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【ヘラルド・オブ・メイヘム】#2

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(ワシが目指す地はネザーキョウの東にある)

 ニーズヘグは語った。彼がヘラルドに飲ませたドブロクは極めて強く、心臓のエメツに響いた。酩酊はヘラルドの自我をいくぶん曖昧にし、ニンジャ第六感を鋭敏にした。

(オヌシの妙な勘が働く先と、同じ方角じゃな)

(貴方の目的は何なのですか)

(決まっておろう。キョート城に帰還し、イクサを続ける。今更、ケチくさい、しみったれた傭兵稼業なんぞに熱くなれるか)

(私の存在を現世に留めるのはエメツの力です。貴方は如何にして)

(火じゃ)

 ニーズヘグは爛々と輝く目に灯る青い火を指差した。

(この忌々しい火がワシを蘇らせ、そして忌々しくもこの地に留め置いた。ネクサスの求めに応じて帰還する事もかなわん。鬱陶しくてならんわ)

 経緯について、ニーズヘグは多くを語らなかった。だが彼は目的地を明かした。

(ネザーキョウの東の地。ライディングマウンテンにギンカクが生じた)

(……ギンカク……!)

 ザイバツの戦士として、ヘラルドもギンカクの存在を知る。ニンジャスレイヤーの力の源となる存在であり……。

(ギンカクは極めてオヒガンに近い)ニーズヘグは言った。(ゆえに、ワシはギンカクを目指す。行けば何かある。少なくともネクサスの奴が考えるじゃろ。北米からではネオサイタマのギンカクは遠くて難儀じゃ。ネザーキョウに在るのならば渡りに船というものよ)

 如何にしてそのような情報を得たか、いちいちニーズヘグは説明しなかった。ヘラルドもそんな事には興味がない。それよりも、ニーズヘグの言葉はある確信にヘラルドを導いたのだ。

 ニンジャスレイヤー……「マスラダ」の名を呼んでいるのは、ギンカクだ。全てが繋がり、彼の中で筋が通った。つまり、奴はギンカクを必ず目指す! 必ず!

◆◆◆


(ギンカクに、ニンジャスレイヤーがいる! ギンカクへ行けば奴がいる! おらずとも手掛かりを得る事ができる……! 逃がすものか……! 絶対に……!)

 意識せねば、すぐにヘラルドの意識はニンジャスレイヤーへの執着に向かってゆく。ギリギリと奥歯を噛み締める。

「何をビビってる」

 デズデモーナが笑った。ヘラルドは否定しようとしたが、それにUNIX電子マイコ音声が被さった。

『対空攻撃インカミングドスエ。高速接近……』

 KA-BOOOOOOM! KRA-TOOOOOOOOOM!

「グワーッ!?」「ヌウーッ!?」

 くぐもった轟音が伝わり、キャリアーが大きく揺れた。

「食らったか!?」

 デズデモーナが叫んだ。

「当機ではありません!」オペレーターが叫び返す。「ブラボー機! 反応が……!」

『ブラボー機、撃墜ドスエ。カラダニキヲツケテネ』

 冷徹な電子マイコ音声。ホロレーダーの6つの光点のひとつが不穏な点滅表示となった。映像窓が複数浮かび上がる。このキャリアーのカメラ映像だ。ナムサン、黒煙を噴き上げて今まさに遥か下の地上へ落下してゆく機体! アルファの兵士たちは青褪めた顔を見合わせる。ブラボー機の搭乗人員は、ニンジャを含め、全滅。

「ウ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」「アイエエエエ!」「死にたくない!」

 何人かがフリークアウトした。デズデモーナはカラカラと笑った。

「お出迎えだ! ダイスを転がせ、貴様ら!」

 ビビーッ! ビービビビビビ! 警報音! カメラ映像のひとつが、地上の光景を……城塞都市トオヤマの胸壁に設置された対空兵器を捕捉し、拡大表示した。

 それは弩だった。車輪を回して、巨大な弓を引き絞っている姿が見えた。ニンジャだ。己の体長の何倍もあるバカバカしいサイズの弩を放つ為に、ニンジャが使われているのだ。暗黒メガコーポの対空砲やレールガンではなく、むしろザイバツの戦術に近い……ニンジャのカラテを用いた攻撃だ……!

『対空攻撃インカミングドスエ。高速接近……』

 KA-BOOOOOOM! KRA-TOOOOOOOOOM!

「グワーッ!?」「ヌウーッ!?」

 くぐもった轟音が伝わり、キャリアーが大きく揺れた。アルファ機では……ない!

『フォックストロット機、撃墜ドスエ。カラダニキヲツケテネ。……降下ポイント到達な』

 ブラボーにはオスモウで立ち合ったスローダイヴも搭乗していた……ヘラルドは思いを馳せた。奴は、実戦において何のカラテを振るう機会もなく死んだというわけだ。

「ハハッ! ロシアンルーレットは2発だったか! よォし、運命は私達の味方だ!」デズデモーナが言った。「殺しまくるぞ!」

「クソがーッ!」「やるぞ!」「やってやる!」

 兵士達は叫んだ。

 ガゴーン! 足下、キャリアーの底が開き、空気が吹き抜けた。固定デバイスがヘラルド達を解放し、彼らは空中に投げ出された!

 KA-BOOOOM! その数秒後、頭上でたった今まで搭乗していたキャリアーが弩の矢に貫かれて炎を噴き上げた。ヘラルドはクルクルと回転し、スカイダイバーじみて頭から落下を開始した。胸壁で囲まれた城塞都市トオヤマ。大きさはさほどない。営舎や厩舎、訓練場。城の殆どが戦争に関わるもので、非戦闘市民は高密度の集合住宅に追いやられている。そして……幾つかの五重塔。今回の攻撃目標、破壊対象だ。

 タイクーンは龍にまたがり、どこからでも前線に現れるという。そしてネザーの炎でUCAの軍を焼き尽くすのだ。あらかじめ五重塔を壊す事で、その妨げができるのならば……!

 ゴウ! ヘラルドの横を、速度が駆け抜けた。ニーズヘグだった。この戦場においても一番乗りか。ヘラルドは彼を視界に入れながら、身体の傾きの角度を調節し、降下地点を定めにゆく。

「ハーナテ!」「「「「キエーッ!」」」」

 カラテ・シャウトとともに、胸壁に居並ぶ弓ゲニン達が一斉に矢を放った。

「アバーッ!」

 降下兵の何人かが撃ち抜かれる断末魔を聞きながら、ヘラルドは両腕を身体にぴったりと添わせ、一個の弾丸のようになった。ドクン! 心臓が強く打ち、ニンジャアドレナリンがニューロンを加速させた。

「ハーナテ!」「「「「キエーッ!」」」」

 第2射!

「イヤーッ!」

 ヘラルドは落下しながら螺旋キリモミ回転した。ヘラルドの頭を貫き迎撃するはずの矢は回転に弾かれ、明後日の方向へ逸れていった。正しきカラテあらば飛び道具すら無効化する、これがニンジャの恐ろしさなのだ! 胸壁が、矢を放ち終えた弓ゲニンの驚愕の表情が、あっという間に大きくなる!

「イヤーッ!」「アバーッ!」

 弓ゲニンを脳天から股下まで唐竹割りにチョップ殺し、ヘラルドは胸壁に着地した。

「デアエ!」「クセモノデアエ!」「タイクーン、バンザイ!」

 口々に叫びながら、胸壁上の弓ゲニン達が弓を捨て、カタナを抜き、あるいは素手のカラテで応戦しようとする。大規模なイクサにおいて出会い頭のアイサツは不要。一騎打ちの名乗りにおいてのみ為されるものだ。ヘラルドは舞うように動いた。

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 ある者は首を刎ねられ、ある者は顔面を潰され、ある者は胸壁下へ蹴り落とされて大地に叩きつけられた。

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 ヘラルドの他にも、落下してきたニンジャ達が激しい戦闘を繰り広げていた。上空ではいまだ、非ニンジャの兵士達がパラシュートを展開し、アサルトライフルで地上掃射しながら降りてきている。ヘラルドは鼻を鳴らした。華々しきニンジャのイクサの陰で、ただ的となって死ぬためだけにこの場に投じられた役たたずどもめ。

「イヤーッ!」「アバーッ!」

 腹へのすさまじいパンチを食らわせると、ゲニンは口から内臓を飛び出させて死んだ。殺意が胸のエメツにエネルギーを注ぎ、カラテを循環させ、新たな力を生み出す!

「イヤーッ!」「アバーッ!」

 ヘラルドの後ろから襲いかかったゲニンを、デズデモーナが打ち倒した。胸に深々とチョップを突き刺し、逆手のナイフを首に突き立てた。

「ドーモ、ヘラルド=サン。元気か?」

「どうという事はない……!」

「さっさと五重塔をやるぞ」

 高い胸壁から、デズデモーナは城塞内を示した。ブオウー! ブオウー! 曲がりくねった街路を、白いゲニン達が忙しく走り回っているのが見えた。

「おのれUCAーッ!」

 弓ゲニン指揮者がカタナ二刀流に持ち替え、ニーズヘグに向かってゆく!

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 ヘビ・ケンが弓ゲニン指揮者の左足首を削り、跳ね返って心臓を貫通、爆発四散せしめた。

「サヨナラ!」

 ニーズヘグは青く燃える目でヘラルドを挑発的に一瞥し、「イヤーッ!」回転ジャンプで城塞内の建築物から建築物を蹴り渡る。イサオシを求める本能がヘラルドのニューロンを燃やした。彼もまた胸壁から市街ビルディングへ跳躍した!

「イヤーッ!」

 レンガ造りの建物の壁を蹴り、壁を走り、跳ね、向かいの建物の屋上へ着地する。

「デアエ!」「デアエ!」

 ゲニン達が次々に飛び移ってくる。ヘラルドは無慈悲に彼らを殺戮した。その横にはデズデモーナ。競うように敵を殺す。

「イイイヤアアーッ!」

 UCAニンジャのファイアイーターが空中にカラテで静止し、四方八方にカトン・ファイアを撒き散らした。

 BOOOOM! BOOOOOM! BOOOOOOM! 

 ひとつひとつはどうという事のないカトンだ。しかしそれらは流星じみて落下し、屋根屋根に引火して燃え上がり、空を赤く染めていった。

「ハハァーッ!」

 UCAニンジャのフォースクリーバーが炎の狭間を駆け抜け、カラテ鉈を振り回して次々にゲニンの首を刎ねる!

「イヤーッ!」「アバーッ!」

 その頭部が無残に潰れた! 棘まみれの鉄球が叩き込まれたのだ!

「サヨナラ!」

 フォースクリーバーを爆発四散させて進み出たネザーキョウのビッグニンジャはヘラルド達に立ちはだかり、屋根瓦を踏みしめてアイサツする!

「ドーモ。セイクリッドバッシャーです」

「ドーモ。デズデモーナです」「ドーモ。ヘラルドです」

「惰弱なUCAニンジャめ! 潰れよ! イヤーッ!」

「イヤーッ!」

 ヘラルドは横にフリップジャンプし、かろうじて鉄球を回避! KRAAASH! 破砕する屋根瓦片が身体に礫となって襲いかかる! そしてデズデモーナ!

「イヤーッ!」

 彼女はセイクリッドバッシャーの背後に着地していた。チョップ手を振ると、こびりついた鮮血が撥ね散った。

「ア、アバッ!?」

 セイクリッドバッシャーはおのれの首筋をえぐった深い傷を認識した。SPLAAAASH! 赤い血を噴いて、セイクリッドバッシャーは爆発四散した!

「サヨナラ!」

「……フ」

 デズデモーナはヘラルドを振り返った。ついて来い、と手招きする彼女を追い、ヘラルドは屋根から屋根へ飛び渡る。やがて五重塔!

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」

 重なった屋根を駆け回った2人は、複数のC4爆弾を壁に貼り付け、更に窓を割って念入りに幾つか投げ入れると、即座に離脱した。

「……!」

 ZGGGGTOOOOOOOOM……! 爆発が起こったのは2人が爆弾を仕掛けた塔とは別の五重塔だった。斜めに傾き、ゆっくりと沈んでゆく影は、黒紫の不気味な火柱を噴き上げた。ヘラルドはそれがオヒガンに由来する力である事を経験的に察知した。アルカナムの科学者とやらの説が確かめられるときだ。

 崩れ行く塔からニンジャが回転跳躍で飛び離れた。ネザーキョウのニンジャをヘビ・ケンで爆発四散させながら宙を横切るその姿、その青い眼光は間違いなくニーズヘグであった。

 ZGGGGGGGTOOOOOOOOOOM……! やや遅れて、ヘラルド達が仕掛けたC4が作動し、彼らの塔が破壊された。ニーズヘグに負けたか。ヘラルドは顔をしかめた。イサオシを奪い合う心地よい欲望が微かに胸中をどよもしたが、そうした感情は彼にとっては通り過ぎた過去の影のように、もはや捉えどころがなかった。

 残る五重塔はひとつ。今やトオヤマの武装市街は法螺貝と警報サイレン音がけたたましく鳴り響き、ゲニン達がUCAの強襲部隊を阻止すべく後から後から湧いて出る。次々に大梯子が立てかけられては、続々とゲニンが上へ上がってくる。

 UCAのカーフブランダーがネザーキョウのニンジャと刺し違えて爆発四散した先を、ヘラルドとデズデモーナは走り抜ける。ナギナタブレードで斬りかかってくる僧兵ゲニン達を倒し、道を切り開く。ヘラルドが敵を殺した隙はデズデモーナが補い、デズデモーナの背中はヘラルドが守った。

「ハハハ。お前、随分イイぞ」

 デズデモーナはほとんど晴れやかに言った。

「私の背中を預けるに足る男だ。認めてやる」

「くだらん」

 ヘラルドは唸った。

「私はただ敵を倒す。我が使命の為にだ。お前に認められるか否かなど、どうでもよい……!」

「お前の意見など聞いちゃいない。そう簡単には手放さんぞ、私は。イヤーッ!」

「アバーッ!」

 首を刎ねられたゲニンの頭が放物線を描く。その先ではUCAニンジャのムーンシンガーが放射状に音の壁を放ち、ゲニンのスリケンや矢の攻撃を跳ね返しながら突き進む。

 最後の五重塔に襲撃部隊が集まってゆく。デズデモーナはこの作戦で玉石混交11人ものニンジャを送り込み、降下時にあっという間に4人を無駄死にさせた。しかし結果的に成果が上がろうとしていた。身体能力と判断力が常人よりも遥かに優れたニンジャが7人、単なる建造物の破壊を目的として市街に到達し、暴れまわるのだから。

 ネザーキョウのゲニンは最終的な数では勝り、襲撃者の行く手に集まってくる。しかし今この瞬間にUCAのニンジャを止めきる事は困難なのだ。奴らがUCAの狙いに気づく頃には……!

 KRA-TOOOOOM!

 五重塔の窓が火を噴いた。爆弾のバックドラフトは五重塔の内なる黒紫炎と混じり合い、異様な光となった。ニーズヘグだ。早い。塔から飛び出した彼はネザーキョウのセンシ2人を同時に相手どっていた。雨の中で瞳の青い火が輝き、ヘビ・ケンの恐るべき太刀筋がきらめいた。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 ネザーキョウのセンシもさる者、ザイバツ右将軍をただの2人で迎え撃ちながら、爆発四散せず互角にやりあっている。走りながらヘラルドはニーズヘグの救援に向かう事を検討し、すぐに打ち消した。今やヘラルドはヌケニンの身、デズデモーナに雇われた身だ。優先すべきは作戦の完遂!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 ヘラルドとデズデモーナは火を噴く五重塔に跳んだ。完全に倒壊させる必要があった。空中ではファイアイーターがカトンを投げ、ゲニン達を焼き殺す。燃え上がる炎は降りしきる雨に消され、黒い煙と化す。

 遠い空にカイト部隊が点々と見え始めた。北からの増援だ。あれが到着すれば敵もすぐに立て直すだろう。撤退を急がねばならない。

「イヤーッ!」

 巨大剣を振り回すニンジャが彼らを追ってくる。ヘラルドは五重塔屋根でその新手を振り返った。

「デズデモーナ=サン。この塔の破壊は任せる。私が奴をやろう!」

「いいだろう!」

 デズデモーナは躊躇せず、格子窓を叩き割って中へ飛び込んだ。ヘラルドは五重塔の頂上屋根に飛び上がり、巨大剣のニンジャを手招きした。

「イヤーッ!」

 巨大剣のニンジャは挑発に乗り、回転跳躍でヘラルドのもとへ至ると、アイサツを繰り出した。

「ドーモ。フュームスティールです」「ドーモ。ヘラルドです」

 フュームスティールは無骨なメンポの呼吸孔から煤煙を吐き、憤怒した。

「惰弱なUCAめ。バンクーバーの意趣返しとしてはいかにも稚拙也。この程度の攻撃で我らのトオヤマが落とせると思うか! イヤーッ!」

「イヤーッ!」

 ヘラルドは前転して斬撃を躱した。KRAAASH! 大質量の巨大剣が五重塔屋根を砕いた。

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 前転からの連続パンチを浴びせ、フュームスティールを怯ませる。フュームスティールはケリでヘラルドのはらわたを潰そうとする!

「イヤーッ」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 転がり離れるヘラルドの背中を、振り向きざまの斬撃が襲った。ヘラルドは前転ののち跳躍し、五重塔から隣接建築物に着地した。

「イヤーッ!」

 フュームスティールは追って跳び、空中で回転、大上段叩き斬りを振り下ろす! ヘラルドはグッと身を縮め、解き放つように迎え跳んだ!

「イヤーッ!」「グワーッ!?」

 研ぎ澄ました逆さトビゲリがフュームスティールを下から上へ裂いた。ヘラルドはハナから誘っていた。追って来たフュームスティールを、回避余地のない空中で葬ったのだ。

「サヨナラ!」

 フュームスティールは爆発四散! そして、KRA-TOOOOOM! DDDOOOOOM……! 五重塔根本で新たな爆発が起こり、巨大建築物は傾き、沈み込んでいった!

「AAAAAAARGH!」

 オバケの叫びじみた怪音が崩落の音色として響き渡る。ザンシンするヘラルドは胸を押さえ、畏怖した。見上げると、雨雲に覆われた筈の頭上の空に黄金の立方体が見え隠れした。大気に満ちていた何らかの力が拡散し、薄れていく。雨雲に稲妻が閃く。そのたび、彼の頭には針で刺し、かき乱すような痛みが走るのだった。

「ご苦労だったな」

 塔を離脱したデズデモーナがヘラルドの横に立っていた。

「ウチのニンジャが何人生きているかは知らんが、これで作戦は決着。トオヤマの五重塔は全て潰した。あとは撤退し、本隊による本格的な作戦行動を待つ段取りだ。私達の仕事は終わりだ」

「約束は……約束は、果たした」

 ヘラルドは答えた。彼はまだほぼ無傷だったが、空には黄金立方体が見え隠れし、胸のエメツは脈動して、集中が乱された。五重塔が崩壊した事で、このトオヤマのオヒガンの均衡が一時的に乱れている。

 それはアルカナムの科学者の例の仮説が正しかった証左とも言えるだろうが、少なくともこの不調が長引けば今のイクサにおいて命に関わる可能性があった。ヘラルドは眉をしかめ、カラテを全身に込めて、なんとか耐えようとした。

「私はこのまま東に向かう」

「やれやれだ……まだそんな世迷い言を言っているのか。今回のイクサの成果を以て、UCAの正規部隊に取り立ててやるぞ。私が……しッ」

 デズデモーナは不意にヘラルドを黙らせ、北の方角を見た。空にはカイト部隊の影が並び、このトオヤマに至ろうとしている……その地平で何かが煌めいた。

「グワーッ!?」

 悲鳴が聞こえたのは、空中からカトンを投げ続けていたファイアイーターだった。ヘラルドは彼の身体が斜めに分離した瞬間を捉えていた。まるで目の錯覚のように鮮やかな断面……一瞬後、ファイアイーターは爆発四散した。

「サヨナラ!」

 ヘラルドの背筋が粟立った。今の彼のニンジャ第六感は疲弊している。攻撃兆候を感じ取る事もできなかった。まずい!

「イヤーッ!」「グワーッ!?」

 デズデモーナはヘラルドに蹴りを食らわせ、打ち倒した。屋根から滑り落ちるヘラルドを、デズデモーナは見下ろした。デズデモーナは笑みを浮かべ、なにか、はなむけの言葉を言おうとした。彼女の首が横にずれ、脱落した。

 KRAAAASH……背中から地面に落ちたヘラルドのもとに、彼女の首が落ちてきた。ヘラルドは受け止め、抱きかかえた。首の切断面はあまりにも鋭利であり、血が染み出してくるまでに数十秒を要した。

「デズデモーナ=サン」ヘラルドは呟いた。もう一度名を呼んだ。「……デズ……デ……モーナ……」

 認識が押し寄せてきた。デズデモーナがヘラルドを咄嗟に蹴らねば、まとめて殺されていただろう。驚愕の中でヘラルドは、あの決定的なシトカのイクサを瞬間的にフラッシュバックさせた。

 ニンジャスレイヤーへの怒りよって隅に追いやられた諸記憶の片隅においても、あの太刀筋は鮮烈な記憶として残っていた。ザイバツの盟友達をいともたやすく切り裂き、殺していった、ヒャッポ・ニンジャの太刀筋だ。

 ヘラルドの知らぬ事であったが、このとき要塞都市トオヤマをイアイの桁外れな射程内におさめたのは、ネザーキョウのシテンノの一人、インヴェインであった。


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