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S1第12話【オラクル・オブ・マッポーカリプス】

総合目次 シーズン1目次


「僕のグループ展に出さないか」
「タキ=サンが潜入してソーシャルハックしないと!」
「狼ってのは牙を隠し持つ。オレのようなアウトローはな」「ははは、然り、然りよな」
「わからない事だらけだから、私はもう、感情に従う事にする」
「ヤバイ、銃が……畜生め!」
「アカチャンーッ!」
「ブラスハートの名まで出たか。よく調べている」「……知っているな」
「今やれ! オレは上客だ」
「卑しく実際安いカスめ! 俺の経済活動を妨げる資格はない!」「好きにやれと言っている。だが、殺す」
「……奴はクラバサ・インコーポレイテッドの上級社員だ」
「動けません」


1

「毎回毎回アレだがよ」店内地下アジト、タキはUNIX蛍光ライトに照らされたしかめ面をニンジャスレイヤーに向ける。「今回はマジで無理だ。終わってる」「そうか」ニンジャスレイヤーは眉ひとつ動かさず、タキを見返した。コトブキが二者の顔を見比べた。「……」「……」

「わかってるか。わかってねえな」タキは繰り返し頷き、頭は掻いた。コトブキに向かって言った。「コイツはわかってねえ」「わたしもわかりませんが……」「ブラスハート。ニンジャ。クラバサINCの上級社員、カイル・オズモンド」タキはUNIXモニタに映る収拾情報を読み上げる。

「サラリマンか」ニンジャスレイヤーは呟いた。タキは唸った。コトブキに向かって言った。「な。わかってねえンだよ」「わたしに話すんですか」「……ニンジャスレイヤー=サン。あのな。上級社員ってのはな。満員電車をゲッソリ揺られる身分と違うぞ。しかもクラバサINCだ。つまり、雲上人だ!」「要はニンジャだ」ニンジャスレイヤーは言った。

 タキはキータイプを行う。「クラバサINCは実際強い豪族企業。メイン産業はエメツ採掘プラントの特殊技術の提供。チームの派遣。常備軍も、経済圏も持っている。そこの上級社員ッて事は、どこへ行くにもVIP待遇で、今回……」「何処にいる」

 ニンジャスレイヤーの語気には押し殺した意志の重みがある。ブラスハートはサツガイに二度接触しているニンジャであり、サンズ・オブ・ケオスの創始者だ。彼が求める仇に、明確に、最も近い。絶対に逃してはならない敵だ。「お前が何か困難をあげつらうとする。おれが何もせず諦めると思うか」

「思わねえよ。だがよ……」タキは言葉に詰まった。「……まあいいさ。勝手に行って、勝手に死ね」「サポートしてください。ちゃんと」コトブキが身を乗り出した。タキは顔をしかめた。「するッつうの。オレは痛くも痒くもねえ」「話を戻せ。ブラスハートは何処にいる」「オムラの浮遊要塞だよ」


【オラクル・オブ・マッポーカリプス】


 極彩色のネオンとホロスモークに昼夜彩られた邪悪なるリマは、世界有数の港湾都市であり、物資を循環させる地球の心臓のひとつだ。物理港、空港、ウキハシ・ポータル。どれも信じがたいほどに壮麗で、巨大で、混沌としており、ネオン漢字看板とトリイが溢れている。

 旅客機がせわしなく発着する空港に、離陸準備する菱形の影があった。四つの巨大ローターに支えられた分厚いパンケーキじみた機体にタラップが横付けされており、同じ格好をした者達が、巣穴に入る蟻めいて列を為していた。彼らはサラリマンであるが……一種異様な出で立ちをしていた。

 彼らは皆、漆塗りのパワード武者鎧で身を固めていた。頭にはパワード兜を被り、チューブを無数に生やしたガスマスクめいたフェイスカバーを装着している。赤と黄に明滅するゴーグルは蠅を思わせた。腰にはカタナ。背には旗竿。夜風に翻るのは「足軽」と書かれたノボリ旗だ。

「足軽」すなわちアシガルとは社内プロトコルであり、平社員と同義だ。課長身分はダイカン、部長職はハタモトだが、ここにはいない。タラップから巨大機体へ歩き進む際、彼らは各自ノボリ旗を畳んでゆく。その際彼らは不安そうに身じろぎする。己をアイデンティファイする要素が隠れるからだ。

「コー、シュコーッ」「コーッ」マスク越しの呼吸音がしめやかに響く。「ドーモ」「ドーモスミマセン」彼らは奥ゆかしく譲り合い、整然と搭乗してゆく。争いはない。彼らは社歌、社婚、社葬で結ばれた家族であり、運命共同体なのだから。パワード兜とパワード鎧に刻印された雷神紋の誇りのもとに。

 彼らは即ち、オムラ・エンパイアのサラリマンであり、しめやかに搭乗する機体は、通勤用輸送機「モーターシュッシャ」である。パワード鎧の胸元にはLED表示が瞬く。年収表示を表す数字だ。「40000」と書かれていれば、四万オムロの年収がある事を示す。オムロとは企業通貨の単位である。

 年収の下には、「00:00:00」から動かない数値表示がある。これは連続勤務時間を示す。朝礼を行い始業した後に、この数値は動き始める。この数値を長く積み上げる者はそれだけリスペクトを得られる仕組みだ。このように円滑な業務コミュニケーションのサポートが電子的に確立されている。

 列を為して機内に入ってゆくと、等間隔でぶら下がっている吊革に、彼らは順につかまってゆく。「あ、ドーモ。タケバ=サン」「おや。キンノ=サン。奇遇ですね」「いやあ健康診断の数値が悪くって」「僕もですよ」和やかなアイサツ。ガスマスクをしていても、彼らはどうやってか同僚を見分ける。

『皆さん。オハヨゴザイマス。我らのオムラ。凄さのオムラ。嗚呼、パーツ一体感』リラグゼーション・ミュージックに乗って、マイコ音声が機内に鳴り響いた。ゴゴウン……機体のエンジン震動が大きくなった。『離陸準備に入りました。吊革にしっかりとつかまり、労働災害を防止しましょうドスエ』

 ゴウン。ゴウゴウゴウン。モーターシュッシャはくぐもった唸り声と共に、ゆっくりと垂直離陸した。機体の進行方向に微かに見えるのは、不夜城めいたネオンライトに照らされる、黒々とした空中物体のシルエット。オムラ・エンパイアが現在三機保有する空中要塞のひとつである。

「あのう……」声を発しかけた小柄なアシガル・サラリマンの右隣のアシガル・サラリマンが素早く肘で密かに小突き、黙らせた。そして無言でかぶりを振った。咎められたほうは俯き、黙り込んだ。機内には社歌インストゥルメンタルが流れ続けている。東の空が徐々に朱色に色づき始めた。

 空中要塞はこのリマ上空に24時間留まり、メンテナンスと補給を受けていた。要塞の底に張り付けられた巨大なエメツ・プレートが、反重力めいて、圧倒的質量を宙に浮かせている。こののち要塞は南東への移動を開始する。行く先はインヘニオ谷、ナスカ・プラントだ。

 モーターシュッシャはしめやかに飛行する。オムラ空中要塞の周囲あちこちに、ジェットパック・ハーネスを装着したメンテナンス社員が浮遊している。ビーコンを振っている交通整理社員もいる。通勤機内のアシガル・サラリマン達の士気は高い。リマでのリフレッシュ休暇が効いている。

 空中要塞には社員寮、ショッピングモール、大浴場、スポーツジム、社葬墓地などが完備されており、それ自体が一個の街ともいえる。しかし陸地を見れば地面に立ちたくなるのが人のサガというものだ。始業前の勉強会開始時間に間に合うのなら、すすんで土の上に降りたくもなろう。

 ゴウウンン……エンジン音がひときわ大きくなる。要塞底部のブリッジに進入し、壁面が音を反響させているのだ。『到着衝撃に備え、吊革にしっかりつかまってくださいドスエ。オムラ! ダカラ! オムラ! イチバン!』陽気なマイコ音声。機体が大きく揺れ、やがて静止した。

 ビビー。ブザーが鳴った。ハッチが開き、明け方の光が四角く漏れ込んだ。アシガル達は一定ペースの速度でモーターシュッシャのタラップを降り、要塞内へ入ってゆく。「オハヨ!」「ゲンキ!」「タベタイ?」ベントー売り業者が列になって客を呼ぶ。そちらに並ぶ者もいるが、勉強会時間が迫っている社員は先を急ぐ。

「みんな元気だよね?」通路の端ではオムラ雷神タイコを擬人化した、カワイイな鼻と口、黒目がちな目が特徴の二頭身キャラクターが、陽気なステップを踏みながら社員たちに手を振っていた。「福利厚生が凄いよ! ストレスチェックは、しているかな?」友好的な会社イメージキャラクター、オムーだ。

「インサイダー取引、していないかな?」コミカルに手を振る2メートルほどのオムーの前で、先ほどの小柄なアシガルが立ち止まった。「はい、していません!」「……」オムーはやや怪訝そうにしたが、にこやかに手を振った。「よかったね!ガンバロ!」「はい!」「よせ。来い」もう一人が促した。

「はい。コーッ、シュコーッ。コーッ」二人のアシガルの歩みは他の者達ほど歩調に統一感がなく、見る者が見れば……やや不審であったかもしれない。しかし朝の慌ただしい出社時に、そんな事をいちいち気にしていられようか。……こうして、ニンジャスレイヤーとコトブキは要塞内に足を踏み入れた。


2

 リラグゼーション・オムラミュージックが流れる通路を、奥ゆかしい左側通行で移動するオムラマン達。通勤を終え、狭い場所から解放された彼らは今や晴れやかに「足軽」のノボリ旗を背中に掲げ、ガスマスク呼吸音もヤルキに満ちている。鎧姿のコトブキは歩きながらぎこちなく再度振り返る。マスコットのオムーが気になるのだ。

(やめろ)ニンジャスレイヤーは囁いた。コトブキは後ろ髪引かれながら、(あれはドロイドの類いでしょうか。それとも、人?)と尋ねた。(どうでもいい)(サーモグラフで確かめようとしたのですが、よくわかりませんでした)(……まっすぐ歩け)(はい)

 ニンジャスレイヤーのパワード鎧胸部には【50000】の表示が灯っている。年収5万オムロといえば、アシガル社員としてはなかなかの稼ぎだ。一方のコトブキは【30000】に抑えられている。ゆえにニンジャスレイヤーがコトブキに注意するさまは図らずも自然であり、誰の疑いも呼ばなかった。

 要塞の廊下は清潔であり、チリひとつ落ちていないようにも思えた。奥ゆかしい飾り切りがほどこされた壁面にボンボリ・パネルが埋め込まれ、通路を照らす。『潜入成功だな、お前ら?』タキの秘密通信が入った。『オムラ・エンパイアにはおかしな社内プロトコルがいっぱいだ。うまくごまかすしかねえ』

(まず、どこへ向かう)『道なりだ。ただし、何も考えずに他の奴らに流されンなよ。こいつらはだいたい、部署ごとの始業前勉強会に向かうんだとよ。ケッ。勉強会用の会議室はIDチェックがある。偽装には下準備が居るが、他の社員共の目の前でキョロキョロしてみろ。速攻クソ怪しいだろ』(成る程な)

『まずはアレだ、社員食堂に行け。誰も他の部署の連中に興味なんて示さねえ。ねぼけ眼で朝飯を食ってる呑気な社員に混じってりゃ、時間が稼げる……待て! ホールドン! 他の奴らに倣え!』タキが会話を切り上げた。

 キン、キン、キン。ヒノキ・ボーを打ち合わせる音が聞こえてきた。

「オナーリー!オナーリー!」ヒノキ・ボーを打ち鳴らすアシガルは露払い社員である。オムラマン達はたちまち壁際に寄り、75度のオジギ姿勢で静止した。二人も彼らに倣った。彼らが畏まるのは【38000】の露払い社員にではない。その後ろを悠然とついてくる社員だ。ノボリには「ダイカン」。

 ダイカンはオムラ・エンパイアの社内用語であり、いわば課長職を表す。年収表示は11万オムロ。桁が違う。社員たちはオジギ姿勢で静止し、ダイカン社員の通過を待つ。心の中で微かにオジギ待機姿勢の奥ゆかしさを認められての大抜擢を夢見ながら。「オナーリー!オナーリ!」「ハゲミナサイヨ!」

『ケッ! ケッ! チョッチョッ!』頭を下げるのはニンジャスレイヤー達だったが、モニタしているタキは憎々しげに舌打ちした。『何がダイカンだ気取りやがってよォ』これが部長職、すなわちハタモトであった場合は、オジギは90度必要だ。役員クラス……タイローであったときはドゲザである。

『こいつら、路地裏でパンチの一発でもくれてやれば、頭を下げるのはそいつの方だってのによ……偉そうに!』(どうでもいい)ニンジャスレイヤーは答えた。(ただの偽装だ。おれ自身と関係のない話だ。構っていられるか)(新しい体験なので、新鮮です)コトブキが述べた。ダイカンは通過した。

 ダイカンと部下達が行ってしまうと、オムラマン達はいそいそと移動を始めた。時折彼らの何人ずつかが別れ、通路横の自動開閉フスマをくぐって勉強会に出席する。フスマの開閉速度は極めて速く、モタモタすれば挟まれて重傷を負うであろう。二人はしめやかに前進。やがて社員食堂の看板を発見した。

(入るぞ)『ああ入れ』カシュッ。高速でフスマが開いた。二人が広間にエントリーした背後で、フスマは再び高速で閉じた。「イラッシャイマセ! 業務はこれからかな?」オムーがボディランゲージと共にアイサツした。「朝ご飯は大事! しっかり栄養を取って、業務に支障のないようにしてね!」

 配膳カウンターの奥には厨房。いくつものアルミ鍋が蒸気を噴いている。二人は配膳トレーを持ち、列に並んだ。カウンターの上にはメニュー写真と共にUNIXモニタがあり、要塞のカメラが映す地上の俯瞰LIVE映像を流しているようだった。雲海だ。「アンデス・スシでパワー朝食」の字幕が躍る。

「我らのメガスゴサ級オムラ空中要塞は今、誇らしい貴方がたオムラマンを乗せて、雄大なナスカ高原付近を航行中です。当社員食堂では、滞在地域のカルチャーをしっかりと取り入れ、バラエティ溢れるパワー食を提供しています」音声ガイドが流れる。「注意、骨付肉の注文は年収5万オムロから!」

「スゴイ! 骨付肉が注文できるじゃないですか」コトブキが言った。「わたしは頼めませんが……」「スシでいい」ニンジャスレイヤーは悪目立ちを避けた。二人はそれぞれ四角い紙パックを取り、テーブルの隅に向かった。

「インヘニオ谷は現在、極めて危険な情勢です。それを解決するのは、あなた!」音声ガイドを聴きながら、向かい合って座った二人はガスマスクを開き、ポークビーンズのノリマキ・スシを咀嚼する。「皆さん一人一人が、メガスゴサの大事なパーツです。武力社員の皆さん、パーツに感謝しましょう!」

 モニタには壮麗なエメツ・プラントの空撮録画が映し出された。漏斗状の形状で、鈍い灰色だ。「クラバサ・インコーポレイテッドとの協業テクノロジーにより、ナスカ・プラントは地球有数のエメツ生産性を獲得しています。文明の叡智! しかしそれに唾吐く敵がいます。まるで未開の洞窟人です!」 

「ドーモ。要塞長のハタモト、フレデリクセンです」要塞長のいかめしい鎧姿のバストアップが映し出された。胸には【470000】の年収表示。肉眼で見れば失禁するアシガルも居るかもしれない。

「今回のミッション成否が株価に与える影響は多大です」要塞長は気さく、かつ、実直に話しかける。「ナスカ・プラントはイノベーションの源泉。しかし頑迷な一部の地元民はエメツ鉱山に蟻の巣めいたアジトを築き、不法占拠を行っております。ご存知の通りこれはケツァルカトルと称する反社会ニンジャを首謀者とするニンジャカルト活動の一環。寛大なオムラであっても断じて容認できない行いだ」

 モニタにはニンジャカルトのリーダーであるケツァルカトルの三面図、祈祷光景の隠し撮り映像がワイヤフレーム化されてオーバーラップする。「既に現地社員による治安活動は膠着状態に陥り、担当ハタモトはケジメ。ダイカン二名はセプクしています。ご存じの通りこのメガスゴサはオムラの叡智の結晶。誇りと強さと象徴の力を全地球に見せる事で株価が上がります。諸君が失敗すれば株価は……失敗などありえない。成功しか存在しない!」

「オムラ……」離れたテーブルで固唾をのんで映像を見ていたアシガル社員が感極まって涙した。要塞長はモニタ内で拳を握った。「メガスゴサの武力は実際スゴイ! それは諸君のマンパワーだ。諸君がパーツなのだ! 今回、現地へ投入される武装社員には特別パワー食が振る舞われる!」

 カメラが引いていった。そこはどうやら要塞内の特別大広間……しかも中継のようだった。垂れ幕には「壮行会」「敵に勝つ」「ハゲミナサイヨ」等の勇ましいショドーが書かれ、ひときわいかついパワード鎧姿の社員達がエマージェント体勢でパイプ椅子に着席していた。重箱が配られる。

 武装社員が一斉に重箱の蓋を開けると、まるで光が迸ったかのような感動が彼らに共有された。要塞長が檄を飛ばす。「テキ(敵)にカツ(勝つ)! 特別なカツカレーを食す光栄に震えなさい!」

「「「「「アリガトゴザイマス!」」」」」

 彼らは噎び泣きながら栄誉のカツカレーをがっついた。

「……」ニンジャスレイヤーの目が光った。彼の視線はモニタに再びアップになった要塞長の肩越し、後ろにさりげなく立つ一人の男に注がれていた。彼はパワード鎧を着ていない。仕立ての良いビジネスマン・スーツに身を包み、鼻下を鎖マスクを覆っている。コトブキは訝しんだ。「どうしました?」

「奴だ」ニンジャスレイヤーは呟いた。ビジネスマンの白く濁った眼は、どこを見ているとも知れぬ。ただ、異様なカラテの漲りがモニタ越しにも伝わって来た。それはニンジャスレイヤーがこの要塞内で確かに感じるサツガイ痕跡の気配と一致していた。


3

 カツカレーを泣きながら食べる武装社員の姿を誇らしげにパンしたあと、再びフレデリクセン要塞長にカメラが戻された。「今回の作戦をあらためて確認していきましょう。始業前勉強会の皆さんもしばしその手を止め、よく見られたし」現時点でもまだ始業30分前だが、見逃した社員はムラハチとなろう。

 ワイヤフレーム三面図が映し出したのはインヘニオ谷周辺の立体地図である。「我らが輝かしき浮遊要塞メガスゴサは、予定時刻9時24分に攻撃可能圏内に到達します」立体映像が色づき、いつしか空撮実写映像に切り替わった。広大な平原にはかの有名な巨大地上絵が描かれている。

 ハチドリ、サル、スリケンなどの雄大な地上絵の数々に、社食の社員は魅入った。それらに混じって、近年あらたに作成されたオムラ地上絵もある。輝かしき雷神紋だ。ハチドリよりも大きい。「嗚呼……」社員の誰かが溜息を吐いた。「早くこの目で我が社の社章地上絵を見たい」

「インヘニオ地域は我らの企業領土で、古代より存在する地上絵にネーミングライツする栄光に授かっています。エメツ・プラントの周囲にはオムラ米の田園が拡がります。実に美しい。地域住民はオムロの支給を受けて、喜んで働く。雇用と経済が創出されています。リクルーティングも盛んだ」

「御存じの通りオムラ・エンパイアでは浮遊要塞立ち寄り地域の住人から志願者をリクルーティングしているよ!」画面の中でオムーがボディランゲージを交えて説明すると、友好的カートゥーンが動いた。笑顔の父親がオムラ鎧を装着し、要塞にモーターシュッシャで通勤する。「高倍率! エリートだよ!」

 不意にそのカートゥーンに暗雲が垂れ込めた。泣きながら逃げ惑う家族。悲しみが支配する中、映像は再度フレデリクセン要塞長に切り替わる。「幸福破壊者ども! それが "アンデスの虎" を自称する危険なニンジャカルトだ。彼らとの交渉は望めない。そればかりか呪わしい敵対メガコーポの影がちらつく」スライド映像に「社敵?」「悪い繋がり?」のミンチョ文字が回転しながら現れ、恐怖を煽った。

「アンデスの虎はインヘニオ谷に平安時代のニンジャの化石が存在すると主張し、崇拝している。祭司長にして武装ゲリラ指揮官がケツァルカトルだ。彼らの妨害によって、クラバサINCのテクノロジーを惜しみなく注いだ次世代エメツ・プラントの建造は遅延を極めている。ひどい経済損失だ!」

「ブー!ブー!」社食の社員がブーイングした。要塞長は拳を振り上げた。「奴らの近代的戦闘力は洞窟蛮人めいたふるまいに明らかにそぐわない。然り。諸君の推測は正しい。十中八九、カタナ・オブ・リバプール社がスポンサーだ」「ブー!ブー!」「しかしメガスゴサが来たからには徹底武力で勝つ!」

 要塞長は振り返り、鎖マスクのビジネスマンを示した。「幸い今回はクラバサINCから上級社員カイル・オズモンド氏に同行いただいている。新技術プラント増設はクラバサ社の輝かしい夢。今回の件では我らと同質の怒りを共有しているのです」「ドーモ。カイル・オズモンドです」奥ゆかしいアイサツ。

「彼は今回、たっての希望でミッションに参加され、新規の技術提供をお約束いただいた……私はむしろ、その前のめりの意欲に嬉しい驚きを感じた程だ」要塞長は笑顔で言った。ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。その物言いに少し含みを感じたのだ。予定外のミッション参加を申し入れたという事か。

「エー、オホン」カイル・オズモンドは咳払いしたのち話しはじめた。「フレデリクセン=サンが仰った通り、新規エメツ・プラント増設には社運を賭けているといっても過言ではありません。エメツ抽出リサイクル技術の導入によって生産性は既存プラントの三倍となる。世界の仕組みが変わります」

「カイル=サンは……」要塞長は目配せした。「……きわめて高い戦闘能力、問題解決能力をお持ちだ。今回、我らのオムラ・トルーパーに同行し、実際に直接戦闘に参加なさいます」戦闘社員たちがざわついた。ビジネスマンは平然と頷いた。「末席に加えさせていただきます。身を粉にして働きます」

 すかさずモニタ内モニタにオムーが映り、ボディランゲージと共に「友好的コラボレーションで強烈なイノベーションだよ!」と伝えた。「ハゲミナサイヨ!」要塞長が拳を振り上げた。「オムラ!」「オムラ! オームラ! オムラ!」戦闘社員がバンザイした。「オムラ! オームラ! オムラ!」社食社員も!

 モニタに向かってサン・サン・ナナビョウシを繰り返すアシガル社員らの視界に入らぬようにしながら、ニンジャスレイヤーとコトブキはしめやかに社員食堂を退出した。廊下を進み、高速開閉するオムラ・フスマを幾つか通過した。

『そこを右だ。そうすりゃエレベーターだ』タキが通信した。『何がアンデスのカルトだ。エンパイアの連中だって十分カルトだぜ』タキは毒づいた。『こいつらオムラオムラ言ってやがるが、所詮は磁気嵐で締め出された外様の企業連中だ。日本国内の本社は当時既に倒産しちまってたしよ。元がどんなか誰にもわかりゃしねえ。ま、ロクなもんじゃなかったろうが』

「そうなんですね! 色々あったのですね」と、コトブキ。『その通りだ』タキはさも自分が生き証人であるかのように語った。『ふざけた鎧野郎ども』「この鎧がクソだという意見には同意する」ニンジャスレイヤーが言った。エレベーターが到着しフスマが開くと、二人は他のアシガルと共に乗り込んだ。

(何階だ)ニンジャスレイヤーはタキにニューロン・ウィスパー通信を行った。(ブラスハートはあの大広間に待機か)『いや、移動する筈』タキが答えた。『オズモンド……ブラスハートは映像で見ての通り、VIP対偶。要塞長と一緒に要塞艦橋に移動する。エレベーターで上がれるだけ上がれ』

「私、胃潰瘍みたいで」アシガル社員が連れのアシガル社員に話した。「胃潰瘍ですか。まずいですね。私はコレステロール値が非常に良くなかったです」「困りますね」「全くです」オムラ社員同士のコミュニケーションは健康に関する内容が主である。重苦しいエレベーター内で、皆が耳をそばだてる。

 やがてエレベーターは移動可能な最上層まで到達し、社員を吐き出した。二人は分岐路で立ち止まる。「どちらだ」『いや、この辺になると、もうわからねえな。オレはテンサイ級レベルのハッカーだが、オレにもできねえ事はある。気を引き締めろよ!』ニンジャスレイヤーはサツガイの気配を探る。

 サツガイの気配……すなわちブラスハートの位置、その単純三次元的な方向はかろうじて判別できる。だが、実際の要塞内の曲がりくねった通路をどう進めばどこに辿り着けるか、当然ながらわかりはしない。「何かわかるか」ニンジャスレイヤーはコトブキを見た。コトブキはかぶりを振った。

 ニンジャスレイヤーは直感を頼りに左通路を選んだ。道なりに進むと、通常より厳めしいフスマ・ゲートが行く手を塞いだ。液晶パネルに「年収60000オムロより」の表示が瞬く。「わたしの二倍近い」コトブキが表情を曇らせた。「ニンジャスレイヤー=サンでも足りません。合計ではダメですよね」

「隠密はここまでだな」ニンジャスレイヤーは言い、電子施錠装置を破壊すべく手をのばした。「待ってください」コトブキが制した。「LAN直結ポートがあります。やってみます。はじめますね、タキ=サン」ケーブルを装着する。「……」ニンジャスレイヤーは他の社員の接近を警戒し、見張った。

「繋ぎました。そちらからハックできますか?」『オレか? まあ、やってもいいが……中枢に近すぎる。思わぬ要因で良くないことが起こるかも。やってやれない事はねえが、他に方法があると思うぜ。多分』「早く! ハゲミナサイヨ!」冗談めかしてコトブキが叱咤した。『知らんぞ!』ブガー! ブガー! 鳴り響く警報音!

 照明が激しく赤色点滅を始めた。ニンジャスレイヤーは身構えた。ブガーブガー!『オレのせいじゃねえ! 知らねえ! どうにかしろ!』「ンンッ!」コトブキは慌ててLANケーブルを引き抜く。ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。「これは……」「わたし大丈夫です」ブガーブガー!

「イヤーッ!」もはや構わない。ニンジャスレイヤーはカラテでフスマを破壊した。「行くぞ」「はい!」ブガーブガーブガー!『忠実なるオムラ社員の皆さん! 勉強会を中止し、エマージェンシー・プログラムに移行しなさい。飛来物を検知。回避不能な。2分後に当要塞第六エリア付近に着弾な』

「これは! 攻撃? 飛来物だそうです!」コトブキが言った。ニンジャスレイヤーは走りながら振り返る。「とにかくこの先だ……艦橋が高年収専用エリアならば。おれの感覚も近い」ブガーブガーブガー!『着弾……備えてくださいドスエ!』KRAAAASH!「アイエッ!」震動! コトブキは転びかけた。

「問題ありません!」コトブキは壁に手を突き、先を急ぐようニンジャスレイヤーを促した。『オレは関係ねえぞ!』タキの通信。「どうでもいい! 何が起きている」ニンジャスレイヤーは問うた。『そりゃお前……なんか飛来物が来たんだよ。わかった! きっと、ナントカの虎がアレだ、ミサイル撃ったんだ!』 

「君達!?」行く手にダイカン社員がいる!「年収が足りんぞ。何故ここに居る!」社員の胸には【61000】の表示。「その……道に迷って」走りながらコトブキが言った。ダイカン社員はそれ以上問わず、迷わずアーク銃で攻撃した。BOOOM!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが襲い掛かる!

 KRAASH! 強烈なパワード・パンチがダイカン社員の胸部に叩き込まれた。「ムン」ダイカン社員はひしゃげた胸部とエラーで乱れた年収表示を手で押さえ、悶絶した。ニンジャスレイヤーはパワード鎧の鉛めいた重さを不意に感じた。今のアーク・ショットによるUNIXシステムエラーか!

 駆動システムがダウンすれば、それは正しく動かない鎧以下の拘束具に過ぎない。「チイッ……!」ニンジャスレイヤーはバカバカしいパワード鎧を力任せに引きちぎるようにして脱ぎ捨てた。「先に行ってください!」うつ伏せに倒れた状態でコトブキが言った。「脱ぐのにもう少しかかりそうです」

 ニンジャスレイヤーは少し逡巡した。『要塞長のフレデリクセンです』放送!『飛来物はカタナ・オブ・リバプール社の突入型APC、<黒馬車>に類似のプロダクトと判明。APC内から三名の侵入者を確認。間違いなくニンジャだ。戦闘社員が対応するので諸君はエマージェント業務を継続せよ!』

「行きなさい!」コトブキが叫んだ。ニンジャスレイヤーは付近にシャッターフスマを見た。通路に放置するわけにはいかない。彼はパワード鎧のコトブキを抱え上げ、シャッターフスマを蹴りで破壊した。さいわい、中は狭い用具室だった。雑多な品々や段ボールの間にコトブキを座らせ、ひとり、飛び出した。

 今やパワード鎧の枷を解き放たれたニンジャスレイヤーは警報音の中を風めいて駆けた。「イヤーッ!」KRAASH! 会議室にダイナミックエントリーだ。「アイエエエ!?」「ニンジャ!ニンジャナンデ!?」ダイカン社員二名が悲鳴を上げる。年収は【62000】【70000】。

 ニンジャスレイヤーは燃える目で彼らを睨んだ。ダイカン社員は同時失禁し、膝から崩れた。会議室には今破壊して入ったフスマとあわせ、三つの扉がある。どちらへ……。『要塞長です。要塞は現在プラント上空に接近しつつありますが、事態解決まで待機……アイエッ』『決行する』別の声。

『君ィ! 何を勝手な! まずは安全確保……』『緊急事態だ! 社運がかかっておりますぞ』要塞長と押し問答しているのはカイル・オズモンド……ブラスハートだ!『オムラ諸君。攻撃こそ最大の防御。私と突入用社員は予定を変更せず、鉄の意志でプラントに降下を行います。しっかり業務したまえ!』

「道を……クソッ」タキに尋ねかけ、ニンジャスレイヤーはかぶりを振った。そして閃いた。彼はダイカン社員らを見た。「アイエッ!」「ちょっとやめないか。命だけは」ニンジャスレイヤーがツカツカと歩み寄ると、彼らは同時再失禁した。「だいたい年収幾らだね! 私たちのほうが……アイエエエ!」

「降下部隊はこのあと何処に向かう」ニンジャスレイヤーはダイカン社員のパワード兜のチューブを掴んだ。「言え」「アイエッ! 止めたまえ! 話せばわかる……アイエエエ! わかった! 言うとも!第二飛行甲板(フライトデッキ)だ! そこから彼らは……命だけは!」「どのフスマだ!」「あっちです!」

「イヤーッ!」KRAASH! ダイカン社員が示したフスマをトビゲリで破壊、前転着地すると、そのまま勢いを殺さずにニンジャスレイヤーは走り出した。カタナ・オブ・リバプールの襲撃ニンジャになど用はない。それはどうやらブラスハートも同じだ。奴が地上へ降下すれば接近は難しくなる!

「イヤーッ!」KRAAASH! 更に通路突き当りのフスマを破壊し、ニンジャスレイヤーは高年収限定エリアを離れた。たちまちアシガル社員がアーク銃やオムラガンを向けて叫んだ。「いたぞ! カタナの社員だ!」「社敵!」BOOOM! BLAMBLAMBLAM!「イヤーッ!」「「グワーッ!」」

 パワード鎧を蹴散らし、走る! ニンジャスレイヤーはタキに通信をリクエストした。「第二飛行甲板へのルートをガイドしろ!」『それなら可能だ。オレはテンサイだからな……恩に着ろよ!』「右か! 前か!」「前だ!」「イヤーッ!」KRAAASH! 更にフスマ破壊突入! 走る! 走る!


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『危険エリアの封鎖を開始。付近の戦闘社員はエマージェント・マニュアルにしたがって業務を継続してください。デスクの下にあるキットを用いて自衛すること。ソーシャルハックは自身の命を犠牲にしても防ぐこと。それがオムラです』

 赤点滅するボンボリに照らされる通路を足早にゆく武装社員の群れ。パワード鎧姿のアシガル社員たちを率いるのはダイカン社員が一名。そして、鎧を着ていないビジネススーツ姿の丈高い男……カイル・オズモンド、すなわちブラスハートである。「協力に感謝する」歩きながらブラスハートはダイカン社員に言った。「今回の攻撃は絶対に決行する。遅延は許されん」

 DDOOOM……侵入者がプラスチック爆弾でも使用したか、震動が伝わってきた。この通路は危険エリアを通過する。「我が社が……!」「敢えて言っておくが、ナスカ攻撃はクラバサINCと御社がWINWIN関係を維持できるかどうかの瀬戸際だ」ブラスハートは強調した。「優先順位を考えられよ」

「存じております」ダイカン社員は頷いた。ブラスハートは要塞長と対等の関係にあり、ダイカンごときの意見で二大メガコーポの関係性に影響が生じればケジメでは済まされない。年収表示が無くともそれは自明だった。「士気を高く持ちたまえ、諸君。最大の社敵はナスカにこそ居るのだから!」

 パウー! パウー! 警報音と照明は、通路脇に待機するオムーすらもエマージェントに彩る。「頑張って殲滅しよう!」ぎこちないオムラ式敬礼をするオムーの横を足早に通り過ぎたトルーパー達は、やがてスロープを降り、陽の光の下に出た。第二飛行甲板だ。

「ドーモ、カイル=サン」飛行甲板管理社員がかしこまってオジギした。彼の隣には「効率と安全の両立が必須自己責任」と威圧的にショドーされたノボリ旗がある。「スタンバイ状態です。完全に問題ありません!」彼が示した先には複数の鬼瓦輸送ヘリが熱蒸気を噴射し、整備社員が赤灯を振っていた。

「安全確認!」「前後良い! 左右良い! 上下良い!」「ウケテミロ!」「ウケテミロヨロシク!」「ウケテミロアリガトゴザイマス!」パワード鎧のアシガル達が機械めいた精密動作で列を作り、ゾロゾロと乗り込んでゆく。地上から射出されたと思しき対空ミサイルが白い斜めの筋を引いて空に抜けていく。

「既に対空砲火射程内です! キアイ!」「キアイウケテミロ!」「キアイウケテミロヨロシク!」エマージェント伝達を叫び合う社員たち。浮遊要塞のような巨大な体積をカバーできる電磁バリア発生装置などこの世には存在しない。しかしメガスゴサの物理装甲は極めて強いとされており、キアイがある。

「乗り込み急げよ! キアイ!」誘導社員が赤灯を持った腕を激しく回転させる。「想像以上に地上からの攻撃が激しい……!」ダイカン社員が呻いた。「然り。要塞へのニンジャの強襲と地上戦力は連動しているのだ」ブラスハートは強調した。「我が社の利益を理由にゴリ押ししているわけではないとご理解いただける筈」ブガー。『エマージェントな! 航空戦力が防衛網突破!』

 キイイイイ……! 耳をつんざくジェット音を伴い、頭上を攻撃機が横切った。要塞の弾幕を突破してきた機体である!「アブナイ!」ダイカン社員はうつ伏せに伏せた。アシガル社員達は兜の中で必死の形相を浮かべ、しかし整然と整列搭乗を続ける。攻撃機は甲板へミサイルを発射! ナムサン! 

「アイエエエエ!」ダイカン社員がうつ伏せ状態で悲鳴をあげた。アシガル整列社員は死を覚悟した。ブラスハートはミサイルに向き直った。そして無雑作に跳んだ。「イヤーッ!」彼は空中で両手をひろげ、ミサイルを待ち構えた。白く濁った目が光った……「ムテキ!」KA-BOOOOM!

「なッ!?」ダイカン社員は吹き抜ける煙の中で目を見張った。ブラスハートは無傷。ビジネススーツすらも無事だった。着地した彼の身体に真鍮色のパルスが走ったように思われた。彼はダイカン社員のもとへ歩いてくる。その後ろで、爆発エネルギーは不可解にも火球状に空中で凝固し……跳ねた! 火球は天高く舞い上がると、ミサイルを撃って離脱する攻撃機めがけて飛翔した。

 ……KRA-TOOOOOOOM! 攻撃機は火球を受け、花火めいて爆発四散した……!「アイエエエエ……!?」ダイカン社員は目を剥いた。彼に手を貸し、立たせた時には、既にブラスハートはニンジャ装束姿であった。

「当然ながら私はニンジャだ」ブラスハートはダイカン社員に言った。「い、いまの……跳ね返し……」「リフレクティブ・ムテキとでも言っておこう。ニンジャは初めてか?」「アイエエエ……」「ゆくぞ。ただついてくればそれでいい。私一人でプラントに立ち入れば二社協定の侵害となるゆえ」

 ブラスハートに促され、ダイカン社員は半ば失禁しながら輸送機に走っていった。既にアシガルの搭乗は完了し、ローターが回転を始めている。「……」ブラスハートは彼に続かなかった。かわりに、後ろを振り返り、「来たか」と呟いた。要塞内から炎めいて走り出てきたのは赤黒の影だった。

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」わけもわからず防衛行動を取ろうとするオムラ社員達を跳ね飛ばしながら、赤黒のニンジャはブラスハートに一直線に向かってくる。00101……ブラスハートはコトダマ視界と物理視界を重ねあわせ、ニンジャスレイヤーの名を読み取る。

 ブラスハートは常に頭上のキンカク・テンプルに照らされている。電子ネットワークの流れを視認し、強い存在を知覚する。即ち「第三の目」である。彼は要塞内に存在する奇妙なニンジャソウルの蠢きを既に感じていた。それがオムラ社員でないことは明らかだった。そしてカタナ社員でもない。

「ムテキ!」彼は両手を広げ、真鍮のバリアを張り巡らせた。そして先手をうってアイサツした。「初めましてニンジャスレイヤー=サン。ブラスハートです」「!」ニンジャスレイヤーはスライディングめいてブレーキし、アイサツを返した。「ドーモ。ブラスハート=サン。ニンジャスレイヤーです」

「イヤーッ!」オジギ終了からコンマ1秒、ニンジャスレイヤーはスリケンを投擲した。ブラスハートは正眼のカラテを構え、直進する。スリケンがブラスハートを捉えた。真鍮のパルスが彼の身体から跳ね散ると、スリケンはニンジャスレイヤーのもとへ飛び戻った!「ヌウッ!」

 ニンジャスレイヤーは己が投擲したスリケンをギリギリで躱した。「イヤーッ!」そこへブラスハートの直線的なカラテパンチが襲いかかる!「グワーッ!」強烈な一撃! ニンジャスレイヤーはコンクリートを転がり、回転受け身でカラテを構え直した。「となれば、貴様が」ブラスハートは言った。

「サンズ・オブ・ケオスのニンジャどもをつけ狙う存在……貴様がそうか。ニンジャスレイヤー=サン」ブラスハートは濁った目で、眼前の敵を見た。「私を嗅ぎ当てたか。そうか」「……貴様に用がある」ニンジャスレイヤーは言った。「サツガイという男を知っているな」

 DOOOOOM……爆発音と震動。地対空交戦の真っ最中なのだ。ブラスハートはさして意に介さない。彼は輸送機のダイカンに通信した。「そこでしばし待て。邪魔が入った。排除する。……ああ、まあそうだ。カタナ社のニンジャだ。待機しておけ」通信遮断。「サツガイについて知りたいのか?」

「貴様は二度サツガイに接触した」ニンジャスレイヤーは言った。「サツガイの居場所を吐かせる」「哀れだな」ブラスハートは言った。「サツガイの噂を耳にし、己も祝福に預かりたいが、それも叶わず……といった手合いか。だとすれば愚かだぞ。あれは確かにニンジャの元へ予告無く現れ、新たな力を授けるが……」

「殺す」ニンジャスレイヤーは言った。「サツガイを殺す」「……殺す?」ブラスハートは不審げに目を細めた。「あれを?」「貴様が知る事を全て吐き出させる」ニンジャスレイヤーの腕先に黒い炎が走った。「エゾテリスム……デシケイター……他の連中と同様にな」 「無知とは、かくも……」

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは瞬時にワン・インチ距離まで踏み込み、連続攻撃を繰り出した。「イヤーッ!」ブラスハートは打撃に対応する。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」チョップとチョップが喰らい合い、二者は鍔迫合いめいてチョップを挟んで睨み合った。

 ブラスハートはニンジャスレイヤーの憎悪を視認し、その身を循環するカラテを、飛行甲板に渦巻く0と1の風を、頭上にキンカク・テンプルのおそるべき光を、遠く蠢く影を感じる。サツガイの再度の祝福がもたらしたのは新たなジツではない。彼は世界に繋がり、世界を知った。それが第三の目なのだ。

「サツガイは……うむ……蒙昧な者には神の喩えでもよかろう」ブラスハートは言った。二者は睨み合い、チョップに力を注ぎ込んだ。カラテの相克によって彼らの踵は火を噴き、 足元のコンクリートに放射状状の亀裂が拡がった。「神は殺せはしない」「神? 知った事か」ニンジャスレイヤーは言った。

「その憎しみに興味を持つ者もいような」ブラスハートは言った。そして冷たく付け加えた。「俺でなくば!」「イヤーッ!」KRAAASH! コンクリートが爆ぜた。二者はタタミ三枚距離に飛び離れ、再びぶつかり合った。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

「あれは、殺すべきものではない……!」ブラスハートはニンジャスレイヤーの脇腹に拳を叩き込む!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは構わずブラスハートの胸に拳を叩きつける!「「グワーッ!」」二者は再びタタミ三枚距離に弾き飛ばされ、着地し、再びカラテを構え直した。

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