【プロメテウス・アレイ】#6
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1993_12_06
フィルギア
「昔の事、あまりおぼえていないんだよな」
「おぼえていない?」
「ああ」
セズベスは首を振った。フィルギアはジントニックをセズベスの目の前に置いた。
「飲みなよ」
セズベスは頷き、グラスを手にとった。セズベスの目はブラックライトを受けて紫。
「なあ。俺の歌で大丈夫か?」
セズベスは尋ねた。
「異論のある奴はいないな」フィルギアは請け合った。「ジョーよりも良い……か……どうかは、君次第だけど」
「……俺は感激してる」
「何が」
「ジェイド・ディヴィニティヴに入れたから。望んだ通りに」
「望んだ通りに?」
「憧れだった。あんたらは俺の代弁者だと感じた……あんたらを初めて見たのはクロコダイルで」
「クロコダイルか。懐かしいな。さすがに良いライブハウスだったね」
「だから、ジョーには悪いけど……R.I.P……今回巡ってきた機会は、俺は嬉しかった。あんたらから連絡が返ってきた時。マジか、って思ったよ」
「よかったよな。俺らとしても助かったよ。すぐに新しいヴォーカルが見つかって」
「……代弁者ッてのはさ」セズベスは付け加える。「ジェイドは、クソみたいな俺らの……なんていうかな……俺らのどうしようもない暮らしを……音にしていたから……それだけじゃなく、俺はわかったんだ。あんたら自体が、俺と同じ生き物だっていう事が。ジェイドは俺らの世代の」
「……」
「俺はニンジャだ。あんたらと同じに」
フィルギアの周囲の音が遠くなった。フィルギアはゆっくりグラスを傾けた。とぼけても無意味だとすぐにわかった。
「……どこで知った?」
「知りはしない。感じたんだよ。そういうの、わかるものじゃないのか」
「……生まれは?」
「さあ」セズベスは肩をすくめた。「おぼえていない、ッてのは、そういう事だよ。記憶そのものが、おぼろなんだ。俺が何者なのか……俺はニンジャで、セズベス……それだけは、忘れないようにしてる」
「厄介そうだな」
「ははは。……ああ、覚えていること……もう一つ……金色の太陽だ。……真っ暗な空に、金色の太陽」
セズベスは頭の上を差した指をくるくると動かす。
「ゆっくりと回ってた。眩しくて、苦しかった。あれは、いつの空だったろうな。その記憶も、ぼんやりなんだ。でも、忘れちゃいけないと思う」
1997_11_29
ジョシュア
皮膚に貼り付くような轟音で満たされたヴェニュー、後ろの壁に背中をつけて、ジョシュアはイーサン達の演奏を聴いていた。客の入りはそこそこだが、皆いい感じで入り込んでいるように見えた。ステージにはマヤ文明かぶれのサイケデリックな映像が投射され、バンドのメンバーは黒い影法師となって、ゆらゆらと身体を揺すっていた。
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