ロッホローモンドの畔で
杜紀夫はジャケットの内ポケットから取り出した鍵を右手に軽く握り、ドアをノックした。勿論、ドアの横にいわゆるドアチャイムのボタンはある。それでも彼は、白い手袋を着けたその手で、静かにドアを叩いた。
愛用のサコッシュを斜め掛けしてその横に立っている刀記は、不思議そうに彼の様子を眺めていた。杜紀夫はその視線を感じつつ、一瞥をくれることもなく「失礼します」と声を発し、それとほぼ同時に、握っていた鍵を挿して捻った。見かけに反するほど重量感のある解錠音がして、そのドアは開いた。刀記は