【さいはてのペイルホース】#3
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断崖に閉ざされたこの村に繋がる道は三つある。ひとつは蟻の穴。<炎>のペレクと、彼に裏切られた盗掘仲間が用いた道だ。もうひとつは断崖の亀裂で、葉脈のように無数に枝分かれする不毛の渓谷地の入り口だ。これはキャプテン・デスが用いた。三つ目は階段。どこへ通じるのかもわからぬ、細く狭い削り石段が上へ伸びているが、これを試した村人は居ないという。どのみち、崩落によって塞がれてしまった。ミヤがペレクとキャプテン・デスを導いたのは、このどれでもなかった。
道中、ミヤは村の暮らしについて話した。言葉足らずな子供の話であったが、閉ざされた地にへばりつくように生きている村人達は、外の世界に触れず、苔や茸を育て、自給自足で暮らしていたという。ミヤに本当の親はなく、それゆえ村の者らに共同して育てられていたようだ。
「ここの連中は何が楽しくて、こんなクソみたいな場所にへばりついてやがったんだ?」ペレクは毒づいた。「文明ってものを知らず、蟻と変わらん暮らしを続けた挙句、このザマだ。あわれなものだ」
自由民らしい言葉だ。キャプテン・デスは名を持たぬ奴隷の暮らしを思う。誰も記憶しない遠い昔、世界は衰退し、光芒が人類の滅びを繋ぎとめた。その過程で、かつてあったものは分断され、風化し、失われていった。「何故そのような暮らしを強いられているのか」「何のために生きているのか」。そうした疑問を持つこと自体が贅沢だ。
「よかった。塞がれてないよ」
ミヤは岩壁に触れた。三人は村の外れ、苗床の棚が並ぶ農場(それも崩落で無惨な有様だった)を抜け、かすかな虹色の色彩を帯びた石筍を含んだ崖を前にしていた。崖には縦の亀裂があった。身体を横に向ければ、かろうじて入り込む事が出来る。ミヤは躊躇せず亀裂に入っていった。
「ここを通れと?」
ペレクが唸った。キャプテン・デスはペレクを見た。ペレクは「腹いっぱい食わなきゃ良かったぜ」と呟いた。ミヤに続いて入ろうとするキャプテン・デスを制し、彼はしかめ面で言う。
「お前は俺の後だ。お前らガキ共にゃいいが、俺の身体が穴に引っかかるかもしれねえだろうが。そうしたら、引っ張り出すなり押し込むなりしてくれ」
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