【オン・ザ・エッジ・オブ・ザ・ホイール・オブ・ブルータル・フェイト】
この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードの加筆修正版が、上記リンクから購入できる第2部の物理書籍/電子書籍第1巻「ザイバツ強襲」に収録されています。
ニンジャスレイヤー第2部のコミカライズはチャンピオンREDで現在連載中。コミックスが購入可能です。
【オン・ザ・エッジ・オブ・ザ・ホイール・オブ・ブルータル・フェイト】
1
あらすじ:デスナイトとの死闘の中、ニンジャスレイヤーは、キョートの秘密組織「ザイバツ・シャドーギルド」とソウカイヤとの抗争が、あの日のスゴイタカイ・ビルでの凶運を引き起こしたのだと知る。デスナイトに勝利したニンジャスレイヤーは盟友ナンシー・リーの協力を仰いでいた。
「フユコ?トチノキ!」己の叫びでフジキドは我にかえった。朝?ブラインド窓から気怠い陽光が漏れ込み、外ではバイオスズメの鳴く声。フジキドは正座している己を見出す。この姿勢で待ちながら眠ってしまったのか。眼前に無骨なデスクと椅子がある。デスクには電源の落ちたUNIXデッキ「久米4」
そして寝息。フジキドは立ち上がり振り返る。ベッドフートンには無防備に泥のように眠る金髪の美しい女。ナンシーだ。うつ伏せの横顔、目の下のゴスめいたクマはザゼンドリンクの過剰摂取の症状の一つだ。実際、普段のナンシーであればこんな姿を他者に見せはすまい。フジキドは彼女を案じた。
デスクにはドラムロールに巻かれたパンチシートのプリントアウトと、添えられたメモの切れ端がある。ナンシーの字だ。「例の組織の関与の裏付け取得済。当然これはボランティアでは無く貸しです。ナンシー」……フジキドはパンチシートを手に取り、下ろし、そしてナンシーに手を合わせた。「ドーモ」
「死体にアイサツするみたいな真似はよしてよ」思いがけずナンシーが目を閉じたまま言った。「すまぬ。起こしてしまったか」「このまま話していい?ちょっとね……しんどくて」「大丈夫なのか」ナンシーは溜息を吐いた。「大丈夫って事も無くて。症状……原因はわかってる」
「ザゼンドリンクだな」「判る……まあ……貴方ともだいぶ長い付き合いになるしね」目を閉じたまま、ナンシーは口の端を歪めて笑った。「ここのところの能力以上のオーバーワーク……今まで騙し騙しやって来た。対処の方法自体は色々あるけど……」「すまぬ。……すまぬ」フジキドは二度繰り返した。
特にここ最近、ナンシーは己のニューロン性能をザゼンドリンクのオーバードーズによって補って来た。飲用者の精神をフラットに澄み渡らせる瞑想用のドラッグ「ザゼン」は、主要マーケットであるザゼンカルトやヨギ達の間のみならず、一部のハッカーにも「裏技」として愛用されている。
ナンシーのザゼン使用の常態化は避け難いものであった。ソウカイヤやヨロシサン、オムラの危険なIRC防衛機構、そしてダイダロスのようなハッカーニンジャを相手取った熾烈な戦いは、彼女に相応の消耗を強いてきたのだ。ゆえにフジキドは詫びた。「……よしてよ」ナンシーは寝返りを打った。
「何度でも言うけど、私はボランティアで貴方を助けたり、ニンジャやヤクザとやり合ってるわけじゃ無い……私には私の事情と理由がある。ワカル?」「……」事情と理由とは?フジキドは問いを飲み込んだ。これまでも繰り返し、浮かんでは消えた問いだ。二人の共闘は長いが、共有する秘密はまるで無い。
ナンシー・リーとは何者なのか?フリー・ジャーナリストを自称する彼女であるが、どこまで信じたものか。非凡なUNIXタイピング速度、判断力。それらはどこから来たのか。そもそも彼女はなぜ戦う?……同様に、ナンシーはフジキドの名を知らぬ。フジキドが戦う理由もはっきりとは話しておらぬ。
フジキドは彼女を信頼している。だがそれは言わば、無言のまま、脆い土台の上に築かれた、かりそめの五重塔めいたものではないか……?「ナンシー=サン」フジキドは言った。「こんな時だが」「何」「私の名前は」ブガー!ブガー!突如UNIXデッキ「久米4」の電源がオンになり、警報音が鳴り響く!
黒いモニタ画面に緑色の文字が流れる。「危ない察知接近察知お引越し」エンドレスで表示されるマントラめいたゴチック文字をフジキドは睨んだ。「ナンシー=サン!これは」「ええ……ええ」ナンシーは離人症めいて淡々と相槌を打つ。「破壊……デッキを破壊して今すぐ」
フジキドは聞き返しはしなかった。彼女が「今すぐ」と言えば、今すぐなのだ。「イヤーッ!」スラム!電撃的速度で繰り出された踵落としが「久米4」を粉々に粉砕!内蔵記憶装置はもはや鉄屑以外のなにものでもない!「ナンシー=サン」「手配は……してる……多分こうなるって……さっき思ったから」
次の瞬間!ドスドスという物騒な打撃音とともに、「克服」のショドーが額縁に飾られ吊るされたドアが、内側にひしゃげる!「ザッケンナコラー!」ヤクザスラング怒声!「ね……早い……やっぱりこうなる……」まるで他人事のように、うつ伏せのままナンシーは呟く。「スッゾオラー!」怒声!
ニンジャスレイヤーの脳内にニンジャアドレナリンが駆け巡りニューロンが激しくスパーク。時間の流れが泥のように鈍化する。まずはパンチシート!ニンジャスレイヤーはデスクのドラムロールとメモを掴み取って懐へしまう。ナンシーは?いまだうつ伏せのままだ。窓。ブラインド。朝日。ひしゃげるドア。
「ザッケンナコ」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは問答無用のサイドキックをドアへ叩き込む!ドアは今度は外側へ折れ曲がり、吹き飛んで、そのすぐ向こうにいたクローンヤクザ二名を外の廊下の壁との間に挟んで押し潰した!「アババーッ!?」
時間は僅かだ!ニンジャスレイヤーは振り返り、窓のブラインドを引きちぎると、部屋着姿のナンシーを抱きかかえる。そして部屋の端から助走をつけ、「イヤーッ!」頭から跳んで窓ガラスを粉砕!落下しながらニンジャスレイヤーは問う、「ナンシー=サン、何階だったか?ここは?」「11階……」
「問題ない」ニンジャスレイヤーは力強く言い、ナンシーを抱えてくるくると回転、高速落下した後、はるか下のアスファルトに流麗に着地した。ゴウランガ!驚くべき事に落下の衝撃は地面に拡散し、ニンジャスレイヤーは勿論ナンシーもノーダメージだ!ただアスファルトが蜘蛛の巣状にひび割れたのみ!
「ザ……ザッケンナコラー!?」「スッゾオラー!」黒塗りの装甲バンに待機していたクローンヤクザ達が慌てて車内から飛び出しアサルトライフルを構える。「「「グワーッ!」」」当然、遅すぎる!クローンヤクザ達の脳天にはニンジャスレイヤーの投擲したスリケンが突き刺さり全滅!
「ナンシー=サン。さっき言っていた『手配』とは?」「ええ……ええ」ニンジャスレイヤーに抱えられたナンシーは朦朧と相槌を打つ。「逃走経路……デッドムーン……さっきの接続時、ヘマを踏んだ……気づいた……だからあの場所を捨てる事に決めた、手配はした、でも私、今、こんなでしょ、だから」
「承知した」ニンジャスレイヤーは深刻なザゼン状態にあるナンシーから聞き出せる内容はこれが限度と諦めた。ニンジャが現れる気配は無い。少なくとも今のところ。
ナンシーはハッキングの最中になんらかのトラップを踏んだ。ザゼン症状のせいで立ち回りが甘かったに違いない。今のクローンヤクザは機密保持の為に派遣された掃除屋の類いだ。まさか踏み込んだその場にニンジャが待っているとは想定しなかったであろう。しかしここから先は……そうも行くまい。
ニンジャスレイヤーは区画内に他のクローンヤクザが存在しない事を確かめたのち、高層賃貸マンションの地下駐車場へ滑り込み、停められていたインテリジェントモーターサイクル「アイアンオトメ」を起動した。オーバーホールしたばかりの美しいボディだ。仕事をしたバイク鍛冶屋は死んだ。
ニンジャスレイヤーは既に、為すべき事を己の心の中で明らかにしていた。じきにナンシーが手配したデッドムーンが到着するだろう。彼にナンシーを預けたのち、送られてくるであろうザイバツの増援を撃退し、拷問する。パンチシートの情報とあわせ、敵のハラワタを明らかにするべし。
液晶UNIX画面に「大人女」の漢字が光り、合成音声が変わらぬアイサツを発する。「ハローワールド。アイアンオトメです」ニンジャスレイヤーの眼が殺意の色彩を帯びる。
◆◆◆
「全滅?」ニンジャはIRC通話機にオウム返しにした。「何故?」「……おやおや」もう一人のニンジャは小首を傾げた。「何事か起きたようだな」「……」IRCで話すニンジャは柿色。もう一人は深緑である。柿色のニンジャのメンポには正ダイヤ形のザイバツ・エンブレムが彫り込まれている。
「まあいい。あとはワシがやる」柿色のニンジャは通話を終了し、深緑のニンジャに向き直った。「失礼した。貴様には関係の無い事だ」「ま、その通り」深緑のニンジャは腕を組んだ。「俺には他所の問題に首を突っ込む習慣は無い」「貴様はことさらそうであろうな。根無し草め」
「フフフよくわかっているな」侮蔑を受けても、深緑のニンジャは素知らぬ顔である。組んだ左腕の第一関節から先は黒光りする戦闘義手……それもテッコV8型をベースにした、なんらかのカスタムオーダーであった。「だがその手の会話を楽しむ時間も無かろう。とっとと引渡し、俺はお役御免と行きたい」
「望むところだ。ブラックヘイズ=サン」柿色のニンジャは頷いた。「うむ」ブラックヘイズは背後の闇を振り返った。「こいつの取り扱い説明は受けているか?ボーツカイ=サン」「フン」柿色のニンジャは鼻を鳴らした。「ワシはこんなものがギルドに必要になるとは思っておらんがな」
「そうは言っても、組織の方針には逆らえんのが辛いところよな」ブラックヘイズはメンポに葉巻を差しこみ、左手親指を立てた。親指先からバーナーめいた炎が噴き上がり、葉巻に点火する。「便利なものだろ。うらやましいかね」炎は背後の闇に立つ巨体を一瞬、照らし出す。甲冑を着込んだ影を。
「キャバリアー=サン?」ブラックヘイズは甲冑を着た巨体に呼びかける。「ウウウ……この痛み……」「ああ、これで普通なんだ、このキャバリアー=サンは。キャバリアー=サン。アイサツするがいい。こちらはザイバツのボーツカイ=サンだ」「ウウウ……この苦しみ……ドーモ……キャバリアーです」
禍々しい甲冑を着込んだ巨体ニンジャがアイサツする。金色で「恨」の漢字を象ったカブト飾りが額に輝き、顔全体を覆い隠すメンポはブッダデーモンめいた意匠。平安時代のアケチ・ウォリアーの鎧を思わせるそれは、博物館から抜け出てきたかのような悪夢的シルエットである。
「こいつは口頭の命令を聞き分ける。ただ、あまり複雑な内容はダメだ。適当に暴れさせるがよかろう」ブラックヘイズは説明した。「戦闘に関する判断能力は実際大したものだ。リー先生の推奨は、チョッパーバイク二台を使って馬車を引かせる事だ。馬車はトレーラーに格納されている」「くだらん」
ボーツカイは言い捨てた。ブラックヘイズは構わず、「武器はツーハンデッド・カタナブレードツルギだ。このキャバリアー=サンの専用武器だ。他の人間が扱うには大きく重すぎる剣だ。これも馬車同様、トレーラーに格納しておいた」「……」
「説明は以上だが……」ブラックヘイズは目を細め、ボーツカイを見る。「早速お膳立てが整ったのではないかね?」「何だと」ボーツカイはブラックヘイズを睨み返した。ブラックヘイズは葉巻をふかし、「クローンヤクザが全滅したのだろう?俺は他所の揉め事に首を突っ込むタチではないが……」
「……」「俺のプロフェッショナルの勘で指摘させてもらうが(勘とはつまり経験則だ)、十中八九、それはニンジャスレイヤーだ」「ニンジャスレイヤーだと?」「状況的にそう考えると自然だ。あの狂人が、そちらのデスナイト=サンを殺した程度で満足すると思うかね?」
「ギルドの問題は……ギルドの問題だ。過ぎた忠告だぞブラックヘイズ=サン」ボーツカイは突っぱねたが、眉間を流れ落ちたのは冷や汗である。ブラックヘイズは葉巻をふかした。「俺ならニンジャスレイヤー相手にノコノコ一人で出向くようなマネはしない……俺ならな」「……!」
ボーツカイは何か言葉を発しようとしたが、それを待たずブラックヘイズは踵を返した。「このキャバリアー=サンは実際よく働く。恐るべきズンビー・ニンジャだ。こいつを使ってヤツの首級を上げれば、貴公の昇進にも良い目になるだろう。やってみるがいい」声を残し、既にその姿は無い。
「ウウ……この痛み……寒い……苦しい……」闇の中で不吉な甲冑ズンビーニンジャが呪詛を吐く。ボーツカイは背筋に怖気を覚えた。何か恐ろしいことが……彼自身にとってよからぬ運命が待ち構えているのではないか。よからぬ運命が……!
2
「ラッセーラ!ラッセーラ!」「ヨッソイ!ヨッソイラー!」掛け声、歓声。マツリ!まっすぐに伸びる大通り沿いに無数のボンボリや旗が掲げられ、「オメーン」「イカをケバブ」「リンゴチャン」「鯖よ」といったネオン屋台がぎっしりと立ち並ぶ。本日はネブタパレード・フェスティバルの初日なのだ。
この日の為に整えた自慢のチョンマゲを夜風にさらし、「お祭り」「有限会社」等のスローガンが書かれた半纏にフンドシというマツリ・スタイルのマチヤッコ達は、口々に「ラッセーラ!ラッセーラ!」と叫びながら、巨大ウチワを振って、通りを練り歩く。
この日は各地の道路が封鎖されて歩行者天国となり、車の代わりにキョートめいたリキシャや巨大な木製のダシ・カートが列を為す。ダシの上にはタイコやオイランストリッパー、そして、内側から発光する紙製のフィギュアアート「ネブタ」が鎮座し、人々の目を楽しませる。
ネブタのモチーフは基本的に古事記の神話存在や平安時代の英雄達、歴史的スモトリであるが、よりオルタナティブなものとして、ネコネコカワイイや茄子、フルーツなどのネブタも多く存在する。家一軒ほどもある紙製の巨人達が発光しながら道路を進む幻想的光景は、見るもの皆を幻惑せずにはいない。
「ラッセーラ!ラッセーラ!」天候にも恵まれ、ネオサイタマほぼ全域で行われるこのフェスティバルは初日から儚い夢を市民のニューロンに焼きつけていた。「ラッセーラ!ラッセーラ!」人々は屋台フードを手に、バリキを摂取し、恍惚の笑みを浮かべて、日々の苦しみを一時忘れようと必死だった。
その数ブロック離れた区画、ジグザグの路地を走行する漆黒のモーターサイクルあり。搭乗者は赤黒のニンジャ、後ろにしがみつくのは金髪のコーカソイドの美女である。そして、そこへハエめいてまとわりつく数台の「フロートガン」。
早々に日が落ちる中、ニンジャスレイヤーは時間が歪められたかのような感覚に陥った。実際のところ彼が覚醒したのは朝焼けの中ではなく夕刻の入りであったのだ。彼の後ろでナンシーはおぼつかない様子でしがみつく。彼女の朦朧状態は悪化している。お互いの腰を縛る固定用の布は気休めでしかない。
ヒュルヒュルヒュル、音を立てて行く手をふさぎに来るのが「フロートガン」だ。三つの扇風機めいたローターとジェット噴射を駆使して器用に飛行する小型フロートクラフト。むき出しの座席にクローンヤクザが機銃を構え、照準をアイアンオトメへ合わせにかかる。これが全部で三機!
バリバリバリ!目の前のフロートガンが真っ先に発砲した。ニンジャスレイヤーはアイアンオトメを蛇行させて機銃掃射を回避、スリケンを投げ返す。「イヤーッ!」ガキン!ローター一機がスリケンを吸い込み火を噴いた!「グワーッ!?」
あえなくコントロールを失ったそのフロートガンは空中でスピンしながら「テリヤキ増す」のネオン看板に激突!ネオンがスパークし、搭乗クローンヤクザは黒コゲになる。ナムアミダブツ!しかし残る二機が果敢にアイアンオトメに追いすがり機銃掃射を開始!
バリバリバリバリ!「ヌウーッ!」ニンジャスレイヤーは一瞬背後を振り返り、速度を速める。単独の運転であればアイアンオトメをインテリジェント走行させ、自らはジャンプして直接フロートガンを飛び蹴りで撃破するところだ。カトンボごときに追い立てられる不本意!
道が下り、直角に近い急カーブだ!目の前にコンクリート壁のウキヨエ・グラフィティが迫る。ニンジャスレイヤーはアイアンオトメの車体をギリギリまで傾けてターン、タコが絡むオイランのポルノアートを蹴って方向を転換した。追いすがるフロートガンは曲がりきれずに壁に激突、爆発!「アバーッ!」
「ラッセーラ!ラッセーラ!」ニンジャスレイヤーは祭囃子を聴き取る。ネブタパレードか?無防備な市民の只中に突っ込む事はできるだけ避けたいところである。しかし機銃を撃ちながら追尾して来るフロートガンが、そちらの方向へ容赦なくアイアンオトメのニンジャスレイヤーを押しやってゆくのだ!
バリバリバリバリ!バリバリバリバリ!アイアンオトメの走行痕をなぞるように銃弾が跳ねる。直線道路をまっすぐに爆走するアイアンオトメ!だがしかし、前方には棒立ちになった人間が一人!避けるべし……いや、ただの人間ではない!道路灯に照らされる柿色の装束!あれはニンジャではないか!
ならばこのまま轢き殺すまでだ。ニンジャスレイヤーはためらわず速度を上げる。柿色のニンジャはその前方でオジギした。「ドーモ」接近!「ニンジャスレイヤー=サン」接近!「ボーツカイです」接近!「イヤーッ!」ボーツカイは轢殺寸前で高く跳躍する!
当然、敵はニンジャ。そう易々と轢き殺されるわけもない。すれ違いざま、ニンジャスレイヤーのニンジャ第六感がヤバイ級の危険を察知する。彼はためらわず、ナンシーを抱えてアイアンオトメからジャンプで離脱!その一瞬後、アイアンオトメの車体が急激につんのめった!
アブナイ!アイアンオトメはそのまま空中で回転し、奇跡的に着地、滑りながら自動停止!ニンジャスレイヤーはナンシーを抱えたままアスファルトに降り立った。離脱が遅れていれば二人は振り落とされていただろう。ニンジャスレイヤーはともかくナンシーは無事では済むまい!
二人のもとへボーツカイが近づく。手にしているのは身の丈ほどもある長い金属製の竿状武器だ。アイアンオトメを強制的に跳ね上げたのはこの得物だ!ボーツカイはジャンプで体当たりを回避しながら、アイアンオトメのホイールにこの竿状武器を差し込んだのだ。なんたる危険行為か!
「イヤーッ!」ボーツカイは竿状武器を演武めいて振り回した。「イヤーッ!イヤーッ!」おお、見よ!ボーツカイが振り回す竿状武器は鎖でつながれた三つの断片に折れ、変幻自在の動きを見せる!これは実際稀少な武器、三節棍!「イヤーッ!イヤーッ!……貴様を殺す!ニンジャスレイヤー=サン!」
「……イヤーッ!」返答がわりにニンジャスレイヤーはスリケンを空中に投擲した。「グワーッ!?」ボーツカイの後ろで浮遊していた最後のフロートガンが思いがけずスリケンを受け墜落、「フリカケ」のネオン看板に突っ込み爆発死!「……ドーモ、ボーツカイ=サン。ニンジャスレイヤーです」
「クンクン嗅ぎ回るネズミめ。よもや、網にかかったケチなハッカーが貴様だったとはな。ニンジャスレイヤー=サン」ボーツカイは三節棍を威嚇的に振り回した。「ザイバツから逃れることはできん。貴様はここで死ぬのだ。……その女は何だ?」「答える必要はない」ニンジャスレイヤーは言い捨てた。
「尋問する側はこちらだ、ボーツカイ=サン。まずオヌシのその鬱陶しい玩具を破壊して武装を解除し、そののち拷問する。最終的には殺す。ニンジャ殺すべし」「で……できるものか……」ボーツカイが低く言った。「できるものか!イヤーッ!」
ボーツカイが襲いかかる!実際これはフレイルのごとき武器で、三つの竿が折れ曲がって意外な方向から敵を打つのである。「イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは木人拳めいて素早く腕を動かし、手の甲でガードしてゆく。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
ゴウランガ!なんたる精密かつ激しい打撃応酬!デスナイトとの死闘の傷が癒えきっていないニンジャスレイヤーであるが、そんな事をまるで感じさせぬワザマエである。ボーツカイは手数を繰り出すがニンジャスレイヤーを傷つける事はできていない!
「イヤーッ!」ついにニンジャスレイヤーの踏み込みながらのチョップ突きが打撃応酬を破ってボーツカイの首筋に命中!「グワーッ!」よろめくボーツカイ!ニンジャスレイヤーは踏み込む。ポン・パンチで追撃するつもりなのだ。「イヤーッ!」しかしボーツカイはバック転で距離を取り、仕切り直す!
「コシャクなりニンジャスレイヤー=サン!」ボーツカイは三節棍の先端を風車めいて回転させながらニンジャスレイヤーへ迫る。見事!三節棍ならではの攻防一体の構えである。風車回転で攻撃と防御を行いつつ、隙を突いて残る後ろ側の節で必殺の打撃を加える事ができるのだ!「イヤーッ!イヤーッ!」
だがニンジャスレイヤーは冷静である!先日のデスナイトは実際おそるべき敵であった。しかしザイバツといえど強者ばかりでは無いという事か。このニンジャはそこそこの使い手であるが、似たカラテで言うと、過去に対戦したゲイトキーパーには足元にも及ばぬ。この攻撃にしたところで……「イヤーッ!」
「グワーッ!?」ニンジャスレイヤーのヤリめいたサイドキックがボーツカイの三節棍の回転の根元に精密命中!回転の中心部は無防備である。ニンジャスレイヤーの狙いすました一撃が三節棍の接続部を破壊した。「バ、バカなーッ!?」うろたえるボーツカイの横面にもう一方の脚でハイキックを叩き込む!
「イヤーッ!」「グワーッ!」メンポがひしゃげ、ボーツカイがよろめく!さらにニンジャスレイヤーは踏み込む!右手チョップ!「イヤーッ!」「グワーッ!」左手チョップ!「イヤーッ!」「グワーッ!」右手チョップ!「イヤーッ!」「グワーッ!」ナムアミダブツ!一方的打撃!
「イヤーッ!」トドメの上段後ろ廻し蹴りだ!だがボーツカイとてニンジャ!「イヤーッ!」ギリギリでその致命打撃をブリッジ回避した!そのままブリッジしながら逆四つん這い歩行でニンジャスレイヤーから遠ざかる!
「イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは容赦なきスリケン投擲で追撃!「イヤーッ!」ボーツカイは十分遠ざかった後にバック転を四連続で繰り出しそれを回避、距離を取る!「貴様に慢心あり!」ボーツカイは片膝を突き、三節棍の破壊されていない側の先端を向けた……ナンシーに!
「何?」三節棍の先端部のカバーが開き、筒状の穴がナンシーを捉える。あれは?仕込み銃!ナンシーは正座を崩したような姿勢でぼんやりとそれを眺めている!まずい!「イヤーッ!」ドウン!仕込み銃が火を噴いた!「グワーッ!」咄嗟に射線上へ飛び込んだニンジャスレイヤーが肩口に被弾!
「もらった!」ドウン!「グワーッ!」さらに脇腹に被弾!にわかにボーツカイが勢いを取り戻す。卑怯?否、これはボーツカイを賞賛せねばなるまい。絶望的状況下でニンジャスレイヤーの泣き所を見破り、そこを突いたのだ。今この場で、ニンジャスレイヤーにはナンシーを庇う以外の選択肢が無い!
「終わりだニンジャスレイヤー=サン!何故か?理由はすぐにわかる!」」ボーツカイが叫び、仕込み銃から最後の弾丸を発射!ドウン!「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの肋に着弾!そしてボーツカイは独りごちる、「ブラックヘイズ=サン、実に不本意だが貴様の忠告に感謝せねばならんな……!」
「イヤーッ!」それはニンジャスレイヤーの頭上!落下しながらの斬撃が、銃弾に釘づけにされたニンジャスレイヤーへ襲いかかった!「イヤーッ!」咄嗟にアスファルトへ身を投げ出しカブト割り斬撃を回避したニンジャスレイヤーへ、さらなる斬撃が襲いかかる!「イヤーッ!」丸太めいた圧倒的質量!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは懐へ飛び込もうとするが、新手のニンジャは用心深い前蹴りで接近を許さない!「イヤーッ!」「ヌウウッ!」全身を古風な甲冑で包んだそのニンジャが異形のカタナを振り上げた!
そのカタナはまるでバイキングのツルギめいた鍔と柄を備え、雄々しい朱色の飾り帯が炎の舌めいて躍る。幅広の刀身にはルーン文字めいた書体で「カ タ ナ ブ レ ー ド ツ ル ギ」と彫り込まれている。ナムアミダブツ!なんたる邪悪な印象を与える刃!
「ウウ……この痛み……」「恨」の漢字を象った装飾が凶々しいカブト、その悪魔的フルフェイスメンポの奥でくぐもった声がした。「ドーモ……私はキャバリアーです……正々堂々勝負せよ……!」ニンジャスレイヤーのニンジャ嗅覚は甲冑を通して漏れ出る死臭を嗅ぎとる。「ゾンビニンジャか!?」
「その通りだ!」ボーツカイが叫び返す。「貴様には似合いの相手よ!」「……!」ニンジャスレイヤーはナンシーを庇うように回りこんだ。そして電撃的速度でオジギした。「ドーモ。キャバリアー=サン。ニンジャスレイヤーです」キャバリアーは全身を震わせ、メンポの隙間から白い息が噴き出した。
ニンジャスレイヤーは困惑した。ソウカイヤと組していたゾンビニンジャのテクノロジーがザイバツに……?いや、そんな事は後で悩めばよい。ニンジャ殺すべし!しかし実際これは圧倒的なまでの不利である。守るべきナンシー・リーは朦朧状態、自身は手負い、敵は二人、しかもうち一人がゾンビーなのだ!
「弾丸充填は済んだぞニンジャスレイヤー=サン!そこのコーカソイド女がよほど大事と見える。庇いきれるか?」ボーツカイが仕込み銃をナンシーに向ける。「正々堂々勝負せよ!ニンジャスレイヤー=サン!」キャバリアーがぞっとする声で叫び、ツーハンデッド・カタナブレードツルギを振り上げる!
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「イヤーッ!」キャバリアーは両手で構えたツーハンデッド・カタナブレードツルギを斜めに打ち下ろした。「イヤーッ!」速い!ニンジャスレイヤーはギリギリのところでこれを回避!恐るべき風圧がニンジャスレイヤーを
打ち、直撃すれば致命傷を受けるであろうことを想像させる。
ニンジャスレイヤーは反撃に出ようとして踏みとどまる。仕込み銃を構えたボーツカイである!「イヤーッ!」ドウン!またしてもナンシーを狙った銃撃だ。だがこれ以上ダメージを受ければカタナブレードツルギの餌食!ニンジャスレイヤーのニューロンが時間感覚を研ぎ澄ませた。「イヤーッ!」
「なに!」ボーツカイが目を見開いて驚愕した。ゴウランガ!ニンジャスレイヤーは左手を真っ直ぐ突き出し、親指と人差し指で赤熱する弾丸を掴み取っていた!さらにそれをボーツカイめがけ人差し指で弾き飛ばす!「イヤーッ!」「グワーッ!?」ボーツカイは眉間に弾丸を受けて仰け反る!
「正々堂々と勝負せよ」キャバリアーがくぐもった声を発し、カタナブレードツルギを振り上げる。ボーツカイはめげずに再度仕込み銃をナンシーに向けた。ナムサン!あの銃の装填弾数は三発。致死的な斬撃をどうにかかわし、ボーツカイの銃弾をノーダメージで防ぐ……これを更に二度繰り返さねばならぬ!
「イヤーッ!」キャバリアーがカタナブレードツルギを振り抜く。ニンジャスレイヤーは覚悟を決める。できるか?ではない!やるのだ!だが、その時おかしな事が起こった!
キャバリアーの横薙ぎの刃がニンジャスレイヤーの頭上を越え、そのまま勢いをつけて、キャバリアーの背後のボーツカイを襲ったのだ!「グワーッ!?」思いがけぬ裏切り攻撃を、ボーツカイは三節棍を掲げて危うくガードする。金属製の三節棍はカタナブレードツルギを受けて一撃で破砕した!「何を!?」
「正々堂々……勝負せよ……」キャバリアーは尻餅をついたボーツカイにカタナブレードツルギの切っ先を突きつけ、宣告した。「これは神聖なる一騎打ちなり……」ボーツカイ、ニンジャスレイヤーともに、この甲冑ゾンビニンジャを訝しい目で見た。ボーツカイが我に返る。「な、何をバカな!」
「正々堂々勝負せよ」「き、貴様とてこのニンジャスレイヤー=サンにアンブッシュしたであろうが!今更何を!」ボーツカイはムキになって捲し立てるが、思い直した。「生前の記憶か?忌々しい……ええい、ならば、とにかくやれ!相手を間違えるな!ニンジャスレイヤー=サンを切り刻め!」「ウウ……」
キャバリアーがニンジャスレイヤーに向き直った。「この痛み……この寒さ……ヌウーン!」あらためて振り上げられるツーハンデッド・カタナブレードツルギ!「……茶番は終わったか」ニンジャスレイヤーはあらためてジュー・ジツを構えた。
その背後、ボーツカイは看板を次々に蹴って手近のビルの屋上へ跳び上がる。「せいぜい暴れるがいい、出来損ないめ!とにかくニンジャスレイヤー=サンを殺すのだ!」「ヌウーン!」ズシン!ズシン!カタナブレードツルギを大上段に構えたままキャバリアーがニンジャスレイヤーの間合いに踏み込んだ。
「この痛み……イヤーッ!」斬撃が襲いかかる!風を切るツーハンデッド・カタナブレードツルギ。その重量と長さたるや、9フィート近い巨体の持ち主たるキャバリアーをして両手で振るわねばならぬほどの大業物なのだ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはあえて踏み込む。これはセオリーである!
遠心力の乗った外側よりも、より敵の懐近くで斬撃をいなすべし!だがキャバリアーのケリ・キックが接近を阻止すべく再び襲いかかる。ニンジャスレイヤーはこの反応を想定済みだ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは小さくジャンプし、キャバリアーの蹴り足の膝を蹴って跳び上がった!
「イヤーッ!」「グワーッ!?」これは!跳躍の勢いを乗せた高高度サマーソルトキックである!顎を下から蹴り上げられたキャバリアーはのけぞってよろめく。ニンジャスレイヤーは後ろの地面を蹴り、休む間無く飛びかかった。タタミ三枚分の距離を一気に縮める低空ジャンプパンチだ!「イヤーッ!」
「グワーッ!」腹部にジャンプパンチを受けたキャバリアーがよろめく。ニンジャスレイヤーは手を休めず、さらにショートフックを執拗に叩き込む!「ィィイヤアーッ!」右!左!右!左!右!左!「グワ、グワーッ……この苦しみ……」「ヌウウッ!?」ニンジャスレイヤーは手を止め防御姿勢!何故か!?
キャバリアーは連続で叩き込まれるフックのダメージを意に介さず、攻撃を受け続けながらカタナブレードツルギを逆手に持って振り上げ、ニンジャスレイヤーに狙いを定めていたのだ!ゴウランガ!恐るべきはゾンビニンジャの異常なまでのニンジャ耐久力!「イヤーッ!」打ち下ろされる刃!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは後方へ転がって致命的打ち下ろし刺突を回避!カタナブレードツルギがアスファルトに深々と埋め込まれる。咄嗟の状況判断が彼の命を救った!だがキャバリアーのイニシアティブは続く。ゾンビは地面に埋まったカタナブレードツルギに力を込める。「……イヤーッ!」
ゴウランガ!地面が爆ぜ割れ、テコの原理で掻き出されたアスファルトが散弾めいてニンジャスレイヤーへ襲いかかる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは右手チョップ!飛来するアスファルト片を叩き落とす!「イヤーッ!」左手チョップ!飛来するアスファルト片を叩き落とす!右手!左手!
「イヤーッ!」そこへキャバリアーが飛び込んできた。ジャンプからの横斬撃!巨体に見合わぬ剣技、身に宿すはいかなるニンジャソウルか!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは瞬間的なブリッジでこの致死的斬撃を回避!キャバリアーは着地しながら斬撃の勢いで一回転しさらに下段横斬撃!「イヤーッ!」
まずい!後退回避の結果、今やニンジャスレイヤーのすぐ背後には前後不覚のナンシーがいる。この斬撃をジャンプ回避すれば、地面にへたりこんだままのナンシーはカタナブレードツルギの恐るべきリーチの餌食となろう!ニンジャスレイヤーは咄嗟に敵に背中を向け、ナンシーを抱え上げる。迫る刃!
ニンジャスレイヤーは目を見開いた。そしてナンシーを抱えたまま、全力で跳躍!足元を一瞬後に薙ぎ払うカタナブレードツルギ!ニンジャスレイヤーは宙を飛び、アスファルトへ激突……否!
ギャルギャルギャルギャル!ドリフトしながら角を曲がってきたクロームシルバー車両のボンネットが、ナンシーを抱えたニンジャスレイヤーの背中を受け止める!瓦屋根シュラインを戴く改造武装霊柩車は、挨拶がわりとばかりに強烈なフロントライトをキャバリアーへ照射した!「グワーッ!?」
運転席のウインドウが開き、中から白色脱色した逆モヒカン・ヘアーの男が顔を出した。「ドーモ、ナンシー=サンにニンジャスレイヤー=サン。お楽しみの最中、邪魔したかい……」彼こそは武装霊柩車ネズミハヤイDⅢのオーナーにしてプロフェッショナル運び屋、デッドムーンである!
「……遅いじゃない……」ナンシーは呟いた。「そりゃ、合流地点が不明となれば、こんなものさ」デッドムーンは肩をすくめる。「それにしても、あンた石みたいだな。嫌な事でもあったのかい……」「それだ」ニンジャスレイヤーは口をはさんだ。「彼女は故あって朦朧状態だ。どこか安全なところへ……」
「ヌウッ!」ビル屋上から戦闘を監視していたボーツカイは思いがけぬニンジャスレイヤーへの救援に歯噛みした。「なんだあの武装霊柩車は!」ニンジャスレイヤーがコーカソイド女を霊柩車に乗り込ませるのを見ながら、彼は判断を迷った。既にヤクザ小隊とフロートガン三機を失った彼は増援をためらう。
「正々堂々!勝負せよ!」キャバリアーが得物を構え前進する!ネズミハヤイのヘッドランプ最大照射は実際漢字サーチライトに比するほどの出力だが、足留めはできて数秒だ。「チャとオカキはもう少し待ってくれよ」デッドムーンは助手席のナンシーに言い、全速でネズミハヤイをバックさせた。
「正々堂々勝負せよ!」キャバリアーが呪詛めいて繰り返す。「そうかい。だが申し訳ないな」デッドムーンは「煙」と書かれたボタンを押した。たちまちフロントグリルから黒煙が噴き出しキャバリアーの視界を遮る!「グワーッ!」光の次は闇!苦しむキャバリアーの傍をニンジャスレイヤーが駆け抜ける。
ニンジャスレイヤーはキャバリアーを通り過ぎると、道路傍にアイドリングしているアイアンオトメに飛び乗った。後輪をスピンさせ、煙幕と格闘するキャバリアーへ向き直る。「そのまま行け!デッドムーン=サン!」ニンジャスレイヤーは叫んだ。「そしてオヌシの相手はここだキャバリアー=サン!」
「お言葉にあまえるぜ……」デッドムーンはネズミハヤイを切り替えし、走り去ろうと……ダメだ!進行方向に突如として走行してきたトレーラーが道を塞いで横向きに停止!運転席に座る柿色のニンジャがデッドムーンを
睨む。トレーラーの荷台側面がハッチ状に展開する!
「キャバリアー=サン。こっちだ!貴様にはこれが要るんだろう!?」ボーツカイが運転席から叫んだ。トレーラーの中から現れたのは、古代ローマのそれを邪悪なユーモアで捻じ曲げたかのような異形のチャリオットであった!
官能的な曲線が用いられた黒光りする鋼の車体には、金色で「リー先生」「強い戦士」とミンチョ書きされている。チャリオットからは鎖が伸び、二台のチョッパーバイクと接続されている。チョッパーバイクは無人であるが既にエンジンが起動しており、センサーらしき赤い光線がぐるぐると発せられている。
「フオオオ……イクサ……イサオシ!」邪悪なチャリオットを目にしたキャバリアーは震えながら感嘆の声を漏らす。そしてニンジャスレイヤーを無視し、トレーラーめがけていきなり跳躍!立ち往生するネズミハヤイを飛び越して、ワン・ジャンプでトレーラーの荷台に着地した。「栄光……英雄……」
ゴババババ!デッドムーンは無言でネズミハヤイをドリフトで切り返して180度方向転換、急発進させた。ニンジャスレイヤーはチャリオットに乗り込むキャバリアーをアイアンオトメ上で警戒する。ネズミハヤイがそのすぐ横を通り過ぎる瞬間、二者は無感情な視線を交錯させた。
キャバリアーがチャリオットのシートに腰掛けると、「スタートザーマシーン、スタートザーマシーン」とマイコ音声が宣告、二台のチョッパーバイクは自動的に頭を巡らし、チャリオットを引いて荷台から降り立った。おお……なんたる悪夢的光景か!チョッパーバイクはまるで鍛え上げられた軍馬!
「さあ、やれ!どうにでもしてしまえ!」トレーラーの運転席でボーツカイが叫んだ。彼は実際捨て鉢であった。キャバリアーはチャリオット上でツーハンデッド・カタナブレードツルギを天高く掲げ、咆哮した。「ウオオオーンン!」ドルルルル!二台のチョッパーバイクが唸る。野獣が解き放たれる!
4
「ラッセーラ!ラッセーラ!」「アカチャン!」「バリキトカ!」「ラッセーラ!ラッセーラ!」マツリはたけなわ、幻想的なネブタが誇らしげに大通りを進み、タイコが力一杯叩かれ、マツリかけ声が叫ばれる。空には花火が打ち上げられ、夜空を賑やかに彩る。
イカケバブやスシを手に笑いあう市民たちは、パレードの後方で悲鳴と混乱が今まさに広がっている事を知らない。阿鼻叫喚の原因は、大通りへ闖入し戦闘を開始した複数のビークルであった。すなわちニンジャスレイヤーのアイアンオトメ、デッドムーンのネズミハヤイ、キャバリアーのチャリオットだ。
「イヤーッ!」キャバリアーが無慈悲に大業物ツーハンデッド・カタナブレードツルギを打ち振ると、巨大なメロンのネブタが真二つに切断され、台車はチャリオットを引く二台の無人バイクの前面に装着された稼働刃でズタズタに引き裂かれた。無残!ネブタ職人はこのメロンの制作に一月はかけたであろう!
武装霊柩車ネズミハヤイはチャリオットの追跡を嫌い離脱のために速度を速める。現在のキャバリアーの狙いはニンジャスレイヤーよりもむしろこのネズミハヤイのようだった。そのようにボーツカイが指示しているのだ。ボーツカイは結局キャバリアーとともにチャリオット上にあった。
気を抜けばこのゾンビはわけのわからぬ騎士道精神を発揮し命令を無視、放置すれば更なるケジメ的事態を引き起こしかねない!「あの武装霊柩車をやれ。あれが貴様の敵だぞ!」ボーツカイは必死に指示した。非ニンジャを守らねばならない状況にニンジャスレイヤーを置き続けるべきと判断したのだ。
「イヤーッ!」上杉謙信のネブタ台座を飛び越え、アイアンオトメのニンジャスレイヤーが奇襲をかける。キャバリアーの頭に体当りだ!「まずい!」ボーツカイは素早くチョッパーバイクの一台に飛び乗り手動でフルスロットルした。バイク二台はシンクロしている。チャリオットがドリフトし、奇襲を回避!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはチャリオットに執拗にまとわりつき、キャバリアーへ激しくスリケン投擲!「ヌウーン!」キャバリアーはカタナブレードツルギをタツマキめいて振り回し、それらスリケンを弾き飛ばす!巻き添えを喰った虎のネブタがカタナブレードツルギによって無惨に引き裂かれる!
「アイエエエ!」歩道では降って湧いたこの戦闘にパニックとなった市民達が叫びながらぶつかり合い、逃げ惑う。「ニンジャ?ニンジャナンデ!?」ダシ・カートを引く者達やタイコ者、ストリッパーも我先にと逃げ出し、路上には無言のネブタが渋滞めいて放置された。それを轢き潰してゆくチャリオット!
ニンジャスレイヤーはブッダエンジェルのネブタへ接近し、「病気無いね」と書かれたノボリ旗を掴み取った。そして旗部分を毟り取り、カーボン製の軸を槍めいて構えた。車上戦でツーハンデッド・カタナブレードツルギと素手でやりあうのはいかにも不合理であったからだ。
「ヌウーン!敵将なり!」槍を構えたニンジャスレイヤーが視界に入るとキャバリアーは強く反応した。「正々堂々、勝負せよ!」「キャバリアー=サン!まずあの武装霊柩車だ!クソッ!」ボーツカイはバイクから叱責を飛ばすがキャバリアーは完全無視!敬礼めいてニンジャスレイヤーめがけ得物を構える!
「まあいいッ!好きにしろ!」ボーツカイは吐き捨て、武装霊柩車めがけバイクを加速する。(勝手にやりあっておるがいい!チャリオットのコントロール権はワシにあるのだ!)
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが旗竿を突き出す。「ヌウーン!イヤーッ!」カタナブレードツルギがその先端を撃ち、狙いを反らす。返す刃で反撃!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは旗竿を投げ捨て、アイアンオトメ上で跳躍!横薙ぎの斬撃を回避!
空中で、ニンジャスレイヤーは行き過ぎるマネキネコのネブタに飾られた「今後一年間も」の旗を掴み取った。旗を毟り取って旗竿を構え、新たな武器とする!「イヤーッ!」キャバリアーの横腹めがけ果敢に刺突攻撃!
「イヤーッ!」キャバリアーがカタナブレードツルギを振り回し、刺突を弾く!「イヤーッ!」「イヤーッ!」打ち振られる二つの長リーチ武器!「イヤーッ!」「イヤーッ!」おお、ネブタ並ぶ大通りを花道に甲冑巨人とニンジャが攻撃をぶつけ合う、まるでそれはセキバハラ戦争のタペストリーめいた光景!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」夕闇に火花が輝き、ときにネブタが斬撃のやチャリオットの無茶な装甲のあおりを食って無残に破壊される。パレードは大通りをどこまでも続く……!
「クソッ!なんだあの武装霊柩車は……」チョッパーバイク上のボーツカイは苦々しく毒づいた。決してこのチャリオットが遅いわけではない。しかし右往左往するネブタのカートの横、あるいはきわどい隙間をすり抜け、まるで減速する事の無い武装霊柩車は徐々に距離アドバンテージを取りつつあった。
そして何よりニンジャスレイヤーである!近づいては離れまた近づき、チャリオット上のキャバリアーへ熾烈な攻撃をかけてくるのだ。キャバリアーのツーハンデッド・カタナブレードツルギは既にニンジャスレイヤーが武器とする旗竿4本を破壊していたが、敵はそのたびに新しい旗を調達してくるのだ。
当初ボーツカイは武装霊柩車をことさら狙う事によってニンジャスレイヤーにそれを庇わせ、防戦一方の釘付けとする戦術をたくらんでいた。先ほどの仕込み銃でコーカソイド女を狙ったやり方の延長だ。しかし実際あの武装霊柩車の逃げ足はボーツカイの想定を超えている。
これでは結局全力のニンジャスレイヤーを相手にしていると同じ事ではないか!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「アイエッ!」カタナブレードツルギとぶつかり合って中途で折れた旗竿の破片がくるくる回りながらボーツカイの方へ飛来し、バイク上のボーツカイは慌てて首をすぼめ、それを躱す。
なんたる事か。ボーツカイは己に振りかかった凶運に思いを馳せる。半日前の自分はこんな死線にいる現在の自分を、ほんの少しでも想像できたろうか?なぜニンジャスレイヤーが?なぜこんな事に?ブラックヘイズ!なんたるゾンビーニンジャをよこしてくれた!いや、キャバリアー無くば今頃死んでいたか?
いやいや、キャバリアーに単独で十分にニンジャスレイヤーと武装霊柩車の相手をできる知能があれば、ボーツカイは遠くで傍観しておられたはず。さすれば、こんな危険に晒されてバイクを手動運転する必要などなく、オート操縦に任せて高みの見物……「イヤーッ!」「イヤーッ!」「アイエッ!」
再び飛来した旗竿の破片をボーツカイは危うく躱す。彼の思考は典型的な「負け犬のネガティヴィティ」に陥りかけていた。この弱気は、得物の三節棍を失ったおぼつかなさも理由として実際大きい。だがしかし、ニンジャが死地において過去の後悔や人任せの怠惰などに囚われればどうなるか?
「ま、マズイ!」集中力を欠いたボーツカイの目の前にイシカワ・ゴエイモンのジャイアント・ネブタが肉薄する!これは他のネブタの二倍以上のサイズ、パレードの呼び物だ。バイクで轢き潰すには実際大きすぎる!ボーツカイは全力でバイクをターンさせた。もう一台もシンクロしこのターンにならう!
「ヌオオオーッ!」チャリオットがドリフトし、ジャイアント・ネブタとの衝突はなんとか回避された。だが、おお、何たる事!チャリオットは停止を余儀なくされ、あっという間に武装霊柩車は見えなくなってしまった!そしてそこへ、執拗にバイクをターンして襲いかかってくるニンジャスレイヤー!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの旗竿とキャバリアーのツーハンデッド・カタナブレードツルギがぶつかり合う!そして竜巻同士が争うような激烈な応酬が再び始まった!「ア、アイエエエ……」ボーツカイは斬撃の巻き添えを食わぬよう必死であった。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ボーツカイは穴ぐらで嵐が過ぎ去るのを待つラクーンめいて身を縮めている……なんたるブザマ!キャバリアーとニンジャスレイヤーの決着はつきそうにない。やがて、ボーツカイの心に次第に焦りと自責の念が生まれ始める。
(俺とてニンジャ……ザイバツの紋章を背負った戦闘者だ!なのになんだこのザマは。ゾンビーに任せきりか!これでいいのか?)ボーツカイは斬撃の下で頭を抱える。小隊を失い、フロートガン部隊を失い、ハッカーを逃がし。このままではケジメはまぬがれない。だがニンジャスレイヤーの首級があれば!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの刺突をキャバリアーのカタナブレードツルギが打ち、阻む。バイク上の体が一瞬バランスを崩す。「い、今だ!イヤーッ!」ナムサン!ボーツカイはチョッパーバイクから飛び降り、地面を蹴ってニンジャスレイヤーへトビゲリ・アンブッシュを仕掛けた!「グワーッ!?」
もはやボーツカイをサンシタ運転手と見なしていたニンジャスレイヤーはキャバリアーへ集中するあまり、これを避けられない!脇腹のあたりを蹴られ、アイアンオトメもろともに転倒した。「イヤーッ!」キャバリアーが追撃!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは転倒したバイク車体を蹴り、転がって回避!
「イヤーッ!」転がりつつ繰り出す牽制のスリケンをカタナブレードツルギが弾き返す。ボーツカイはチョッパーバイクへ再び飛び乗り、エンジンをふかした。そして叫ぶ。「ゆくぞ、キャバリアー=サン!イサオシだ!貴様にふさわしい舞台がある!そうとも!」「ヌウーン!」「勝つ!ワシらが勝つ!」
5
ギャルギャルギャル!黒光りするモーターサイクル「アイアンオトメ」をドリフトさせてニンジャスレイヤーが入り込んだのは円形の多目的競技場であった。直後、ゲート縁を破砕しながらチョッパーバイク二台牽きチャリオットが突入してくる。そう、ニンジャスレイヤーはこの地へ追い立てられてきたのだ!
「ここが貴様の墓場だニンジャスレイヤー=サン!」ボーツカイはチョッパーバイクのハンドルを操りながら叫んだ。「逃げ場はないぞ!」シンクロするバイク二台に牽引されるチャリオット上でツーハンデッド・カタナブレードツルギを竜巻めいて振り回し叫ぶのがキャバリアー!「正々堂々!勝負せよ!」
「言われずともここで相手をしてやる!」陸上競技トラックを疾駆しながらニンジャスレイヤーは後方のチャリオットへ叫んだ。ナンシーを乗せたネズミハヤイを逃がす事には無事成功した。あとはこのザイバツ・ニンジャを返り討ちし、拷問するのみだ。身を呈して庇うべきものはもはや無い!
懸念は幾つかあった。ニンジャスレイヤーには今現在、カタナブレードツルギと渡り合う長リーチ武器が無い。ネブタパレードでの戦闘で彼は実に11本の旗竿を消費した。それら全て、有効打が無いまま、あの凶悪な武器に破壊されてしまっている。そして、ボーツカイの存在だ。
ボーツカイ自慢の三節棍はカラテ勝負で破壊し、力の差を見せつけて、その心を折ったはずであった。今やボーツカイに武器は無い。卑劣な人質戦術の見通しも無い。そうして手札を一つ一つ奪い、心を折ったニンジャ達を、ニンジャスレイヤーはこれまで数多く絶望に沈めて葬り去ってきた。
だがあのニンジャ、戦闘のさなかで何らかの葛藤を経たのか、チョッパーバイクを自ら操る彼の目に怯懦は無い。すなわちこれは二対一の不利な勝負にあいなったというわけだ。しかしながら、ニンジャスレイヤーのすべき事はなにも変わらない。ニンジャ殺すべし。それだけだ。ゆえに迷う必要も無い。
「ハイハイッ!イヤーッ!ハイッ!」まるで軍馬に鞭を振るかのような攻撃的前のめりで、ボーツカイは牽引バイクをギア・アップする。剣呑な回転刃がフロントカウルから迫り出し、ニンジャスレイヤーのアイアンオトメを轢き潰そうと高速回転する。キャバリアーのみならずこのバイク自体が実際危険!
「イヤーッ!」陸上競技トラック上を追い立てられるニンジャスレイヤーは後方へきらめく金属物体を投げ散らかした。これは非人道兵器マキビシ!ニンジャが踏めば足の裏を切り裂かれ、まともに立つ事すらかなわなくなる危険武器だ。バイクのタイヤを破裂させる事もやってのけるだろう!
「イ、イヤーッ!」ボーツカイはバイクを蛇行運転させて危うくマキビシを回避!キャバリアーが台座から身を乗り出しカタナブレードツルギを振り上げる。「なんたる奸計……正々堂々勝負せよ……!」「その通りだキャバリアー=サン!」ボーツカイが叫ぶ。「敵将ニンジャスレイヤー=サンの首を取れ!」
「ハイハイッ!イヤーッ!ハイッ!」まるで軍馬に鞭を振るかのような攻撃的前のめりで、ボーツカイは牽引バイクをギア・アップする。前方に左カーブが近づく。ボーツカイはインジケーターの「活力」ボタンを親指で押し込んだ。途端にバイクの後方からジェット噴射が二秒!チャリオットは急加速!
ニンジャスレイヤーのアイアンオトメの真左に躍り出るチャリオット!キャバリアーがツーハンデッド・カタナブレードツルギを両手で振り上げる!「ヌウーン……イヤーッ!」振り下ろす!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの極限的バイクさばき!タイヤのすぐ側の地面をカタナブレードツルギが砕く!
さらに驚くべき速度で返す刀の一撃!「ヌウーンイヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはアイアンオトメをほぼ真横にまで傾けてこのシビアな斬撃を回避!だが、見よ!前方を!すでにトラックは左カーブし、ニンジャスレイヤーの目前に迫るのは競技場の壁である!
「ヌウッ……」「逃がさいでかニンジャスレイヤー=サン!」ボーツカイが叫んだ。チャリオットの車輪から真横にスパイクが飛び出し回転を開始!壁を前にニンジャスレイヤーが少しでもスピードダウンすればスパイクがアイアンオトメもろともネギトロにしてしまうだろう!実際危険!
「どうだッ!」迫り来る壁!ダメ押しとばかりにボーツカイはチャリオットを左前方へ加速、壁ぎりぎりにドリフトさせてアイアンオトメの左折先進路を塞ぐ!「逃げ場無し!これで貴様は速度によって壁面に叩きつけられペシャンコのイカジャーキーよーッ!」危うしニンジャスレイヤー!ナムアミダブツ!
ニンジャスレイヤーはアクセルをフルスロットルした!ナムサン!自殺めいた加速!だが刮目せよ!我々は見届けねばならぬ!「イヤーッ!」加速そしてドリフトしながら壁へ突っ込むアイアンオトメ……その車体が、おお、なんたる事!壁のカーブに沿った繊細なドリフトにより、真横に壁を走行し始めた!
「何だとーッ!?」ボーツカイが絶叫する。アイアンオトメはそのまま壁を走りながら上へ上がってゆく。そして、「イヤーッ!」チャリオット上のキャバリアーめがけ、高高度から飛びかかった!「ヌウーン!イヤーッ!」キャバリアーがカタナブレードツルギを振り回す。だがアイアンオトメが速い!
「イヤーッ!」「グワーッ!」アイアンオトメの前輪がキャバリアーの顔面を捉えた!いかな巨人ゾンビーニンジャであろうと、速度を乗せた1200CCモーターサイクルの全質量を上半身に叩き込まれれば無事では済まない!ギャルギャルギャルギャル!無慈悲に回転するアイアンオトメの車輪!
「グワーッ!この、この苦しみ!」カブトの奥からキャバリアーの苦悶の声が漏れる。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはさらにアイアンオトメを押し込む!「ヌウーン!」キャバリアーはカタナブレードツルギを取り落とし、両腕でバイクを抱きかかえるようにした。そして……「イヤーッ!」投げ飛ばす!
なんたる怪力!投げ飛ばされたアイアンオトメはスピンしながら転倒、ニンジャスレイヤーは車体から転がり落ち、そのまま七連続バック転を繰り出して着地した。「お、おのれーッ!」ボーツカイが毒づく。「カタナブレードツルギを!カタナブレードツルギを拾えキャバリアー=サン!」「ヌウーン!」
チャリオットが停止すると、キャバリアーが台車から飛び降り、やや離れた位置に置き去りにされたカタナブレードツルギに向かってノシノシと歩く。「イサオシ……我がカタナブレードツルギ……」「させぬぞ」ニンジャスレイヤーは短距離走者めいてトップスピードでダッシュする!
ニンジャスレイヤーの狙いは当然、丸腰のキャバリアーである。カタナブレードツルギが無くばあのゾンビーニンジャは鈍重なスモトリと大差無し!得物を拾い上げる前にケリをつけるつもりである。「そうはさせぬぞ!イヤーッ!」ボーツカイがバイク上からニンジャスレイヤーへスリケンを七枚投擲!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは眉一つ動かさず、全力疾走しながらスリケンを十一枚投げ返す!七枚がボーツカイのスリケンとそれぞれぶつかり合い破砕消滅!残る四枚がボーツカイの体軸に突き刺さる!これは単純極まる引き算の演習だ!「グ、グワーッ!」
ニンジャスレイヤーは言い放つ!「下がっておれ!急がずともオヌシのことは痛めつけた後に殺す!」「グ、グワーッ!」そしてキャバリアーめがけダッシュの勢いを乗せたスピニング・ドロップキックを繰り出す!「イヤーッ!」「グワーッ!」キャバリアーは脇腹にヤリめいた突撃を受け、よろめく!
さらにニンジャスレイヤーは踏み込みながら連続攻撃!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」嵐の如きチョップ突きの連打である。これは実際テクニカルな攻撃であった。甲冑の繋ぎ目を狙い、最大のダメージを与えていくのだ!「グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!」腐った血が噴き出す!
「この痛み!イヤーッ!」キャバリアーがゴリラめいたハンマーパンチで反撃!だがニンジャスレイヤーは流麗なステップでこれを受け流しワン・インチ距離まで踏み込むと、下腹に拳を叩き込んだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」ゴウランガ!完璧なタイミングで放たれたポン・パンチのクリーンヒット!
ついにキャバリアーのニンジャ耐久力の限界を超え、9フィートの巨体は回転しながら吹き飛ばされ、競技場の壁に叩きつけられる!「キャバリアー=サン!」ナムアミダブツ!ボーツカイの叫びも虚しい!ニンジャスレイヤーは地面に転がるツーハンデッド・カタナブレードツルギに飛びつく!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの上半身に縄のような筋肉が盛り上がった。そして、見よ!あの巨人がようやく両手で扱えるほどの大業物カタナブレードツルギの柄を、ニンジャスレイヤーはゆっくりと持ち上げ、そして、ゴウランガ!自らの体を軸に、ハンマー投げ選手めいて遠心力で振り回し始める!
ブン……ブン…ブン、ブン。ツーハンデッド・カタナブレードツルギを遠心力で振り回すニンジャスレイヤー、真上から見ればそれは扇風機めいて見える事だろう。あるいは古事記に記された凶運の車輪めいて?ニンジャスレイヤーの狙いは決まっている……壁に背中をめり込ませたキャバリアーだ!
「キャバリアー=サン!」ボーツカイはチョッパーバイクをフルスロットルさせた。もはや彼自身なぜそのような決断をしたのか解らなかった。彼はとにかく必死であった。ニンジャスレイヤーを倒せるのはキャバリアーなのだ!自分ではない!「キャバリアー=サン!ヌオオーッ!」
ニンジャスレイヤーの回転は今や十分な勢いをカタナブレードツルギに与えていた。彼はついに、ハンマー投げめいたその遠心力を……「イイィ……イイイヤァーッ!」放った!高速回転しながら、カタナブレードツルギは持ち主を真っ二つに葬るべく飛んでゆく!
その直線上へ、ボーツカイの駆るバイク・チャリオットが殺到する!飛ぶカタナブレードツルギ!ボーツカイ!「イヤーッ!」ボーツカイは座席を蹴って跳躍、さらにフロントカウルを蹴って跳んだ!飛来するカタナブレードツルギ!「グワァァーッ!」ナムアミダブツ……ナムアミダブツ!
カタナブレードツルギと空中でぶつかり合い、ボーツカイは転落した。「アバ……アバッ」まず彼の視界に入ったのは、人工芝に転がる、腰から上を消失したニンジャの下半身であった。誰の?自分自身のものだ。「アバッ」ボーツカイは吐血した。試みは成功したのだ。カタナブレードツルギを受けたのだ。
ボーツカイを切断したカタナブレードツルギはくるくると宙を舞い、キャバリアーの足元へ……突き刺さった。もがいていたキャバリアーは壁の亀裂を拡げつつ、身をもぎ離して復帰した。「ヌウウ……この寒さ……この痛み……」地面に突き立ったカタナブレードツルギを両手で握ると、一息で引き抜いた。
「さあ、やれ……」ボーツカイはさらに吐血した。「ヤツをやれ。たのんだぞ」「……」キャバリアーはカタナブレードツルギの刀身を見、それからボーツカイを見た。そして呟いた。「ボーツカイ=サン」……ボーツカイの意識は途絶え、その上半身は爆発四散した。
キャバリアーの目の前にはボーツカイが運んで来たバイク・チャリオットがある。キャバリアーはノシノシと歩き、台車に乗り込んだ。二台のチョッパーバイクがサーチライトを走らせ、オートモードがあらためて起動した。「リースタートザーマシーン。リースタートザーマシーン」
致命的攻撃が失敗に終わったニンジャスレイヤーは?彼は新たな一手を打つべく、転倒していたアイアンオトメのところにいた。車体を起こし、それに跨ると、キャバリアーのバイク・チャリオットを真っ直ぐに睨み据えた。二者は無人の競技場で向かい合った。双方の前照灯が互いを照らし出す。
「正々堂々勝負せよ……」キャバリアーがカタナブレードツルギを頭上で担ぐように構えた。呼応するように、二台のチョッパーバイクがエンジンを唸らせる。ニンジャスレイヤーはキャバリアーを見返した。ギャルギャルギャル!ギャルギャルギャル!血に飢えたアイアンオトメが後輪を荒々しく回転させる。
遠くの空で突如、花火が光った。少し遅れて、タイコめいた重低音がドォンと鳴った。それを合図にバイク・チャリオットのキャバリアーとアイアンオトメのニンジャスレイヤーはお互いめがけて全速の突進を開始した!
「ヌウウウーン!」キャバリアーがほとんど背中を向けるようにして、ツーハンデッド・カタナブレードツルギに力を込めた。その刀身は極限のニンジャ膂力によって小刻みに震えている!ニンジャスレイヤーはまったく減速する事無く、その斬撃の攻撃範囲へ突進する!間合いが重なる!「「イヤーッ!」」
アイアンオトメが跳んだ!二台のチョッパーバイクを跳び越え、キャバリアーの胸元めがけ!そしてキャバリアーは斜めのイアイ斬撃を放つ!アイアンオトメに跨ったニンジャスレイヤーの肩から上を切断する斬撃軌跡!だがそこにニンジャスレイヤーの身体は無い!
ニンジャスレイヤーはアイアンオトメの座席を蹴り、はるか上へと跳躍していた。ツーハンデッド・カタナブレードツルギを振り抜いたキャバリアーへアイアンオトメの鋼鉄のボディが魚雷めいて突き刺さる!「グワーッ!」それだけではない!上空のニンジャスレイヤーは通過するキャバリアーめがけて降下!
真下にはキャバリアーのひしゃげたカブト、そこに護られた脳天!ニンジャスレイヤーは硬く握った拳を振り上げ、真っ直ぐに降下!この構えはカラテのザ・モースト・ファンダメンタル・アーツ!ニュービーカラテカは最初の一年、これ以外の動作の練習は許されない基本中の基本動作!カワラ割りである!
「……イヤーッ!」真上から突き下ろしたニンジャスレイヤーの拳は、アケチ・ウォリアーめいたキャバリアーの古典的カブトを貫く!衝撃波で「恨」の漢字飾りが粉々に砕け散り吹き飛ぶ!「グワーッ!」さらにカブトが真っ二つに割れ砕けて左右に落ちる。露わになったのはソクシンブツめいたミイラの頭!
ニンジャスレイヤーの決断的な拳は止まらず、粘土にヘラを突き刺すかのように易々とその頭部をも貫通、そのまま鎖骨、肩甲骨まで、甲冑ごと割り裂いた!「アバーッ!」ナムアミダブツ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはキャバリアーの肩を蹴って、再度、天高く跳躍した。
アイアンオトメは力を失ったキャバリアーをそのまま轢き倒し、地上へ降り立った。ニンジャスレイヤーはくるくると回転しながらそこへ降り立ち、座席に跨った。そしてチャリオットを振り返った。肩から上を完全破壊されたキャバリアーはボロクズめいて台車から地面に転げ落ちた。
乗り手を失ったチャリオットはそのまま真っ直ぐ、壁めがけて走り去ってゆく。落下したキャバリアーがバウンドするたび、その四肢は甲冑の隙間から不浄な炎を散らし、やがて、バラバラの残骸と成り果てて散乱した。ゾンビーニンジャは言葉も無く、滅びた。
ドォン。ドォン。遠くで花火が断続的に打ち上げられる。ニンジャスレイヤーは戦いの痕跡に視線を走らせた。切断されたボーツカイの腰から下。そしてキャバリアーの甲冑の残骸。命や魂がもはや無いそれらは、かつてありし情報の断片、冷たい有機物に過ぎない。
死して屍拾うもの無し。それはニンジャスレイヤー自身にとっても同じ事だ。この殺戮行が終わる時……それは己が力及ばず倒れた時だろうか。その時には彼もまた、塵芥と成り果てて、誰に顧みられる事も無いだろう。
IRC通信機が微かに光り、デッドムーンからのメッセージを知らせる。内容に目を走らせ、懐へ通信機をしまい込んだ後も、ニンジャスレイヤーはしばし、アイドリング状態のアイアンオトメの上で無言であった。
【オン・ジ・エッジ・オブ・ザ・ホイール・オブ・ブルータル・フェイト】終
N-FILES(設定資料、原作者コメンタリー)
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