S3第7話【ナラク・ウィズイン】#2
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民衆の歓喜の声が、ジョウゴ親王とクセツの居室にまで届いてきた。ジョウゴ親王はこめかみに青筋を浮かび上がらせ、片目を開いた。クセツは奥ゆかしく告げた。「例の者らの処刑の時刻かと」「薄汚いネズミめが」ジョウゴ親王は呟いた。「吐いたか? ニンジャスレイヤーの手の者であると」「いいえ」
クセツは普段よりもなお畏まっている。ギンカクの力を引き出す祈祷行為がたけなわであるとの報を得ると、親王は事前の通告ほぼ無いままに、籠すら使わず、己の青銅馬で、部下のニンジャと共にこのハリマ離宮に駆けつけたのである。以来、離宮の者達は実際、おおわらわであった。
ジョウゴ親王は実際、猛り狂う一寸手前であった。インターネットを操る不遜なオオケモノを狩猟する折、彼は己のカゲムシャ・ジツを用いてオオケモノと戦い……奇妙な反撃を受けた。リコナーに与して手勢を殺戮し、さらにジョウゴ親王のジツをも打ち破ったのは、ニンジャスレイヤーなる存在だ。
すぐに彼は支配地である東域の警備を強化し、胡乱な旅人は全て捕らえさせた。どの者がニンジャスレイヤーであるか油断はならぬ。ゆえに、コクダカ無き越境者は、全て処刑する事とした。ジョウゴ親王はシツレイを許さぬ。そして、己のイサオシを汚す者を決して許さぬのだ。
(素晴らしき狩りでございました……)オオケモノ狩り自体は成功した。それを讃えようとした役人はその場でテウチにし、真っ二つに斬り殺した。(覇王の相がございます)その場のおべんちゃらで顔に言及したまじない師の事は……(オダの面影があると申したか、貴様!)カラテで首を締め、殺した。
このハリマ離宮を訪れてからも、つまらぬ不興をかって殺される召使いやコショウは後を絶たぬ。クセツは親王を言い含め、まず、殿中での直接のテウチをやめさせた(御カラテが穢れ、勿体なき事でございます)。そして、まずは罪人を五重塔に送り、順番に公開処刑とすることで、ペースを管理したのだ。
ジョウゴ親王の苛烈は、父アケチ・ニンジャに対する複雑な感情によるところが大きい。彼は常に偉大な父と己をひきくらべ、武勲を焦っていた。そんな中、自領ハリマに、強い力を持った謎のオベリスクが出現した。殺生石めいて、触れようとする者が皆、死んでゆく。祈祷するボンズも次々に死ぬ。
その正体を確かめねばならぬと考えていたところ、耳ざとく、クローザーなる胡乱者を連れて、クセツが現れた。クローザーは(父君にまさる力を得る鍵がございます)と癇に障る甘言を弄し、クセツもそれを否定しなかった。やがてこのハリマ離宮に、大規模な祈祷所「ゴマグラウンド」が築かれた。
以来、クセツにその研究を任せ、成果を急がせていたジョウゴ親王であったが、ニンジャスレイヤーにジツを破られた事を機に、いよいよ力への渇望に火が入った。彼はハリマを訪れ、そのまま滞在し、プレッシャーをかけ……そして、願いの叶う時が今まさに来ようとしている事を告げられた。
「処刑場へ向かいますか」「話は終わっておらぬ」ジョウゴ親王はクセツを制し、声のトーンを落とした。「聞け、クセツ」「……は」「これから貴様に話して聞かせるのは、偉大なるタイクーンにも伝えておらぬ事だ」室内の空気が張り詰めた。ショウジ戸の外で侍っていた召使いはたちどころに気絶した。
親王は右腕を強く振り、己の胸を掴んだ。そして、呻くように言った。「……ワシには魂がない」苛烈な目がクセツを凝視していた。「ワシの全ての空虚と不満は、それが原因なのだ。ネザーオヒガンのオオイクサ。現世における数々の殺戮。武勲。何を以てしても、ワシの心は満たされぬ。喜びは湧かぬ」
「……」クセツは包帯の下で1ミリたりとも表情を動かさなかった。親王は続けた。「忌まわしきギンカクのオベリスクに我が手で触れし時、それをおのずと悟った。ワシにはソウルが欠けておる。そして気づいた。クローザーの言葉は、コシャクなれど、ワシの気づきを裏付けるものであった」
「如何なる事でございましょう」「ギンカクはワシに無尽蔵の力をもたらす。それだけではない」ジョウゴ親王は血が出るほどに己の胸に爪を立てた。「無尽蔵の力を繋ぐもの……ギンカクに眠りし禍々しきソウル。それこそがワシの欲するもの……ワシは、それがほしいのだ……!」「殿下……!」
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