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白い息を吐いて、1杯では値段もつかない安酒をあおる。とうてい酔えないこれは地下墳墓の探索のお供に相応しい。石造りの不潔で不気味な通路をひとり歩く。ときたま同業者か化け物の物音が彼方から聞こえてくる。骸骨はカチャリ、ゾンビはベチャリ。ただし、レイス……救い難き悪意に満ちた魂の怪物からは、何も聞こえない。寒気だけが奴を感じる唯一の手掛かり。だから安酒で暖まり感覚を研ぎ澄まさなければならない。 長い通路の最後に行き当たり、腐った木の扉を静かに開ける。蝶番の軋む音が響くが、化け物ど
9月30日、米下院はウクライナ追加支援の予算案を否決した。 DCの地下のセーフハウスに最後に入ったのはケリガンCIA副長官だ。重厚な鋼鉄製の扉が閉まった。あらかじめ待っていたのは国防総省の上級分析官、米国海軍の准将の2人だった。 「台湾侵攻はまだタイミングではない。やはり中東だ。昨年からイスラム過激派のIAIJが計画しているテロがある。これを利用する。現大統領の支持率アップになるし第三次世界対戦も夢ではない」 ケリガンがまとめた。彼らはウクライナに替わる戦争を必要として
「酒だけ飲んで生きていけるって知ってるか? 必要な栄養を摂れていないからあちこちおかしくなるんだが、飲んで死ぬのと、飲まずに死ぬのと、どちらを選ぶかなんて考えるまでもないだろう?」 「ドリンク・オア・ダイ、飲むか死ぬか、て昔はよく言ったが、今は違う。ドリンク・オア・ドリンク。少し飲むか、多く飲むか。短い間飲むか、長時間飲み続けるか。『二日酔いを恐れるならば、三日三晩飲み続けなさい』と言った聖人もいる。流れる汗が酒臭くなったり、話す言葉が酒まみれの戯言ばかりになったり、何を見
「さぁ義兄弟(ブラザー)、用意はできたか」 「こんな時間まで起きてるイケナイガキ共に寝小便の恐怖を思い出させてやろうじゃねぇか」 「汚ねぇステップ踏み鳴らす酔っ払いも、悲鳴喝采の金科玉条だ」 山の動物たちが寝静まった夜の森を颯爽と潜り抜ける。 ハイになったハイエラの声だけが反響して聞こえてくる。 「どうした、ニンゲンの頃が恋しいか。壁や木にぶつかることなんざありゃしないんだぜ」 ハイエラは、ゴーストになって最初にできた兄貴分みたいなものだ。 未だうまくしゃべれない僕に気づ
絡繰三十年、西暦にして一八八八年。孤島の片隅で二人の男が相見える。 細身の青年が握るは筆のごとき棒。その先端からは、絹糸が如く引き絞られた青き焔が竹竿ほどに伸びていた。陽炎が揺らぎ、大太刀を錯覚させる。 対する男が持つは小舟の櫂ほどの巨きな木刀。発条や歯車、鋼線が随所から垣間見え、男の腕を屋久杉の様に隆起させていた。 ひときわ大きな潮騒が岩を打ち、彼らの間にひとつぶの水玉が落ちた。 男が砂を蹴り上げて青年の視界を封じる。青い焔が振り払われ、砂塵を蒸発させる。だがそこに