【バトルグラウンド・サツ・バツ】まとめ
これはニンジャスレイヤー本編とは異なるスピンオフ小説です。
【バトルグラウンド・サツ・バツ】1
落雷の音がバンディットの意識を覚醒させた。
「イヤーッ!?」
バンディットは咄嗟に地面に手をつき、跳ね起きて、カラテ防御姿勢をとった。彼自身のソウカイ・シックスゲイツとしての油断なき実力、ニンジャ第六感が、なかば無意識的にそのような行動を取らせたのだ。
そして己自身を見下ろし、周囲を見渡した。
彼は見知らぬ広野のただ中にいた。地衣類で覆われた地面。彼方には稜線と深い森の輪郭。ひらけた空。星が輝いている。雲ひとつない空だ。では雷の音は、錯覚、あるいは夢であったのか?
「どういう事だ。そもそも俺はネオサイタマで密書を……」
バンディットは呻いた。
そう、彼はネオサイタマで密書を運んでいた筈だ。常人の三倍の脚力とステルス能力を持つ彼は、重金属酸性雨に濡れることすらなく、ネオサイタマ市街を駆け抜け、トーフ工場襲撃にまつわる密書を運んでいた筈だ。そして……。
「……!」
バンディットは青ざめた。記憶が「決定的瞬間」を呼び戻した。路地裏、「忍」「殺」のメンポ……赤黒のニンジャが、彼を……!
「ニ……ニンジャスレイヤー……! 俺は……アアアアア……!」
ナムサン! 彼は殺された! ニンジャスレイヤーに殺されたのだ!
(((サヨナラ!)))
命が断たれ、内なるニンジャソウルを抑え込めずに爆発四散する肉体……ぞっとするような死に際の実感が蘇り、彼の腹にズシンと響いた。彼は思わずその場に膝をつき、メンポを外して嘔吐した。
「……バカな……俺は死んだのか……? だが、だとしたら一体……」
バンディットは息を整えると、メンポを直して立ち上がり、もう一度空を見上げた。そして身震いした。奇妙な月と見えたものは、月ではなかった。黄金の立方体である。
彼は本能的恐怖に駆られた。覚えのある立方体だった。己がニンジャになった過去のあの日、確かそのときにも、同様の黄金立方体が天頂に一瞬輝いて見えたのではなかったか……。
「俺はなぜ……なぜ生きている。まさかここはサンズ・リバーの向こう岸だとでもいうのか? ……う、嘘だ! 嘘……!」
バンディットは困惑と恐怖に満たされ、頭を抱えた。その時、彼のサイバネの片眼が、何かを捉えた。草むらの中に、微かな煌めきをスキャンした。黄金の月の光が、研ぎ澄まされた金属に反射していたのだ。
彼は歩み寄った。地に転がっていたのは、抜き身のカタナ。それは紛れもなく、彼自身の武器であった。……構えたカタナで斬りかかる暇すらなく、彼はニンジャスレイヤーに倒されてしまったのだ。敗北感と屈辱を胸に、バンディットは身を屈めて、己のカタナを掴み取った。
その動作が、彼を二度目の死の運命から救った。
BRATATATATATATAT!
身を屈めたバンディットのすぐ上、一瞬前まで頭が在った位置を、機関銃掃射が薙ぎ払ったのだ。バンディットは咄嗟に前転回避し、攻撃方向を振り返った。彼のニンジャ動体視力は、アンブッシュ者の詳細を一瞬のうちに捉えた。右腕をマシンガンにサイバネティクス置換したニンジャだ!
「貴様、何奴!」
バンディットは謎の敵を見据えた。暗闇から現れたアンブッシュ者は舌打ちし、右腕の放熱板を展開して銃身をクールダウンさせた。
「よくぞ躱した」
サイバネから圧縮蒸気を排出しながら、その者は両手を合わせた。
「だがそれは余分の苦しみを招くだけだ。わけもわからず蜂の巣重点で爆発四散できておれば、この後、俺のカラテに苦しみながら血反吐を吐いてくたばる事も無かろうに。……ドーモ。サノバガンです」
ニンジャはそうアイサツした。バンディットは呻き、後ずさった。明確な殺意をもった相手。而してバンディットの方では、その殺意の意味すらも知らぬ。危険な状況だった。だが、アイサツされれば返さねばならぬ。
「ドーモ。サノバガン=サン。バンディットです。貴様……なにゆえ俺にアンブッシュをしかけた。ザイバツの刺客か。この俺がソウカイ・シックスゲイツの一人と知っての狼藉か……?」
バンディットが問いかけると、サノバガンは一瞬、意外そうに目を見開いた。そしてゆっくりと首を横に振り、嘲るような笑みを浮かべた。
「……ククッ……そうか。貴様、まだ状況をわかっておらんノロマか。これはお笑い草だ。まるで俺に誂えられたようなボーナス・キンボシ・チャンス……! ワケもわかっておらんうちに満足にカラテする暇もなく死ねーッ! イヤーッ!」
「イヤーッ!」バンディットは咄嗟のブリッジで、サノバガンのトビゲリを回避した。
「何だと!?」サノバガンは驚愕に目を見開き、バンディトの後方、タタミ四枚の距離に着地した。
瞬間、バンディットのニューロンをニンジャアドレナリンがどよもした。カラテの感覚と、怒りの感情がみなぎった。ワケもわかっておらぬうちに、また死ぬだと? 断じて否! そのようなブザマは、ソウカイ・シックスゲイツの名折れよ!
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