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【デッド・バレット・アレステッド・ブッダ】

◇総合目次 ◇初めて購読した方へ

この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードは物理書籍未収録です。また第2部のコミカライズが、現在チャンピオンRED誌上で行われています。


【デッド・バレット・アレステッド・ブッダ】



 ネオサイタマで緊急事態が発生した。ブッダを逮捕したと主張する男がコケシモールに立てこもり、日本政府に対して3億円の身代金とオキナワ高飛び用のジャンボジェット機を要求したのだ。

「…男の主張によると、恥知らずのブッダは日本を見捨て新幹線でキョート亡命を企てていたと…」重金属酸性雨の中を泳ぐツェッペリン群からサイコパス主張の中継放送。センシティヴ問題に発展することを懸念したNSPDが手をこまねく中、カネの臭いを嗅ぎつけたアウトローたちが行動を開始した。


1

 暗い違法武装バンの車内は、壁際に積み上げられた何台ものUNIXデッキによって蛍光グリーンの光に照らし出されていた。拡散と収束を繰り返すノイズのアンビエント。アンテナから来る違法無線LANのゼンめいた雑音がBGM代わり。乗り込むのは札付き、賞金首、または凶状持ちのアウトロー5人。

「つまり3億円身代金輸送車を襲撃する」一団のリーダーである筋肉巨漢のススム・コウイチが、欲深い右目のサイバネアイ視線を直結デッキのハッカーに向けた。「脳ミソ野郎、間違いねえんだろうな。ガセだったら全員でお前の生体LAN端子を代わる代わるファックするぜ。死ぬ前も、死んだ後もだ」

『実際確実』直結中のハッカーが車内後部のスピーカーから電子音声で返す。「マッポの動きはどうだ」ススムが問う。UNIXが明滅し、ハックしたNSPDマッポスコアのリアルタイム一覧表を提示した。『依然スコア低いね』ゆえにNSPDは名ばかりのモール包囲を行い、日和見主義に任せている。

 雨の中を飛ばす武装バン。問題のモールが近い。本当に身代金は払われるのか。ジャンボジェットをどう着陸させるのか。疑念は無限に沸き上がる。だが彼らにはもう後が無い。それぞれの理由により、今すぐカネが必要なのだ。「それにしても、ネオサイタマってのは物騒だね」アウトローの一人が笑った。

 その男の外見は、明らかにガイジンの重サイバネ者だ。ススムは数時間前に会った時から、この男を特に警戒していた。車内の誰も互いを信用していない。「ブッダが逮捕とはね。これがホントの」ガイジンは脳内の日本語変換素子をアピールするようにジョークを飛ばした。「ブッダ、前後してください」

 ガイジンはLAN直結拳銃の入念な手入れを行いしながら、にたりと車内の全員に微笑みかけた。「ハハハハ……」ススムが面白い奴だな、と思って笑った。そして他のアウトローたちも顔を見合わせ、皆で堰を切ったように笑った。「ハハハハハ!」「ブッダファック!」「ウワーッハッハッハハハハハ!」

 その時、アンタイブディズム・ブラックメタリストたちが乗る別の黒塗りバンが高速接近!アウトロー5人の乗る武装バンの横腹へと衝突した!KRAAAAAASH!「「「アバーッ!」」」「「「アイエエエエエエ!」」」ナムアミダブツ!2台の違法車両は凄まじい炎と電子火花を散らしながら横転!

 2台はマートの裏手に広がる墓地に突っ込んで炎上!「ブッダを殺せ!」「首を撥ねて祭壇に捧げる!」薬物をキメたブラックメタリストが武器を手に飛び出す!「ヤギ前後!」武装バンから這い出したガイジン、ラッキー・ジェイクは、死に物狂いで論理トリガを引き応戦!BLAMBLAMBLAM!

「アバーッ!」重金属弾を浴び、ロングソードで武装したブラックメタリストが死ぬ!彼らは皆、上半身裸に黒ハカマという出で立ちだ。「ハッカーが死んだ!」「ちくしょうめ!」ススムらがジェイクに合流!BLAMBLAMBLAM!「「アバーッ!」」4人でブラックメタリストを次々銃殺!

 四人のアウトローはハカバに隠れ、銃弾を再装填する。「一通り殺したか!?」「奴らも3億円を?」「どうだっていい!計画は失敗だ!マッポが来る前に逃げるぞ!」「あ……あれを見ろ!」ススムが道路側を指差す!窓から禍々しいノボリを突き出した後続のブラックメタリスト車両が1ダース近い!

瞬間、疑念は確信へ変わる。ニュース番組を見たブラックメタリストたちがIRCで連携を取り、ブッダが身代金解放される前に斬殺すべく集結を始めていたのだ。カナガワの禍々しい反ブッダ曲が聞こえ始めた。退路は断たれた。アウトローたちはハカバを走り、モールへ逃げるより他に道はなかった。

 四人のアウトローは闇の中を駆け抜ける。「イヤーッ!」ハカバの陰から白塗りブラックメタリストが現れ、メイスを振り上げ襲いかかった。BLAMBLAM!「グワーッ!」射殺!間髪入れず次のブラックメタリストが出現!「イヤーッ!」BLAMBLAM!「グワーッ!」ヘッドショット射殺!

「弾切れだ!」返り血で顔を染めたススムが、メイスを拾い上げ走る。後方からはブラックメタルが大音量で響く。『スパイラル破滅アーマゲドン/俺は極めて不吉なマサカリを振り上げ/聖徳太子の軍勢と戦う/俺の血は黒/俺は死者の王/俺はブッダの大敵/暗黒の橋が現れ/神無き河を超えて攻める』

「イヤーッ!」突如、ハカバの陰から松明を持ったブラックメタリストが現れ、口に含んだアルコールで火炎放射を行った!「アイエエエ!」アウトローの1人が火達磨に!「庶子!」ラッキー・ジェイクが間一髪で火炎攻撃をかいくぐって射撃!BLAMBLAM!「グワーッ!」ヘッドショット射殺!

「アイエエエエ!」火達磨アウトローが転げ回る。「そいつはもうダメだ!」3人はモール裏口の生ゴミ廃棄所へ走る!「ウオーッ!」ハカバの陰からロングソードを構えた白塗りブラックメタリスト!BLAMBLAM!「グワーッ!」「イヤーッ!」ススムがメイスで撲殺!「アバーッ!」「庶子!」

 錆び付いた装甲壁。それはハカバとコケシモールを隔てる隔壁だ。「BIG安い」「ANATA」「鮪」などと白ペンキでペイントされた壁の下に、非常用のロックドアがある。だが、開かない。「電子ロック!」「ちくしょうめ!」メイスで殴るもビクともしない。ブラックメタリストの松明が近づく。

「俺がやる」ジェイクは舌打ちし、違法生体LAN端子からケーブルを伸ばす。携帯ファイアウォールを2個カマし、ドアに並列LAN直結。頭がガクガクと揺れ、鼻血が垂れる。ヤキバ・アタッチメントじみた粗いハッキング。KBAM!非常ドアの電子制御板がイカれて煙を吹く。警報ベルが鳴り響く。

 活路は開かれた!「くたばれ!」「前後しなさい!」アウトローたちは追いすがる反ブッダ戦士らに対して一斉掃射!BLAMBLAMBLAMBLAM!「「「アバーッ!」」」そして非常ドアの奥へ撤退!内側から物理ロックをかけた。ゴミ集積所。モール廃棄食品のケミカル腐臭が彼らを迎え入れる。

「今何人だ」「3人」「分け前が増えたな、クソッタレめ」アウトローたちは再装填を行い、サイバネアイを暗視モードに切り替えて進む。緑色のLEDライトで微かに照らされるゴミ集積所。ファオー、ファオー、ファオー。非常ボンボリが鈍く赤い色で虚しく回転し、緑色のLED光に混じり合う。

 ジェイクはサイバネ嗅覚の閾値を上げながら、この窮地を切り抜け、かつカネを得る手を考え続ける。ブッダを逮捕したという男は、モール中心部のUNIX制御室に陣取り、狂った店内放送を続けている。後方には反ブッダ軍。正面駐車場にはNSPD。前門のタイガー、後門のバッファローめいた状況。

「スッゾコラー!」先頭を進むアウトローが不意にヤクザスラングで威嚇した。マグロの頭が廃棄されたコンテナの横に、人影を見たからだ。だがコケシマート作業服を着たその男は、廃棄されたマグロの頭にむしゃぶりつき続ける。シャグッ!シャグッ!シャグッ!「アッコラー!」怒号も意に介さない。

「店内を案内しろ!3億円が持ち去られちまうだろうが!」アウトローが銃口を突きつけ接近。ハッカーを失った今、彼らに残された選択肢は限られているのだ。だが「貴方、待て」ジェイクが何かに気づく。「心音スキャンが…!」次の瞬間、先頭アウトローは見た。コケシマート作業員の胸の大穴を!

 作業服は血塗れ。死体じみたその顔は、目と口から奇怪な炎めいた光を発している!まるでズンビーだ!「ARRRRRGH!」マグロ生首を放り捨て、アウトローに襲いかかる!「アイエエエエエ!」BLAMBLAMBLAM!一斉射撃!だが死なぬ!「庶子!」「アバーッ!」ヘッドショット射殺!

「驚かせやがって!」アウトローが作業員の死体を蹴る。「このモールで何が起こってやがる」ススムが作業員の死体から冷静にID帽子を剥ぎ取り、被る。ラッキー・ジェイクは脱出の手を思案し、冷や汗を垂らしながらZBR煙草を吹かした。ピガガガー!直後、作業員のIRCトランシーバが鳴る。

 異様なアトモスフィアが場を圧する。3人のアウトローは剣呑な目つきで互いの顔を見合わせ、ススムがトランシーバを握った。「ハイ、モシモシ、モシモシ……!」ススムの眉間に大粒の汗が滲む。「ハイ、ハイ……何だって……!」全員がごくりと唾を呑む。「コメ・エリア、コメ・エリアだな……」

「一体どうなってやがる、身代金3億円はどうなった」アウトローがススムに問う。「身代金3億円はすでに運びこまれた……」ススムの顔はトーフのように蒼白していた。「このズンビーめいた作業員は?」ジェイクが問う。「わからん」ススムはかぶりを振る。「だがマート中に山ほどいるらしい」

 IRCトランシーバーが告げた内容は、衝撃的なものだった。通信の相手は、ラッキー・ジェイクらと同様、身代金3億円を狙って潜入したハック&スラッシュの一団であった。……先客がいたのだ。だが彼らもまた正体不明のゾンビーに襲撃され、コメ・エリアに追いつめられたという。

 果たして3億円はいまどこに。すでに犯人の手に渡ったのか。ジャンボジェットは着陸できるのか。謎が謎を呼ぶ。アウトローたちのニューロンでは処理し切れない、巨大な陰謀の影……!その中で導き出される明確なアンサー。ゾンビーは頭を撃てば死ぬ。弾丸で奴らを殺し、3億円を奪い、逃げねば。

 ガガガー!IRCトランシーバーの電池が切れる。断末魔めいたノイズ音声が届く。「……いいか、気をつけろ……ニン……ジ……」「おい、待て、今なんて言った!」ススムが叫んだ直後、スモトリ作業員ゾンビーが2人掛かりでロック扉を破り、2ダース近い餓えた作業員ゾンビが雪崩れこんで来た。

「クソッタレめ!」アウトローの1人が、温存していたまっさらの重金属弾ピストルをススムに放り渡した。次の瞬間、BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!3人のアウトローは一斉に銃弾をバラ撒き、エレベータリフトへ逃げる!

◆◆◆

「アイエエエエ!」コケシマート作業員は失禁しながら店内階段を転げ落ち、「フルツ」と書かれた製品陳列棚の前で止まった。 その目は恐怖に見開かれている。ノイズ混じりの店内放送は、立てこもり犯の狂った主張を繰り返す。NSPDは正面駐車場を滑走路にするという必死の呼びかけを続ける。

 がらんとしたマート店内。そこかしこが血塗れ。通常営業時と同じライトアップ光量が、事態の異様さを浮き彫りにする。すぐ横には頭をショットガンで破壊されたゾンビー作業員の死体が転がる。「アイエエエエエ!」だがこの作業員を真に恐れさせていたのは、威圧的に歩み寄るひとりの男であった。

「アイエエエエエ!ニンジャ!ニンジャナンデ!?貴方は、3億円を運び込んだ政府のエージェントだと思ってたのに……!ナンデ!?」哀れな作業員は叫んだ。そう、目の前に立つ男の装束……明らかにニンジャのそれだ!「アノヨへの手みやげに教えてやろう。立て」ニンジャは嘲笑うように言った。

「ハイ」作業員は立ち上がる。「私の名前はサクリファイサーです。もう生き残りもほとんどいないので、貴方のことは念入りに殺します」ニンジャが高圧的にアイサツした。「ナンデ!?」「楽しみのためです」そして「イイイヤアアアーッ!」両腕を複雑に動かし、不気味なカラテシャウトを発する!

「イヤーッ!」ニンジャのチョップ突きが胸を貫通し、作業員の心臓を引き抜く!「アバーッ!?」「サクリファイス・ケン!イヤーッ!」それを作業員の口に押し込む!心臓が緑色に燃え上がり、一瞬にして哀れな犠牲者の頭部を内側から焼き尽くした!「アバーッ!」そして新たなゾンビーが生まれた。

 ナムアミダブツ!何たる無慈悲かつ恐るべきジツか!「アバーッ……」新たなゾンビーへと変わった作業員は、肉を求めてヨタヨタと歩き出した。頭の内側から不気味な緑色の光を発しながら。「ウワーッハッハッハハハハハハハハハ!」サクリファイサーはヤギ型の不気味なメンポから哄笑を漏らした。

 SMAAAAASH!次の瞬間、前方のロック扉が体当たりによって強引に押し開けられ、ゾンビーの大群に追われる血みどろの重武装アウトロー3人組が、この食品売場へと転がりこんできた。そしてホールの突き当たりにいるニンジャと目が合った。「ヤギ前後」ラッキー・ジェイクは死を覚悟した。



2

「ジャンボジェットはまだか!」ジェット戦闘機パイロットめいたサイバー・フルフェイスヘルメットの男が、ブッダとみられる哀れな人質の頭に銃を押しあてる。「アイエエエエエ……」コケシマートの麻袋を頭から被せられた人質は、弱々しい悲鳴を漏らした。

「落ち着いてください、現在NSPDがモール駐車場の車両を動かしています」3億円を運んできた政府筋エージェントと見られるサングラスに黒服の男たちが、部屋の入口付近で横一列に並んでいる。そして全員同時にハンカチで額の汗をぬぐう。彼らのネクタイには「天下」を象った神秘的なエムブレム。

「よし!急げよ!俺はこれから3億円の確認に戻る。そのラインから近づいたら……BLAMN!ブッダのクソ野郎の頭に2個目のケツの穴が開くと思え!」犯人はLAN直結拳銃の銃口を左右に慌ただしく揺らしながら、エージェントたちを威嚇する。

「「「ハイ」」」黒服の男たちは深々とオジギした。またもや完璧な統一感。まるで5つ子。否、彼らはクローンであった。彼らは政府筋エージェントに偽装された、クローンヤクザなのだ……!彼らは必要とあらば、犯人をたちまち射殺できる。だが、しない。全てはアマクダリ・セクトの陰謀がためだ。

 このセンセーショナルな事件は当初、アマクダリとは全く無関係の、ありふれた1人の発狂マニアックが起こしたものだった。だがアマクダリは大衆の注目度に目を付けた。犯人に対して身代金3億円を渡し、あまつさえ逃亡に成功させる。果たして、それによって何が起こるのか……?

 3億円もの大金が闇に溶け、さらには、弱腰対応しかできなかったNSPDに対し市民の非難が集中するだろう。まさにアブハチトラズ。むろん、犯人と人質はオキナワで殺害される手筈だ。「アイエエエ……」どちらにせよ消される……その無慈悲な運命など知るべくもなく、人質は祈るように失禁した。

◆◆◆

『コケシモール893号店では、犯人の立て篭りが続いていますドスエ。既に身代金が支払われたものの未だに人質は解放されず……』TV画面の中では、豊満なオイラン・ニュースキャスターが刺激的な動作で足を組みかえた。「妙な気分だぜ」暗がりに座り込んだ血みどろのスラッシャーが舌打ちする。

「テメエが押し入ったモールの空撮映像を見てるなんてな」スラッシャーは頭を抱えた。ここは店内のコメ倉庫。足下にはゾンビーの死体や犠牲者たちの死体が転がっている。「ブッダの逮捕、3億円もの身代金、ゾンビー、そしてニンジャ……俺たちゃとんでもねえ陰謀に首突っ込んだアホのネズミか?」

「おい、セキトリ=サン、何か返事してくれ。狂っちまいそうだ。どこまでが現実で、どこまでが俺の妄想なんだ。俺は少しばかりトロ粉末をキメすぎちまったのか?なあ」スラッシャーはZBRを腕に注射しながら、装甲フスマの前にいる仲間に声をかけた。スモトリだ。

 頭部と腕を重点的に違法サイバネ化したそのスモトリは、たった一人で装甲フスマを押さえている。「こりゃ全部ホントのことさ……そうとしか思えねえよ。そして……」彼が少しでも気を抜けば、大量のゾンビーがこの倉庫内に雪崩れ込んでくるだろう。「俺たちがここに居合わせたのは、運命だった」 

「運命……?」スラッシャーがZBR由来の鼻血を手で拭いながら、ぽかんとした顔でスモトリに聞いた。「運命って何だよ、セキトリ=サン」「ブッダを救出する……運命だ」スモトリが歯を食いしばり、膂力を振り絞りながら言った。「……アア?」スラッシャーは首をひねった。

「3億円を狙ってたんじゃねえのか?」「俺はハナから、ブッダを救出するつもりだった」「そうか」スラッシャーは電池切れのトランシーバを、分厚いコンバットブーツの底でじれったそうに踏み砕きながぼやいた。「クソッタレめ、壊れちまって、もう役に立たねえな」

 ゾンビーの大群が装甲フスマを叩く不気味な低い音が、ドロドロとコメ倉庫内に響き渡る。「ドッソイ!ドッソイ!」スモトリが歯を食いしばり、両手両足に力を籠める。もう長くは持たない。彼は座り込んで煙草を吸うスラッシャーに呼び掛けた。「おい、もうZBRを打ち終わったろう、手伝ってくれ」

「どうせ誰も来ねえよ。何分経ったと思ってンだ。その辺でゾンビーに喰われたに決まってンだろ」スラッシャーが強力なザゼン・タバコの煙を吹きながら笑う。その顔には最高難易度のゼンモンドーを解いた覚者の如き、深く穏やかな諦観が刻まれていた。「くだらねえ人生だったぜ。ブッダファックだ」

「おい、ブッダを罵るな……ただじゃおかんぞ……!」スモトリが唸った。「ブッダファーック!」スラッシャーは両手で指を立てて叫ぶ。ナムアミダブツ!「おい、何してやがる!?……トランシーバを壊したのか?このサイコ野郎……!」異常事態に気付いた重傷のハッカーが倉庫の奥から駆け寄る!

「ブッダを……!」スモトリが鬼の形相で睨みつける!「やめろ!やめろ!バカ!スゴイ・バカ!仲間割れしてる場合か!3億が目前なんだぞ!」ハッカーが血眼で仲裁に入る。「ブッダ……ファーック!ブッダ……アスホール!」スラッシャーは両指を立て、清々しい表情で叫んだ!「アスホール!!」

 死体で溢れるコメ倉庫内に、極限閉鎖状態の狂気が満ちてゆく。取り返しのつかない狂気が。「やめろ!バカ!」「ブッダ……アスホーール!!」「ウオーッ!!」瞬間、怒り狂ったスモトリは装甲フスマから手を離し、暴走機関車めいた勢いでスラッシャーへと突き進んだ!そして掴み、放り投げる!

「ドッソイ!」「グワーッ!」スモトリの怪力で放り投げられたスラッシャーは、頭からコメ脱穀機の投入口に吸い込まれる。電子マイコ音声が鳴り、自動的に脱穀が開始された!「アババババババーーッ!」まるでネギトロだ!だがそれどころではない!堰を切ったようにゾンビーが雪崩れ込んで来る!

「アババババババーーーッ!」投入口から両足だけを上に突き出した状態でスラッシャーはもがき、断末魔の悲鳴を上げる。ゾンビーたちは排出される新鮮なゴアに群がった。その僅かな猶予時間を使い、スモトリとハッカーはコメ倉庫の奥へと逃げる!「俺にいいアイディアがある!」ハッカーが叫ぶ!

 果たして彼らは何を……銃も弾も尽き果てた状態で、何をしようと言うのか!?……キュイイイイイイ!間もなくして、甲高い回転音が暗がりから鳴った。「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」そして押し寄せてきたゾンビーたちが、次々に粉砕されてゆく!

 おお……見よ!何たる極限状況下でも決してサバイバル精神を失わぬ人間たちの機転か!スモトリのサイバネ腕にコメ脱穀機の予備ドラムパーツが装着され、高速回転し、恐るべき即席粉砕武器と化していたのだ。「アバーッ!」「アバババーッ!」2人は南極氷砕船めいてゾンビーの大群を切り進む!

「ドッソイ!」「アバーッ!」「ドッソイ!」「アバーッ!」SPLAT!SPLAT!SPLAAAT!ゾンビーが次々粉砕され血飛沫が撒き散らされる!2人は倉庫から脱出!だが……ゴアで斬れ味が鈍る!「アイエエエエエ!」ハッカーが押し倒され、スモトリにもゾンビーが群がる!「ブッダ!」

 その叫びを聞きつけた男たちがいた。男たちは銃弾でこれに応えた。BLAMBLAMBLAMBLAM!ゾンビーをヘッドショット殺!「くそったれめ!」「庶子!ブッダ!前後してください!」それは生き残りと合流すべく死に物狂いでコメ・エリアへ到達したススムとラッキー・ジェイクであった。

 ブンブンブンブブンブブンブーン、ブンブンブンブブンブブンブーン。『今日も、明日も、コケシ、コケシ……』心躍るようなベースBGMに合わせて、プログラムされた電子マイコ音声がエレベータ内に鳴り響く。 全身を返り血で染めた厳めしい四人のアウトローが、その中で弾丸の再装填を行う。

『恥知らずのブッダは俺のマンションの地下で日夜ニセ札を印刷していた!その音が俺の部屋に響いてきて俺は寝られない!』狂った犯人の店内放送が響く。動く死体、弾丸、そして逮捕されたブッダ。謎が謎を呼ぶ。生き残った4人のアウトローたちは大型業務用エレベータで49階へと向かっていた。

 バチバチと非常ボンボリ灯が明滅する。老朽エレベータは悲鳴を上げるように滑車を軋ませ、緩慢な動きで縦穴を這い昇る。「おいしいお肉です」「はい」と書かれた食品ポスターが、先に待つ不吉な運命を暗示しているかのようだ。彼らは限られた時間で情報を整理し、作戦を立てねばならなかった。

「3億円は目前だぜ」ススムが言う。「けど問題は……ニンジャだ」ハッカーのクウェルト555が声を震わせる。「動く死体は科学で説明がつくはずだ。そういう映画を見たことがある。だがニンジャは無理だ。俺たち全員、確かにニンジャを見た。ニンジャが実在するとしたら、俺たちにはもう……」

「だがあのニンジャは、一斉射撃を浴びて逃げていった」ススムが言う。「サイバネアイでもパターン補足できないほどの速度で連続側転を決めながらだけどな」「俺たちの時もそうだった。ニンジャは俺たちを殺さなかった」クウェルト555がうなずく。「ゾンビーと戦うのを見物しているようだった」

「今のところは、かもな」ジェイクが言う。「この話をするたび、俺はサイコ野郎だと思われてきた。俺は以前にも何度かニンジャを見た。俺はカラテで戦ったことだってある」誰もが一瞬、狂人を見る目で彼を見た。だが真実の重みが、この不法滞在ガイジンの言葉にはあった。「あいつら、バケモノさ」

「ニンジャが何でそんな行動をとったかなんて、考えるだけムダだ。神秘的な存在なんだ。奴らの頭の中にあるのは、突然出てきて殺すこと、それだけだ。それも、なるべく相手をいたぶって殺すのが好きなんだ」ジェイクは説いた。だがスモトリが渋い顔を作った。「……本気でニンジャが実在すると?」

「ならあんた、本当にブッダが逮捕されたとでも?あのコーヒー豆袋を被せられた人質がブッダだと思ってんのか?」ジェイクが返す。ススムが顔をしかめた。ハッカーもスモトリの影でジェスチュアを作り、危険を知らせる。スモトリ以外の誰も、ブッダ逮捕を信じていない。だがその質問は、軽率だ。

 スモトリは小さな目を見開いてジェイクを睨んだが、相手はガイジンなのでこらえた。そして理性的に言った。「ズダ袋を取り去るまではわからない。誰にも、それがブッダなのかどうか言い当てることはできない。もしブッダだったら、世界は取り返しのつかないことになる。お前はそれでいいのか?」

「シュレディンガーの猫か……!」クウェルト555が突然何かを悟った。「ネコ」「何だそれは?」誰も知らなかった。「旧世紀のコトワザだ。フタを開けてみるまで、ブッダかどうかわからない。つまり量子論的には……ブッダの可能性が常に50%存在する」「ゼンめいてるな」ジェイクが頷いた。

「そういう事じゃねえんだ」スモトリが首を振った。「信心深さ……いや、善良な魂が試されているんだ。人間だれしも心の中にある善良な魂が。ひとつたしかな事がある。ブッダは何も悪くない。いい奴だ。それが卑怯な奴に掴まって、銃を突きつけられてる。黙って見てられるのか?そういう事なのさ」

 エレベータ内に閉鎖極限空間の狂気が満ちる。49階が近い。パーティーの心はバラバラだ。このままでは全員死ぬ。それを察し、ススムが言った。「議論は終わりだ。俺がリーダーになる」全員がそれに合意した。彼が最年長者すなわちセンパイだからだ。「ニンジャとゾンビーのことは、深く考えるな」

 ススムは力強く拳をにぎった。「いいか3億円だ、とにかく3億円のことだけ考えろ。邪魔する連中には銃弾叩き込んで殺す。そして生きて逃げる」「いいこというね」ジェイクが笑顔で煙草を吹かす。「シンプルなのは好きだよ。世界が明日滅ぼうと、3億円持ってたほうがいいに決まってる」

「あんたはどうだ、セキトリ=サン。3億を奪うってことは、ブッダを助け出すってことだ」「俺は3億はいらない。ブッダのことだけ考えている。世界を救いたい」スモトリは脳内でデジ・ネンブツを繰り返し再生した。電子がゼンめいてキマっていく。「よし、そうしろ」ススムが笑顔で肩を叩いた。

 47階を通過。四人は臨戦態勢を取る。「ここから生きて逃げだすだけでもそうとう難しいだろう。その難易度を10とするなら、3億持って逃げ出すのはせいぜい11くらいだ。こんなたとえ話がある。俺たちゃブッダの…」ススムは言い直す。「いや、あるマンションにハック&スラッシュをしかけた」

「そしたらそこは偶然にもジーザスの家だった。預金通帳を見つけたところで、奴が帰ってきた。こいつはメチャクチャ強敵だ。そのまま逃げるのも、通帳持って逃げるのも、奴をファックしてから通帳持って逃げるのも、難易度は大体同じだ」ススムは散弾銃をコッキングした「なら、やろうじゃねえか」

「聖徳太子よ、守りあれ」スモトリが祈る。『49階ドスエ』電子マイコ音声が鳴り、エレベータの銀色扉が開いた。配備されていたゾンビーの大群が、一斉に襲い掛かる。だが即席で結成された四人のハック&スラッシュは、それを切り裂く銃弾と刃と狂気の塊と化し、凄まじい勢いで飛び出したのだ。



3

「立て篭り開始からすでに12時間以上が経過ドスエ」たおやかなオイラン・ニュースキャスターが神秘的に微笑み、大胆に脚を組み替えた。NSTV社のニュース映像は、マッポに包囲された郊外コケシモール前駐車場の空撮映像をリピートするばかり。当然、ニンジャやズンビーの事実は隠蔽されている。

 アマクダリにとって不都合な政治スキャンダルも全て、この刺激的なだけの事件中継で塗り潰されている。「実際マッポが情けない!」「税金泥棒!」「もっと強引にしてほしい!」まんまと世論誘導されるネオサイタマ市民!アマクダリが画策する上位警察機構ハイデッカーの暗黒の足音は、すぐ近い!

「ブッダを逮捕したとか、前例が無い」屋台街でサケを飲みながらTV画面を睨むのは、IRCも繋げぬ下層労働市民。「本格派の発狂マニアックだな」「見殺しにしたら宗教問題か?」「知らねえ」「ジーザスにしとけってんだよな。どこのイディオットでも知ってる。ブッダは何千年も前に死んだってな」

「ジーザスも死んだろォ?」ブッダパンクスが反論する。ヨタモノがイカケバブを頬張りながら、したり顔で言う。「あァー?おまえはイディオットか!映画でやってたろ……復活したんだよォ、ジーザスは……だからいいんだよ……」「ブッダも復活するらしいぜ」ブッダパンクスが厳粛な面持ちで言う。

「アア……?復活すンの……?ブッダも……?」ヨタモノが驚いたような顔を作り、ケモビールジョッキを置いた。ブッダパンクスがゼンモンドーめいて言った。「つまり、誰でもブッダになりうるんだってよ」彼自身にもその言葉の意味は解らない。

「待てよ、復活したらどうなンの…?で、もし、ブッダが殺されたら……?」ヨタモノが他の客たちに問う。……光と闇の最終戦争が勃発する……巨大なストーンドアを押し開け地下からアンデッド・クイーンに率いられた不死者が溢れ出す……ビッグバンと反対の現象が起こる……。様々な憶測が飛んだ。

「お、お前ら本気で言ってンのか?」ヨタモノは迷信の数々を聴き、自分も不安な顔を作った。直後、仲間たちは顔を見合わせ笑った。「そんなワケあるかよ!」「ブッダなんざ実在しねえよ!」「したけどマッシュルーム食って死んじまったよ!」「「「ウワーッハッハッハッハ!」」」ナムアミダブツ! 

◆◆◆

 一方その頃、4人のアウトローは死に物狂いでモールを突き進む!銃弾と散弾と回転脱穀バーが、ゾンビーの波を切り裂く!BRAKKA!BRAKKA!BLAMBLAMBLAM!「「「アバーッ!」」」ゾンビーをヘッドショット殺!SPLAAAAAT!「「「アババババーッ!」」」回転粉砕殺!

 SPLAT!SPLAT!SPLAT!ゾンビーたちの返り血が、ススム=センパイ、ラッキー・ジェイク、クウェルト555、そしてサイバネ右腕に脱穀バーを装備したスモトリの巨体を、トマト祭りめいて真っ赤に染め上げてゆく!「撃て!撃て!殺せ!3億円を奪うぞ!」ススムが狂気じみて叫ぶ!

 生存をかけて一丸となったこの即席ハック&スラッシュの間には、奇妙な絆すら育まれていた。「3億手に入ったらどうする!?」ラッキー・ジェイクが笑いながら二丁拳銃で重金属弾をバラ撒く。「ローンを完済して、最新型サイバネ装備のローンを組むぜ!」ススムが散弾銃をコッキングしながら叫ぶ。

「アバー」物陰から店員ゾンビー!BRAKKA!ススムが散弾銃で殺!「アバー」物陰からさらに店員ゾンビー!「アイエエエ!」クウェルト555が危機!「庶子!」BLAMN!ジェイクが援護射撃で殺!「ハレルヤ!その直結銃、ヤマダ社カスタムか!」ススムが笑う。「そうだ!」「いいよな!」

「ジェイク=サンは3億で何する!?不法滞在ガイジンさんよォ!?」BRAKKA!BRAKKA!BRAKKA!散弾殺!「「「アバー!」」」「犯罪履歴を洗浄したら、今度こそキョート共和国経由で国に帰るぜ!サヨナラだ!」BLAMBLAMBLAM!ヘッドショット殺!「「「アバー!」」」

「名残惜しいなラッキー・ジェイク=サン!じゃあもう一緒にビズをする機会も無しかよ!?ネオサイタマにゃ未練無しか!?」BRAKKA!BRAKKA!「未練かい、アソビ・クラブで出会ったオイランくらいさ。ネオサイタマにゃあもう懲りて……グワーッ!?」突如物陰からマサカリの一撃!

「「「アバー」」」ハカマに上半身裸のアンタイブディズム・ブラックメタリスト・ゾンビーが物陰から出現したのだ!凶悪なマサカリやロングソードで武装しており接近を許すと厄介な敵だがヘッドショットが有効だ!「死ね!」「庶子!」BLAMBLAMBLAMBLAM!!「「「アバーッ!」」」

BRAKKABRAKKA!「「「アバーッ!」」」さらに散弾殺!「ユウジョウ!」クウェルト555が倒れたジェイクをからかうように手を貸す。ジェイクは肩口のサイバネから軽い火花を散らしている。「ユウジョウ!」ジェイクが笑い立ち上がる。「アイエエエ!」直後、クウェルト555が叫ぶ!

「「アバー」」損壊ゾンビーが暗がりを這い進み、ハッカーの足を掴んだのだ!「庶子!」這う敵のヘッドショットは困難で弾を無駄に消費しやすい!「ドッソイ!」気付いたセキトリが脱穀バーを回転させて薙ぎ払い、これをたちまちネギトロに変えた!「「「アバッ!アバッ!アバババババーッ!」」」

「「「アバー」」」体勢を立て直した四人の前に、今度は刺激的な制服のオイラン・ゾンビーの群れが物陰から出現!動きは緩慢だが見蕩れていると接近を許し危険だ!ここもやはり非情なヘッドショットが重要になる!「死ね!」「庶子!」BLAMBLAMBLAMBLAM!!「「「アバーッ!」」」

「「アバー」」車椅子に乗った老婆とその息子らしき男のゾンビーが前方から迫る!哀れな民間人すらもニンジャのジツによって無残な姿になってしまったが油断はできない!息子のゾンビーから順にヘッドショットで殺す!「死ね!」「庶子!」BLAMBLAMBLAMBLAM!!「「アバーッ!」」

「「「アバー」」」再びハカマに上半身裸のアンタイブディズム・ブラックメタリスト・ゾンビーが物陰から出現!手慣れた相手と考え銃弾の節約に走ると命取りになる!ここもやはりストイックにヘッドショット殺だ!「死ね!」「庶子!」BLAMBLAMBLAMBLAM!!「「「アバーッ!」」」

「聖徳太子!」聖人の名を唱えながら目を見開いたブッダ狂信者スモトリは、血で鈍りだした脱穀バーを再駆動させ、撃ち漏らしたゾンビーをネギトロに変える!「「「アバババーッ!」」」「スゴイ!」「前後イェー!」「倍点!」他のアウトロー3人は満面の笑顔で讃える!ナムアミダブツ!狂気だ!

「あと数十メートルでブッダのいる制御室だ!」ハッカーが脳内モニタに投影されたワイヤフレームを解析する。……その時、物陰からぬっと現れ四人の前に立ちふさがる巨体!他のゾンビーの脚をチキンバーめいて共食いするこの怪物はもしや!「アバー」スモトリ・ゾンビーだ!腹部がガス膨張し奇怪!

 合流前、彼らはスモトリ・ゾンビーからは逃げ続けていた。タフであり撃ち続けてもそう簡単に死なぬからだ。だが3億円とブッダは目前!思わずその脚や腹を狙いたくなるところだが、やはりここも基本に忠実にヘッドショット殺だ!「死ね!」「庶子!」BLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!

「アバー」スモトリ・ゾンビーはその巨体ゆえ未だ倒れぬ。怪力を活かし、手近にあるオブジェクトを闇雲に射撃者に向けて放り投げながら、ぎこちない動きで迫ってくるのだ!「死ね!」「庶子!」BLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!なおも頭部に弾丸を集中!ワザマエ!撃破は目前だ!

 だがその時!「イヤーッ!」死臭とゴアを切り裂いて連続飛来する四枚のスリケン!「グワーッ!?」「庶子!」「アイエエエエ!」ニンジャの恐るべき投擲武器がアウトローたちの銃器に突き刺さり、制御素子を破壊し、あるいはLANケーブルを切り裂いた!闇の中でバチバチと走る火花!ALAS!

「しまった、ニンジャがいた……!」「ちくしょうめ!」つとめて思考の外に追いやっていた絶望的悪夢……ニンジャが、再び彼らの前に姿を現したのだ!「ドーモ、サクリファイサーです。余興は終わりですよ」ゾンビーの群の中から歩みいで、両手を掲げた挑発的姿勢を取る山羊状メンポのニンジャ!

 CLICK!CLICK!「銃がダメだ!」「サイドアーム重点!」「間に合わない!」アウトローが叫ぶ!「アバー」スモトリ・ゾンビーが手近なUNIXを放り投げる!CABOOOOM!「「「グワーッ!」」」爆発に巻き込まれる3人!「セイント・ニチレン!」セキトリが爆風に耐え突き進む!

 巨体と巨体が正面衝突!怒りに満ちた脱穀機バーが回転しスモトリ・ゾンビーの頭を粉砕!「アバッ!アバッ!アババババババーッ!」壊れたトマトジュースサーバめいて血が飛び散る!あと少しだ!だがニンジャが再び無慈悲なスリケン投擲介入!「イヤーッ!」「アバーッ!」セキトリの頭に命中!

 ナムサン!「アバー」頭を完全に粉砕されたスモトリ・ゾンビーが倒れたのとほぼ同時に「ア……ア……」セキトリもまた脳内サイバネ装置からバチバチと火花を散らし、力無く両膝をついた。ドヒョウ上ならば敗北を意味する。「ゲームオーバーだ」サクリファイサーが山羊メンポを揺らし高笑いする。

「死ね!」「庶子!」「アイエエエエエ!」BLAMBLAMBLAM!主武器を奪われた3人はハンドガンでゾンビーの大群に対抗を試みるも……詮無し。それは押し寄せる大波に石つぶてを投げるにも等しい愚行と見えた。ゾンビーの大群が彼らに覆い被さり、肉を裂き、喰いちぎらんとする。

「ウウーッ!」己自身もゾンビーの波の中に沈みながら、セキトリは歯を食いしばった。彼は今日まで数多くの犯罪行為に手を染めてきた。このような最後はインガオホーであると自分にも思えた。だが今日だけは、今日だけは……!「ブッダ!インガオホーは、もう少しだけ待ってくれ!俺は……!」

 脳内サイバネが火花を散らし、狂った電子がサーキットを駆け抜ける。もはや聖句も聖人名も導き出さない。だが……ブッダを助けたい!ただその一心だけだった!「ブッダ!もう少し待ってくれ!」セキトリは再び立ち上がった!「ブッダ!ブッダ!俺はあんたを助けに向かっているんだ!」 

 右腕の脱穀機バーが再び唸りを上げゾンビーを粉砕し始める。今日ようやく、彼は自分が生まれた意味を悟ったのだ!なぜ己の肉体を重サイバネ置換し続けてきたのかを悟ったのだ!「ドッソイ!」「「「アバーッ!」」」ブッダの振るう剣の如き勢いで、仲間を呑み込んだゾンビーの波を切り裂き進む!

「狂人めが!無駄な足掻き!イヤーッ!」ニンジャは5連続バック転から両手にスリケンを構え、セキトリの両目めがけて投げた!……セツナ!「Wasshoi!」ロープアクションで強化ガラス窓を突き破りながら、赤黒のニンジャが死の砲弾の如き勢いでゴアまみれのフロアに乱入したのだ!

「イヤーッ!」死臭とゴアを切り裂いて飛ぶ四枚のスリケン!2枚はサクリファイサーの投擲したスリケンを撃墜!残る2枚はサクリファイサーに突き刺さった!「グワーッ!」「ドッソイ!」その間にセキトリはゾンビーを右へ左へと切り払い、満身創痍の仲間たちを掘り出す!「ブッダを助けるんだ!」

 ネオサイタマの死神は死屍累々の唯中に着地すると、射竦めるような眼光で獲物を睨んだ。敵も即座にカラテを構えた。「ドーモ、サクリファイサーです。貴様は……もしや……!」「ドーモ、サクリファイサー=サン。ニンジャスレイヤーです。やはりこの事件もオヌシらアマクダリが関わっていたか」

「アイエエエエエ!ニンジャが増えた!」クウェルト555が悲鳴を上げる。「ニンジャのことは考えるな!急げ!」ススム=センパイがハンドガンを再装填しながら叫ぶ。彼らはニンジャの戦いに用など無い!制御室へ!「そうだ、ブッダだ!」「ヤギ前後!」セキトリとラッキー・ジェイクも続く!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが四連続スリケン投擲!「イヤーッ!」サクリファイサーは目にもとまらぬ四連続側転で回避。そのままゾンビーの大波に身を隠す。「やれッ!奴を食い殺せ!」サクリファイサーはその目を不気味に輝かせ命じた!「「「アバー」」」襲い掛かる大量のゾンビー!

「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」ニンジャスレイヤーは無慈悲なカラテパンチでゾンビーの頭部を破壊しながら進む。「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」後少しでサクリファイサーに到達。だがその直前!「掛かったな、ニンジャスレイヤー=サン!」

「キエアーッ!」怪鳥音めいたシャウトが轟くと、ニンジャスレイヤーの周囲に群がるゾンビーが突如、臓物を撒き散らしながら連鎖的に爆ぜた!KBAMKBAMKBAM!「グワーッ!」「イヤーッ!」間髪入れずサクリファイサーはメンポの角を突き出し突撃!野生インパラめいて心臓を狙う鋭敏さ!

(((愚かなりフジキド…!これはコープス・ナパーム・ジツに相違無し!次に来るのはオヌシの惰弱な心臓をえぐる一撃よ!)))ニューロンに響く禍々しきニンジャソウルの声を聴き、ニンジャスレイヤーは反射的なブリッジ回避を決めた!「イヤーッ!」間一髪!死の飛び込み頭突きが真上を通過!

 一方、四人のアウトローは回廊を進み、立て篭り犯のいる制御室前へ到達!頭から火花を散らしよろめき歩くセキトリは、最後尾で脱穀バーを構え、迫るゾンビーをゴアに変える!「「「アバーッ!」」」ホールから廊下になった事が幸いした。圧倒的に有利!まるでツキジの自動ネギトロ製造レーンだ!

 クウェルト555が直結し、自動フスマの論理物理ロックを同時に解除!「開いた!行け!」「「イヤーッ!」」ススムとジェイクが銃を構えて侵入!立て篭り犯を射殺するために!だが……「「「ザッケンナコラー!!」」」ナムアミダブツ!彼らを迎え撃ったのはクローンヤクザ政府エージェントだ!

「「「スッゾコラー!!!」」」エージェントが懐のチャカ・ガンへと一斉に手を伸ばす!何故エージェントが邪魔を!?だがここで1秒でも余計な思考をしていると命取りになる!思考を停止させヘッドショット殺だ!「死ね!」「庶子!」BLAMBLAMBLAMBLAM!!「「「アバーッ!」」」

「アイエエエエ!何だお前らは!?」銃を持った立てこもり犯を発見!「止まれ!ブッダを殺すぞ!どうなるか解っているのか!」その頭はサイバーヘルムで覆われ、ヘッドショットを阻む!ならば胴体へと一斉射撃だ!「死ね!」「庶子!」BLAMBLAMBLAMBLAM!!「アバーッ!」射殺!

「ハァーッ!ハァーッ!全部殺したな!」ススムとジェイクが銃を全方位に向けクリアリングを行う。息があるのは四人のアウトローと、麻袋を被された哀れな人質だけ。「クウェルト555=サン、ハッキングして内側からロックしろ!セキトリ=サンはゾンビーを食い止めろ!その間に3億円を探す!」

「ブッダは……ブッダは無事か!」途切れがちなセキトリの声が廊下から聞こえる。「生きてるぞ!」「やったな!」ススムとジェイクがロッカーやチャブを荒々しく蹴り飛ばしながら家捜しする。だが見つからない。焦りが苛立ちを、苛立がさらなる焦りを生む。いつマッポとゾンビーが来るか解らない。

「何処に隠しやがったこのクソ野郎!時間がねえんだよ!ファック!」ススムが頭を掻きむしりながら、立てこもり犯の死体を蹴る。だが死体は何も語らぬ。この凶行の意味も。3億円の在処も。「ファーック!」ススムが鉄ブーツでさらに死体を蹴る。「これか!?」ジェイクが物陰にケースを発見!

「開けて確認!」「硬い論理鍵!」ジェイクが舌打ちする。強引に破壊すると運搬が難儀。「クウェルト555=サン!」「システムハック中」ハッカーが首を振る。彼は既に制御UNIXに直結中だ。「並列しろ!時間がねえ!」「AYE」「ドーゾ!」ジェイクが重いケースをハッカーに投げ渡す!

 セキトリは入口付近でゾンビーの侵入を食い止めている。徐々にその波は緩やかに。「何秒でケース開く!?」ススムが死体から銃と弾を補給しつつ問う。「50」現金ケースのLAN端子と並列直結したハッカーが鼻血を垂らし、前頭葉の引きつったような痙攣を起こしながら、甲高い電子音声で答えた。

 ごく短い補給時間が訪れた。ラッキー・ジェイクは銃弾と武器を目敏く発見して回った。それから血塗れの手をシャツで拭うと、懐からニューロンを加速させる違法トロ粉末を取り出しSNIFFし、さらにZBR煙草を咥えて疲労を癒した。「フゥーッ」煙を吐きながらコンクリ壁に寄りかかり、座る。

 まだ現金ケースの論理錠は開かない。ニューロンが加速し、1秒の待ち時間もまどろっこしく感じ始めた。ススムは念入りに家捜しを続け、他にも金目のものが無いかせわしなく動き続けている。「ブッダ、あんたも大変だよな」ジェイクはふと、隣にいる人質に目をやった。「50%の確率でブッダ……」

「ワケがわからねえよ」ジェイクは煙を吹かした。ブッダなどどうでも良かった。後少しで3億円が手に入る。そして逃げ、祖国に帰るのだ。具体的プランはまだ無いが、自分はラッキーだから、金さえあればどうにかなる。「アイエエエエ……たふけて……たふけて…」猿ぐつわを噛まされた人質の声。

「フゥーッ」ジェイクはZBR煙草の煙を吹かす。長いようで短かった、ネオサイタマでの美しく神秘的な経験……イミテーション桜コリドー、寺観光、猥褻な店、ツキジのスシ、ネオ・ロポンギのネオンカンバンの海、ハッカーカルトサイバネ屋のシソの香の臭い……「……たふけて……たふけて……」

 もう1個くらい何かあってもいい。ジェイクはそう思った。「クジビキしてみるか。ブッダかどうか、50%」彼は銃をザラついたコンクリート床に置いた。それから灰色のツナギを着た人質の横に行き、頭に被せられたコケシマート麻袋に手を掛けて、首の結び目をほどき、ゆっくりと引き上げた。

 それはコナミ。ブロンド髪とライムグリーン髪がソフトクリームめいて入り混じった、ホットな女。目の下には溶け落ちたアイシャドウと深い隈。「前後しなさい……」ジェイクは唖然としていた。2年程前……ネオ・ロポンギのカラテドージョーに通っていた頃、アソビ・パブで出会ったオイランだった。

「開いた!」「イエス!聖徳太子!」ハッカーとススムが叫んだ。現金ケースの解錠に成功し3億円を確認したのだ。それを聞き、ジェイクは電流が走ったように入口を振り向いた。スモトリが部屋に入ってくる所だった。「アァ……?前後ほ?」女は眉間に皺を寄せて言った。「あんは……ジェイク?」

「ウープス」ラッキー・ジェイクは女の頭に麻袋を被せ直した。そして耳打ちした。「いいか、黙ってろ。お前はブッダだ」「あのは、ジェイク、トロ粉末持っへない?」「いいから何も喋るな。何も喋らなけりゃ助かる」ジェイクは、身を屈めて戸口を潜る血塗れのブッダ狂信者を見た。「たぶんな」

「ブッダは……?」セキトリがよろめき、壁に寄りかかって腰を下ろした。「大丈夫だ、ここにいるぞ」ジェイクが袋をかぶせた人質を見せる。「ジェイク=サン!作戦成功だ!反対側のエレベータを使う!3億持って逃げるぞ!」ススムとクウェルト555が現金ケースを抱え、脱出準備を進めていた。

「ああ、準備できてるぜ」ジェイクは二梃拳銃を握り直し、立ち上がった。そしてススムたちを見た。彼らの顔には、1秒たりともここに留まる気は無いと書いてあった。ゾンビーの波が引いたこの機会を逃さず、疲弊し切った瀕死の狂人セキトリと足手纏いの人質をここに置いて逃げる事を意味していた。

(((そういうビズだろ、ラッキー・ジェイク。俺たちゃ3億を。狂ったスモトリはブッダを。そういうビズだ。ニンジャもいつまた出てくるか解らねえぞ)))ジェイクは少しだけ顔をしかめ、残される2人を見た。「何してやがる!ジェイク=サン!」ススムが苛立ち、銃に手をかけて思い止まる。

 一触即発。全員の視線が交錯し、アトモスフィアが張りつめる。ハック&スラッシュで最も危険な瞬間。今夜初めて出会ったばかりの四人のならず者ども。ジェイクも、ススムも、クウェルト555も、手に銃。尻に火のついた明日無きアウトロー。3億。取り分は多いほど望ましい。だが、死ねば終わり。

 彼らはハック&スラッシュにしては愚かな判断をした。「俺はこいつらと行く」ジェイクが言った。「あんたもイカれたか?」とハッカー。「たぶんそうだ」ジェイクが笑った。「行っちまうんだな」「ああ」ススムがケースを開け、適当に3分の1ほど札束を放り出した。「ジェイク=サン。お前の分だ」

「感謝」ジェイクが言った。「……でも俺はラッキーなんだよ、本当に。俺と来た方がいいと思うが、行くんだよな?」「ああ、時間がねえんだよ」とススム。「ハッキング無しで脱出は……」クウェルト555が言いかけて、留まった。ジェイクの顔には、知っていると書いてあったからだ。

 自動フスマが閉じた。部屋にはジェイクとセキトリとブッダが残された。「嬉しいよ」セキトリが頭から火花を散らしながら微笑んだ。ジェイクは煙草を吹かして聞いた。「何が?」「あんたもブッダを助ける正しい道に戻れたからさ。最後の最後で」「あいつらは?」「あいつらも、いい奴さ」と笑った。



4

「くそったれめ」敬虔なるブッダ信奉者、セキトリのサイバネ右腕にアタッチメントめいて備わった回転脱穀ローラーが、コンテナの下から這い出してきたマート店員ゾンビーを粉砕し、ネギトロへと変えた。巨漢は顔に血飛沫を浴び、ただでさえ疲弊狭窄した視界を、さらに失う。

 ローラー回転部が血でぬめり、鈍る。左手の怪力で強引に動かし、再回転の勢いを生みだす。「ブッダ、汚い言葉のシツレイを謝ります」後ろから続く人質に言葉を投げる。セキトリは頭から血混じりの火花を散らし、蹌踉めきながら、カンヅメ売場コリドーの間をフラフラと接近してくる次の死体を睨んだ。

「庶子!」BLAM!セキトリの巨体の影から、ラッキー・ジェイクが援護射撃を行った。38口径の重金属弾を喰らい、店員ゾンビーの頭部が景気よくパンと割れ爆ぜ、積み上げられた緑色のバンブースプラウト・カンヅメを盛大に崩しながら倒れた。ジェイクの額から酷い汗が流れる。残弾数は少ない。

「ハァーッ、ハァーッ……ドーモ」吸い込む息は荒く、セキトリの肺には血の臭いが満ちる。「ハイヨロコンデー」ジェイクは額から垂れる滝のような汗を、血みどろの防刃コート袖で拭いながら返した。違法薬物の過剰摂取で、寒気が襲ってきた。ウカツ。幸運はどこへ行った。ジェイクは舌打ちする。

『ヘイ、ローリン、ローリン、ハッキョーホー、ハッキョーホー、ハッキョーホー』店内にはザリザリと錆び乾いた陽気なオスモウ・ウェスタン調の旧世紀BGMがループし、場違いに鳴り響く。放送室に立てこもった生き残りマート店員が、扉を破ったゾンビーたちに圧し潰される前に再生したのだろう。

「ジェイク、ジェイク、も少しトロ粉末をちょうだいよ」コケシマート麻袋を被せられた人質、コナミが、ジェイクの耳元で言った。彼女の両手を拘束するサイバネ錠は外せずじまい。袋には小さく丸い穴が開けられ、辛うじて前を見渡せる。ゾンビーの恐怖に抗うため、彼女はもう少しトバす必要があった。

「シーッ……!」ジェイクが再び警告し、指差した。数メートル先を歩くセキトリの背には、許し難いブッダ冒涜者である立てこもり犯の死体が、戦利品めいて吊るされている。セキトリは人質をブッダだと信じており、故に彼女は麻袋を取れない。今のコナミは50%の確率でブッダのまま推移している。

 背に腹は変えられぬ。ジェイクは懐からPVC薬包紙に入った上等なトロ粉末を取り、麻袋の下から突っ込んだ。コナミは荒っぽくSNIFFした。遥かに良い。「アタシ、実際ブッダかも」「それは何を前後していますか?」ジェイクは格好つけた笑みを浮かべながら訊ねた。「あんた達のブッダ、アハ」

「ブッダは?」セキトリが後ろを振り返った。「庶子!」BLAMBLAM!ジェイクは前方に現れた店員ゾンビーをヘッドショット殺しつつ、銃声でコナミのうわ言を消し飛ばした。「ハイ、元気です」とジェイク。セキトリの反応が無い。ジェイクが親指を立てた。セキトリはオジギし、また前を向いた。

「あいつ、もう耳が聞こえてないかもな」ジェイクが言い、床に置いた1億円ケースを再びサイバネの力で持ち上げた。3人は死のモールを黙々と進んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」時折、どこか知れぬ遠い場所から、ケミカルな幻聴めいてカラテシャウトが聞こえた。

 3人はエレベータを乗り継ぎ、5階まで下ってきている。目的地は1階のサシミ貯蔵庫。彼らを置いて先行した2人……ススム=センパイとクウェルト555が十分に幸運だったならば、賞味期限切れ食品を地下下水道へ違法排出するためのダストシュートが、ハッキングによって解錠されているはずだ。

 当初、セキトリは人質であるブッダを解放すべく、1階正面エントランスから駐車場に抜け、NSPD包囲網へ向かうつもりでいた。だがジェイクはそれが無理だと途中で気づいた。経緯をコナミに聞いた所、彼女自身は実際薄汚いニセ札印刷犯であり、NSPDに引き渡せば重犯罪刑務所行きであった。

 その事実を知ったジェイクは、3億円がニセ札でないことを真っ先に確認した(幸い、そうではなかった)。彼はブッダを下水道から逃がす理由を考えたが、思いついていない。「庶子!」BLAMBLAMBLAM!出来る事は、現れるゾンビーを銃殺し、粉砕し、希望を失わずに進む事だけだった。

「アバッ!アバッ!アババババーッ!」突如前方の広場から悲鳴!『カンヅメの階』と書かれたノボリ群の間で、ゾンビーどもが這いつくばり餌に群がる!「アバババババババーッ!!」ナムサン!この階にあるのはカンヅメばかり!ゾンビーが群がるとなれば……!「庶子!」ジェイクは銃を構え突撃!

 BLAMBLAMBLAMBLAM!ジェイクは重金属弾を惜しみなく使い、ゾンビーをヘッドショット殺!「「「アバーッ!」」」「ドッソイ!ドッソイ!」「「「アバーッ!」」」セキトリも突き進み、ゾンビーを薙ぎ払う!そして見つけたのは…ナムアミダブツ!もはや虫の息のクウェルト555!

「アバッ……!俺はもう、ダメだ……!ハッキングも失敗……ハハハ……あんたと別れたのが、運のツキだっ……ゴボーッ!」クウェルト555がジェイクの腕で吐血!危険な状態だ!「おい、待てよ」ジェイクは嫌な予感を覚える。「アッ!ススム=センパイ!」セキトリが叫んだ。見覚えのある人影!

 散弾銃を構え、ヨロヨロと歩いてきたススムが、ゆっくりと振り向く。「待て!そいつは……!」ジェイクが気づく。ススムの胸には大穴が開き、ゾンビーと化していた。ススムは左右に揺れ、壊れた自動機械めいて、生前の動作を繰り返す。散弾銃をコッキングし、構える。その先には無防備なコナミ。

「庶子!庶子!庶子!」BLAMN!ジェイクは咄嗟に拳銃を構え、ススムの頭を狙った。「アバーッ!」ススムは頭を爆ぜさせ、後ろに倒れながらも、ショットガンの引き金を引いた。BRAKKA!「ドッソイ!」セキトリは少しも躊躇することなく、身を投げ出し、散弾を受けた。「グワーッ!」

 コナミは息を呑む。セキトリの巨体がよろめく。ゾンビーの群れが接近する。何としてもブッダを守るのだと言う意地が、彼を支え、脱穀機バーを振るわせる!「庶子!」ジェイクも支援に加わる!コナミの脳内でニューロンが加速した。クウェルト555の横に走り寄って叫ぶ。「このクソ錠を外して!」

「「「「アババババババーッ!」」」」ゾンビーの群れが次々にネギトロめいたゴアへと変わる!壊れたトマトジュース・サーバーじみた血飛沫が飛び散る!「ドッソイ!ドッソイ!……ドッソイ!……ドッソイ……!」「おい……!セキトリ=サン、もう……弾が……切れちまう!」ナムアミダブツ!

「くたばれ!死ね!このブッダ・ファッキン・ゾンビーども!!」BRAKKA!「「「アバーッ!」」」BRAKKA!「「「アバーッ!」」」ススムの銃を拾い上げたコナミが麻袋を被ったまま加勢!彼女の拘束錠はクウェルト555が解除した!闇雲に射撃!BRAKKA!「「「アバーッ!」」」

 BRAKKA!「「アバーッ!」」「くたばれ!脳無しゾンビーども!」覚醒した目が輝く!違法トロ粉末の力だ!「アタシが全員ファックしてやる!」弾切れ散弾銃を放り捨て四方に中指を向ける!「ファック・オフ!ブッダをナメるな!バカ!」ジェイクとセキトリが、それを唖然として見上げていた。

「ワオ……」ジェイクは覆い被さるゾンビー死体を払い除け、声も出ず、口に手を当てた。そしてゆっくりと横を向き、隣にくずおれるセキトリの顔を見た。セキトリは細い目を大きく見開き、口をマグロめいてパクパクさせていた。それから涙を流した。「おお……おお……ブッダが……目覚めた……!」

「1億円持って脱出だ!みんなで山分けだ!」コナミはセキトリの肩を叩き、立ち上がりを促すように、手を引いた。「ハイ」スモトリはただ頷いた。「俺は今まで、殺しに、盗みに、酷い事ばかりしてきたんです、ブッダ。許されるんでしょうか」「昔の事はどうでもいいよ!」コナミが親指を立てた。

 ジェイクはクウェルト555の死体から弾丸を補給し、1億円ケースを持って汗を拭う。セキトリを見る。散弾で重体。いつくたばってもおかしくない。それでもまだ動くのか。コナミを見る。突然人が変わったかのようだ。トロ粉末で覚醒し過ぎたのか。あるいはセキトリの自己犠牲が何かを変えたのか。

 ブッダはススム死体のガンベルトから散弾を補給している。ニューロンが加速し過ぎ、挙動はクスリ瓶を振る薬物中毒者めいて乱雑。ジェイクは眉根を寄せた。「コナミ=サン」「アタシはマザー・ファッキン・ブッダだって言ってるでしょ!覚醒したンだって!ゾンビーをブッ殺すためにさ!」「ワオ」

「ブッダって呼んでよOK!?スモトリはアタシをブッダだって信じてンでしょ!?」「ハイ。ブッダ」ジェイクは頷いた。シンプルになった。「ブッダ、俺が護ります……!聖徳太子みたいに勇敢に戦います……!」セキトリが笑顔でよろめき歩いた。遠くではまだ不吉なカラテシャウトが響いていた。

 ブッダの軍勢は、まばらなゾンビーを振り切りつつ、1階行きエレベータの前へと到達した。「おい、待てよ、これは……!」ドアの横には、ススムたちの持っていた現金キャリングケースが血塗れで転がっていた。分かたれた3億が、いま再びひとつになったのだ。

(((まだツイてるぞ)))ジェイクは己を鼓舞した。「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」だが幻聴めいて響く遠いカラテシャウトが、ニューロン直接拷問めいて、止めどない脂汗を浮かび上がらせた。(((ニンジャの事は……考えるな……!)))3人はエレベータに乗った。

 果たして赤黒の死神は、未だモールを縦横無尽に跳び渡り、ゾンビーの群れを蹴散らしながら、サクリファイサーと戦闘を続けていた。果たして何故、これほどの長期戦に及んだのか。「イヤーッ!」「イヤーッ!」その答えは……おお……サクリファイサーの胸を見れば自ずと明らかであった……!

 サクリファイサーの胸に大穴が穿たれて血を流し、その目は不気味に輝いているではないか。「どうした、ニンジャスレイヤー=サン!そんなものか!それしきのカラテでこの私は殺せぬぞ……!」ジゴクめいた声が響く。ナムアミダブツ!彼は自らの肉体に対して、サクリファイス・ケンを用いたのだ!

「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの蹴りが叩き込まれる!だが「イヤーッ!」「グワーッ!」反撃のチョップを返す!何たるたった一度の勝利にかける執念、あるいは危険過ぎるジツを有しながらもそれゆえに組織の末端に甘んじていたニンジャの闘争本能が爆発した結果の狂気か……!

(((グググググハハハ……何たる愚かなヤギよ……サクリファイス・ケンの力は朝陽とともに切れるというのに……!どれ、儂にも貸してみい。生きた木人めいて、半日かけてなぶり殺しにしてくれようぞ!)))(((そのような悠長なイクサはしておれぬ……!)))ニューロンの速度で瞬時の対話。

 周囲の死体がコープス・ナパームで爆ぜ、再び敵は行方を眩ます。(((ならばフジキドよ)))ナラクの哄笑が響く。(((奴の弱点は頭!あの頑強なメンポに覆われた頭を、その中に埋まる心臓を、スリケンで一撃のもとに破壊すべし!さもなくば、延々とこの死体遊びに付き合う事になろう!))) 

 ゴンゴンゴンゴン……ガゴン!エレベータが1階へと到達する。ジェイクは息を切らし、全身を軋ませながらも、この賭けに勝てる気になっていた。「何とかなるぞ、俺はラッキーだからな」『1階ドスエ』ドアが開いた。ホールの中央部には、肉の味に餓えたゾンビーの大波が、彼らを待ち受けていた。

「庶子!」ジェイクは口汚く罵り、重金属弾拳銃を構えた。「ハッキョーホー!」セキトリは最後の力を振り絞るように叫ぶと、過激リキシ・リーグのヨコヅナめいた勇ましさで、脱穀機アームを回転させながら突き進んだ。「ケツ・ノ・アナ!」ブッダも散弾銃をコッキングし、叫びながら突撃した。

 その後は、まるでツキジのマグロ・グラインダーだった。ブッダの軍勢は乱れ飛ぶ四肢とトマトジュース・シャワーめいたゴアの中を突き進んだ。BLAMBLAMBLAMBLAM!BRAKKA!BRAKKA!BRAKKA!SPLAAAAT!だが無数のゾンビーが彼らを取り囲み、追いつめた。

 彼らは地階中央広場にショウケースめいて置かれたイチバンデス・オート社の素晴らしい新車の屋根へ追いつめられた。エンジンは掛からず、ただの足場にしかならなかった。ゾンビーの大群がそれを囲んだ。BLAMBLAMBLAM!BRAKKA!BRAKKA!BRAKKA!SPLAAAAT!

 勝ち目のない無謀だった。3人の狂人はそれでも戦い続けた。徐々にセキトリの動きが鈍り出した。避け得ない死が近づいているのだと解った。視界はひどくチカチカし、ニューロンはもうほとんど焦げ付きそうだった。それでも彼はブッダを救いたかった。火花を散らす頭で、必死に考えた。

 必ず、全ての物事には意味があり、結びついているはずなのだと。そして不意に、スモトリは何かを悟り、2億円の入った現金ケースを持ち上げた。「おい、とうとう狂ったか!?」ジェイクが反応する間もなく、セキトリはそれを頭の上で高々と掲げ、脱穀アームで粉砕した。「聖徳太子の護りあれ!」

 ちょうど同じ頃、モール内の何処か、あるいは雲海の彼方の如く遠い場所で、凄まじいカラテシャウトが響き渡った。「イイイヤアアアーーーーッ!」「グワーッ!?」ニンジャスレイヤーの投げ放ったフック付ロープが、サクリファイサーを鉄柱に縛り付けたのだ。

「ヤメロ!」敵がもがく。ロープが軋む。死神は右手にスリケンを握り、背に縄めいた筋肉を隆起させた。ツヨイ・スリケンの構え!そして投擲!「イイイヤアアーーッ!」「グワーッ!」無慈悲なるスリケンが頭に命中!破壊!狙い過たずヘッドショット殺!「サヨナラ!」サクリファイサーは爆発四散!

「……ヤギ前後……」ジェイクは唖然とした顔で、その滅茶苦茶な奇蹟を見ていた。聖徳太子の聖なる肖像画がプリントされた2億円分の万札が血の海へと舞い散る中、アンデッドの大群が次々倒れ、真の死体へと変わっていったからだ。まるでホーリー・タリスマンが引き起こす浄化の秘蹟めいていた。

 果たして何が起こったのか……およそ常人には理解できまい。ニンジャ本体が爆発四散したことによってジツの効果が消え失せ、ゾンビーたちも倒れたのだ。「前後イェー!」「ざまあ見ろ!インガオホー!」ジェイクとブッダが歓声を上げた。セキトリがゆっくり後ろに倒れ、見本車の屋根から転落した。

「ファック!」2人も屋根から飛び降り、彼を助け起こそうとした。「セキトリ=サン、後少しだぞ!」ジェイクが呼びかける。「……ブッダ、俺はもう……ダメです」スモトリが息も絶え絶えに言った。「ブッダ……俺は勇敢に戦えましたか。俺のようなクズの殺人者でも……世界を救えたでしょうか」

「救えた。全部救った。でも死んじゃうの?」ブッダは声を震わせサムズアップした。「ああ……良かった。俺が生きて……殺して……どれも無駄じゃなかったんだな」彼は笑った。「ありがとう」彼女は鼻水を啜りながら、最後まで忠実なるブッダの剣として戦った勇敢な戦士の肩を抱き、別れを告げた。

「ジェイク=サン……」セキトリは呼びかけた。「俺は最初、あんたのこと……嫌いだったよ。いや、何の感情も抱いてなかったよ。……自分とは違う、絶対に解り合えない奴らのひとりだとおもってた。でも……全部変わったんだ。急に。0が1になるみたいに……」

 スモトリは不法滞在ガイジンに好意を伝えるために、笑った。「あんたがいて、俺の魂は救われたんだ…これからニルヴァーナへ行くよ」「そりゃ良かった。でも悪いな、俺は」ジェイクは何度も頷きながら言った。「こういうのはどうも、苦手でね。そうだな、俺はきっと、ニルヴァーナにゃ入れないよ」

「ゴボーッ!」セキトリは吐血した。「……ああ、ジェイク=サン、あんたに会えて良かった。……きっとそれにも、意味があったんだ。あんたの魂にも救いあれ……あんたはまだ、このマッポーの荒野をさまよい続けるんだな。でも大丈夫だ、あんたは正しい判断をしたんだ。いつだって、また戻れるよ」

 そしてセキトリは死んだ。その死に顔は子供の笑顔めいて、眠るように安らかであった。

「死んじゃった」コナミがぽつりと言った。周囲には無数の死体が転がっていた。舞い散った2億円の万札は、血に塗れ、もはや拾い集めるすべもなかった。「ジェイク、じゃあ、逃げようか。ブッダの仕事は終わり。まだ1億円あるでしょ?」「そうだな」ジェイクは思案した。結局は八方塞がりだった。

 そのとき、駐車場側に面した巨大なガラス窓の向こうから、ゴゴウという轟音が聞こえた。何か巨大な物体が降下し、火花を散らしながら、着陸しようとしていた。脱出用のジャンボジェット機が到着したのだ。犯人と人質、たった2人を運ぶためだけに調達された、白く巨大な鋼鉄のエア・プレイン。

 打ち捨てられた廃工場で、行動の意味も解らず稼動を続ける末端マシナリめいて、それは到着した。ジェイクは精神の無重力感を味わった、自分がこの世界に瞬く1個の01の電子スパークであるかのような感覚を味わった。己、隣接する座標、そして全方向に無限に広がり回転する巨大なマトリクス。

「なんだ、俺のラッキー・ナンバーだよ」ジェイクは赤く染まったコートを脱ぎながら笑う。機体にペイントされた文字列はオキナワ航空の非番OKINAWA-777便。彼の肩にも、ネオ・ロポンギのカジノで打った極彩色パチンコの赤く魅惑的なLEDデジ数列が、幸運の象徴として刻まれていた。

「どうすンの?」「まだ俺のブッダでいてくれ」ジェイクが言った。彼はセキトリの背中に吊るされた犯人の死体から、特徴的なフルフェイス・ヘルムを奪って被り、白い防刃テクノコートも奪った。ジェイクは立てこもり犯になった。「これも持っててくれ」そしてブッダの懐に、銃を一挺捩じ込んだ。

「オキナワ?」「そうだよ」ジェイクが笑った。八方塞がりのアウトローは1億を持って駐車場へ歩いた。『動きがありましたドスエ。ついに犯人は人質とジェットへ……オキナワで解放の見込み』上空をTVヘリが旋回する。犯人は手に直結銃。麻袋を被ったブッダも、ツナギの中に拳銃を忍ばせていた。

 ゴアまみれのモールでは、まだオスモウ・ウェスタンが鳴り響いている。犯人と人質を乗せたジャンボジェットは、静かに離陸を開始し、ネオサイタマから飛び立った。



【デッド・バレット・アレステッド・ブッダ】終



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N-FILES(設定資料、原作者コメンタリー)

ネオサイタマで緊急事態が発生した。ブッダを逮捕したと主張する男がコケシモールに立てこもり、日本政府に対して3億円の身代金とオキナワ高飛び用のジャンボジェット機を要求したのだ。3億円を狙い5人のアウトローが集結。だがモール内にはニンジャのジツで作られた大量のゾンビが! メイン著者はフィリップ・N・モーゼズ。

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