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S3第7話【ナラク・ウィズイン】分割版 #1

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◇関連エピソード:「ギア・ウィッチクラフト」

S3題6話【エスケープ・フロム・ホンノウジ】 ←


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 崖の上でマスラダとコトブキはバイクを停止させ、眼下に霞む光景を見下ろした。空の色は薄紫の色彩を帯び、漂う空気は独特の香気を含んでいる。「すげえ……」マスラダの後ろで、ザックが驚嘆の声をあげた。確かにそれは、感傷的なモミジに覆われたネザーキョウの他の地方よりも、なお非現実的な美だ。

 靄がかかった自然は崖上からさやかには見て取れぬが、澄んだ水、群生キキョウの青紫、藤の花が作り出す夢幻的な美の気配は、遠目からでも彼らを驚かせるに十分だった。これが彼らの目的地……ライディングマウンテン自然公園が歪められた姿……ハリマ離宮の姿だった。「感じるぞ」マスラダは呟いた。


S3第7話【ナラク・ウィズイン】


 一方、ネザーキョウ、ネザーオヒガン。極彩色渦巻く闇の下、アケチ紋が描かれた旗や槍が連なる古戦場にほど近い場所に小さな庵が存在する。実際それは茶室であり、タイクーンと招かれた特別な客にしか使用を許されぬ場所であった。茶室を包むように、長虫めいた邪龍オオカゲがとぐろを巻いていた。

 ネザータタミの敷かれたミニマルな茶室空間に対座するのは、タイクーンその人……アケチ・ニンジャと、しなを作って艶かしく座る女のニンジャ……ティアマトであった。髪は黒曜石めいて黒く、その眼差しはけぶるようで、唇はつややか、豊満な胸を強調するように、緩く交差させた腕を腿に置いている。

 茶室には「不如帰」のショドーが飾られ、三本足の蛙の香炉からは、ネザーウィードと忌まわしきセトの薬粉をブレンドさせたインセンスが奇妙な香りを立ち上らせていた。茶釜は黒紫のネザー石炭にくべられている。邪悪な熱に耐えられる茶器は実際希少である。名物、ヒラグモであった。

「芳しいでしょう?」ティアマトは鈴のように笑い、薬粉をおさめたカノプス壺の蓋を閉めた。壺は実際セトの肖像を象ったものであり、エジプト考古学者が目にすれば発狂するだろう。ティアマトの膝下には、宇宙的な色彩を秘めた椀が置かれている。名物オモカゲ。

 ティアマトは淫らな微笑みによってタイクーンを促した。タイクーンは笑みひとつ浮かべず、組んだ腕にはカラテの血管が漲っていた。「……」彼は懐から古びた茶器を取り出した。オオオオン……。その瞬間、茶室の名物達は共鳴するように、たしかに震動した。茶壺。ニッタ・カタツキだ。

「嗚呼……凄い。これ程の品が、これ程オヒガンに近い場所に……」ティアマトは潤んだ目を蕩けさせた。タイクーンは私語を咎めるように睨みつけた。ティアマトは悪びれず言った。「チャドーならば私にただ従えばよい……堅苦しい決まりなど、愚鈍で臆病な者達の枷に過ぎないのだから」「御託はいい」

 ティアマトは瞬きした。タイクーンは虚空にあらわれたハイク・カードと筆を2本の腕で取った。そして素早くハイクの前半をしたためた。「死せる不如帰 / 」ティアマトは自身のハイクカードに後半を書いた。タイクーンの禍々しい句に合わせた即興である。「 / 冥府にては飛ぶ」……茶器が輝き始めた。

「スゥーッ……ハァーッ……」ティアマトは深く呼吸した。タイクーンは導かれるように呼吸を連ねた。「スウーッ……ハアーッ……」二者の呼吸と、茶器の唸りが同期した。香炉から漂う煙に色が生じた。金色の雲だ。さながらそれはキョート市街を俯瞰した古代ビヨンボの芸術表現めいていた。

 ティアマトはチャを泡立てた。ニッタ・カタツキにおさめられていたチャは砂金めいて輝く。タイクーンは差し出された椀を取り、だが、すぐには飲まず、目を閉じて、口元に留めた。「スウーッ……! ハアーッ……!」「ふふ……そのまま」ティアマトはオーバーサイズの羽織を肩にまとい、立ち上がった。

 ティアマトはいつの間にかタイクーンの背後にいた。抱きしめるようにして、後ろから密着し、顔を寄せて、再び深く呼吸する。「スゥーッ……ハァーッ」「スウーッ……ハアーッ」タイクーンの目が呼吸にあわせて明滅する。ティアマトは後ろから手を伸ばし、椀に添える。「ふふふ……身体が大きい」

 これにてニニンバオリ状態! そして今や、チャの輝きは椀に収まらず、金色の光柱と化して迸り出た! タイクーンは椀を高く掲げ、胸を反らせ……飲んだ! ティアマトはいつの間にか前へまわり、アグラするタイクーンの膝の上で自身もアグラし、密着して向かい合っていた。「嗚呼!」……やがて、離れた。

 二者は再び厳粛に、正座して向かい合い、同時にオジギをした。「「結構なオテマエでした」」ナムサン……これは、まぎれもなくチャドー! 地水火風空の五大元素およびエテルを取り込み、カラテに換える行為! 精神は深層へ潜り、裏返り、オヒガンへと達し、その力を自らの肉体に取り込む! フーリンカザンの極地也! しかしそれは……!

 そして、見よ!「エイッ!」タイクーンは4本の腕を掲げた! 壁の四方にあらかじめ立てかけられていた4本のネザーアイアンの槍がテレキネシス飛翔! それぞれの手で、掴み取る! 今やそのカラテの充実あまりに凄まじく、茶室はガタガタと揺れ、茶釜の水が溢れてネザー石炭に触れ、蒸気を噴いた!

「ヌウウウーッ!」タイクーンがカラテを注ぐと、4本の槍は黒黒と輝き始めた! おお、おお!なんたるダーク・チャドーの禁忌がオヒガンに実際近いこのネザーオヒガンの地にて為される事の冒涜的な有様か! ティアマトは興奮に頬を上気させ、舌舐めずりした。「時、来たれり!」タイクーンは叫んだ! 

「ゆめ忘るなかれ、アケチ・ニンジャ=サン」ティアマトが言った。「グレーター・ハマヤをひとたびで4本。我がダーク・チャドーの助けなくば、そなたの野望もビヨンボに描いた虎に過ぎなかった事」「我が后となれ、ティアマト=サン!」タイクーンの目が燃えた。

「それもよいが……」ティアマトは答えをはぐらかした。「……そなたが一番欲しいものは私ではないでしょう?」「無論!」「私は一番でなければ気乗りせぬゆえ」「フン。言いも言うたり」タイクーンは途端に興味が失せたようだった。ティアマトはやや不満そうに続けた。「オダのソウルはサツガイによりてもたらされる。必ず」「……」

「その沈黙は信頼の証よな?」ティアマトは念を押した。タイクーンはティアマトを睨んだ。「誓約など惰弱な商人のもの。我には不要」彼は力に満ち溢れたハマヤを矢筒に収めた。そして言った。「ネザーオヒガンの探索を許す」「素敵」ティアマトは目を細めた。「これで、そなたの願いも叶うであろう」


◆◆◆


 ハリマ離宮は澄んだ水とともにあった。足首ほどの深さの浅い水に、キキョウが咲き乱れている。遠くで滝の音が聞こえる。水はそこから流れてくるのだろうか。マングローブじみた白くねじれた木々がそこかしこに生え、視界を遮る役に立つ。マスラダのニンジャ聴力は歩哨の動きを捉えていた。危険だ。

「タイクーンは感傷とともにこの地に離宮を建て、家紋のキキョウを愛でる地としたのだそうですよ」ミコー姿のコトブキは、リコナーから授けられた地域ガイド文書の内容を諳んじた。「もともとここはライディングマウンテン自然公園……風光明媚な、緑と水の地でした。生態系を変えてしまったようですね」

「……」マスラダはコトブキを黙らせ、ザックを手招きして、マングローブの木陰に身を潜めた。ダカダ。ダカダ。ダカダッ。赤い鎧に身を包んだゲニン・トルーパーの騎兵が、周囲を哨戒しながら、木々の反対側を走り抜けていった。「ものものしいぜ」ザックが騎兵を見送り、呟いた。「どうしてかな」

「それはもう、フィルギア=サンの話が裏付けられたという事ではないでしょうか」コトブキが請け合った。「マスラダ=サン、どうですか。感じますか?」「……」マスラダはマングローブの陰から身を乗り出した。靄のせいで視界が思いのほか悪かった。だが、それを透かし、超自然の気配が確かにある。

 銀の火だ。

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