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【ニンジャスレイヤーと炎のヌンチャク】

◇総合目次

 注:これはニンジャスレイヤーの2023年エイプリルフールです

*予告編プログラム*



【コロ太郎2】

 むくむくでかわいいウォンバットのコロ太郎!「かわいいねえ」「さすがは我が駅の駅長さん!」みんなにかわいがられるコロ太郎は実際、駅のマスコット。そんなコロ太郎には夢があった。……もう一度、電車を運転することだ。

 ブゥーン……ブゥーン……シーンがフェードインするたびに鳴る重低音


「むくむくでかわいいねえ」「癒やされるんじゃ」車内をウロつくコロ太郎は乗客に大人気。コロ太郎が目指すのは先頭車両。その後ろでは、当局! スーツ姿の官僚達が追う!「やはり不審な動きだぞ」「まさか数年前のあの一大事が繰り返されるのでは?」「阻止しなければまた大変な事に!」

 コロ太郎はかわいい駅長さん。しかし数年前……彼がそれを真に受けて、実際に電車を運転したせいで、大変なダイヤ乱れと混乱が引き起こされていた。地域の皆さんの愛に包まれながらも重点警戒対象となっていたコロ太郎が、今、再び、やろうとしている!(BGMのビートが映像の動きとしつこく同期)

「動物に人権はない!」「さすがに運転はまずい」「電車の質量をわかっているのか!?」「人々が危険だ」……銃声……BGM無音……「コロ太郎ーッ!」……「♪ウィーアー……大音量主題歌」……今、動物がもう一度、電車を、走らせる。「……大切なものを教えてくれたよ、コロ太郎」


◆◆◆


【STOP!】

 最近の電子セキュリティは極めて強力になっている。違法アップロードするとマルウェア感染し脳が焼かれます! オムロ送れは全て詐欺です!(ピロリポロピーポーピー)


◆◆◆




** DIEHARD TALES FILMS **

** NINJA SOUND SYSTEM **

** NINVOC **

** NINITY **


◆◆◆


 西に向かって走るシンカンセンの車窓からは、明け方の海の太陽が見える。シンカンセンの時速は666km。我々の科学力で出せる速度ではない。そう、これは我々の社会の裏側に存在するもうひとつの文明……ニンジャ文明のテクノロジー、「ジツ」のちからだ。

 ニンジャは万能のジツを用い、極めて先進的な文明を築き上げた。彼らは非ニンジャの我々を「モータル」と呼ぶ。そして今、シンカンセンの客室のひとつ、車窓に落ち着かなげにもたれている少年は、モータルのネオサイタマ中学からガイオン魔法学院に編入される。彼の名はマスラダ。このお話の主人公。


DIEHARDTALES PRESENTS

ニンジャスレイヤーと炎のヌンチャク


 マスラダは流れ行く景色を見て溜息をつく。届けられた一枚の封筒で、ガイオン魔法学院とやらへの編入が決まった。あれよあれよという間に、こうして見知らぬ電車に乗り、見知らぬ地に向かう。心細かった。……その時、客室ドアが開いて、同い年くらいの男子が顔を覗かせた。「悪い、ここ空いてる?」

 マスラダは頷き、彼を入れた。「ありがとよ。どこも混んでてさ。ヘヘッ……あ、オレの名はタキ。キミは?」「マスラダ」「ドーモ、マスラダ=サン」「ドーモ」タキは通りがかった車内販売からスシを買った。「やっぱガイオンに行くからにはスシだよな」キラキラ七色に光るマグロ。「食うか?」「うん」

 タキはスシを分けてくれた。マスラダは光るスシに内心ビビっていたが、初手でナメられるわけにはいかない。食べてみると実際美味かった。旨味が全身に染み渡る。「キクだろ。スシはニンジャの栄養源なんだ」「キミもガイオン魔法学院に?」「そりゃそうさ。お前……初めてか?」「実はそうなんだ」

「そいつはすげえや。転入生? たまにそういう奴いるよな。まあオレが面倒見てやっから、これから仲良くしようぜ」「ああ」二人が握手していると、もう一人客席に入ってきた。「ここ、入れてもらっていい? 席がなくて」ハッとするほどカワイイ。二人は頷き、招き入れた。「わたし、コトブキ」

 コトブキはカバンの中から早速マキモノを取り出し、顔を近づけ、読み始める。タキは呆れた。「凄いガリ勉だぜ」「わたしの両親はモータルなの。ナメられないようにしなきゃ」「おれもナメられるわけにはいかない。今までモータルの学校で普通に暮らしてた。バスケとかをして」「バスケ? 手を使うのか?」

「手を使わなきゃ何なんだ。足か?」「足? やっぱモータルってすげえな。ジツだよ。ジツ」タキは懐からヌンチャクを取り出して見せた。「オレのヌンチャクは楡の木に暗銀の鎖。まあ、安物だけどさ」「わたしは白樺の木と翡翠の鎖よ。マスラダ=サンは?」「おれは……」もらったヌンチャクを出す。

 タキとコトブキは息を呑んだ。真っ黒だったからだ。「すごい……」「黒檀に黒鋼……なんだか禍々しいな」「そんな事言ったらダメよ!」マスラダは自分のヌンチャクを見つめた。「誕生日に贈られてきたんだ。編入届けと一緒に。……このヌンチャクでジツを使うんだよな?」「おう、そうだぜ」「ヌンチャクは触媒よ」

「ちょっと見てな。オレが手本を見せてやッから」タキが自分のヌンチャクを構えた。「ヒカリ・ジツ! イヤーッ!」KA-BOOM! 光の矢が放たれ、室内を散々反射してタキに当たった!「グワーッ!」「ちょっと! こんな狭い場所でやるからよ!」「星が見えた……」タキはクラクラした。三人は打ち解けた。

「おやおや、何かと思えば、劣等生のタキじゃないか」筋骨隆々の二人を連れた嫌味な少年がドアを開けた。タキは呻いた。「ゲッ……チバ=サン。それに取り巻きのシバタとオニヤス」「そこのキミ、転校生? バカと付き合うとバカが伝染うつるぞ。僕の部屋に来なよ」「断る」マスラダはピシャリと言った。

 チバは眉をピクピクさせた。「ぼ、僕を……拒否!?」人生において、そんな反応を他人から受ける事を想像すらしてこなかった者の反応だった。隣のシバタがマスラダに凄んだ。「何だその態度は! 無礼だぞ。チバ=サンは純ニンジャの貴公子だ!」「スッゾオラー!」さらにオニヤスが威嚇した。

「よせ、シバタ! オニヤス! こんなバカなら誘ってやる必要もない。それにしてもいい度胸だ、転校生。学校では楽しみにしておく事だな!」チバは言い捨て、去った。「チバ=サン……!」シバタが慌てて後を追う。オニヤスは去り際、マスラダに顔を近づけ、凄まじい睨みを効かせてから、彼らを追った。

 三人が去ると、タキは心配し始めた。「早速目をつけられちまった。チバは理事長の息子で、学校の帝王だぜ。ヤバイかも」「どうでもいい」「あいつ、わたしを完全無視してた……」コトブキが表情を曇らせた。タキが頷く。「奴はモータルの血筋をゴミだと思ってッから。あ、いや、オレはそんな事考えてねえよ!」

 そうこうするうちにシンカンセンはガイオン魔法学院駅に到着した。学院は石造りの、歴史ある壮麗な城だ!生徒たちはそれぞれのヌンチャクを手に、「心不全」「実際安い」「電話王子様」などの魔法ショドーが飾られた壮麗なホールの入学式に出席した。懐石料理と先生達の歓迎!

「学べば学ぶほど諸君の力は強くなる。その力を、世の中をよくするために役立てるのだ。カンパイ!」威厳あふれるゲンドーソー校長先生はスピーチも短く笑顔もチャーミングだったので、一瞬で生徒たちの心を掴んだ。横に並ぶ先生たちは皆、一癖も二癖もありそうな大人たちだった。

「うわあ、先生が、みんなお前を見てるぜ転校生」タキが囁いた。「どんな経緯でここに来たんだ?」「手紙が全てだ。おれは……」マスラダは呟いた。親の顔を知らないのだ。校長の慈しむ眼差しは、それを踏まえているのか。その横では古代魔術科のフジオ先生の、厳しい、疑うような凝視。

「特にフジオ先生、お前を殺すような勢いだぜ」「やめなさいよ! 不用意よ」コトブキが叱った。マスラダは光科のジャスティス先生、氷科のフロストバイト先生の隣、なんだかパッとしない薄汚い先生の視線が気になった。「彼は……?」「ああ、カラテ防御術のフジキド先生か。よくわかんねえんだよ」

 タキは事情通じみて説明した。「ノージツ・ノーニンジャが大正義。それなのにフジキド先生、ジャージ着て、チョップとかキックとか教えてっから。一応カリキュラムに入ってッけど、誰も真面目に取り合わねえ。閑職なんじゃねえかなきっと」「言葉が過ぎるわよ! でも……ううん、否めないかも」

「噂話には興味ない」マスラダは首を振った。「とにかく、おれはニンジャの世界自体が初めてだ。なんとか頑張って授業に喰らいついていくしかないんだ」「その意気よ、マスラダ=サン」「なんでもオレに相談しろよな!」

 かくして、学園生活が幕を開けた。

 だが現実は非情だった。ジツが、難しいのだ。

 ――「コリ・ジツは水のエレメントとオヒガン接続し、ヌンチャクを通してはなつ。やってみろ!」フロストバイト先生の指導のもと、生徒たちは一生懸命ジツを撃つ。「コリ・ジツ! イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」マスラダはヌンチャクを振るうが、霜が少し飛んだ程度だ。

 ――「ヒカリ・ジツは照明がわりになりますし、さらに強めれば太陽のような光と熱で邪悪を焼き尽くします。責任を持ち規則を遵守すること!」ジャスティス先生の指導のもと、生徒達は一生懸命ジツを撃つ。「ヒカリ・ジツ! イヤーッ!」「イヤーッ!」マスラダはヌンチャクを振るうが、花火が爆ぜただけだ。

 ――「血中カラテ粒子をジツに変換すべし! ほれ、このようにな!」パーガトリー先生が無数のカラテミサイルを打ち上げた。生徒達は一生懸命ジツを撃つ。マスラダはヌンチャクを振るうが、青白く光っただけだ。「やれやれ、期待外れよな、転校生」パーガトリーは冷たく見下した。「減点5じゃ」

 ――「闇のジツは夜よりも深い……」シャドウウィーヴ先生が瞑想的に言った。影が実体化し、教室を飛び回った。生徒達は一生懸命ジツを撃つ。マスラダはヌンチャクを振るうが、影が伸びただけだ。先生は顔をしかめる。「お前はなにか……力が滞っている」「どうすれば」「さあな……」塩対応だ。

 ――「サクラ・ジツを用いれば、心持たぬ無機物を思い通りに動かすことが可能」ミステリアスな大人の女性のヤモト先生がヌンチャクの力で目の前の銅板を桜色に輝かせ、見事なツルを折った。「金属などの重いものを操作するには相応の訓練が必要となる。貴方達は、まずは紙を使って」マスラダはヌンチャクを振るうが、ツルの胴体が膨らまない。「反復練習を欠かさないでね」少し残念そうに言うヤモト先生は、ジツ行使後に女子高生年齢に若返っていた。


◆◆◆

 

 廊下を移動中、タキがぼやいた。「ウチのクラスの減点がかさんで来ちまったな」「すまん」謝るマスラダ。コトブキが慰める。「減点分はわたしが取り返すから心配ないわ。コツを掴むまで時間がかかるのよ」「そうだぜ! ガリ勉コトブキに任せとけ」「貴方も人のこと言えないくらいには下手よ!」

 そして次は古代魔術の授業だ。フジオ先生はマスラダをあからさまに標的にした!「マスラダ。前に出ろ。チバ。前に出ろ」「ククッ……」チバはほくそ笑んだ。「随分早く、落とし前をつけてやる機会が訪れたものだ」シバタとオニヤスが肩を揺らして笑った。「若、やっちまってください!」

「いいか。カンジ・ジツは対象に強力な呪いを刻みつける。なぜそんな危険なジツを私が教えるか。危険だからこそ、正しく習得し、制御しなければならんからだ。貴様ら未熟者どもが不用意にジツで遊べば、惨事につながるからだ。……さあ、やれ! 二人共!」「やばいぜマスラダ=サン」タキが青褪める。

「待って! わたしがマスラダ=サンにかわります!」コトブキが手をあげた。「彼はニンジャ界に来て日が浅いの! かわりにわたしがやりますから……」フジオはコトブキを無視した。「やれ」マスラダとチバは向かい合った。チバは邪悪な笑みを浮かべ、ヌンチャクを繰り出した!「カンジ・ジツ!」

「グワーッ!」マスラダの背中に「凶」の漢字が光り、苦しめた。「あああああ!」身悶え! 心配するタキとコトブキ! シバタとオニヤスはせせら笑う! チバは勝ち誇り、残虐な笑みとともにさらなる攻撃を繰り出した!「カンジ・ジツ! イヤーッ!」「グワーッ!」「禍」の文字! 画数が多くて危ない!

「AAAARGH!」マスラダは這いつくばり、吠えた。手にした黒いヌンチャクが赤黒い熱を帯びつつあるのを察知し、フジオ先生は目を見張った。彼は手をかざし……「フジオ先生! 何をしているのです!」飛び込んできたのはスカーレット先生だった。「危険過ぎるジツを、こんな子ども達に!」

「ハハハハ! いいザマだ! もっとやってやる!」チバが更なるカンジ・ジツの追い打ちを……「愚か者! パニッシュメント・ジツ! イヤーッ!」「グワーッ!?」スカーレット先生のジツを受け、チバはヌンチャクを取り落とし、天井と床をバウンドして悶絶した。「害意に応える反撃のジツだ。反省せよ!」

「スカーレット先生。これは私の授業だ。邪魔をしないでいただこう」「授業だと? 私闘を起こさせているとしか思えなかったが。キミの贔屓ひいきにする理事長の息子を引き立てる為に」「何だと?」スカーレット先生とフジオ先生は睨み合った。そこで終業のベルが鳴った。タキとコトブキはマスラダを助け起こした。「大丈夫か?」「平気だ……」

「マスラダ=サン。少し話がある」スカーレット先生が手招きした。マスラダは二人の友だちに頷き、別れた。先生は中庭のベンチにマスラダと座った。「魔法の弁当包みだよ。ほしい食べ物を、ほしいだけ包んでくれるのだ。キミのお昼御飯も出てくる。ほら」二人分のスシ弁当。「……イタダキマス」

「ジツがうまく使えず、苦労しているようだね」「ええ。モータルの世界に、ずっと居たからでしょうか」「その可能性は否定できないが……キミは力を持て余しているというべきだ」「持て余す? それなら、もっとうまく使えている筈……才能がないんです」「違う! 断じて違う。キミは原石だ」

「原石?」「そうだよ。だからこそ、キミは魔法学院に招かれた。私はキミの御両親と懇意だったから、わかる」「おれの両親!? 誰なんですか」「今はまだ、その時ではない」スカーレット先生は悲しげに首を振った。「校長が我々に箝口令を敷いているからね。残念だが」「……」

「そこで、私がこっそり力を貸す」スカーレット先生は懐から謎めいた護符を取り出し、マスラダの手首に巻いた。「といっても、贔屓とかズルとかではないから安心し給え。この護符がキミの力の流れを整え、ジツの滞りを、正してくれるのだよ。まともにしてくれるだろう」「そんな……?」「やってご覧」

 マスラダは少し躊躇った後、ベンチから立ち上がった。そして手近の石像をめがけ、ヌンチャクを振った。「コリ・ジツ! イヤーッ!」KA-BOOOM!「ペケロッパー!」聖ペケロッパの像は凍りつき、粉々に砕け散った!「や……やった!」「やはりだ!」スカーレットは拳を握った。「キミは素晴らしい!」

「これでおれも……」マスラダは歓喜に震えた。「タキ=サンやコトブキ=サン、クラスの皆に迷惑をかけずに済む」「その通りだ。だが、そんな謙虚な望みに留めるのは、止め給え。強い者には、より崇高な使命というものが……おっと」中庭に入ってきた影を見て、彼は口をつぐんだ。「励み給えよ」

 去ったスカーレットと入れ違うようにやってきたのは、ジャージ姿のフジキド先生だった。先生はマスラダに会釈すると、中庭に設置された古びた木人に向かい合った。そして……「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」ワン・インチのカラテを打ち込み始めたのだ。

「ここに居たのかマスラダ=サン」「心配したわ。大丈夫?」タキとコトブキがベンチに近づいた。タキは顔をしかめた。「フジキド先生の、いつものトレーニングか」「あれは何のジツの訓練だ?」「ジツじゃねえんだ。拳で攻撃するカラテだよ。ヌンチャクも使わずに、体を鍛えてる。ヤバイよな」「シッ! 聞こえるわよ!」「おっと……」

 三人が見守る中、フジキドは黙々とカラテを打ち込み続ける。「あ……」「ちょっと?」タキとコトブキが驚いた。マスラダはフジキド先生に近づいたのだ。「カラテ防御術とは何ですか、フジキド先生」「……」フジキド先生はやがて答えた。「己を律し、己を知るすべだ」

「ジツではない?」「うむ。ジツではない」フジキド先生はマスラダに向かい合った。彼の視線はマスラダの手首に向いた。マスラダは咄嗟に隠した。「……スカーレット先生から、何か貰ったか」「いえ」「……」フジキド先生は少し考えた。「……己のソウルを御するべし。今はわからぬだろうが」

「ソウルを御する……」「オヌシには輝かしい力がある。それをどう用いるか、その道を、私があれこれ指図する事はできぬ。オヌシ自身が決める事だ。だが、迷った時、今の言葉をせめて思い出すとよい」フジキド先生は謎めいていた。やがてタキが呼んだ。「オイ! 行こうぜマスラダ=サン!」

 ――翌日から、マスラダは変わった!

 ――「コリ・ジツ! イヤーッ!」黒檀のヌンチャクから飛び出した氷が天井で爆発、フロストバイト先生は舌を巻いた!「コツを掴んだか! 得点5!」

 ――「ヒカリ・ジツ! イヤーッ!」光が拡散し、全てのランプに火を灯す! ジャスティス先生は舌を巻いた!「素晴しい。得点5!」

 ――「イヤーッ!」黒檀のヌンチャクからカラテ粒子がミサイルに変換されて飛び出す!「減点無し。だが図に乗るべからず」パーガトリー先生は渋々ハンコを押した。

 ――「シャドウ・ジツ! イヤーッ!」黒い影が次々に分かれて床を這い、身をもたげる!「ほう。理解したか」シャドウウィーヴ先生が舌を巻いた。

 ――「サクラ・ジツ! イヤーッ!」オリガミが見事なツルの形に折り上がった。さらにツルは形を変え、アーティスティックなアブストラクト・オリガミとなって空中に留まった。ヤモト先生は驚き、微笑んだ。


◆◆◆


「どうしちゃったの? 凄いじゃない!」「これじゃオレがドベになっちまうよ」廊下での移動中、コトブキとタキは驚いてマスラダにあれこれ尋ねた。マスラダは手首を押さえた。「なんだか、うまくいくんだ。チカラがスムーズに流れる……」だが、奇妙な後ろめたさがあった。

「浮かない顔してどうした。お前とコトブキ=サンのポイントで、ウチのクラスがガッツリ取るぜ、今期は!」「貴方も頑張りなさいよ!」……彼らのゆくてに、チバと二人の取り巻きが立ちはだかった。「一体どんな手管を使った? 落ちこぼれのクセに」チバは腕組みして睨みつけた。

「お前のようなクズカスが、正しくジツを扱える筈がない。なにかズルをしてるだろ」「それは……」マスラダの胸がチクリと痛んだ。「ズルではない。力の流れをうまくやっただけだ……」「フン! メッキを剥がしてやる。次の授業を待つ必要はない。スカーレットの奴に邪魔されないように、今ここでな!」

 タキが遮った。「や、やめろよ! 授業外での決闘は……」「やれ! シバタ!」「デン・ジツ! イヤーッ!」「アババババーッ!?」タキは電撃を食らって激しく発光しながら宙に釘付け浮遊状態! 酷い! コトブキがヌンチャクを構えた。「なんてことを! パニッシュメント・ジツ! イヤーッ!」

 割って入ったオニヤスがコトブキのジツを受けた!「グワーッ!」「ハハハいいぞオニヤス! 盾となれ。それでこそ我が一族の従者の血筋!」チバは手を叩きコトブキを見た。「血筋と言えば、貴様は極めて汚らしいモータルの賤民だ! 特別にありがたく苦しめてやる。カンジ・ジツ! イヤーッ!」「イヤーッ!」

 コトブキの身体に「賤」の漢字が刻まれ……なかった。画数が多くて命に関わるほどの呪いは、しかし、謎の赤黒い炎の壁に遮られ、燃えながら弾け飛んだのだ。「ジゴク・ムテキ・ジツ」地の底から響くような、マスラダの声と、ヌンチャクだった。「ひ……」チバが呻いた。

「ジゴク・カトン・ジツ! イヤーッ!」「グワーッ!」赤黒の炎がチバに巻き付き、持ち上げる!「ジゴク・コンストリクト・ジツ! イヤーッ!」「グワアアーッ!」炎の縄で締め上げる!チバが血を吐く!「アイエエエ!」「ジゴク・バクハツ・ジツ! 砕け散るが良い! イ……」「イヤーッ!」力が閃いた!

「フジオ先生!」タキを救出したコトブキが叫んだ。然り! 古代魔術科のフジオ先生がスタスタと歩きながらヌンチャクを繰り出し、マスラダのジゴク・バクハツ・ジツをインタラプトしたのだ。「キリ・ジツ! イヤーッ!」「グワーッ!」マスラダはジツをキャンセルされて膝をつく!

「マスラダ……やはり貴様は」フジオ先生はヌンチャクを打ち振り、次なるジツを準備した。マスラダの心は燃え上がった。なぜ先生はおれを痛めつける!? 無法をはたらいたのはチバだ。タキを傷つけ、コトブキを侮辱した!だから滅ぼしてやるのだ! おれの力で! 正当な力で、敵を焼き殺すのだ!

「ならぬ!」別の声が飛んだ。廊下の逆側から近づいてくるのはフジキド先生だった。ジャージ姿だったが、その姿には普段のくたびれた様子とは全く異質の、ゲンドーソー校長にも通ずる威厳が備わっているように思えた。マスラダの心は千千に乱れた。「イヤーッ!」彼は咄嗟に窓を破り、校舎外へ逃れた!

「マスラダ=サン!」「マスラダ=サン!」タキとコトブキの叫びを後ろに残し、赤黒の風と化したマスラダは学院の鎮守の森を駆けた。体内を駆け巡る炎。手首の護符がその循環を助けてくれている。ありのままの力をもたらしてくれる。炎の力……それは授業科目に無い力なのだ。

「ハアーッ! ハアーッ!」

「もう大丈夫だ!」

「ハアーッ! ハアーッ!」

「大丈夫! 力を休めろ……自らの力で滅びてしまうぞ。ゆっくり呼吸するのだ」

「ハアーッ……ハアーッ……」

 朦朧とするマスラダに呼びかける声があった。真っ赤に染まった視界が徐々に戻ると……彼は森の深奥で、スカーレット先生に抱えられていた。「先生……」

「落ち着きなさい。キミは充分よくやった。もう大丈夫だ。キミを貶める者もいない。害する者もいない」「ここは……」「安全な場所だ」スカーレット先生は松明で照らされた森の広場を見渡した。大理石の足場、柱、そして謎めいたトリイがあった。トリイのシメナワは破れていた。「祭壇だよ」「祭壇?」

「そう。封印されし偉大な存在だ。ガイオン魔法学院が建てられた目的。それは偉大なる存在に魔術的に蓋をし、封印する事だ」「封印……」「実に腹立たしく欺瞞的な事だよ。力ある存在を押し込め、幽閉めいて閉じ込めてしまうなどと。しかも大切な生徒達はその忌まわしき真実を知らされてすら居ない! 私はね、そうした欺瞞を最終的に覆すべく、ガイオン魔法学院の教師に身をやつし、世の観相につとめてきた。時を逆さまに生きる存在。ジツの父と呼ぶがよい」「貴方は……」「クキキキ……恐れることはない」

「……!」マスラダは身を起こし、本能的にスカーレットの手を跳ね除けようとした。だがスカーレットはマスラダの手首を狂おしく掴み、離さない。「よしたまえ! キミは所詮、少年だ。たとえキミがその内に素晴らしき力の炉を秘めていようとも、大人には叶わぬ。まして私は大いなるニンジャの一人だ!」「離せ!」

「もう遅い……!」スカーレットは邪悪そのものの笑みに顔を歪めていた。「我らがどれほどの時を待ち続けたかわかるかね? 約束の少年よ。ゲンドーソー校長はモータルの中にキミの存在を察知するや、学院に招いて保護しようとした。力を抑制したうえで徐々に導こうとしたのだ。……させるものか……!」

 スカーレットは熱に浮かされたように言葉を重ねた。「私の擬態は完璧。間抜けな先生どもは正体に気づきもしなかった。偉大なる王は滅びに際し、悪の種を撒いた。周到なのだよ。私は……そして我が王……マイロードはね!」

 キイ……キイ。車椅子が軋む音が聞こえてきた。

 マスラダは恐怖とともに見た。車椅子に座り、別の邪悪なニンジャに押されているのは、ミイラめいてやせ衰えた超自然的な存在だった。「ムーフォーフォーフォー……クルシュナイ」枯れ果てた男は震える手をかざし、マスラダを指さした。ドクン。マスラダの心臓が強く打ち、血の涙が溢れ出した。「グワーッ!?」腕がひとりでに動く!

「逃れる事はできん」スカーレットは耳元で囁いた。「キミの力の流出を遮るものは、今や無い。マイロードに炉の命を献上したまえ……我らは幾星霜に渡って待ち続けた。約束の子の出現をね……!」「グワーッ!」差し伸べたマスラダの手から赤黒の光が伸び、ミイラに繋がる! 枯れた身体に力が戻ってゆく!

「ムーフォーフォーフォー……クルシュナイ……」やがて、あっという間に万全の肉体を取り戻したミイラは、車椅子から立ち上がった。車椅子を押していたニンジャは涙に咽んだ。「おお……マイロード……マイロード」そして、ナムサン。一人、また一人。闇の中から、邪悪なニンジャが出現し、マスラダを取り囲んだ。

「よくぞ働いた、スカーレット……否……ケイトーよ。褒めてつかわす」「クキキキィ……!」ケイトーは芝居がかって頭を下げると、マスラダの背中を蹴りつけた。マスラダの目の前に、恐怖そのものの存在が立っていた。取り囲むニンジャ達が一斉に唱えた。「「「ニューワールドオダー」」」

「約束の子よ。そなたはかつて、神代において余を卑劣なるイクサにて破り、ガイオンの地に封印せし者の末裔なり。今ここで、余みずからがそなたに引導を渡し、ニンジャ世界征服の狼煙とせん。……ドーモ。ロード・オブ・ザイバツです」「……!」

「アイサツせよ……マスラダ……!」「グワーッ!」超自然力によってマスラダはオジギさせられた。ニンジャが対峙する時、アイサツは重要な礼儀作法である。それは禁断の古文書、古事記に書かれた掟である。呪いの力が彼にアイサツを強要させた。「ドーモ……ロード・オブ・ザイバツ=サン。マスラダです……!」

「「「はははははは!」」」邪悪なるニンジャ達がマスラダの無力なさまをあざ笑い、次々にアイサツした!

「ドーモ。ナイトメアです」「イヴォーカーです」「メイルシュトロムです」「デソレイションです」「ペスティレンスです」「ジャバウォックです」「アーマゲドンです」ナムサン! 平和な世に潜伏してきた悪のニンジャ達! 終わりだ!「……そして私が」

「誰だ!?」悪のニンジャ達が声の方角を振り仰いだ。カーッ! 竹を割ったような音が闇の森に鳴り響き、ロード・オブ・ザイバツの邪悪なる闇のニンジャ組合ザイバツ・シャドーギルド達の視線が、森の小高い丘に集中した。そこに立っていたのは、フジキド先生……!「サツバツナイトです! イヤーッ!」ゴウランガ! サツバツナイトは回転ジャンプし、祭壇にエントリーした!

「おのれ! 何奴!」ロードの最側近パラゴンがサツバツナイトを指さした。「仕留めよ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ペスティレンスとアーマゲドンが襲いかかる! サツバツナイトはヌンチャクを振るい……「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!?」殴りつけた! ヌンチャクで!

「喰らえ! ヒズミ・ジツ! イヤーッ!」メイルシュトロムがジツを行使! ヒズミ・ジツに囚われれば、犠牲者はドリルめいた空気圧に撹拌され、惨たらしい傷を負う! だがサツバツナイトはヌンチャクで邪悪なジツのエネルギーを打ち返した!「イヤーッ!」「グワーッ!?」

「な……なぜこんなにも早く私を追ってきた!?」ケイトーが驚愕した。サツバツナイトは答えた。「状況判断だ!」「バ……バカな。昼行灯ひるあんどんじみた無能教師と考えておったが擬態に過ぎなかったというのか!?」「擬態だと? 私は常に真剣だ。カラテ防衛術は平時においては顧みられぬ力やもしれぬ。だが、これこそが邪悪に抗う戦いのすべだ!」「クケェーッ!」

 シャドーギルドのニンジャ達が邪悪なヌンチャクを手に、次々に襲いかかる!「ハリセンボン・ジツ! イヤーッ!」「ヤドク・ジツ! イヤーッ!」「トカシ・ジツ! イヤーッ!」「ダンレツ・ジツ! イヤーッ!」

 ジャバウォックのハリセンボン・ジツは無数の針状魔力で対象を串刺しにする残虐な邪術! ペスティレンスのヤドク・ジツは毒の矢で対象を苦しめ殺す邪術! イヴォーカーのトカシ・ジツは対象を溶かして生命そのものを簒奪する邪術! どれも恐るべき致命のジツだ! だが、サツバツナイトはヌンチャク・ワークでそれらジツを跳ね返してゆく! ゴウランガ! カラテ防衛術!

「無能な手下どもめが。ヤンナルネ」ロード・オブ・ザイバツは閉口し、苦しむマスラダの顔に手をあて、命の灯火を吸い取ろうとした。その時!「キリ・ジツ! イヤーッ!」「グワーッ!?」ロードの手を弾いた力! マスラダは朦朧とする目で見た。「……フジオ先生……!?」「よく耐えた。マスラダ!」キリ・ジツはカタナで断ち切るかのような強力な切断の力である!

 フジオ先生がヌンチャクを構え、マスラダを庇い立った。フジキド先生に導かれ、彼もまた、この地に至ったのだ。「お前の力が悪しき方向へ流れぬよう監視する必要があった。それがこのような結果となったのは私の力不足だ。お前の事は、我が命にかえても護ってみせる」

「おのれフジオ! イヤーッ!」ケイトーがヌンチャクから緋色の稲妻を放つ!「イヤーッ!」フジオがキリ・ジツを繰り出し、相殺する!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」フェンシングじみた熾烈な攻防! そして邪悪なニンジャ達を一手に引き受けるフジキド先生! 

 嵐の如く戦うフジキド先生とフジオ先生! だが、ナムサン! 多勢に無勢だ。「イイイイヤアアアーッ!」フジキド先生はヌンチャクワークを継続し、致命のジツを跳ね返し続ける。しかし防戦一方。シャドーギルドのニンジャ一人ひとりが手練れたジツ使いなのだ!

「余興は充分だ。無礼であるぞ。ドゲザするがよい」ロード・オブ・ザイバツはヌンチャクを両手で掲げ、凄まじき力を解放した!「グラヴィティ・ジツ! イヤーッ!」「「グワーッ!」」

 フジキド先生とフジオ先生は重力に蝕まれ、身を震わせた。「「ヌウウウーッ……!」」ロードの重力攻撃は選択的であり、邪悪なニンジャ達には効果が及んでいない。彼らは舌なめずりし、ヌンチャクを振り回してジツの力を充填した。そのどれもが致命のジツだ。重力によって防御ままならぬ。このままでは……!

 だが、その時だ!

「そうはいかぬぞ」光り輝くポータルの中から、ニンジャが出現した!「ドーモ。ドラゴン・ゲンドーソーです」「グワーッ!?」ロードは手を押さえて後退!「イエモト・ジツ!」ゲンドーソー校長はロードに強力なジツを行使!「キョジツテンカン・ジツ!」ロードは咄嗟にジツで反撃! ジツのパワーがぶつかり合い、拮抗! 効果が発動せぬまま、ロードは校長先生との全力の力比べを強いられる!「おのれ……!」

 さらに!「ドーモ。フロストバイトです」「ジャスティスです」「シャドウウィーヴです」「パーガトリーです」「フューネラルです」「ヤモト・コキです」先生方!

「マスラダ=サン!」「大丈夫か!」マスラダのもとに駆け寄ってきたのはタキとコトブキ!「無理言ってついてきたぜ!」「フジキド先生とフジオ先生が貴方を追いかけて……わたし達は校長先生に助けを求めたの。危険だから待っていろって言われたけど、そんな事できない! わたしたち、友達だもの!」

「さあお歴々! 我が力お見せしよう!」薬草科のフューネラル先生が謎めいた粉をバラ撒くと、森の中に光るキノコが無数に生えた! 光が生む影の中から、「シャドウ・ジツ! イヤーッ!」シャドウウィーヴ先生が更なる戦士を生み出す!「生徒を傷つける外道! 許しませんよ」ジャスティスが光の槍を掲げる!

「キリングフィールド・ジツ! イヤーッ!」デソレイションがヌンチャクでゲンドーソー校長にジツを撃つが、ヤモト先生がインタラプト!「オリガミ・ジツ! イヤーッ!」相殺消滅!「アンタの相手はアタイだ。この地に潜伏していた凶悪犯罪ニンジャめ」「上等だよ……!」激しい戦闘が開始!

「ナイトフィーンド・ジツ! イヤーッ!」「コリ・ジツ! イヤーッ!」ナイトメアとフロストバイト先生が同時にジツを撃ち、相殺!「サンダーストーム・ジツ!」「プレイグスプレッド・ジツ!」イヴォーカーとペスティレンスが危険なジツを放つが、「ミサイル・ジツ!」パーガトリー先生が霊力のミサイルでそれらを相殺!

「おのれ!」「コシャク!」ジツの相殺が立て続けに発生し、真空地帯じみた無魔法空間が数秒生ずる! そこへ突き進むサツバツナイト!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」次々にシャドーギルドのニンジャ達をヌンチャクで殴り倒してゆく!

「バカな!」パラゴンが慌てた。「そのようなヌンチャクの使い方は我が研究書にもためし無し。ありえぬ……」狼狽えながら、彼はとにかくマスラダに襲いかかろうとした。「マイロード! かくなるうえは、約束の子を我が手で……!」「ドミネイト・ジツ!」「グワーッ!?」

 タキだった! 敵を制圧する強力なジツ! 到底、彼が制御できるジツではなかったが、明後日の方向に飛んでいこうとしたタキのジツの力を、横のコトブキが強引にベンディング・ジツで方向転換させ、命中させたのだ!

「おのれ弱小生徒風情が! ならば喰らえ、ディスインテグレイト・ジツ……」「イヤーッ!」「グワーッ!?」バッファロー殺戮鉄道じみてザイバツニンジャを殴りながら突進したサツバツナイトが、パラゴンのもとへ到達! ヌンチャクで殴り倒し、マウントパンチ!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」乱戦極まる!

「調子に……乗るな!」ロードが凄まじき力を解放させた!「ウキハシ・ジツ! イヤーッ!」「グワーッ!」一瞬のスキを突かれ、校長先生が強制テレポート! 邪魔がなくなったロードはすぐさま巨大なジツを放射した!「手こずらせるな! リジェクション・ジツ! イヤーッ!」

「グワーッ!」「ンアーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」放射状の拒絶突風が吹き抜け、ニンジャ達が弾かれ、倒れ伏す! ロードはマスラダのもとに迫った!

「邪魔が入ったが、終わりだ! サブジュゲイト・ジツ!」ロードはマスラダに再び邪悪な力を行使!「グワーッ!」「そなたの力は、余の所有物なり。献上せよ! オファリング・ジツ! イヤーッ!」「グワーッ!」苦しむマスラダ!

「いかん……!」フジオが己を強いて起き上がり、阻もうとする!「カンジ・ジツ! イヤーッ!」「うるさいぞ! グラビティ・ジツ! イヤーッ!」「グワーッ!」「させぬぞ……!」サツバツナイトがロードに迫る!「イイイイヤアアアーッ!」「無駄だ! グラビティ・ジツ! イヤーッ!」「グワーッ!」二人の先生がうつ伏せに抑え込まれる!

「雑魚が何人集まろうとも、余の力の前には、すべて無意味。本来、余ひとりで充分なのだ……」重力で二人を制圧しながら、ロードは今度こそマスラダの力を全て奪い去ろうとした。サツバツナイトはジツの圧力に必死に抗い、かろうじて頭を上げた。そしてマスラダを見た。

「マスラダ=サン……! オヌシのソウルを……」

「……!」

 マスラダは苦悶の中、歯を食いしばり、己を鼓舞し、ロードを睨み返した。

(己のソウルを……御するべし)

「何……?」ロードは異質な思考を感じ取り、眉根を寄せた。「己のソウルを御するべし」マスラダは声に出した。「己を律し、己を知れば!」「何だ!? そのヌンチャクは!?」ロードは驚愕した。黒檀と黒鋼鎖のヌンチャクが今、溶岩めいた赤黒い熱に強く輝いているではないか!

「あれは! 炎のヌンチャク!」木の枝の上で戦況を注視していたケイトーが呟いた。「そうか……あのヌンチャク……! クキキキ……やはり一筋縄ではゆかぬか、ゲンドーソー校長」ケイトーは舌なめずりした。

「何をしておる。傍観者気取りか?」枝の隣に、ゲンドーソー校長が立っていた。「あ……!?」ケイトーは呻いた。「もうテレポート先から復帰……」「チャドー・ジツ! イヤーッ!」「グワアアーッ!」キリモミ吹き飛び空中苦悶!

 そして見よ! ロードが大悪魔化石の柄と隕鉄の鎖のヌンチャクを構え、後ずさると、マスラダは炎のヌンチャクを掴み……両足を踏みしめて立ち……ヌンチャク・ワークしたのだ!「イイイイイヤアアアーッ!」やがて鎖が燃えながら溶け、ヌンチャクの柄は炎となって、彼の両腕に沈み込んだ! ゴウランガ!

「嗚呼! 嗚呼! 年端もゆかぬ子供風情が!」ロードは困惑! マスラダは今や、腕から全身に黒炎を広げ、力に満ちて立つ! 黒炎は魔術帽子を、魔術マントを、魔術メンポを形成! そして「忍」「殺」のルーン文字を!「ドーモ。ロード・オブ・ザイバツ=サン」彼はオジギした!「ニンジャスレイヤーです」

 その時マスラダの脳裏には、太古の昔、ロード・オブ・ザイバツを始めとする邪悪なニンジャ達が超人的な魔術の力を濫用し、魔力持たぬモータルを虐げる凄惨な光景が去来した。虐げられたモータルの意志。それが炎のヌンチャクであり、約束の子は炎のヌンチャクを継承するニンジャスレイヤーとなるのだ!

「アイサツせよ! ロード・オブ・ザイバツ=サン!」「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。……ロード・オブ・ザイバツです」ロードはアイサツに応えた。古事記だからだ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはカラテを繰り出す!「グワーッ!」瞬間的接近からの連続打撃! 決まった!

 触媒たるヌンチャクなくば、ニンジャはジツを撃つことができない。だがニンジャスレイヤーはヌンチャクと同化しており、繰り出すワザすべてがジツといってもよかった。極めしジツはカラテに等しく、逆もまた然り。アラシノケン・ジツがロードの全身を粉々に破壊した!「サヨ、ナラ!」爆発四散!

 アラシノケン・ジツの最終段階で高く跳躍したニンジャスレイヤーは、空中で高速回転し、そして落下した。落ちながら彼の魔術帽子、魔術マントや魔術メンポはたちまち風化し……そして生身のマスラダは、必死のタキとコトブキに受け止められた。「無茶しやがって!」「マスラダ=サン!」

「……タキの言う通りだ」マスラダは震え、言葉を絞り出すように呟いた。「もっと勉強しないと……身体がもたないな……」そして気を失った。シャドーギルドの邪悪なニンジャ達は一人また一人と戦場から撤退していった。フジキド先生が、フジオ先生が、ゲンドーソー校長が駆け寄り、子供達を支えた。

 かくして、ガイオン魔術学院に吹き荒れしザイバツの陰謀はかろうじて阻止されたのである。邪悪なニンジャ達は今後も何度でも陰謀を巡らせ、ロードを再びこの世に復活せんとするだろう。だが、校長先生の物悲しい目には、決意と信頼の光があった。学院は邪悪な野望を阻止する力を育てる為にあるのだ。

 その為にも、今は……。「諸君、ご苦労であった」ゲンドーソー校長は先生方を見渡した。先生方は頷き返した。「あ、あのう」やがてタキが躊躇いがちに言った。「今回の件で、オレらのクラスの得点は……増えたりしますか?」気の抜けた笑いが、先生方の間にひろがった。校長先生はタキにウインクした。


【ニンジャスレイヤーと炎のヌンチャク】完


※当エピソードはエイプリルフール特別編であり、本編とは関係ありません




N-FILES

この物語はニンジャスレイヤーのエイプリルフール特別編です

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