【プラグ・ザ・デモンズ・ハート】全セクション版
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1
この地において世界は青と黄の二色だ。上半分が青で、下半分が黄。雲のない空と乾ききった大地が、地平線によって真横に分断される。
Y2Kの悲劇、電子戦争以来、世界を様々な試練が襲った。しかしオーストラリア大陸の内陸部の光景は今も昔もさほど変わりはしない。地平線を遮るオブジェクトの殆ど存在しない、どこまでも続く荒野。荒野を闊歩するカンガルー。そういうものは。
とはいえカンガルーはもはや只のカンガルーではない。バイオカンガルーなのだ。強大な外来種が従来種を駆逐するようにして、恐らくは十年程度の短期間のうちに、通常カンガルーはバイオに置き換わった。疫病に強く、ケミカル耐性を持ち、通常カンガルーとの交雑も可能なバイオカンガルーは、あっという間に生態系を書き換えてしまった。
「……」「……」
彼ら、大陸の支配種族……人間よりも数が多い……は、黒目がちな無表情の目で、南北に真っすぐ伸びる巨大な文明痕跡に注目する。スチュアート・ハイウェイ。破壊と劣化を経ながら、暗黒メガコーポによって大切に維持され続ける輸送の要。広大なオーストラリア大陸を南北に貫く道路である。
彼らが目で追うのは、陽炎の中、徐々に近づいてくる滲んだ影……オムラ・エンパイアのカンオケ・トレーラーだった。まるでクロガネの鎧武者じみた装甲で覆われた巨大なトレーラーは、貴重な積荷を満載し、それらを複数の砲撃ユニットで護らせている。
ハイウェイ沿いの岩場に身を潜めていたバイオカンガルーの群れの何匹かが、地面の震動につられるようにして、ハイウェイに向かって跳ねはじめた。震動は徐々に大きくなり、黒い影が接近してくる。カンオケ・トレーラーが突き進む。
「……」
無言無表情のバイオカンガルーはトレーラーの前に跳び出した。トレーラーは少しのブレーキも踏まず、バイオカンガルーを撥ねた。
「また轢いてしまいました」「そうですね」
トレーラー運転席にはパワード武者鎧姿のオムラ社員が二人。ドライバーがぼやくと、オペレータはエッチ・ピンナップのページをめくって、食べ終えたタンドリー・チキンを窓の外に捨てた。僻地勤務の彼らは愛社精神が徹底しておらず、兜のガスマスク装着の励行もおざなりなものである。
「奴ら、用もないのに行く手に飛び出してきやがりますね。アホなんでしょうか?」「アホなんでしょうね。まったくクソですね」
道を遮るものがバイオカンガルーではなく人間であったとしても、特に問題なく彼らは轢殺するだろう。速度と耐久性を両立させたカンオケ・トレーラーはすさまじい質量であり、このハイウェイを遮るものをその都度ハンドル操作で避けていては、逆に転覆からのエメツ反転炉爆発などの大惨事を招く。百倍の生物が死ぬ。カイシャにも大損害を与える。それゆえ、ハイウェイにおいては人間よりもクルマ優位は当然の事とされる。
「人間、轢いてみたいです」
ドライバーが呟いた。オペレータはエッチ・ピンナップを足元に投げ、UNIXモニタで衛星地図を確認していた。
「人間? 貴方、こっちに配属されてどれくらいですか?」「まだ半月です」「そのうち轢けますよ。このハイウェイには色々やって来ますから」
「ハァ……はやく轢きたいですよ」「人間を轢くばかりでなく、機銃で撃つチャンスもありますよ。スリリングな体験ができます」
「モーターサイクル馬賊、ですね?」「その通り。しっかりと研修を受けているようですね」「勿論です」
会話しながら、またバイオカンガルーを轢いた。カンオケ・トレーラーのフロントパネルがウォッシャーを展開し、前面を洗浄する。
フロントガラスには様々なガイドが投射されている。カンオケ・トレーラーの旅はハード・スケジュールだ。オムラ・エンパイアが管理する補給施設を使いながら、南のアデレードから北のダーウィンまで、一気に縦断するというわけだ。
彼らのパワード武者鎧はトレーラーのUNIXとLAN直結され、クローズド・ネットワークを形成、そのバイタル情報がモニタリングされている。自己責任で精神状態の安定化が義務付けられおり、必要に応じて、兜のガスマスク部分のチューブからZBRやタノシイの気体の吸入を行う。
「バイオカンガルー、食べたら美味ですか?」「食べられますけど、私は食べませんね。ジャーキーや睾丸は売っていますが、ゲテモノ扱いですよ」「ハァ」
ドライバーとオペレーターの胸には年収オムロの数字が液晶パネル表示されている。オムロとはオムラ経済圏で使用されるディジタル通貨の単位だ。奇遇な事に、ドライバーとオペレーターの年収は同額であった。それゆえ気の置けない会話が可能であった。
「今日の補給ステーションでは分厚いステーキを食べたいものです」
「ステーキですか。いいですね。私はミソ・スープが飲みたいです」
「ミソ・スープですか」「生まれはネオサイタマでね」「それはそれは」
KABOOOOOOM! 彼らの身体が浮き上がり、天井にパワード兜を衝突させた。「「グワーッ!?」」
KRAAAAAAAAASH! それだけではない! 重力が移動し、彼らは数秒間気絶! 覚醒すると、妙である。大地の黄が右に、空の青が左にあるのだ。真横になっている! 転覆である!
『アラート。車体が転覆しています。ジェネレータ損傷はありません。ただちに然るべき緊急対処を行い、愛社精神を高めてください。オムラ、ダカラ! オムラ、イチバン!』
「ア、アイエエエ……!」「オ……オムラ! ダカラ! オムラ!」
ドライバーは呻き声をあげ、オペレーターはガスマスクを手探りで装着、愛社シャウトして気持ちを切り替えた。
「と、とにかく、まずは車外へ」
「待ってください、転覆の原因を確認しないといけません。危険ですよ……!」
オペレーターは焦りながらUNIXを操作し、電磁エコーレーダーを働かせる。
「まずい……やはり……!」
彼はガスマスクの下で蒼ざめた。光点が点滅しながら接近してくる。金属反応だ。動きに法則性がある。即ち、バイオカンガルーではなく、これは……!
「モ……モーターサイクル馬賊です!」「なんですって!?」
ナムサン! モーターサイクル馬賊! ハイウェイや周辺オフロードを行き交う輸送車輛を攻撃し、積荷物資を収奪するならず者たちだ!
「ハイウェイに地雷トラップが仕掛けられていたんですよ! 我々は注意を怠るという凡ミスをしてしまった。ケジメですね……」
「ケジメは後です! 機銃……ダメだ……! 使えない!」
然り、横転状態!
「カイシャに救難信号を送信しましょう! 付近にオムラキャリアが来ていれば、戦士たちが……」
「も、勿論です!」オペレーターはSOS送信処理を急いだ。「ブッダよ……!」
ドライバーは装甲ドアのロックを確かめた。破損はない。
「こ……このまま車内で籠城し、救援が来るのを待つのはどうでしょうか」「かなりリスキーですよ……」
『アブナイ! 燃料タンク付近にダメージを確認。エメツ反転炉のオーバーヒート危険を確かめる必要が発生しています。直ちにメンテナンスを行ってください』
「なんて事だ!」「ブッダ! ブッダ! 隠れてもいられない……!」
「このまま外へ飛び出して……トレーラーを置いて逃げては?」「ダメに決まっているでしょう! 愛社精神が問われますよ。オムラに滅私奉公する戦士たれ! オムラ・イチバン! そうしないとケジメやセプクなわけですしね!」
二人は車内であわただしく会話した。最終的に観念し、彼らはドアを内側から蹴り開け、車外に這い出した。横転したトレーラーは確かに白い蒸気を噴き上げていた。
「クソッ……本当だ! 最悪だ!」
ドライバーは蒸気の源に駆け寄った。シャーシに格納された応急処置キットを取り、破損個所に噴射する。かりそめに破損個所を塞ぎ、後は救援を待たねばならない。しかし……!
ドルン! ドルルルルル! ドルルルルルルル! 拡散する蒸気が霧めいて視界を悪化させる中、モーターサイクルエンジン音が鳴り響いた。襲撃だ!
「オムラ! ダカラ! オムラ! イチバン!」
オペレーターがオムラショットガンを構え、周囲を警戒!
「来い! クソッたれ馬賊ども! オムラ・エンパイアの財産は……アバッ!」
回転しながら飛び来たった手投げ斧がオペレーターの顔面をパワード兜ごと叩き割った。オペレーターは痙攣しながら仰向けに倒れた! ナムアミダブツ! ドルルルルルルル! 迫りくる轟音の主、複数の影が太陽を遮るように高くジャンプした。モーターサイクルに跨った無法の者ども! モーターサイクル馬賊である!
「アイエエエエエ!」
応急作業に格闘していたドライバーは悲鳴をあげた。BLAMN! 足元に銃弾が撥ねた!
「ハハーッ!」「イタダキーッ!」
砂漠保護色のマントとターバンで身を包み、顔面に恐ろしいペイントを施したモーターサイクル馬賊はトレーラーの周囲をグルグルと回り、戯れめいてドライバーの足元をめがけ発砲した。BLAM! BLAM! BLAM!
「アイエエエエ!」
「ハハーッ!」
後ずさり車体コンテナを背にするドライバーを、モーターサイクルにまたがった三人がたちまち取り囲んだ。
「オイ、まだ殺すなよ」「わかってら」
野蛮な笑みをかわした彼らの一人がバイクから降りた。ネオサイタマ式の野蛮チョンマゲ・ヘアの男は、ドライバーの頭を無雑作に銃底で殴りつけた。「ヒヒーッ!」
「グワーッ!」殴打! 殴打! 殴打!「グワーッ! アイエエエエ!」
バシューッ! 兜が圧縮空気を放出し、チューブが外れた。チョンマゲは兜を剥ぎ取り、投げ捨て、ドライバーを銃底で殴りつけた。
「イヤーッ!」「グワーッ! アイエエエエ!」
「ふざけた兜しやがってよ! オムラ野郎!」
「アイエエエ……命だけは……」
「そりゃお前の態度次第だよな! ドゲザしやがれ」
ドライバーはドゲザした。賊はゲラゲラ笑った。チョンマゲがドライバーをいたぶる中、他の者らはコンテナをあらためにかかる。
「カシラァ! ロックかかってますぜ。ショットガンでも壊れねえやつかも!」
「……だとよ、ドライバー野郎。とっととパスコード教えやがれ」
「そ、それはオンライン管理されていて、カイシャへの申請が要ります。私のようなアシガル社員では権限が無く……」
「ザッケンナコラー!」「グワーッ!」
ドゲザ姿勢のドライバーの頭をサッカーボールめいて蹴る! ドライバーは土の上を転がった。折れた歯がみじめに散らばった。
「じゃあ殺してもいいッて事よ。お前の命に、価値がねェわ」
チョンマゲは銃口をドライバーの顔面に当てた。それからコンテナに取りついた仲間たちを見て、
「何やってる。壊せねえなら、C4でも仕掛けて吹ッ飛ば……」
KRA-TOOOOOOOOOOOM! 巨大な爆発が突如生じた! 黒い雷光があちこちに迸り、爆炎が膨れ上がった! ナムサン! エメツ反転炉の引火爆発だ!
「「「アバーッ!」」」
コンテナが連鎖爆発! 吹き飛ぶモーターサイクル馬賊!
「アバーッ!?」
飛散した破片がチョンマゲの腰から上を吹き飛ばす! ナムアミダブツ!
「ア……ア……アイエエエエ……!?」
地面に倒れていたドライバーはやがて、己が奇跡的に生存している事実に気づいた。爆風が身体の上を吹き抜けたのだ。這いずり、身を起こした。『エネルギバー……』歪んで駆動機構が破損したパワード武者鎧を懸命に脱ぎ捨てると、彼は投げ倒されていた馬賊のモーターサイクルを起こし、またがった。生存本能の赴くままに、彼は動いた。
ドルッ、ドルッ……ドルッ……ドルルルルルル……! 数度のキックでモーターサイクルはエンジンを始動させた。
(ザッケンナコラー!)(スッゾオラー!)
炎上するカンオケ・トレーラーの反対側から怒声が回り込んでくる。賊にも生存者がいるのだ! ドライバーはモーターサイクルを加速させる! ドルルルルル!
「アイエエエエエ!」
危ういウイリーののち、モーターサイクルは直進を開始! ドライバーはハイウェイから離れるようにオフロードを走り出す!
「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」
ナムサン! しかし後方に追随する者達あり! モーターサイクル馬賊はしつこくドライバーを追いかけてきているのだ! 恐怖と共に繰り返し振り返り、彼は必死に速度を上げる!
「い……嫌だ! こんなところで……犬死には! イヤダーッ!」
◆◆◆
「妙だな」
ヒュージシュリケンが目をすがめて呟いた。
「何が?」
イグナイトは膨らませた風船ガムを割った。ヒュージシュリケンは砂塵の先頭の、もう少し前方を指さした。もっとよく確かめるために彼女はゴーグルを装着した。
「誰か走ってるぞ。追われてるな、あれ」
「ああホントだ」イグナイトは手をひさしにして眺める。「こんなところを一人旅か? ワケありかな。それともただのバカか」
「せっかくだから助けてみようか」
ヒュージシュリケンはニヤリと笑い、モーターサイクルのリアフェンダーに固定された武骨な長方形の金属塊に指で触れた。これが彼女の得物。今の彼女の名前の由来……バタフライナイフめいて折りたたまれたダイシュリケンである。
「なにか面白い事があるかもよ」
「出た、出た。ヒュージのそれ、実際に面白かったためしがない」イグナイトは耳を掻いた。「十中八九、トラブルの種、クソみたいな」
「それがいいんだろ!」
ゴアアアアア! ヒュージシュリケンのモーターサイクルが唸りを上げ、後方に砂煙が吐き出された。既に彼女はロケットスタートしていた。
「アッ、ズリぃ!」
イグナイトは慌てて自機に火を入れた。ホイールが炎を撒き散らし、燃えるような彼女の髪の色彩と混ざり合った。二人の馬賊はたちまちトップスピードで並走を始めた。走りながら、二人は目を合わせ、ひと笑いした。
◆◆◆
ウォールルルルルル! 岩がちになった地面にタイヤをとられ、モーターサイクルはロデオじみて前につんのめり、宙を飛んだ。
「アイエエエエエ!」
ドライバーは放物線を描くように投げ出され、土に身体を打ちつけた。涙目で起き上がる。ナムサン……後方の地平に砂塵。彼らはまだ追って来ている。おそらくチョンマゲ・ボスの死を彼に報わせようというのだろう。ほとんど宗教的な復讐心で、賊はドライバーの命を奪うまで納得しないだろう……。
「嫌だ……嫌だ!」
彼は走り出そうとして……息をのんだ。
目の前に二足歩行の動物が立っていた。全長2メートル。黒目がちな無表情の目。筋肉質の身体。長い尻尾が地面を無感情に打ち付けている。ドライバーは手で口を塞ぎ、悲鳴を押し殺した。バイオカンガルー……至近距離!
「……!」
ドライバーは恐るべきバイオ有袋類を刺激せぬようつとめ、数歩後ずさった。そして認識の甘さを悟った。一匹の筈はなかった。彼の背後から別のバイオカンガルーが飛び掛かり、がっちりと彼の頭をロックしたのだ! ドライバーはもがくが、凄まじい腕力によって締め上げられてしまう!
「アイエエエエ!」「……」「……」
ヘッドロック状態のドライバーに、バイオカンガルーは強烈なキックを見舞う!
「……」「グワーッ!」「……」「オゴーッ!」
ドライバーは無表情のバイオカンガルーに繰り返しキックされ、嘔吐した。哀れにも、吐けるほどの胃の内容物は殆ど残っていない。それでもバイオ有袋類は無表情に暴力を継続する。殺してから捕食するつもりだろうか? 否、死体は放置に任せるのである。バイオカンガルーの習性はしっかりと研究されてはいない。意図もわからない。しかし、その性質は人間にとっては残虐極まりないものだ……!
「……」「グワーッ!」「……」「アバーッ!」
キック継続! ドライバーは血を吐く! ナムアミダブツ! 彼の脳裏にアワレの感情が去来した。オムラエンパイアに滅私奉公で愛社し、その結果、生まれ故郷を遠く離れたこのオーストラリアの荒野で、無表情なバイオカンガルーに痛めつけられ、死ぬ……。それが運命なのか。
「嫌……」「イヤーッ!」
カラテシャウトが飛んだ。
「アバーッ!?」
一瞬後、ドライバーを痛めつけていたバイオカンガルーは頭にトビゲリを喰らい、不自然な姿勢で地面をバウンドし、転がり、動かなくなった。もう一匹はドライバーのヘッドロックを解き、フットワークを踏んで、突然の攻撃者にカンガルーパンチを食らわせようとした。だがパンチが放たれる事はなかった。その全身が突如、松明めいて燃え上がったのだ!
「アバババーッ!」
バイオカンガルーは焼け焦げ、崩れ落ちた。力を失い倒れかかったドライバーの首を、トビゲリ者が掴んだ。ドライバーよりも背が高く、カラフルなドレッドヘアーをした黒人女性だった。右目のまわりには殺戮サインじみた黒い斜め四直線のタトゥー。只者ではない。
「オイ、生きてるか? お前!」
「ア……アッハイ」
「そりゃよかった」
彼女はドライバーから手を離した。ドライバーは座り込んだ。
「アタシはヒュージシュリケン。アンタは?」
「ア……私は……コンノ・ケジです」
「生きてるってさ!」
彼女は後方を振り返り、もうひとりの仲間に声をかけた。ヒュージシュリケンが乗り捨てたバイクと、乗り手がまたがったバイクが並んでいた。乗り手は燃えるように赤い髪を極端なアシンメトリー……右半分を編み込みのロングヘア、左半分を刈り上げ……にしていた。ヒュージシュリケンを見て、首を傾げ、肩をすくめてみせる。
「アイツはイグナイト。見ての通りの馬賊……あと、二人ともニンジャだぜ」
ヒュージシュリケンの声音が酷薄さを帯びた。コンノは震えあがった。
「お前、オムラ社員だな? コンノ=サン」
「ア……アイエエエエエ……!」
コンノは恐怖に痙攣し、失禁しかかりながら、慌ててオムラ雷神紋ネクタイピンを剥がして投げ捨てた。
「わ、私は末端社員です! いえ、末端社員でした! もうカイシャには戻れません! だから殺さないで」
「カイシャに戻れない?」
イグナイトもバイクを降り、ヒュージシュリケンのもとにやって来た。
「どうして」
「そ、それは、職場放棄してしまったので……」
「何の職場」
「カンオケ・トレーラーのドライバーです」
「アーハ」ヒュージシュリケンはピンときた。「トレーラー、置き去りにした?」
「しました。襲われたので……死んだら終わりです、私は逃げて……」
「アッハッハッハッハ! そりゃ傑作だ」
ヒュージシュリケンは手を叩いて笑った。
「それじゃ、いただきに行くか。トレーラー」
イグナイトが言った。ヒュージシュリケンは「いいね」と頷いた。コンノはギョッとして後方を振り返った。不意に思い出したのだ。
「き、来ます! 賊が追って来るンです!」
「アタシらも賊だよ?」
ヒュージシュリケンは苦笑した。コンノは首を振った。
「私の命を狙ってるんです! 首領が死んだので……」
「何かわからんが、面白い」
彼女はコンノの頭を叩き、前に進んだ。ガシャンと音を立て、彼女が手に持っていた金属塊が変形した。それは巨大なスリケン……ダイシュリケンだ。手をひさしに、砂塵を見る。彼女のニンジャ視力が、ヤジリ型陣形で直進してくるモーターサイクル馬賊の影を見て取った。
「邪魔すんなよ? イグナイト=サン」
「しない、しない」
イグナイトは欠伸をする。ヒュージシュリケンはニヤリと笑い、身を沈め、ダイシュリケンを片手で構えた。
ゴアアアアア! ゴアアアアアア! ゴアアアアオオオオオオオン! モーターサイクル馬賊が近づいてくる! 最前列は一台、二列目が二台、三列目が三台、四列目が四台、五列目が五台のモーターサイクルによって構成されるヤジリ陣形!
「イイじゃない」
ヒュージシュリケンは舌なめずりした。コンノは後ずさった。
「アイエエエエ……!」
彼はニンジャの恐るべき力を直接目にした事はなかった。それゆえ絶望していた。陣形を組んで突撃してくるモーターサイクル馬賊、多勢に無勢、この謎めいた女二人もろとも、自分も無惨に殺されてしまうのだろうと。
ゴアアアアア! ゴアアアアアア! ゴアアアアオオオオオオオン! モーターサイクル馬賊がますます接近する! ヒュージシュリケンはさらに身体を低く沈め……カラテを解き放った! ダイシュリケン投擲!
「イヤーッ!」
巨大なニンジャ・スローイング・スターは高速回転しながら飛翔! 遥か前方、向かってきた敵を真正面から迎え撃った!
「グワーッ!」
「「グワーッ!」」
「「「グワーッ!」」」
「「「「グワーッ!」」」」
「「「「「グワーッ!」」」」」
ストライク! ナムアミダブツ! ダイシュリケンがヤジリ突撃モーターサイクル馬賊の首をまとめて刎ね飛ばし、頭部は宙高く跳ね上がり、鮮血がシャンパンめいて空高く噴き上がった!
「アイエエエエエエ!」
コンノはNRS(ニンジャリアリティショック)に陥り、尻餅をつき、白目をむいて絶叫した。
「アッハッハッハッハ! ストライク!」
ヒュージシュリケンは手を叩いて笑った。旋回してブーメランめいて戻って来たダイシュリケンを軽くキャッチし、イグナイトを見る。イグナイトは付き合うように数度手を叩き、それからコンノのもとへ歩いていって、首筋を軽くチョップして正気付かせた。
「アイエッ!」
「それじゃまあ、邪魔な奴も片付いたし、ひとっ走り付き合ってもらうぜ」
「ど……どこへ……?」
「決まってんじゃん、トレーラーだよ」イグナイトは言った。「悪りィけどコンノ=サン、これからアタシらと一緒にハイウェイまで戻ってもらうよ」
「アイエエエ!?」コンノは目を白黒させた。「しかし、襲撃されたときに救援信号を出したんですよ? オムラの武装兵力が来ます!」
ナムサン! しかし、二人のニンジャはカラカラと笑うのだった!
「宝探しだ! テンションあげろよ、元社員!」
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