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【ガイデッド・バイ・マサシ】

この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードは物理書籍未収録です。

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前編

 ターン!東のフスマが音を立てて開き、十数人のヤマブシが出現した。ターン!ニンジャスレイヤーがそちらへ向き直る暇を与えず、今度は西のフスマが音を立てて開き、十数人のヤマブシが出現した。 

「ヌゥーッ」ニンジャスレイヤーはカラテ警戒する……ターン!今度は南のフスマが音を立てて開き、十数人のヤマブシが出現した。ターン!ニンジャスレイヤーがそちらへ向き直る暇を与えず、今度は北のフスマが音を立てて開き、十数人のヤマブシが出現した。完全包囲である!

「覚悟あっての侵入か!」北のヤマブシの奥から白髭のエルダーヤマブシが進み出、威圧的にボーを構えた。ニンジャスレイヤーはヤマブシを睨み渡す。彼らの中にニンジャはいない。「争う意志は無い」「で、あろうとも!愚か者め」エルダーヤマブシはその目を敵意に光らせた。「涜神者に死を与えん!」

「ソイヤ!」「ソイヤ!」ヤマブシ達がじりじりと包囲網を狭めにかかる!彼らの手には危険なジュッテやサイが握られ、スリケンを構えている者も多数いた。「ニンジャの侵入者が今迄に無かったとでも考えておったか!過去の涜神者は残らずゼンメツよ!」エルダーヤマブシはボーを打ち鳴らした。 

「手厚い歓迎だぞ」ニンジャスレイヤーはIRCインカムに呟いた。『切り抜けて頂戴』ナビゲーターのナンシー・リーは平然と言った。ニンジャスレイヤーは唸った。「ソイッ!」「ソイヤ!」ヤマブシが迫る!「イヤーッ!」包囲網からスリケンが複数飛来!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回転!

「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」回転を終えたニンジャスレイヤーは無傷!だがヤマブシは三人死亡!三人負傷!ニンジャスレイヤーは回転しながらスリケンを弾き返し、同時に自らもスリケンを投げ返していたのだ!「ソイッ!」「ソイヤ!」ひるまずボーやジュッテを構え、ヤマブシが前進!

「イヤーッ!」間髪いれずニンジャスレイヤーは足元のタタミめがけカワラ割りパンチを打ち下ろす。KRAAASH!吹き飛ぶタタミ!「卑劣!」エルダーヤマブシが非難する中、ニンジャスレイヤーは床に穿たれた大穴に飛び降りる!「追え!追うのだ!守りを固めよ!回り込め!」「ソイヤーッ!」 

 六階から五階のトコノマへ落下し流麗に着地したニンジャスレイヤーは、活けられた水仙の横にあるモニタを一瞥した。画面に砂嵐が走り、レリックタワーのワイヤーフレーム地図が映し出された。ナンシーによるハッキング情報だ。「こちらになります」のガイド文字が冷淡に点滅。映像は砂嵐に消えた。

 ターン!フスマを引き開け、指示された迂回路を進みながら、ニンジャスレイヤーはこの後待ち構えるであろうソウカイニンジャとのイクサに思いを馳せた。狂ったヤマブシ達が言うところの「涜神者」は、実際、別に居る。間違い無く、奴らはこのあと現れる……ナンシーの情報が正しければ、だが。


◆◆◆


「オープンザドー」「オープン」キャバァーン!電子音が鳴り響き、鉄扉が内側に重々しく開いた。「ウィーピー!」エディアキはガッツポーズした。「ダッセ!一世代前のセキュリティだ!」だが、現地人のモガタの表情は暗く曇ったままだ。「試練ここからよ、貴方」「試練?避ける、避ける!」 

「お前のその、ブー!ドゥー!そろそろギャグにもならねえ……もっと文明を見つめろッて」テック6がモガタをバカにしたように指差した。「タワーを守る?アッサシン?ダッセ!遺物!あのよ、俺たちにはこれよ。テック」最新式ボルトガンを構えた。エディアキも同様の武器を持っている。

「この、引き金を引くとな?ボルトがBOOM!貫通してお前、一度に三人ぐらいはPINよ、PIN!」テック6は突入前にデザイナーズドラッグをキメたばかりで、ハッキング能力と冷静さをトレードオフしている。「オイ、はしゃぎ過ぎんなッて!」エディアキは注意した。「行こうぜ!」 

 二人のトレジャーハンターは互いにサムアップし、レリックタワーに侵入した。「……」モガタは侵入前に一瞬立ち止まり、後方を振り返った。彼らが上ってきた数百段の石段と、斜面に作られた棚田の光景を。古式農法で栽培されるコメ……ヤマブシ達の手による、自給自足のシステムだ。魔境! 

「……」モガタは上に視線を動かし、眉根を寄せる。空に浮かぶ黒点を見咎めたのだ。彼はまぶしそうに目を細めた。瞬きすると、異物は見えなくなった。「早く早く早くしろよ!」テック6がうるさく呼びかける。モガタは顎をさすり、ハチェットを構えて用心深くエントリーした。 

 二人のトレジャーハンターは異常なテンションを維持していたが、モガタが危惧するようなヘマはしなかった。要所要所の配電盤やUNIXポイントを見逃さず、危険な落とし穴やアロートラップにかかる事も無い。二人は罠群に侮蔑的評価を下した……彼らのスラングで言えば「ダッセ」であった。 

「お、階段!」「マブ」二人は頷き合った。「お前の古地図、結構リアルじゃん」エディアキがモガタに言った。モガタは陰気に頷いた。テック6が笑う。「緊張してら!ブー!ドゥー!」「迷信じゃないよ」モガタは言った。「ヤマブシ実在。このタワーの中にいる。全然会わない却っておかしいね」 

「だからさァ」テック6が顔をしかめる「ヤマブシ来たらボルトガン!これを……」「わかったって!」エディアキが笑いながら止めた。「今3階だから、三分の一ぐらい来たか?え?」「……そうね」モガタが頷いた。彼は耳に手のひらを当てた。「……鐘が鳴ってるよ」「アーン?」 

(ドスエ……侵入……囲重点……包囲重点……第五フロアな……)マイコ音声である。「第五?俺らじゃねェ」エディアキが唸った。「先客か?ふざけんなよ」「アイツかな、ダマスカス・トミー」テック6が商売敵トレジャーハンターの名を口にした。「殺るしかない」「全くだぜ」「全部殺って、マブ」

「……」モガタは暗澹たる気持ちで二人の命知らずに続く。恐るべき運命の予感に、震えを抑えるのがやっとだ。誰がこんな探索にすすんで手を貸すというのだ?日々、落日を背に、彼の村がある谷を不吉なシルエットで見下ろす悪魔の塔……だが、他に選択肢は無い。一攫千金せねば、家も家族も失う。 

 この塔は大昔の英雄、哲人戦士「ミヤモト・マサシ」の修行の地の跡地に建てられている。マサシゆかりの修行の地は日本各地に残されているという。マサシ崇拝者達のカルトがこの地に集まり、修道院めかした建造物を建てた。何百年も、周囲の村人と一切交流を持たず、儀式と修行に明け暮れる……。

 壁に描かれた剣術指南図や「ヒョットコを割らねば確かめられぬ」「敵前のスモトリ、ドヒョー・リングを踏まず」といった警句は、モガタにとっては邪神を描いたイコンや暗黒の祈祷文にも見えて恐ろしく、UNIXシステムのLEDライトやアラートの類も、悪魔の息吹に思えてしまう。 

 二人の冒険者は数日前にモガタの村を訪れ、ガイドを募集した。注意深いモガタは、何らかの宝物に関する情報がこの数日で世に流出し、彼らのようなヨタモノをこの地に招き寄せたという事実を把握した。 

 モガタにはまとまったカネが必要だった。川下に作られた巨大なノリ工場は、村の産業を崩壊させた。手作りで高いノリは買い手がつかない。村が滅びる前に、家族を連れて、マシな土地へ引っ越すのだ。そのためには涜神も止む無し。彼は己を強いた。 

「ブードゥー……」テック6の呟きが、モガタを物思いから引き戻した。彼らが進むのは直線の廊下であるが、左右には木彫りのミヤモト・マサシ像が数十体も並ぶ。ヤマブシ達が刻んで作ったものだ。どれも両手にカタナを構え、さまざまな姿勢をとっている。「価値はねえな」とエディアキ。「ダッセ」

 左右の木彫り像の背後には粗い解像度の液晶タペストリーが設置され、マサシの様々なハイクがスクロールする。白い光が三人を照らす……「ダッセ!アイエッ」テック6が消えた。「え?」エディアキとモガタは反射的に身構える。天井は高く、底無しだ。「アイエエエ……」闇の中から声が降ってきた。

 上に引き上げられた?一瞬で!?「ヤバイ!」エディアキが叫び、駆け出した。「走れ走れ!上からだ!ヤバイ!」「アイエエエエ!?」やがて上の闇からは一層切迫した悲鳴が降ってきた。「アバッ、アバーッ!」ヒュンヒュンと音を立て、肉鉤のついたロープが上から落ちてくる。これにやられたのだ!

「アイツ死んだな!」エディアキは無感情に言った。モガタは彼についてゆくのに必死だ。前方に階段!駆け上がる!「ソイッ!」「ソイッ!」「アイエエエエ!」モガタは悲鳴を上げた。前方の廊下を走ってくるのはまぎれもなくヤマブシの集団!「うるせえぜ!」エディアキがボルトガンを構える! 

 BOOOM!「アバーッ!?」発射されたボルト弾はヤマブシの腹部に突き刺さり、最初の犠牲者ごと吹き飛ぶと、すぐ後ろ、さらに後ろのヤマブシをまとめて貫通し、廊下角の壁に縫い付けた。ナムアミダブツ!だが全滅に至らず!「ソイッ!」「ソイヤーッ!」ヤマブシ達が敵意を倍化し向かってくる!

「左だ!」ターン!フスマを開け、エディアキ達は部屋の中へまろび込んだ。「ソイヤ!」ヤマブシが追ってくる!振り向きざまにエディアキはボルトガンを撃つ。BOOM!「アバーッ!」ターン!前方のフスマが開き「ソイヤッ!」新手だ!「イヤーッ!」「アバーッ!」モガタはハチェットで殺害!

「どんどん役に立てよお前!」エディアキは歯をむきだして笑った。「この程度の危険は闇稼業にゃ付き物よーッ!」「ソイッ!」「ソイヤ!」次の部屋にも数人のヤマブシ!エディアキは片手でリボルバー拳銃を抜き撃つ!BLAM!「グワーッ!」「イヤーッ!」モガタのハチェット!「グワーッ!」

「イケる!イケる!」エディアキはボルトガンを構えて次の廊下へエントリーした。「イケアバッ」……エディアキが戻ってきた。死んで。「ア……」モガタは凍りついた。エディアキの口から後頭部をヤリが貫通し、吊られている。ヤリを持つのは一際屈強なヤマブシ。僧服も違う。より豪華だ。

「ソイヤ!」「ソイヤ!」「アイエエエエ!」モガタは部屋の中心に後退し、ホールドアップした。追って来たヤマブシ達がそれを取り囲む。屈強なエリートヤマブシが槍先のエディアキを剥がし、タタミに捨てた。続いて入ってきたもう一人が、ズタズタにされた別の死体をタタミに投げた。テック6だ。

「ア……アイエエエエ」モガタは失禁し、膝から崩れ落ちた。ハチェットがタタミに転がった。「……涜神者め」エリートヤマブシがモガタを睨み据えた。「その身なり、この地の者か。道案内か。言え」「そうです!カネが要ったのです。許してください」モガタは呻いた。「命だけは」 

「レリックが狙いか!聖ミヤモトの!」「そうです!」モガタはドゲザした。「でももう要りません!雇い主死んだ!無理ね!」「当たり前だ!」エリートヤマブシが怒鳴った。「ときに貴様、ニンジャを見なかったか」「ニ、ニンジャ?ニンジャナンデ!?」「……」ヤマブシ達は顔を見合わせた。 

「……まあよい。ともかく貴様は長老の前に引き出し、処刑裁判をする」「アイエエエエ!」モガタは泣き叫んだ。視界が歪み、死を前に、彼の貧しい暮らしがフラッシュバックした。ソーマト・リコール現象だ……過去の情景に……ニンジャが割って入った。「イヤーッ!」「「アバーッ!?」」 

 ナムサン!モガタ達がやってきた方向だ!モガタは涙目でそちらを見る。ニンジャである!ニンジャがスリケンを連続投擲しながらエントリーしてくる!「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」ヤマブシを次々にスリケン殺!「アイエエエエ!」モガタは再失禁! 

「ニンジャ!何だと?」エリートヤマブシが眉根を寄せ、隣室を横切ってくる鈍色のニンジャを睨んだ。「新手だと?ええい、殺せ!」「イヤーッ!」ヤマブシ達が戦闘体勢をとり、ニンジャめがけて一斉にスリケンを投擲!だが……当たらない!一枚も!「何だと!?」 

「イヤーッ!イヤーッ!」スリケンを投げながら滑るように接近してくる鈍色のニンジャに、ヤマブシの攻撃は一切当たらないのだ。なぜか?鈍色のニンジャはしゃがみながら前進して来るのだ!なんたる不可思議な足運びか!これではまともな投法のスリケンを当てる事などできない! 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!?」鈍色のニンジャはヤマブシをほとんど一方的に殺戮すると、「イヤーッ!」部屋の反対側へ回転ジャンプ、着地と同時にオジギした。「ドーモ、クイックシルヴァーです」 

「イ、イヤーッ!」ヤマブシの生き残りがスリケン投擲!だがクイックシルヴァーは素早くしゃがみ、スリケンを無効化!スリケンを投擲したヤマブシの額には、既に投げ返されたスリケンが深々と突き刺さっていた。ソクシ!「……まったく、アイサツを解さんクズがミヤモト・マサシとは笑わせる」

 モガタは失禁しながら恐るべきニンジャを見た。「ニンジャ……恐ろしい」「フン」クイックシルヴァーは鼻を鳴らした。そしてエリートヤマブシを指差した。「貴様らは皆殺しにする。貴様らのごときカルトがソウカイヤに恨みを持てば面倒だからな」そしてモガタを見た。「で、貴様はインタビューだ」

「ニンジャ何するものぞ!」エリートヤマブシがヤリを構えた。「ウオオーッ!」刺突突進!クイックシルヴァーは再び身を沈めた。だがヤリを潜るにはなお高い!そのとき!「イヤーッ!」クイックシルヴァーはしゃがみながらスリケン投擲!地を這うほどに身が沈み、ヤリがすり抜ける!「グワーッ!」

 両足を破壊されたヤマブシは膝をつく。なおもヤリで攻撃しようとするのを、クイックシルヴァーはせせら笑い、跳ね上がるようなドロップキックを叩き込んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」ナムアミダブツ!首が180度回転死! 

「アイエエエ……」生き残りヤマブシは二人!さすがに戦意を喪失し後ずさる。「イヤーッ!イヤーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」クイックシルヴァーは彼らに容赦無く蹴りを叩き込み殺害!その時!仕掛け天井が開き、新手のエリートヤマブシが落下攻撃アンブッシュを仕掛ける!「イヤーッ!」

「何?」クイックシルヴァーのニンジャ反射神経をもってしても、この予想外のアンブッシュへの対応は難!クイックシルヴァーはやむなく、しゃがみながら防御しようとした。「イヤーッ!」その時、落下するヤマブシめがけ弓矢めいた勢いで飛びかかったもう一人のニンジャあり!「グワーッ!?」

 落下ヤマブシは空中で二度蹴られ、脇腹、心臓を破壊されてソクシ!柱に叩きつけられて動かなくなった。新手のニンジャはタタミ上に音も無く着地した。「ドーモ。ダークニンジャ=サン。ちと、ぬかったわ」クイックシルヴァーが謝辞を述べた。オブシディアン装束のニンジャは短く頷いた。

「掃討はもう済んだか」クイックシルヴァーが言った。「あらかたな」ダークニンジャはUNIX端末を確認しながら答えた。彼は震えるモガタを見た。「この男は?」「現地人だ。拷問して吐かせる」「この男がどれだけ知っているものか」「仕方無し。トレジャーハンターは既に死んでいる」「そうか」

「拷問アイエエエエ!」モガタは気絶寸前だ。だが残念ながら実際に気を失って逃れる事はできなかった。「イヤーッ!」クイックシルヴァーは前触れ無くモガタの親指をへし折った。「アイエエエエ!」ダークニンジャは腕を組み、そのさまを見守る。 

「お前に恨みは無いが、恨みつらみと拷問は関係無い。わかるな」クイックシルヴァーは言った。「アイエエエエ!」「黙らねば次は薬指だ」「アイエエエエ!」「イヤーッ!」「アイエエエエ!」ナムアミダブツ!

「ソウカイヤは……ん?聞こえるか」クイックシルヴァーはピシャピシャとモガタの頬を叩いた。「ミヤモト・マサシのレリック情報の拡散源に興味を持っている。あるじの趣味でな。何でも知りたいのだ。協力した方が身のためだぞ」「何でも話します」「ぷっ」クイックシルヴァーが笑った。「ブザマ」

「何でも話します」モガタは繰り返した。「そりゃそうだ」クイックシルヴァーは言った。「後でみっちりやる。みっちりとな」「行くぞ」ダークニンジャが言った。クイックシルヴァーは頷き、モガタを立たせると、後ろ手を拘束した。「ちなみに今の指折りはな。特に意味が無い」「アイエエエエ!」


◆◆◆


「……何という事だ……何という」エルダーヤマブシは震え声で呟いた。深い皺の刻まれた顔に、モニタの光が青白く照っている。壁一面に設置されたモニタは、レリックタワー内部の定点を監視する為のものだ。断続的な電磁ノイズの中、虐殺されたヤマブシの死体がちらちらと映る。 

「こんなバカな……」「そうだ」エルダーヤマブシの背後の闇に、赤黒のニンジャが浮かび上がった。「アイエエエ!?」エルダーヤマブシは思わず悲鳴をあげた。「貴様なぜここに!」「見ろ」ニンジャスレイヤーは構わず、モニタを示した。「これがソウカイヤのやり口だ。皆殺しだ」 

「では貴様はソウカイヤか?」「違う」ニンジャスレイヤーは否定した。「私は敵ではない」「な……」エルダーヤマブシは沈思した。問答無用で攻撃を仕掛けたのは、確かにヤマブシ。彼の反撃は容赦無き正当防衛か。「どう……どうすればいい」老人は呻いた。

「……見ろ」ニンジャスレイヤーが指差した。鈍色のニンジャの後ろ姿。一瞬後、カメラは破壊され砂嵐化した。「奴はソウカイ・シックスゲイツのクイックシルヴァーだ。現在はミヤモト・マサシの聖遺物を収集する任についている」「ソウカイ・シックスゲイツ?」 

 ニンジャスレイヤーはソウカイヤについて端的に説明した。そして言った。「首領のラオモト・カンはミヤモト・マサシの崇拝者だ。先日ネットワーク上に流れたレリック情報に、彼が興味を示したのも当然の流れ」「何?聖ミヤモトの遺灰が」ニンジャスレイヤーは首を振った。老人は震えた。「まさか」

「そのまさかだ」「一体なぜ……どこから……」「何らかの考古学的考察だろう。オヌシらが秘しておろうとも、他の情報を継ぎ接ぎして、突き止めたものがいる」ニンジャスレイヤーは言った。「彼の用いたカタナ……ナンバンと、カロウシの在り処を!」「グワーッ!」 

「ナンバン、カロウシ……刀匠キタエタの手になる四つがいの剣!奴は既に三つのつがいを手に入れている。奴は独占欲の塊だ。このレリックタワーに秘された最後のつがいは全盛期の作。特に投機的価値が高いとされる。……奴はカネの亡者でもある」「こんなにも秘密が……公に……!」 

 ニンジャスレイヤーはモニタ群を睨む。累々たるヤマブシの死骸。ほぼ全滅か?いかなクイックシルヴァーがソウカイ・シックスゲイツのニンジャであろうと、唯一人でここまで短時間のうちに?「どうすれば」老人は繰り返した。「殺す」ニンジャスレイヤーは言った。「ソウカイニンジャは私が殺す」 


後編

「キリキリ歩け!」「アイエエエ!」クイックシルヴァーはモガタを蹴った。現地人は恐怖に顔を引きつらせて廊下を進む。ダークニンジャはその数メートル先、UNIXないし古式の歯車制御のトラップを警戒しつつ先導する。第八フロア。タワーに関するモガタの情報に真新しいものは無かった。

 モガタの事は後々拷問する。マサシの聖遺物は投機の対象だ。ナンバン、カロウシの他に、まだまだ様々な品が日本各地に眠っている。それらの有益な情報が得られれば僥倖。見込みが薄いのは承知の上だ。ダメならダメで、拷問自体がクイックシルヴァーの愉しみである。主君ラオモトも喜ぶかも知れぬ。

「停まれ」ダークニンジャが振り返った。「停まれ」クイックシルヴァーがモガタを蹴った。「アイエエエ!」……ダークニンジャはスモーク・スプレーを散布した。「赤外線だ。避けて通れ」「成る程な」クイックシルヴァーがモガタを蹴った。「しくじるなよ?クズめ」「アイエエエ!」

 赤外線トラップ地帯を抜けた三者は、上階への直通エレベーターの扉の前に立った。クイックシルヴァーが進み出た。「いよいよ心臓部だな。ここからはまかせておけ」クイックシルヴァーはダークニンジャを見た。「……企業秘密よ」「……」ダークニンジャはしめやかに下がり、見守った。

 クイックシルヴァーには、幾つかのミヤモト・マサシ・レリックを奪取してきた実績が既にある。彼はこの手のハック&スラッシュに関しては大ベテランで、この種の防衛機構に共通するプロトコロルに精通していた。ソウカイヤにおける地位を確かなものにすべく、彼がその神髄を他者に漏らす事は無い。

 パボッ!赤いLEDが緑に変わり、液晶パネルに「道」のカンジが灯る。「……この通りよ」クイックシルヴァーがダークニンジャを見た。ダークニンジャは頷き、鉄扉を引き開けた。エレベーター。「モタつくな!」「アイエエエ!」モガタはクイックシルヴァーにまたも蹴られた。

「到着ドスエ」電子マイコ音声が告げると、扉がひとりでに開いた。第九フロアだ。壁の無い円形の空間が彼らを出迎える。奥には木彫りのミヤモト・マサシ像が堂々と直立していた。そのサイズは4メートルほど、赤や緑で毒々しくペイントされ、侵入者に剣呑な目線を投げる。

 像の前の台座には壷が置かれている。「遺灰」ダークニンジャが言った。彼は円形の部屋の壁に書き込まれた文書を見渡す。「稚拙な写本だ。ヤマブシの信仰か」バカにしたように呟く。「何?」クイックシルヴァーが聞き返した。「いや。……カタナはどこだ、クイックシルヴァー=サン」「まあ見てろ」

 クイックシルヴァーは遺灰を無視し、マサシ像の背後にまわった。彼が像の背中を探ると、フタめいて木片が剥がれた。「企業秘密よ。そこにおれ」クイックシルヴァーは言った。ダークニンジャはモガタとともに彼のハッキングを眺めた。モガタは憔悴しきっており、卑屈な目で傍観するばかりだ。

「所詮、この手の秘密は所詮、手工技術がプアーな時代の代物。わかる奴が見れば、たかが知れておる事がわかるものでな」「成る程」「エジプトのピラミッドのトラップやら、所詮は苔むしたいじましい工夫の産物よ」「……」「おう!待たせたな」彼が何かを動かすと、像が真っ二つに割れ、開いた!

「ア、アアア!」モガタが畏怖の叫びをあげ、へたり込んだ。真っ二つに割れたマサシ像の左右それぞれには金塗りの細長いくり抜きがあり、中にはカタナが収められている!「これはこれは!」前に回ったクイックシルヴァーが感嘆した。「まさにナンバン!そしてカロウシではないかね?」「流石だな」

「なに。俺の手にかかれば、この手の宝探しは実に単純作業めいておる!欠伸がでるわ」「それゆえ、つまらぬ欲が出てしまうか」「……何と?」クイックシルヴァーが訊き返した。ダークニンジャは無感情に言った。「それゆえ今回は私が同行したのだ、クイックシルヴァー=サン」「話が見えぬが?」

「マサシのレリックは『円盤の鍵』の破片と共に秘されている」ダークニンジャは言った。「完全な形の『円盤の鍵』は、ある秘跡の暗号を解く」「……」クイックシルヴァーの視線が険しくなる。ダークニンジャは問う。「当然、ご存知だな」「さて」「答えは出ている」ダークニンジャは笑った。

 彼は己の懐から紫色の包みを取り出した。クイックシルヴァーは目を見開いた。「バカな!貴様どこからそれを」「当然、貴公の隠し金庫だ」とダークニンジャ、「主君の命とあらば、不本意な行いもせざるを得ないのが心苦しき事」彼は包みを開いた。真鍮の古代円盤!実に8分の6が完成している!

「たった今懐に隠したそれを合わせれば、かけらはあと一つだ」「ヤメローッ!」クイックシルヴァーがダークニンジャに飛びかかった。「イヤーッ!」「イヤーッ!」クイックシルヴァーは投擲されたダークニンジャのクナイをしゃがみ前進で回避!タックルをかけようとする!「ヤメローッ!」

「ア、アイエエエエ!?」モガタが悲鳴を上げた。クイックシルヴァーが地面にうつ伏せに倒され、その背をダークニンジャが踏みつけていたのだ。非ニンジャのモガタには手品めいた一瞬である!「グワーッ!」クイックシルヴァーがもがいた。「貴公はやりすぎた、クイックシルヴァー=サン」 

 ダークニンジャは無感情に言った。「主君ラオモト=サンは貴公のやり方を多少苦々しく思われていたようだ。……貴公とは、幾度か共に死線をくぐり抜けもした。おれは何の恨みも無い」「グワーッ!」「だが、興味も無いのだ」「グワーッ!」ダークニンジャはかがみ込み、円盤の破片を奪い取った。

「俺をどうするつもりだ!」クイックシルヴァーがもがいた。「セプクか!」「……」「斬首か!?」「……」ダークニンジャは見下ろした。彼は答えようとした。その時、エレベーターの扉が開いた。彼は顔を上げ、中から現れ、広間に新たにエントリーした赤黒のニンジャを見た。「ほう」 

「……ドーモ。ダークニンジャ=サン。ニンジャスレイヤーです」赤黒のニンジャはアイサツした。「ドーモ。ダークニンジャです」ダークニンジャはアイサツを返す。「取り込み中でな」彼は呟き、懐から鋭い物体を取り出した。それをクイックシルヴァーの延髄に素早く撃ち込んだ。「イヤーッ!」

「グワーッ!」クイックシルヴァーが悲鳴を上げて仰け反る。ナムサン!延髄に撃ち込まれるや、サイバネ異物は先端部を無数の鈎棘と化し、決して剥がせぬ状態に変化!異物の表面のLEDがチカチカと点滅を開始する。「グワーッ!」クイックシルヴァーが悶える。「これは爆弾だ」とダークニンジャ。

「ニンジャスレイヤー=サン。おれは別のミッションの途上だ。クイックシルヴァー=サンが相手をしよう。……クイックシルヴァー=サン。爆弾の起爆装置はラオモト=サンが管理している。忠義を見せれば生き残れるやも知れん」「グワーッ!」ダークニンジャは身を翻し、カタナ二本を手中にした。

「おめおめ逃がすと思うか」ニンジャスレイヤーがジュー・ジツを構える……だが、跳ね起きたクイックシルヴァーが遮るように立つと、ニンジャスレイヤーへオジギしたのである!「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ヌウーッ……クイックシルヴァーです。俺が、相手だ!」「何……?」

 ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。「正気か、貴様?」「ダークニンジャ=サン!IRCで俺の忠義を主君と共にモニタリングせよ!」クイックシルヴァーの怒声に迷いは無かった。ヤバレカバレめいていた。そして残念ながら、彼の生存可能性は、このヤバレカバレ以外に存在しないのも確かなのだ!

「イヤーッ!」クイックシルヴァーがニンジャスレイヤーに向かう!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはクイックシルヴァーめがけスリケンを投擲!当たらない!クイックシルヴァーは滑るようにしゃがみ前進しこれを回避してしまうのだ!「イヤーッ!」しゃがみ前進からのヤリめいたサイドキック!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはバック転でこれを回避!しかしクイックシルヴァーはしゃがみ前進で間合いを詰める!「イヤーッ!」しゃがみ前進からのヤリめいたサイドキック!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはバック転でこれを回避!

 KABOOOM!ダークニンジャが壁の一地点に仕掛けたC4爆弾を爆発させた。壁に穴が穿たれ、風が吹き込んでくる!「サラバ!」ダークニンジャは跳んだ!メンポの奥で歯を食いしばり、ニンジャスレイヤーは更なるクイックシルヴァーの蹴りをバック転回避した。「イヤーッ!」スリケン投擲! 

「イヤーッ!」クイックシルヴァーは恐るべき速度でしゃがみ前進!スリケンが当たらない!両脚を広く開くと、恐るべき踏み込み間合いのしゃがみパンチを繰り出す!「グワーッ!」着地際のニンジャスレイヤーは拳を受けて吹き飛ぶ!

「イヤーッ!」吹き飛びながらニンジャスレイヤーはスリケン投擲!だがクイックシルヴァーには当たらない!しゃがみ前進速度が非常に速く、間合いが狂わされてしまうのである。クイックシルヴァーが肉迫する!「イヤーッ!」なかば背を向けながらの後ろ足の蹴りだ! 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはすんでのところでこの蹴りをガードし、反動で後ろへ吹き飛んだ。「ヌウッ!?」クイックシルヴァーが訝しんだ。ニンジャスレイヤーが壁を後ろ脚で蹴った!「イヤーッ!」「バカめ!」クイックシルヴァーはしゃがみ前進!そしてサマーソルトキックを繰り出す!

 ナムサン!カラテ奥義サマーソルトキックは空中からの突撃を迎え撃つのに極めて最適な攻撃手段である!「イヤーッ!」「グワーッ!?」「アイエエエエエ!?」モガタが悲鳴を上げた。赤黒と鈍色の二色が空中で風車めいて混じり合うと、回転しながら床に激突したのだ!

「アイエエエ!」モガタが悲鳴を上げた。背中から地面に叩きつけられたのはクイックシルヴァーである!「イヤーッ!」一瞬後、ニンジャスレイヤーはイナズマめいた勢いでクイックシルヴァーのマウントを取った!「イヤーッ!」右パウンド!「グワーッ!」「イヤーッ!」左パウンド!「グワーッ!」

「イヤーッ!」右パウンド!「グワーッ!」「イヤーッ!」左パウンド!「グワーッ!」クイックシルヴァーが殴り返す!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはガードし、「イヤーッ!」右パウンド!「グワーッ!」「イヤーッ!」左パウンド!「グワーッ!」 

「イヤーッ!」右パウンド!「イヤーッ!」クイックシルヴァーはその腕を抱え、瞬間的なブリッジでニンジャスレイヤーを裏返した。「グワーッ!」「イヤーッ!」腕ひしぎだ!「グワーッ!」「イヤーッ!」「……イヤーッ!」「グワーッ!?」クイックシルヴァーの身体が浮き上がった!

 ゴウランガ!なんたるニンジャ腕力か!ニンジャスレイヤーはクイックシルヴァーごとその腕を振り上げたのだ!そして、叩き付ける!「イヤーッ!」SLAM!「グワーッ!」さらに振り上げ、「イヤーッ!」SLAM!「グワーッ!」「イヤーッ!」SLAM!「グワーッ!」 

「ラ、ラオモト=サン」クイックシルヴァーの後頭部から血が流れ出す!ニンジャスレイヤーは起き上がり、踵を振り上げた。「終わりだ」「アバッ……」クイックシルヴァーは頭を上げようとしたが、かなわなかった。「ラオモト=サン!忠義!我が忠義ーッ!」

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは無慈悲に踵を振り下ろそうとした!カイシャク!「サヨナラ!」「……!」ニンジャスレイヤーの非凡なニンジャ第六感が危険を察知、彼はカイシャクを中断し、全力でバック転を打った。……KABOOOOOM!クイックシルヴァーは手榴弾めいて大規模爆発四散!


◆◆◆


 遠く離れた地、トコロザワ・ピラー天守閣では、乳房も露なオイランにかしづかれるラオモトが、押し終えた起爆スイッチを無感情に一瞥すると、放り捨てていた。彼はオイランの胸に挟まれたIRC通信機を取り、耳に当てた。「……そうか。チョージョー。戻れ。……いや、つまらぬ花火であった」


◆◆◆


 重い黒煙が壁の穴から徐々に吐き出されてゆく中、ニンジャスレイヤーはゆっくりと身を起こした。彼の腕の下ではモガタが庇われていた。「アイエエエ……!」「これは」声の主は新たにエレベーターで上がって来たエルダーヤマブシである。「……」ニンジャスレイヤーは無言で頭を振った。

「おお……おおお」エルダーヤマブシは震えながら真っ二つのマサシ像に近づき、ナンバンとカロウシの喪失を確認した。「おおお……」「アイエエエ……」モガタはおぼろげに状況を認識し、彼なりの困惑した罪悪感を持って、そのさまを眺めた。ニンジャスレイヤーは無言であった。 

「何たる……事」エルダーヤマブシはもはや押し寄せる感情をどうする事もできず、膝から崩れ落ちた。ニンジャスレイヤーはモガタの拘束を破壊した。彼は壁の穴のきわに立ち、外を見下ろした。棚田、岩山、谷、そうしたものを。

 ニンジャスレイヤーは室内を振り返った。モガタがおずおずとエルダーヤマブシに近づき、何かしら話しかけた。老人は膝立ちで這い進み、遺灰の壷に手を伸ばした。「遺灰は……遺灰はある」「そうですよ」モガタが慰めた。繕うような、無力な言葉ではあった。相手はカルティストで、信者も全滅だ。

「遺灰はある……」うわごとめいて老人は繰り返した。ニンジャスレイヤーは向き直った。「ともあれ、オヌシも一度塔を降りねばなるまい」「……」「そうね、行こうね、ね」モガタが老人に声をかけた。ニンジャスレイヤーのIRC通信機が鳴った。ナンシーだ。「首尾は?どう?」

「失敗だ」ニンジャスレイヤーは低く言った。「シックスゲイツのクイックシルヴァーは殺した。だが……」「ニンジャを殺した貴方が、失敗とはね」ナンシーが言った。「後でまた連絡する」ニンジャスレイヤーは通信を切り、打ちひしがれた二人のもとへ歩いて行った。 

 砕けたマサシ像が、恐ろしげな瞳はそのままに、彼らを凝視していた。 


【ガイデッド・バイ・マサシ】終



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