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【サイレント・ナイト・プロトコル】#4

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「じっと黙って、やり過ごせるとでも考えているか?」ペンドゥラムは腕組みして、晴れゆく粉塵を見据える。粉砕して飛び散った棚や商品の奥、四角い柱の陰に、ニンジャスレイヤーのニンジャアトモスフィアがある。ペンドゥラムには強い感知能力がある。腕に絡めた鎖とクリスタル・クナイが力を更に高める。手に取るようにわかるのだ。

「アンタは実際戦っておらんから、わからんだろうがなァ」隣でプライベティアがモクモクと紫煙を吐き出し、鈎に置換された右手を、ひさしのようにかざして言った。「ニンジャスレイヤーは至極厄介な野郎よ。カトンだか何だか知らん、妙なジツを使いやがって。うざったい邪魔者めが。呪われよ」

「奴の事はよく知っている」ペンドゥラムは言った。だが、思い直した。「いや……違うな。あれは別の人間だ。10年前の凶悪犯罪者フジキド・ケンジとは」「ああ。薄ぼんやりと記憶にある気もするわい。当時ニュースでやっとったか。そんな事をクヨクヨ覚えとるのは、お前のような物好き野郎ばかりよ」

「フン」ペンドゥラムは鼻を鳴らし、それ以上の説明を省いた。粗野な胡乱者を相手にしても益はない。――ペンドゥラムは、アマクダリ・アクシスの亡霊である。10年前に秩序再定義と全人類奴隷化、完全選民社会の構築に挑み、そして滅びた秘密結社アマクダリ・セクト。その精鋭戦士の一人であった。

 組織は解体、国家は消滅、ほどなく怒涛めいて押し寄せた、混沌と力の時代。ペンドゥラムの世界はそのとき終わった。だが、彼の前に再び「運命」が現れた。サツガイだ。黒いトリイが出現し、その場に居た非ニンジャのクズを皆殺しにすると、サツガイは黄色の衣をはだけ、中に広がる闇に彼の腕を導き入れた。

 そのとき彼が幻視した世界は、ちょうど99マイルズ・ベイのような、凍りついて停止した荒野だった。だが、サツガイの煮えたぎる力が魂に注ぎ込まれると、氷の世界は灼熱の炎に呑まれて融解し、万彩のマグマが荒れ狂った。ペンドゥラムは歓喜した。新たな世界が始まったのである。

 彼の軍属めいたメンポには古巣であるアクシスの名残があり、一方、首からさげたネックレスは、サンズ・オブ・ケオスの「インナーサークル」の印である。サツガイ信奉者の集団の中で、創設者ブラスハートを始めとする力ある数名が、この名誉ある印を手にしていた。

 アマクダリは昔のニンジャスレイヤーに滅ぼされ、サツガイは……彼が調べ尽くしたところによれば……現在のニンジャスレイヤーによって滅ぼされた。どちらの滅びの瞬間にも、ペンドゥラムが立ち会うことはなかった。遅参公じみた不名誉。いや、サイオー・ホースか。生きてこそ、今の彼には力がある。

 彼は特段、ニンジャスレイヤーに対する恨みをもたない。サツガイはニンジャを超えた存在、すなわちヌンジャであり、不滅であるからだ。しかるべき時に、ペンドゥラムが必要とする形で、必ずサツガイは帰還する。その確信があった。だが、ニンジャスレイヤーは実際、いかにも邪魔なのである。

 サツガイを信奉するニンジャはじわじわと増え、玉石混交の体を為した。もはやサンズ・オブ・ケオスの中に、サツガイの祝福を受けた者も稀だ。それでも、力への欲望に囚われ、本能に呑まれ、誘蛾灯めいて神秘の痕跡に集まろうとする神がかり達の動きを観察すれば、そこにサツガイ再臨の兆しが見える筈。ペンドゥラムはそう考えていた。

 しかし、その環境を台無しにしてしまうのがニンジャスレイヤーだ。ペンドゥラムの知覚力とはまた違った感覚を用いて、ニンジャスレイヤーもまた、神秘を追い、兆しを破壊しに現れる。まるで反サツガイ存在だ。ゆえに早期に潰す必要があった。

 邪魔の入らぬ場所へ呼び出し、仕留める。餌にはサンズ・オブ・ケオスのサンシタを用いればよい。季節外れのクリスマス冒涜儀式に没頭する狂信者たちは良い囮だった。ニセの依頼と疑っていても、ニンジャスレイヤーはサンズ・オブ・ケオスのニンジャを看過はしないだろう。而して、実際彼は罠に嵌まった。

「ネズミ袋だ。押し殺さんか!」プライベティアが急かした。だがペンドゥラムは首を振った。「後方にクローンヤクザを展開し終えてからだ。包囲を完全にし、退路を断つ。行き当たりばったりの計画は、つまらん失敗に繋がるぞ」彼はプライベティアの過去の行動を当てこすった。粗野なニンジャは苦虫を噛み潰した表情で、モクモクと煙を吐いた。「カイシャ野郎は腰が引けておるわ」

「私は企業の犬ではない。使えるものを適切に使うだけだ」ペンドゥラムは答えた。包囲展開するクローンヤクザの首には、うっすらと「仇」の漢字が刻印されている。アダナス・カスタムのクローンヤクザなのだ。「貴殿もそうだ、プライベティア=サン。貴殿のジツは実際有用。然るべき指揮を伴えばの話だが」「それが貴公だと言いたいか。鬱陶しい奴よ! まあ今回は話に乗ってやる」

 突入作戦の指揮はアクシス仕込みだ。胸踊るものがある。ザリザリ。骨伝導の通信システムに反応があり、網膜にVIPIRC通信の相手が投射された。アダナス社員のイータだ。『ジャミングは完璧ですし、ウチのヤクザも充分な数を用意してます。わかりますよね?』「ああ。作戦の頭数にはなっている」

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