
シャード・オブ・マッポーカリプス(86):ネオサイタマの美容肉体改造ビジネス
「あれミルチャ=サン? 顔色悪いけど、大丈夫ですか?」
入れ替わりで、紫肌改造花魁のナスビが入ってきた。もとは夜間迷彩用のナイトスキンと呼ばれる軍用技術で、今ではシブヤの特殊サイバネ屋で日帰り手術できる代物だ。
「何でもないです、大丈夫。ナスビ=サン、今日もお肌の色綺麗ね」
「へへへ、そうでしょう。維持薬をいいのに変えました。ヨロシサンの新しいバイオ沈着色素が効いていますよ。バイオレットの33-2Tは前のより紫みが強くてですね」
「本当、うん、すごく似合ってる」
ミルチャは笑いながらも、心の中では不安が渦巻いていた。何故か感情とは別に涙があふれてきて止まらなかった。彼女はそれを気取られないように背を向け、LEDカラカサを持って、そそくさと外に出た。
- 【スズメバチの黄色】より
美の追求と肉体改造
ネオサイタマにおいても極端な美容追求を行う者は少なくない。そして彼らの多くはまた、伝統的な化粧品によるコスメティックに留まらず、最新テックによる後戻りの効かない危険な肉体改造へと一足飛びに向かうのだ。
2049年のネオサイタマには、無数のサイバネティクスとバイオ改造手術が氾濫している。それらの多くはカチグミ向けの高度再生医療、電子戦争向けの軍用技術、およびオイランドロイド技術から発展、ないしは廉価コモディティ化したものであり、通常は新製品の登場から数年から十数年の時を経てネオシブヤやツチノコ・ストリートの雑居ビルにまで並ぶようになる。このサイクルは年々加速し続けており、新たな流行りは数ヶ月で忘れ去られ、その数ヶ月後にはもうトレンド・リバイバルが訪れる。
ネオサイタマでは、あらゆるものの背後にメガコーポの影がちらつく。それは美容の分野でも例外ではない。「ネオサイタマでは、なりたいものになれる」「テックでより自分らしく」……テクノロジーの発展は市民に無限の選択と自由をもたらした。だがその理想の完全実現の為には、未だにカネ、権力といったパワーゲームの呪縛がついてまわる。これらの根本的構造を見抜き、自らの強固な自我によって美やカワイイを定義しようとしない限り、過剰消費の罠にはまり、メガコーポに操られるがままとなってしまうのだ。
軽度の肉体改造の代表例
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