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【エグゼクティブ・スプレンダー】

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前編

 フォー……ファオー……。清潔な白い部屋を、雅やかな笙リード音が満たした。ボンボリ・ライト間接照明は、不定形に揺らめく影を天井に映し出す。影の中には完璧なフォントによって美しく綴られたマタイ伝9章37節・38節の文言。

 やがて、部屋の中央に満たされたカンオケ型のオーガニック・リキッド・フートンがゆっくりと隆起し、心地よい飛沫を散らしながら、均整のとれたニンジャの裸体が誇らしげに身をもたげた。彼こそはヨロシ・サトル。バイオケミカル事業を力強くリードするヨロシサン・インターナショナルのCEOであり、サブジュゲイターという名をもつニンジャでもあった。

 この日もサトルはただ一点の曇りもない爽快感の中で目覚めた。彼は高密度の肉体感覚に感謝をささげ、ニンジャでなければ到底不可能な魔術的ストレッチを三十分にわたって行った。その青白い身体が微かに上気すると、彼は満足げな微笑みを浮かべ、床からスライドしてきたクローゼットから、緑地に金の渦巻き模様のガウンを取り、羽織った。

「CEO。おはようございます」

 ホロ映像で映し出されたオジギが顔を上げた。秘書のナイン・トオヤマである。彼女はこの地球上で最も高給を取っている秘書の一人だろう。ジュドー28段、ショドー30段、オコト45段という文武両道の極み。素晴らしい笑顔と気遣い、奥ゆかしさの持ち主である。

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