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S3第9話【タイラント・オブ・マッポーカリプス:前編】分割版 #2

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 本能寺へと至る大竹林には、命持たぬ青銅の鎧武者が立ち並んでいた。それらは微動だにせず、列をなし、道を作る……明智光秀を迎え入れるように。織田信長が何を望んでいるかは、直ぐに解った。「此処よりは我独りで参る。一対一のカラテよ」明智は手勢を竹林の外に待機させ、独り踏み入った。

 そのとき竹林を満たしていた張り詰めた空気の、何と心地よかった事か。裏切りへの報復と怒りに拳を震わせながら、一方で、これから起こる一騎打ちへの予感の、何とすがすがしかった事か。

 明智光秀は本能寺の門前に立った。そして一礼し、中へ入った。本能寺の本堂全体が、床に敷かれた畳の一枚一枚が、その内側から禍々しき暗紫色の光を放ち始めていた。途轍も無きネザーの力が、今やこの本能寺に引き込まれ、安土城天守閣に配置された名物茶器群へと遠隔で注がれているのだと悟った。

 明智光秀は茶室のフスマを開いた。そこに、織田信長は座していた。上半身をはだけた黒の和服、虎の腰巻、酒と黒色火薬の瓢箪多数、南蛮渡来の鎧甲冑。そして逞しき二本の腕と並んで歯車を軋ませる青銅の四本腕。織田の瞳には紫色のカラテの火が滾り、明智を見ても、その双眸には何の動揺も無かった。

「ドーモ。明智光秀です」「ドーモ。織田信長です」織田は座したまま挨拶を返した。本能寺内のアトモスフィアが張り詰め、不穏なカラテが周囲に満ちた。明智は襖を後ろ手に閉めると、しめやかに座し、織田と茶を交わした。

 二杯目の茶を飲み終えると明智は問うた。「何故、このような裏切りを?」「裏切りとは?」織田は臆面もなく問い返した。明智は微かに声を震わせて言った。「私に何の相談もなく安土城を築いた。密書には返事すらも寄越さぬ」「密書?直接俺の前に顔を見せなかったのは何故だ」「私は博多にいたのだ。下手に動けば即座にソガを敵に回す事に」「……何故、そうしなかった?」

(何故そうしなかった、と?)明智は困惑し、一瞬返答に窮した。「だが……何故いま、ソガに逆らう? 天下統一まであと一歩というところで」明智は問うた。織田は腕を置き、正座を崩し、アグラ姿勢で笑った。「決まっておろう。ソガの力でショーグンとなったのでは、天下を獲った事にはならぬからよ」

「故にあの安土城と火縄銃の武力に全てを賭け、ソガに挑むのか。勝算があるとでも? もしや東軍に根回しを?」「知らぬ。勝算など問題ではないのだ」「なんたる自暴自棄か。お前はモータルに紛れ、専らその愚かさを学んだのか」「笑止」織田信長の射抜くような視線には、哀れみすら込められていた。

「権謀術数とジツの網を張り巡らせ、千年の支配体制を築いたところで、そこに何の喜びがあろう? そこに何の野望があろう?」「何が言いたい」「ソガを見よ。権勢にしがみつき、もはや己の影にすらビクつく醜き様を。俺は心底呆れ果てた。あれの操り人形として終わるのが我らの夢か? 違うであろう」

「故に裏切るのか?」「裏切り? 些事也。要はカラテあるのみ」織田信長は生身の二本の腕に力を込めた。その背に縄めいた筋肉が盛り上がった。「西も東も知らぬ。己のカラテひとつ、どこまで世界を平らげられるか試す」「何をバカな。そもそもソガの力あらばこそ、我らはダイミョとして世に……」

「最早モータルの潮流は止められぬ。平安時代は終わる。千の火縄銃が終止符を打つ。"彼岸の門よりの風、いよいよ弱く、我らの力立ち枯れゆくのみ”……ソガのハイクだ。奴にも解っているのだ」「……!」明智は絶句した。織田の心情窺い知れず、絶望的な断絶に小さな茶室空間が百畳敷きにも思えた。

「ゆえに俺は今この時、派手な花火を上げる。天を焦がすほどの」織田は天と地を指差し言った。「京都を滅ぼせば、次は江戸だ」「世界を焦土に変えるつもりか?」「それが我がカラテよ。この世が地獄の如き荒野に変わったとて、知らぬ。不如帰に死を。俺が戦うのはソガのためでもエドのためでもない」

「だめだ、私には……」明智は首を振った。そして涙を流した。「私にはもうお前がわからぬ。お前は狂ってしまったのか?」「……"皆、皆、逝ってしまった。彼岸の彼方へ逝ってしまった"……だが!」織田信長の目が光った。それはかつて明智光秀を心酔させた、遥か先の時代を見通す鋭い眼差しであった。

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