S3第9話【タイラント・オブ・マッポーカリプス:前編】分割版 #6
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ニューヨークの戦場はひとときの膠着状態を迎えていた。邪龍に乗ったタイクーンの神出鬼没の出現と暴虐の炎は、都市防衛のUCA兵の士気を挫くにはあまりにも充分だった。しかしここ暫く、タイクーンの出現が観測されない日が続いている。
詳細は不明であるが、何らかのポジティブな要因により、ネザーキョウの軍勢に乱れが生じている。それゆえにタイクーンは現れておらず、ゲニントルーパーの一人あたりの戦闘能力データに下降傾向が見られていた。UCAの兵士達、避難市民たちの胸に、希望の火が灯り始めていた。
「ドーモ」「ドーモ」安全地域の高層ビル群の一角、ヘッドオフィスで、チカハ社のサラリマン、サガサマ・ミネは、取引先企業の役職サラリマン達と名刺交換を行い、お互いにオジギを行った。この膠着状態を幸いとし、アイサツまわりを再開したのだ。
「いやあ、こんな時に、よく来てくださって」「さすがチカハ=サンですな」「お茶を是非。ネオサイタマの風味が恋しいのでは?」名刺交換を終えたサラリマンはサガサマにマッチャ・ベンダーを勧めた。サガサマは弱々しく笑い、チャを受け取った。「働いたほうが安心でして。私の場合」「度胸がある」
「では是非、その光栄に甘えさせていただいて、新規の対労働運動治安維持ソリューションのパッケージを……」サガサマは資料マキモノを懐から出し、広げてみせた。ホロ画像が浮かび上がり、奥ゆかしいサガサマのショドー筆致との相乗効果を醸し出す。「いやあ、素晴らしい」「対ロボニンジャも?」
「勿論です」サガサマは笑みを浮かべた。「弊社の見立てによれば、この難局は一過性のもので、むしろネザーキョウの侵攻が失敗に終わった後に訪れる社会混乱に対し、弊社との契約は必要不可欠なものと……」KA-DOOOM……タイムズ・スクエア方向から轟音の余波が伝わってきた。「……局地戦か……」
BRRRTTTT……TATATATATA……「いやに今日の戦闘音は、こう、密度が濃いですね」サラリマンが汗を拭いた。「タイクーン警報は連日発令されていないはずですが……」「そうですね。今日も特に出現の予兆は……」サガサマも音が気になり、窓の外を眺めた。円盤状の黒い機体……あれはデルタ・シノビ。
デルタ・シノビは傭兵企業であり、洋上に基地を構え、非常に質の高いニンジャ傭兵を抱えている。彼らは暗黒メガコーポ間の抗争で存在感を増し続けている。チカハ社にとって彼らは時として競業の相手にもなったが、彼らはもっと血腥い「戦争」に生きている。NYでの対ネザーキョウ戦に駆り出されたか。
(弱まるネザーキョウ兵。タイクーンの不在。デルタ・シノビの参戦により勢いづくUCA。好材料が揃っている。このまま収まってくれればよいが)サガサマが遠い目になったその瞬間……地上から空へ、一筋の稲妻が走った。「!?」稲妻の中から飛び出した影。目を凝らして見ると、それは有角のニンジャ!
「HA! HA! HA! HA! HA!」そのニンジャの荒々しい笑い声が聞こえたように、サガサマは錯覚した。稲妻をまとうニンジャの女は、空を蹴り渡り、デルタ・シノビの母艦たる航空機に……襲いかかった!DOOOOM! KA-DOOOOM! 機影の周囲に爆発が閃いた!
◆◆◆
「イヤーッ!」KRAAASH! ヘヴンリイは黒い機体の装甲にチョップを突き込み、そのまま走り出した。引き裂かれる装甲は青白い稲妻に焼かれ、縁を赤く明滅させながらひしゃげてゆく。機関砲が装甲の隙間から顔を出し、ヘヴンリイに狙いを定める。ヘヴンリイは笑った。「ものぐさじゃねェか」
BRATATATA……「イヤーッ!」ヘヴンリイは無雑作に回し蹴りを繰り出す。ソニックカラテだ。帯電した真空波は一瞬後に機関砲に到達、一撃で爆発せしめる! KA-BOOOM!「ニンジャのニオイがするぜ! 出てこいよ」ヘヴンリイは角を青く光らせ、叫んだ。「ナメてんじゃねえぞ!」
「イヤーッ!」呼応するように、付近のハッチを蹴り上げ、高速飛行する機上にニンジャが着地した。「ドーモ。スティールローズです」「ア? 一人か? ナメられたもんだぜ」ヘヴンリイは頭を掻いた。バチバチと雷光が漏れた。「ドーモ。スティールローズ=サン。ネザーキョウ、シテンノ、ヘヴンリイ」
オジギ終了からコンマ数秒、スティールローズはヘヴンリイを目掛けてダッシュした。「イヤーッ!」ヘヴンリイは右腕に込めたカラテを空気に衝突させ、ソニックカラテ衝撃波を撃ち出す。スティールローズは回転跳躍で回避! トビゲリを繰り出す!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ヘヴンリイも跳んでいた!
一撃目のソニックカラテは、いわば囮! ヘヴンリイはこれを躱したスティールローズに先回りするように、恐るべきエリアル・カラテを叩きつける!「イヤーッ!」「イヤーッ!」スティールローズはしかし、見事にこれを防御し、打撃を返した!「イヤーッ! イヤーッ!」ヘヴンリイの目が……光る!
バオン! 破裂するような音が轟き、彼らの周囲に稲妻のパルスが散った。スティールローズの腹に大穴が空いていた。一撃。そして、吹き飛ばされる……否……ヘヴンリイは空を蹴ってスティールローズの背後へ回り込み、回転踵落としの追い打ちを背中に叩きつけた。「イヤーッ!」「グワーッ!」
KRAAASH! KA-BOOOM! 機体装甲に叩きつけられ、爆炎の花が咲いた。「サヨナラ!」「惰弱! 雑魚が!」ヘヴンリイは斜めに空を蹴り、機体を抉るように踏みつけて着地すると、連続で拳を叩きつける!「オレをナメてんじゃねえか? イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」KRAAASH! KRAAAASH!
タイクーンはニンジャスレイヤーに公に挑戦を受け、これに応じるべく、前線を退いた。入れ替わる形でその役目についたのは彼女ヘヴンリイである。「これじゃあニンジャスレイヤーとやり合えなかったオレは残飯渡されたようなもんじゃねえか! アアッ!?」装甲板を剥がし、破り捨て、突入口を作る!
機体は悲鳴めいた雑音を発しながら旋回し、横向きのGがかかった。ヘヴンリイは振り向いた。翼の上に新たなニンジャ。「ドーモ。ノーウインドです」「ドーモ。ヘヴンリイです」KA-BOOOM! ヘヴンリイの足元が爆発した。一瞬後、彼女はノーウインドの眼前にいた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」
「イヤーッ!」「イヤーッ!」数度の打ち合い! 機体は飛びながら上下逆さになり、二者はそのまま打ち合いを続けた。「イヤーッ!」「グワーッ!」稲妻纏う掌打が一瞬の隙をついてノーウインドの胸を打った。弾かれるノーウインドは、背中に雷撃を受け、強引に跳ね返される!「クウッ……これは!」
「嵐のロープだ」ヘヴンリイは舌なめずりした。「さっきの雑魚よりはヤルな、テメェ! これで逃げられねえぞ。ステゴロでやりあってやるよ。全身の骨折れるまでな……」「御免被りたい」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ワン・インチカラテ応酬! そして…打撃!「グワーッ!」
脇腹に拳を受け、ガード姿勢を取るノーウインドの首筋にヘヴンリイの手が伸びた。彼女がノーウインドの首を捉え、一撃でへし折ろうとした瞬間……!「イヤーッ!」「グワーッ!」膝蹴りが彼女のシックス・パックを打った! ノーウインドは手を振り払い、チョップを繰り出す!「イヤーッ!」
「イヤーッ!」「グワーッ!」ノーウインドは顔面に拳を受けた。ガードを破る打撃。怯むノーウインドに、ヘヴンリイは無慈悲な一撃を見舞おうと……そして舌打ちし、稲妻のフィールドを解除して、間合いをとった。「イヤーッ!」キリモミ回転しながら、加勢のニンジャがトビゲリで襲いかかった。
ゴウオオオン! 機体が垂直上昇を開始。ヘヴンリイは装甲にチョップを突き刺して身体を支え、腕組みして直立するニンジャを睨んだ。司令官帽子を被り、バラクラバにメンポを装着した黒いニンジャである。「ドーモ。オメガコマンダーです」「……司令……ちと不甲斐ない姿をさらしました」「うむ」
「ドーモ。ヘヴンリイです。……司令ッつったか?」ヘヴンリイは口の端を歪めて笑った。「テメェはどこまでやるんだ?」「老兵だ」腕組みしたまま、オメガコマンダーは答えた。「だが、お前よりも経てきたイクサは長い」「いいや、無理だね」ヘヴンリイは否定した。「テメェはオレのイクサを知らねえ」
「作戦を継続せよ」オメガコマンダーはノーウインドに言った。「この者は私が引き受ける」「……アイ、サー」ノーウインドは頷いた。……キイイイ! 機体が再び旋回した。ヘヴンリイは手を離し……空中を蹴り渡り、迫る!「イヤーッ!」オメガコマンダーは機体から飛び降りる! 追うヘヴンリイ!
オメガコマンダーは空中でカラテを構え、ジグザグに接近するヘヴンリイを待ち受けた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」カラテが衝突する! 稲妻の爆発を次々に生じ、二人のニンジャは空を流れていく。遠ざかる機影を、地上の激しい掃射の炎を敵の肩越しに一瞥し、オメガコマンダーはカラテに集中した。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」撃ち合いながら、ヘヴンリイのニンジャ第六感は、オメガコマンダーの左手の秘める危険を察知していた。すぐにそれは判明した。「イヤーッ!」「イヤーッ!」虹色の光沢を持った液体が分泌されているのだ。ヘヴンリイは角から放電し、毒を焼き払う!
バッ! バッ! ババッ! 斜めに落下しながらの二者のカラテはチョーチョー・ハッシ! そして!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ヘヴンリイが繰り出した回し蹴りをクロス腕で受け、オメガコマンダーは横に飛んだ! 足裏からジェット噴射し、推力を付与!「イイイイヤアアーッ!」ヘヴンリイはソニック連打!
KBAM! KBAM! KBAM! KA-BOOOM! 帯電ソニックカラテ連打が追尾弾じみてオメガコマンダーを追い打つ!オメガコマンダーの後ろ、マグロツェッペリンが火を噴き、墜落を始めた。ヘヴンリイは舌を巻いた。「ホォ。防いだか。やる」彼女は空を蹴り、オメガコマンダーに再突進!「イヤーッ!」「イヤーッ!」
◆◆◆
ゴオン! 檻の扉が開く重苦しい音がサクタ・イイダの耳に入った。サクタは不透明サイバーサングラスを装着させられた無視界状態で、近づく者の足音に意識を集中させた。彼の腕は椅子の背もたれの後ろに回され、拘束されている。「どなたです? 無罪放免ですか? ははは……」乾いた唇を動かし、笑う。
返事の代わりに、荒っぽい手が不透明サイバーサングラスを掴み、むしり取った。「眩しい……」「思った以上に元気で何よりだ。イイダ博士」「ア……」霞む視界でしかめ面をしている黒髪黒髭の男は、アルカナムのハイエージェント・ビル・モーヤマであった。
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