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逆噴射小説大賞2023応募作品一覧

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逆噴射小説大賞2023の全応募作品を収集するマガジンです。コンテストの詳細はこちら:https://diehardtales.com/n/n23ff04fae3b4   Phot…
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#小説

2023年10月に「逆噴射小説大賞2023」を開催します

◆逆噴射小説大賞とは◆この大賞イベントを主催する ダイハードテイルズ/Diehard Tales は、1999年に誕生した、電子的なパルプノベル・マガジンです。 オンライン上での小説作品発表とマネタイズ、そして読者との相互関係と社会に及ぼす影響について常に考え続け、新分野の開拓へも勇敢に挑戦してきました。そのアティチュードの根底には、社会派コラムニストである逆噴射聡一郎先生の挑戦的なスピリットと、CORONAビールのようなエネルギーがあります。 逆噴射小説大賞とは、ダ

遺灰被りのコフィン・ポーター

 冒険には危険が付き物だ。だからこそ、彼女の仕事も尽きない。 「こちらシリス。目標地点に到達しました」 「了解、対象はそこでロストしている」  シリスは、自らを覆う手足の付いた棺を立ち上がらせる。そしてコフィンが背負うのもまた、棺だ。これが、彼女の仕事だ。  場所は、現代にはない意匠が彫り込まれた遺構。近年一夜にして、こつ然と発生した山に発見された迷宮。未探査の遺跡とあってこぞって冒険者達が押し寄せた。その後は、この通り。  コフィンの眼を通して、シリスは辺りを探る。

レザレク

 時間が無い。早く殺してあげなければ。  俺の全身を包む特殊作業服を、その思いと熱気とが満たしていた。  満島六郎。79歳。推定、ベッドで急死。  満島栄子。74歳。同、転倒し頭部を強打、死亡。  問題なのは、寄り添う様に死んだ彼らに隣人が気付くまで半日要したことだった。 「白化、始まってますね」 「ああ。マズい」  俺は六郎氏の頭部にスキャナを当てる。死後17時間。危険域だ。頭全体を白い光が覆い始めている。残念だが死を悼む暇はない。 「夫さんは緊急処理を行う」 「

平等院鳳子を殺せない

 鱈野エビスは息を呑んだ。  横断歩道の向こう。桜並木に一人の少女が佇んでいる。桜舞う春の風に吹かれながら、少女の髪は艶めいて見えた。その凛とした佇まいは神々しく、畏敬の念すら抱かせる。  平等院鳳子。  私立夢殿学園のアイドル……いや、カリスマ。  エビスは高鳴る胸を押さえた。チャンスだ。ようやく二人きりになれる。下校時のこのタイミング。今なら鳳子の取り巻きはいない……だから。  やつを、殺せる。  鞄に隠したナイフを握りしめ、エビスはゆっくりと歩を進めた。  俺は知っ

時効X年

1.1946年東京 天津原岳道 「ロクさん、この遺体が…」  1946年、セミの声すらない東京新宿のど真ん中で、刑事天津原岳道はその死体を見上げていた。辺りには物陰に隠れて人の気配が感じるが、ここは闇市。配給以外に頼っていると知られるわけにはいかない人々は、姿を隠し遠巻きに現場を眺めているだけだった。 「ああ。捕まるのを覚悟で伝えた野郎が言うには、突然現れたらしいぜ」  ロクさんと呼ばれた男は、カンカン帽を被っていてもまだ暑いのか扇子を扇ぎながら天津原と同じように見上

ドラゴンアンドデートドラッグ

「ヤバい」  わたしが復唱するとボスは首を振る。そうじゃねえ、今回ばかりはマジでヤバいんだ。何かに乗り上げて軽自動車が宙を跳んだ。がくん。着地の衝撃。車はガタガタの道をかっ飛んでいる。 「市街地にドラゴンが出た。それはいい。俺の責任じゃねえ。クスリ積んだトラックが検問に引っかかった。それもいい。織込み済みだ。ゲートのポリ公にいくらか握らせればいい。必要経費だ。全然ヤバくない。おいミンミン!行先変更だ、権田のトンネルに向かえ!」  指示に合わせて三人を乗せたタイヤが鳴る。

貪婪王の婚礼

 鏡のような湖に、月光のもと進む一団の影が映る。  象ほどの馬たちが列をなし、馬車に誂えた金糸の大天幕は、月明りを受けて星のようだ。  楓の国の姫、サラの花嫁行列である。  そんな煌めきを映す湖面が、暗く、赤黒く染まっていく。  血を流しているのは、騎士たちの屍。 「ウルシド!狗め!姫を売るつもりか!」  最後の騎士が虚空に叫び、 「ええ、狗ですとも」  背後に現れた男に斬られた。  湖畔に静寂が戻る。  男は剣を収め、手鏡を取り出す。  映るのは、黒い執事服と銀

幻獣搏兎 -Toglietemi la vita ancor-

 「やめた方がいいよ」  隣を歩く少女は、そう言って顔を覗き込んできた。長い金髪が揺れる。  クリスマスの夜。大通りは、カップル達で溢れている。  行き交う人の中で、少女の姿は浮いていた。バニースーツを着ているのだ。どう考えても屋外で着る服ではないだろう。  だが、通行人達が彼女に目を向ける事はなかった。  何故なら、彼女は俺が脳内で作り出した幻覚だからだ。 「向いてないよ、蓮には、殺し屋とか」  幻聴。この言葉も、俺にしか聞こえない。  少し前から視える様になった、スト

ザメラの慟哭

 奴が現れたのは、10年前とちょうど同じ時間だった。 『怪獣バグラ、街に上陸しました! 次々と建物を破壊しています。周辺住民はシェルターに避難を――』  高角月美は自分のラボから中継を見ていた。映し出される街の惨状が、20年前の記憶と重なる。彼女の祖父の乗った戦車は、あの怪獣の脚で潰された。  母は科学者だった。怪獣に有効なウィルスを開発していた。10年前、実用化されたそれを防衛隊員の父が撃ち込んだ。しかし薬は効かず、怪獣の尾が父のヘリを墜とした。  祖父も、父も、母

グッドデイズ、マイシスター。

 机への平手打ちが、研究室に響く。 「ですから。AI学助教授の貴方に、コレの自律AIを作って欲しいんです」  合歓垣燻離と学生証で名乗った彼女は、スマホを突きつけた。映るはVアイドルのライブアーカイブ。  青白黄に光るステージ上、ツインテールとドレスを揺らして踊り、笑顔を振り撒き熱唱する。 『まだまだ! 次はこの曲!』  熱量全開のパフォーマンスの中、ウインクのファンサも忘れない。  音夢崎すやり。  登録者84万人の、今に煌めくVアイドル。  コレの自律AI――人の

ペンローズの迷宮

 マインドセット。1K8畳の部屋。奥にベッド、手前にTV。足元で子犬が吠え……違う、犬が居たのはアレより昔。実家に居た時。 「イメージ、イメージを固めろ……」  銃撃戦の音が響く。緊迫した中で私は、正確に主観時間軸から10年前の自分の部屋を見つけなければならない。 「焦点を合わす……」  抱いた赤ん坊が泣き喚く。20年前への輸送は熟練の『運び手』の私にとっても離れ業だが、状況は集中を許してくれない。母親業は大変だと聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった。 「掴

天使の蝶

 空に響く旋律。白く灼けた街の骸。  天使殺しは稲妻を走らせるように、左右へ折れながら駆ける。  狩りの獲物を追うように、風切り音が耳を掠めた。  自動拳銃のグリップを握り締める。こんなことを長く続けてはいられない。銃弾は言うまでもなく、体力も集中力も有限なのだから。    躊躇いなく、半ば崩れた壁を跳ぶ。束の間、視野が大きく開けた。  白大理石の彫像じみた、細い体躯と一対の翼。  光の亡い、灰白の眼。    天使の眼が、機械的に天使殺しを捉えた。  咄嗟に、左手でナイフを

タマアリタマナシタマカケタマヌキノホシ

序「ひぇあああ!この子!タマナシだよぉ!」  産婆が腰を抜かしながら、産湯に浸かる赤子から後ずさる。忌むべきものが己の両腕にあった嫌悪感。咄嗟に締めなかったのは、奇跡と言えた。 「今すぐこの子を絞めるべきだよぉ!」  しかし奇跡も長くは続かない。タマナシは殺す。産婆は村の掟に従い男にそうするべきだと言う。殺さなければどうなるか。殺して掟を守れと急かす。 「…いや。この子は死なせない」 「あんた!タマカケになる気かい!?あんたもその子も!死んじまうよぉ!」  だが、男は産婆

トキシドロップ・ロリポップ

 林檎飴のやつが誰を好きになったかなんて知りたくもなかったけれど、入学以来のペアとしては当然察するものがあるわけで、その告白が玉砕することは死体になって帰ってくる前から知っていた。  もちろん、それは問題じゃない。この学園では、生徒の価値は致死量で決まる。体重÷殺した人数。至極単純なその計算式に従うのなら、わたしの成績は平均ちょい上の126gで、林檎飴はドベのどん底55321g。体重丸出しのそのスコアは生徒以前に乙女として失格で、そんな出来損ないが鈴蘭坂先輩に告ろうだなんて