【プロメテウス・アレイ】#2
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ダン
1997_11_10
クルマの中で日付が変わった。
目的は果たした。"吸血鬼" は死に、爆発四散した。しかし、ダンも、トレインレッカーも、目的達成の高揚感とは程遠い精神状態にあった。不可視の鉤爪が二人の頭を掴み、名状しがたい真実の深淵に無理矢理に顔を向けさせているかのような、重苦しい恐怖だけがそこにあった。
「間違いないんだな! "吸血鬼" は爆発して、消滅したと!」
ダンは重ねて確認した。殺した時の記憶が曖昧だ。あのときダンは極度の興奮状態にあった。
「は、はい、消えました。間違いありません。や、や、奴は、本当に、人間じゃなかったんだ……はは……」
トレインレッカーはハンドルに頭をぶつけた。細切れのクラクションが鳴り、クルマが蛇行を始める。ダンは慌ててトレインレッカーの襟首を引っ張り、止めさせた。
「落ち着け!」
「さ、殺人罪に問われちゃうんでしょうか? 僕ら……!」
「死体がない!」
ダンは言った。憔悴した彼の目は落ちくぼみ、トレインレッカーへの態度も荒っぽいものになっていた。
「しらを切り通せ。漠然とした目撃証拠しかないのだからな。証言者が現れたとしても、所詮、自分が何処で何をしているかも曖昧なジャンキーの不良犯罪者ばかりだ。廃屋に集まり、ハッパやアシッドで遊んでいたら、場違いな老いぼれが現れ、友達を銃で撃ったら爆発して消えた? 警察への証言はそうなる。ハハハハ! お笑い草ではないか!」
「こ、こ、こんな事に、なるだなんて……」
「こんな事だと!?」
ダンは目を剥いた。
「遊びだとでも思っていたのか!? わざわざロンドンからこの私を呼び寄せておいて、そんな甘い気持ちでいたのか! これは戦いだぞ! 人類と "奴ら" の闘争だ!」
運転中のトレインレッカーに掴みかかる。トレインレッカーは悲鳴を上げ、クルマは蛇行して、危ういところで路外に停止した。
「やめ……やめてください!」
「私が、手を、汚したんだぞ! 私が……!」「……!」「リディア……!」
ダンはトレインレッカーを掴んだまま、俯き、嗚咽を始めた。トレインレッカーはどうしたらよいかわからず、ダンの背中を叩いて、落ち着かせた。
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