの」 その声で目が覚めた。若い女が、私の顔を覗き込んでいる。 背と尻に硬いクッションの感触、心地よい定期的な振動。あぁそうだ、俺は終電に乗ったんだと思い出す。ガラガラの車内に座り、そのまま眠ってしまったらしい。 寝起きのぼんやりする頭を上げると、乗客が四人立っていた。 先の若い女にスーツの中年男、私服の青年、老婆が、身を寄せ合うようにしている。 四人の顔には一様に不安げ